第51話 ”開放”

 フレイボルト達をノアに任せて、メイザスの状況を見るべく荒れ果てた屋敷の道を登りながら完全に天井を失って開ききった屋敷の二階に立つ。


 すると遠くから巨人が歩いているような少しズレた足音と、それによって押しつぶされ崩れる建物の音が聞こえてくる。

 結構な時間が経っており、メイザスは結構な変化をしていた。

 一つ目は最初四本しかなかった触手は下半身の色んなところから様々な太さで十〜二十という数になって最初と比べてかなり攻撃的になっており、三人はその触手の対応していて本体への攻撃があまりできていない。

 二つ目も下半身のことなのだが、巻きついている腸のような肉塊から腕や足を生やして這うように進んでいたのに、今では左右に四本ずつの計八本の腕や色んな部位を生やした巨大な足で段違いの速度で移動していた。


 そして三人は少しでも動きを鈍らそうと、シルスが幾つかの触手を糸で止め、迫り来る触手を二人が弾き切り飛ばした後、その巨大な足を削ったりしてはいるものの直ぐに回復を行われる。

 再生するのだから無駄だと思われるが、三人はそれを見ても諦めずただひたすらにメイザスを攻撃し続けた。


 …判断と行動は上々かな。だいぶ、再生をさせて削れているが…それでも、こんなものか。まぁイブもまだ解放を使ってないからいいほうだろう。


 シルスはメイザスの真横から前を横切るように攻撃を避けながら屋根の上を移動する。

 メアとイブはそれをサポートするように触手を切断、又は引き裂いていく。

 そしてシルスがメイザスの前を横断したあと糸の引く両腕を操作すると動いていた触手たちがギチギチと互いに引き寄せ合い、二十あった触手が三つの束に纏められる。


 メアは大剣を振りかぶり、巨大な左の脚に向かって駆け走る。

 触手による邪魔が一切ないことにより十分に力を溜め、メイザスの脚を横に切る。

 それにより巨大な脚は溢れる体液によって内側に滑りおちバランスを崩し、シルスが糸の操作を行うことで右脚付近の地上に張っていた糸につけられていた手榴弾が落ちて右足全てにダメージを与え進む足が止まる。

 メアはさらに走り進み後ろの三本の脚を斬っていく。

 だが、それでは全く力が足りずに軽い傷をつける程度にしかならない。

「相変わらずズルいわね。あいつの持ってる武器は…」

 メアは持っている武器に違和感を感じて見ながらメイザスから距離を取る。


 メアが離れると同時にメイザスの前からイブが走り跳び、振りかぶった右の拳を巨大な下半身の中心に叩き込む。

 その巨大な衝撃にイブを中心にメイザスの肉が数度波を打ち、踏ん張りの効かず自身から垂れる液体によってメイザスは北の城壁に押し倒された。


 あれなら時間も稼げるし、攻撃を繰り出すチャンスでもあるが…。これ以上無駄に続ける必要はないだろう。


「イブ」

 そう普通の声量で言う。

 普通であれば距離にして約1.5㎞も離れているのだから聞こえるはずなどないのだが、イブはそれが聞こえてか攻撃を止めてクロトのいる方を向いた。

 そして何の指示をしている様子などないがイブは何かを理解したようにシルスの方へと走る。


「何ですかイブ」

「クロが中央で…呼んでる…」

「クロが?…分かりました」

 シルスは直ぐにクロトのいる中央に向かって糸を張りながら走る。

 それを見ていたメアも中央のクロトを見て理解して走る。


 クロトは屋敷を下りて北の方まであるその道で待っていると、サナとリーディアを抱えたヴァンが結構しんどそうに向かってきておりほぼ同時に全員が集まる。

 メイザスは脚の再生と巨体を起き上がらせるのに手間取っており、その間に皆が水などを飲み休憩をする。


「取敢えず、時間稼ぎに魔力の消費とご苦労様」

「それはいいのですが、途中に感じた気配はなんなの?」

「それは終わってからでもいいだろ」

「まあ、そうだけど…。それでどうするつもりなの」

「取敢えずあいつをこの中央広場に連れてきて倒す」

「はあ…倒すって一体どうやって倒すんだ。あいつは再生するし、巨体だからどこに核があるかなんてわからないぞ」

「ああ、それに関してだがあいつには恐らく二つの核がある」

 それを聞いて皆が動揺した。

「二つ!?」

「ああ、一つは前にオーガにあったものとそう変わりないもの。もう一つはサディアだ」

「サディアさんが核になってる?ということはまさかサディアさんも」

「いや、サディアはあいつから取り除けばいい。そして心配しなくとも生きてはいるだろうな」

「そう、それは良かったけど一体どうやって救い出すの」

「そうだな…。サナ、あとどのくらい皆の身体強化を使える」

「た、たぶんあと三分くらい…」

 サナはヴァンに抱えられていたにも関わらず一番疲れていた。

 結構消費したみたいだな。だがそれでもイブを除いた三人に十数分も回復魔法をかけながら持続させていたんだ。普通の奴ならここまで持たすこともできなかっただろう。それにしても三分か…。


