「うわぁあぁッ――」


 気がつくと、胸が張り裂けるくらいに叫んでいました。周りが一斉にこちらを向き、それまで怒り狂っていた藤田でさえも、目つきを鋭くしたままキョトンと波部を見たのです。

 その瞬間、身体の感覚のすべてが消失して、波部はそれでも懸命に脚や腕をばたつかせながら、一目散に事務所から逃げ出しました。

 呼び止める声も届かず、エレベーターすら視界に入らず、ただ目についた階段の入口へ縋り付くように突進すると、もうほとんど転げ回るような勢いで階段を駆け下り、エントランスの反対側にある裏口から外へ飛び出したのです。

 街の背景に隠れる何の変哲もない普通のビルから、いきなり気狂いした形相の人影が出てきたので、周辺の通行人はそれぞれぎょっとしてその男を見ました。男は悪霊に取り憑かれでもしたのか、車が行き交う赤の横断歩道を脇目も振らず突っ走り、けたたましく鳴るクラクションを背にしてひたすら、ひたすら、走り続けたのです。










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