勇ましい鬨のような大拍手が、そのままの勢いでホールを飛び出し、ガラス棟の裏口にわんさかと詰めかけています。ぎゅうぎゅうに押して押されながら集まった熱心なファンたちは、感染症対策として設置されたアクリル板から乗り出さんばかりに、近々現れるはずの五人を待っていました。
「密だなぁ……。てかステリベも出待ちされるようになったのか、ほんと有名になったなー」
「冬真くんは行かないの?」
「ああいう人混み見てるだけでゾッとするよ、特に今のご時世は。声出さないにしても素肌が触れ合ったらすぐ感染するんでしょ? 無理無理。いつどこに感染者がいるかわかったもんじゃないのにさ」
「……そうだね」
波部は彼女と一緒に、遠くの方にいる出待ちの群衆を眺めていました。
ガラス棟の最上階にある展望ラウンジは、自然の光をすっと取り込めるくらい透明感の高いアトリウム空間で、都内の夜景を一望できることで有名なデートスポットです。
ライブが終わって出待ちに押しかける人の波が去ったあと、波部は彼女の手を引いて、夜景がいちばん綺麗に見える場所まで連れてきたのでした。
「わたし、こんな夜景見るの初めてかも。なんかリッチな気分。タワーマンションに住むとこんな感じなのかな」
「特別感があって、いいでしょ?」
「世の中には毎日こんな夜景を見てる人もいるんだよね……いいなぁ」
「――おれたちもそうなるよ」
えっ、と振り向いた彼女の目の前に、紺色のハートが差し出されます。
ゆっくりと上下に開いて現れたのは、白と赤が際立つ、綺麗な宝石です。
「
「どうしたの、急に」
彼女はひどく困った顔をしました。
「ステリベの初のワンマンライブの時――おれは君に一目惚れした。同じバンドが好きで、感性も似ていて、価値観も合っていて……それでいて優しいあなたに、おれは自分の人生を捧げようと決意した」
「……冬真くん」
「おれは、あなたと一緒にこれからの日々を生きていきたい。おれの人生をかけてあなたを守ると誓います。この指輪を受け取ってください」
「冬真くん」
意を決したように溌剌した声が、ラウンジに響きます。
彼女は、二回、三回、あえぐような呼吸を繰り返したあと、波部を真正面から見ました。
「わたしっ、あのね……」
その時です。
彼女の腰元から、けたたましい着信音が鳴り出しました。
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