「一先ずあいつが中央広場に来るまで体を休ませて準備しとけ」

「それで来たらどうするの」

「来たら取敢えず合わせろ」

「え…それだけ」

「ああ、それだけだ」

 そう言ってクロトは広場の方へ歩いていき、それにイブがついていく。

 取り残された四人はそれを呆然とその後ろ姿を見ていた。

「…シル。どうするの」

「え、ええ…。取敢えず、先のように触手をどうにかして……ですが、それでは倒せはしないわけですし、サナからの支援もそう長くは…」

 シルスは考え込み始める。

「ここの指揮官はクロではなくお前だ。俺はそれに従うが。取敢えず、俺達も移動しないか」

 そう言いながらヴァンは寝かせていたリーディアを抱きかかえる。

「そ、そうですね。まだあちらの様子を見るにまだ少し時間はありそうですし」

 そうして四人もクロトたちを追いかけるように中央へ向かって歩く。



「いいの…?何も言わなくて…」

 そばに寄ったイブが問いかけてきた。

「あいつらに必要なのは経験と一瞬の状況判断だ。それがどれだけ必要なのかはお前が一番わかっているだろ」

「そう…だけど…」

「情報は与えたんだ。それにお前もあいつらのことを思うのであらばそうしろ。生きるためには全員が強くならないといけないのだからな」

「分かった…」

 それを聞いてイブは珍しく満足そうな笑みを浮かべた。

「先も言った通り”解放”を許可するから合わせろよ」

「問題…ない…」

「ならいい」



 全員が中央に向かい準備を整えてすぐ、メイザスは傷の治療を終わらせて迫って来ていた。

 その迫りくる音は足音とは違い最初に聞いていた這いずるものだった。

 そしてメイザスは中央広場手前に位置している王の屋敷を押しつぶし中央広場に変化したその姿を晒す。

 起き上がるために不必要だと感じたのか八本の脚は無くドロドロとスライムのような肉塊による這いずるように移動してきていた。そしてそこからは触手だけではなく細く長い腕が生えていた。

 腹の口は横向きに口を開き犬歯のような鋭い牙が並び長く大きい舌が伸びる。

 あばらの下二本の骨の場所に肉がなくなっており真白な骨を晒している。

 鎖骨と胸の間に幾つもの人の顔のような影があり、胸には二つの巨大な目がずれてある。

 変化する前まで覆われていた右肩と顔の肉の包帯がなくなっておりそれを見せる。

 右肩からは数十の細く巨大な腕が生えている。

 至って普通の女性の顔と思わせるのだが、それは左側だけである。

 額には恐らく先までお腹にあった縦の口が移動してあり牙のついた目と変わっていた。

 顔の右側は右目に真っ黒な球体がはまっており、その右上に計四つの目があった。

 どの目も色が多彩なであり異常雰囲気がある。


 メイザスは広場に出て辺りを見渡す。それは先まで邪魔をしていた者たちを探しているのかのようだった。

 一通り見渡したあとまるで場所を知っているかの様にリーディアの方へと向かって進む。

 するとメイザスの視覚の隅を動く二つの影がった。それを見て即座に生えている触手で振り払い潰すように叩き込む。

 その二つの影とはメアとシルスでありその攻撃を避けながら牽制するように発砲と投擲を行い攻撃していた。

「さっきよりかなり早いじゃない」

「早いだけではなく威力も高くなってる」

 そう二人に気を取られながら進んでいると前方から一人の子供が歩いてくるのが見えた。


 それはイブであり俯きながらゆっくりと歩き迫る。

「イブ?一体何をして」

「それに様子が…何か違う?」

 まるで戦意の感じられない無警戒かつ不用心なその姿を不思議に感じていると、メイザスの右肩から伸びる五本の触手と腕がイブに襲い掛かる。

 イブなら心配ないそう思う二人だったが、それにも反応していないのかイブはただ歩いていた。

 そして呟く。

「”――解放”」

 イブは何もしていないのに迫りくる触手と腕が塵のように砕け散った。

 するとイブの周りに黒いオーラが湧き出して少量の靄が纏い、それはまるで獣を模すかのように犬のような耳と尻尾を形作った。

 その瞬間一気に世界の空気が変わる。それはどう言い表せばいいのかわからない。なぜならそれは二つを同時に感じているからだ。

 一つは恨み、怨念のような何かなのだが…不思議と息苦しくない。それはもう一つのものが関係しているのだろうか。その二つ目は”無”だ。何を言っているのかわからないが、ただ思い浮かぶそれがすぐに消えて忘れさせる、何も感じない、感じさせないというような感じがする。


 メアとシルスがその不明な感覚を感じているとメイザスからの攻撃が止んでいた。

 イブのその謎の気配に警戒しているように身構えているように。

 そしてイブがメイザスに向かって走り出すと同時に至るところから生える数百の触手と腕がイブに向かって伸び行く。

 イブは向かってくるそのそれらを薙ぎ払うようにして引き裂いて行き、伸びて先端を失い垂れる触手の上を乗って走って行く。

 数十の触手を薙ぎ払った後、360℃全方向から一気に触手らが差し迫る。それはただの触手などではなく先端に火、水、風、地、氷と魔力を纏い、鋭利に造形されたものまである。

 差し迫るそれに対してイブは空気を溜め

「がああぁぁぁぁ」

 ライオン、いや狼の様な魔力を含んだ雄叫びを鳴らす。

 雄叫びの衝撃に全ての触手が止まるよう震え纏っていた魔力が消え、さらけ出た触手は耐えきらず全てが粉々に消える。

 そして前進するイブをメイザスはすべての眼光を向ける。

 その瞬間、威圧を感じイブの動きが完全に止まる。

 それに準備していたさらに伸びる触手をカバーに回ろうとしたメアとシルスに向ける。

 コイツちゃんと見えてる。


 動けぬイブに向かってメイザスは腹の口で何かを溜めるように膨らませ、そして口をすぼませ濃い灰緑の巨大な水泡が放たれる。

 口からのモノだおそらく消化系のものだろう。あの大きさイブに耐えられるか定かではない。

 シルスが糸の壁を束ねてその水包を止めようと操作したが、その糸の壁は一瞬で消化され消える。

 間に合わない。

 その瞬間、イブと水泡の間に一つの大きな影が入り込み。

 それはまるでイブを守るためにその水泡を大きな木の壁とその身で受ける。

 木の壁は一瞬で消化されていくもそれでも壁の役目を果たした。そして残り散ったその液体を受けたその身は全身前半分が消化され消えていた。

 それを見た者は皆、異形の怪物が何故かイブを守ったその時まで感じていた。そしてその怪物が何者なのかを気配によりすぐに知ることとなる。


「まさかあの異形って」

「ノアなの?」


 それを見ていると前半分を消化されたノアの体から肉が溢れでて再生していくのが見えた。

 そして威圧の視界を逃れたイブは動けないノアを避けメイザスに振りかぶった一撃を放つ。その衝撃は先の城壁に押し倒すものとほぼ同じ攻撃であり、メイザスは倒れるのかと思われたが衝撃を多くの肉の振動で伝達していき地面へと逃がしていく。

 イブはすぐに離れるようにすぐそばから生える触手を避ける。

 そしてイブに意識が向いている内に後方から地面を蹴る音が聞こえ、後頭部に目を作りだしてそれを見る。

 そこにはクロトがメイザスに向かって走っていた。

 なんてことのないただの人間。だが、何かある。そう判断したメイザスは後方にある十本の触手を差し向けて残りの数百の触手と巨大な腕を使い三方向にいる三人を攻撃する。


 クロトは迫りくる十本の触手を、軽やかにパルクールをしているようにワンタッチで避けて進みゆく。

 メイザスはさっさと潰そうと更に数本を向けようとするがその全てを即座にイブが破壊する。

 攻めあぐねるメイザスは伸びている触手から更に触手や棘を生やすがクロトにそれは通じず簡単に受け流され、後方から来た力を利用して加速し、メイザスの体に掌底が触れる。


 無形流術 黒式 五 『一振』


 クロトから衝撃が放たれる。それはメイザスにとっても人間であってもあまり大したことのない微弱の衝撃なのだが。

 それは元からダメージを与えるものではない。

『一振』は全身に一定の衝撃を流して放つ技であり、その衝撃による体内の常人であれば聞こえるはずのない音と感覚を頼りに調べるものである。

 それによりクロトは核の位置を把握し、メイザスも自身の弱点である核に違和感を感じて守ろうと魔力が集まる。

 それにより戦いに参加している皆が二つの核の位置を知る。

 それは胸の中心と額にある巨大な眼球の内部にある。


 異常な身の危険を感じたメイザスは直ぐにクロトの所から触手を生やして突き飛ばしクロトは宙に浮かされながらくる触手の猛攻を受け流し続けて地面に着地する。


 メイザスにとって敵の危険優先度が変わる。イブ<クロト<シルス=メアのようになりクロトへの攻撃が一段と増える。

 イブは触手を薙ぎ払いながらメアとシルスに近寄り声をかけた。

「時間稼ぎ」とだけ。つまりイブを無しに時間稼ぎをしてほしいという意味なのだろう。

 そうイブを信じて、サナの強化魔法の限界残り一分半に全てをかけて自身らの魔力を完全に開放する。

 メアは手数を優先とする二本の片手剣に持ち替え武器と脚にありったけの魔力を流し込み移動速度を爆発的に上げる。その速度は常時状態のイブとほぼ同等の速度でイブに劣るが先程の数倍の勢いで触手を切り伏せていく。

 シルスは両手にSMGを構え、放ちながら両手の下三本の指でこの空間にある糸を操作する。

 それは足場であり、切り裂く壁であり、触手を結び束ねさせるものを。

 そしてSMGの銃口に貫通術式を覆い放たれる。それは両手の二丁だけではない。自身とつながる糸から亜空間魔法を使い二つの銃口を覗かせて上半身にある眼球すべてに向けて掃射された。

 それにより分厚い肉壁を突き進み触手と眼球の奥深く、中心まで潜りそしてその弾丸が中で破裂して内部を傷付ける。

 そして殆どの触手が破壊され、殆どの行動を制限されたメイザスは巨大な腕で全員を振り払うように振り回す。

 だが、二人はお構いなしに再生する触手達を対処しながら本体への攻撃を強めた。


 そのころイブはリーディアとサナを守るヴァンのほぼ近くまで下がり、両足を地面に叩き足場を作りメイザスに向かってクラウチングスタートの構えを取る。

 するとイブの下からの纏っている黒いものに似たオーラが湧き出て、徐々にイブの圧が強まっていく。

 メイザスは二人に邪魔されながらも、イブを危険視しているために五本の触手を放つ。


「「行かせない」」

 すぐに二人がそれに反応して破壊を試みたが四本を破壊できたものの一本が異常に固く、更に生える触手に邪魔をされる。

 二人は舌打ちをしつつ迫りくる触手の対応に覆われてしまう。


 イブの様子を見るに動けないそう判断したヴァンは前に出てそれを大盾で防ぐ。

 その触手はメアとシルスの二人では破壊できないように魔力を込めて作られた触手でありヴァンの全身に衝撃が加わる。

 すると攻撃をした触手は力なく地に倒れた。

 ヴァンは大盾で受けた衝撃をそのまま触手に返すように防ぎ麻痺させたのだ。

 だが、ヴァンのその技術はまだ半人前であり、自身へのダメージが圧倒的に大きい。

 そしてヴァンは片膝を付く。


 はあ…はあ…くそ、動かねぇ


 ヴァンはあまり何もしてないように見えるがそうではない。この中でもっとも大きな負担を負っていたのだ。

 リーディアとサナを抱え、サナの魔法が途切れないように走り。飛んでくる瓦礫や、触手の攻撃をほぼからで受けて来ていたために鎧と服によって隠れてはいるがかなりひどいものになっている。

 それは皆が知っていることであり回復魔法をかける考えも浮かんでいたが残り少ないサナの魔力を使うわけにもいかず彼自身が拒否したのだ。


 すると触れている地面から振動を感じた。

 まさか…


 そう体を振り起した瞬間イブとサナのそばの地面から触手が現れる。

 それはメイザスが気づかれぬようにと戦闘が始まってからゆっくりと伸ばしていたものだった。

 ヴァンは咄嗟に前に出てイブの襲い掛かるその触手の前に飛び込みそれを体で受けた。

 盾ではなく己の身を使った防御。鎧を纏っているとはいえ尋常ではない痛みが全身に響くもなんとかそれを抑え込む。

 だが、それを抑えていてはサナへの触手を防げない。もしサナが受ければ三人が受けている強化が切れて完全に戦況が瓦解してしまう。

 絶体絶命のその時、一つの影がヴァンが抑える触手が輪切りされサナに迫るその触手を受け止める。

 それは体の再生を終えたノアだった。

 そして触手を抑えてすぐに細切れに切り裂いていった。


 抑えるものが無くなったヴァンは力が完全に抜けて座り込みノアを見る。

 な、仲間でいいんだよな…。

 そう見ているとノアはサナを見て近づきその頭に手を乗せて撫でる。

「大丈夫 ノアが皆 守るから」

 それに対してサナは苦しいなかでも笑顔を作り、「うん」と答える。

 それを聞いてノアはメイザスに向かって皆を守れるように中心に立つ。


 それを見てメアとシルスはメイザスに専念する事がきた。

 サナの身体強化が解けるまで残り一分。

 イブに真っ黒なオーラが溜まり徐々に後ろ足を伸ば腰を上げていき、そして完全に準備が整う。

 それを感じ取ったノアは迫り来ていた触手の対応を中断して動けない三人を抱えてイブを残しその場を離れた。

 残されたイブに対して、迫り来ていた触手が攻撃をしようと近づいていく。

 そしてイブはゆっくりと顔を上げてメイザスの額の眼球を見る。


 イブはその前傾姿勢のまま溜められた力を開放するように大地を踏み壊しメイザスに向かって放たれた一つの槍のように一直線に飛んでいく。

 その黒を纏った姿は黒き流星のように小さな赤き閃光と走り、迫り来ていた触手に風穴を開けて消し飛ばす。


 そしてその速度で飛んでくるイブに反応できなかったメイザスは無防備にイブの拳が放たれ、それをもろに受けた額を貫通し過ぎ去る余波により巨大な風穴が開きそこにあった核を破壊した。


『黒槍・一閃』


 やったと皆がそう思ったがメイザスにはもう一つ核があるために、まるで時間が戻るかのように額の核などの修復が即座に行われ始めていた。

 シルスとメアがそれを見て直ぐにその再生を阻止するように攻撃を仕掛けるが触手達が全力で阻止され、イブを見るもその力を使ったことにより体が動かせずに勢いを失ったイブが落下していた。

 そして、即座に再生した核が肉覆われて隠されてしまう。

「噓でしょ」

 そう絶望しかけていた中


「後は…お願い」

 そうノアが呟くとメイザスはそれに気を取られていていつの間にかうなじの所にいるそれに気が付いていなかった。

 そこにはクロトが左手で肉を掴みぶら下がっており、その手を放して降りる

「ああ、これで終いだ」

 そう言って右手で双龍眼拳に似た形を作り肩甲骨の間の中心まで降りたところでその拳を打ち付ける。


 無形流術 黒式 九 『流魁挿花』


 それは『一振』とは全く違う攻撃だった。『一振』は全身に一定の決まった衝撃が流れる。

 それに対して今放たれたその攻撃は体内をその衝撃が流れていき胸の中心に届きそして、内側から花が咲くように破裂した。

 胸の中心には巨大な風穴が開き核となるサディアが飛び出して宙を舞う。

 あまりの驚きにメイザスは一瞬遅れるがその傷穴から肉を伸ばしてサディアを回収しようとする。

 だが、それをメアが糸の足場を飛んでいき斬り防いでシルスの糸によりサディアを引っ張り完全に回収する。それを見てメイザスは呆けた顔をしているが、すぐに首を無理やり曲げて笑みを浮かべて落ち行くクロトを見下ろす。

 それもそうだ。その瞬間サナの魔力が完全に尽き、メアとシルスはその強化を失うとともに体が一気に重く動けなくなる。

 そして第一戦力のイブも動けずに、いるのはクロトとノアのみ。到底倒されるはずなどないそう考えているのだ。


「何笑ってんだ。終わりだと言ったろうが」

 その声を聴いた瞬間、額の核に何かが届き、そして頑丈に守られた核のみを破壊した。

「誰が一撃で一発って言ったよ」

 それを感じ取ったメイザスに笑みが消え、徐々に保てなくなりその顔と全身が崩れていく。


 崩れ行くその最後の顔を見ながら宙で姿勢を直しクロトは着地して結んでいた上着を解いて着直す。

 そして完全にその肉塊は水のように崩れ地面の下へと消えて行き、天を覆う黒き結界が割れ消えた。

 空は真っ赤な夕暮れとなり橙色の明かり差し込んでおり、先までの地獄の雰囲気とは正反対の平和感を感じる。

 クロトはメイザスの肉塊が消えたその後も暫くそこを見続けていた。


 最後まで強力ありがとうな。


 そう呟いき、振り返って皆が集まろうとしている場所へと歩いて行く。

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