一瞬、自分が何処にいるのかわかりませんでした。
カーテンから漏れる朝日が染み込んだ、薄いシミだらけの天井をしばらく見つめて、ようやく自分の部屋だと気づきました。
「……夢か。酷い夢だな……」
波部は頭に手を当てて、上半身を起こしました。体が重い。頭も痛いし、胃の中にあるものをぜんぶ滝のように吐き戻したような、いやに気持ち悪い空腹感さえあります。
それをぐうっと背中を丸めて押さえ込みながら、波部はうつらうつらと、記憶を辿りました。何にせよ昨日までいろいろ、本当にいろいろあったせいで、頭の中にとても静かな台風が巻き起こっている感じがしました。
「そうだ、あいつに……記憶を消してもらったんだ。会社の名刺渡して……」
紫色の煙が、台風に混ざって脳裏に流れ込んできたと同時に、あの不気味な骸骨男の顔が浮かび上がりました。干からびた樹皮を何枚も貼り付けたような、人間とは思えない容貌……。
ゾッ、と凍りついた背筋から逃げ出すように、波部は布団から飛び出して洗面所に駆け込みました。いつもより勢いよく顔を洗って、そのまま歯磨き粉をたっぷりブラシに付けてごしごし奥歯から磨いていると、小さなデジタル時計が目に入ります。
「――なんだこれ」
それは、五人のてるてる坊主たちの影が寄り集まった形状をした時計でした。裏を向けてみると、電池の蓋に‘
「こんなん買った覚え、ないけど……気持ち悪」
波部は歯ブラシを咥えたまま、何故かきちんと入っていた単三電池だけ取り出し、傍らにあったゴミ袋へ時計を投げ捨てました。
ちょうど今日がゴミの日でよかった……そう思いながら歯磨きを再開して、いたっていつも通りに身支度を済ませました。
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