「うわぁあぁッ――」
気がつくと、胸が張り裂けるくらいに叫んでいました。周りが一斉にこちらを向き、それまで怒り狂っていた藤田でさえも、目つきを鋭くしたままキョトンと波部を見たのです。
その瞬間、身体の感覚のすべてが消失して、波部はそれでも懸命に脚や腕をばたつかせながら、一目散に事務所から逃げ出しました。
呼び止める声も届かず、エレベーターすら視界に入らず、ただ目についた階段の入口へ縋り付くように突進すると、もうほとんど転げ回るような勢いで階段を駆け下り、エントランスの反対側にある裏口から外へ飛び出したのです。
街の背景に隠れる何の変哲もない普通のビルから、いきなり気狂いした形相の人影が出てきたので、周辺の通行人はそれぞれぎょっとしてその男を見ました。男は悪霊に取り憑かれでもしたのか、車が行き交う赤の横断歩道を脇目も振らず突っ走り、けたたましく鳴るクラクションを背にしてひたすら、ひたすら、走り続けたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます