捨てた男 ③

「お前やる気あんの?

なんで当たり前のことをきちっとできないの? 頭おかしくない?」


 すみません 藤田さん


「この見積書、前のデータを元にしたろ。

契約更新があって料金変わるから新しいExcel使えって言ってたじゃん。

昼礼聞いてなかったの? ナメてる?」


 いや すみません


「顧客からクレームが来たぞ。

おれたちよりあっちの方がちゃんと見てるってどういうことだよ」


 ははは……


「笑い事じゃねぇよ!!」


 すみません


「しかもこの見積書……社名間違ってるし。

和了ホーラコーポレーション! お前わかってんの? うちのお得意様だぞ?

ここを失敗したらお前、会社潰れるかもしれねぇんだぞ。

それくらいデカい顧客なんだよ、ここは。

なのに何だよ、何してくれてんだよ……。

所長直々に教育してもらっといてさ。

お前失礼だと思わないの?」


 すみません


「さっきからすみませんすみませんってさあ、謝ってるばっかじゃなくて少しは考えろよ。

解決策とか。代替案とか。

何でこんな簡単なこともわかんねえかなあ」


 ……すみません


「新人くん、やっちゃったね~」

「よりにもよって和了ホーラ相手にさ……」

「いつかやると思ってたよ」

「そそっかしいし。テンパるし」

「ここ向いてないんじゃない?」

「てか仕事に向いてない」

「ああいうのを社会不適合者って言うんだね」


 そうです 知ってます

 昔からそうでした


「ほんと藤田も浮かばれないよなぁ」

「殴らなかっただけまだ偉いわ」

「殴っていいよあんなの、俺が許すわ」

「なんであんな新人が入ってきたんだろうね」

「来週の人事会議で話に出されるでしょ」

「また減るの?」

「勘弁してくれよ人手不足なのに」

「何してくれてんのよ、まったく」

「入るならもうちょっとまともなの入れろよなー」

「仕方ないよ、いま派遣会社も大変だし」

「にしてももっとちゃんとした人が良かった」

「引き継ぎした苦労返せよ」


 すみません

 本当にすみません


「所長」

「こいつ使えません」

「はやく求人出してください」








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