第50話 空っぽ

 クロトはフレイボルトの治療中、暇つぶしにメイザスとノアがいる方を軽く観察していた。

 メイザスはもうすぐ東の城門前にたどり着きそうであり、ノアの方は静かだ。恐らくあちらは終わったのだろう。

 感じる気配的にノアの勝ちと言った感じか…。残るはこいつとメイザスのみだな。あっちはあっちでちゃんと理解して行動してくれている。


 そして、フレイボルトの足の治療が終わったようで立ち上がるのが聞こえそちらを見る。

 フレイボルトは考え事をしているのが俯いてブツブツと呟いていた。

 足はと言うと関節は治っているが、ただ治しただけではなく改造されたように膝から下に機械的な黒いアーマーのスパイクブーツを履いているように見える。


 どうやら、治すだけではなく魔改造の強化も行ったようだな…。まぁそれは俺にとっても都合がいい。俺は少しでも早く感覚を取り戻しつつ強くならないといけないからな。



 本当にこいつを倒せば足は元通りにしてくれるんだよな。


 もちろんさぁ。こんな時に嘘なんて着く必要ないだろう。


 …分かったよ。それとお前の知識をもっと寄越せ。


 う〜ん構わないけど、結構いっぱい与えてるからね。これ以上渡すとなると後で脳に支障をきたす可能性もあるけど。


 そんなもの今はどうでもいい。それより今あいつを倒さなければならないんだからな。


 はいはーい。分かったよ。


 そして準備が出来たのかフレイボルトはクロトを見る。

 すると先のようにフレイボルトの周りで稲妻が発生し炎が燃え上がる。


「〈魔導闘法〉


 また、同じことをするつもりか…


 魔力反転 【纏い】『獄炎冥雷』」


 ―――!?



 先と同じと思われたものはまったくちがうものへと変わる。

 赤く燃える炎は黒い炎へ、青白く発していた稲妻は黒と赤の稲妻へと徐々に変化して行った。

 そして、フレイボルトから放たれるその雰囲気はメイザスと似たプレッシャーを放つ。


「ベンジャミン・ルイスの何体かが完全に混ざった…いや、全部が混ざったとしてもあちらの力がここまでのものにはならない。となると、何体かのベンジャミン・ルイスがメイザスの肉塊を事前に取り込んできていたのか…」

 ほんと抜け目ないやつだな。まぁこのくらいじゃないと俺にとっても意味が無いから丁度いい。それにしても魔力の反転…。どうみても性質変化に似ているがまあいいか。


 クロトは上着を脱いで袖を腰の辺りで結んで巻き付けていく。


 さて、【秤】によって俺の魔力はあいつの魔力と闘気を合わせた分の約20%を貰い受け、魔力7闘気3として振り分けたが、それは奴がベンジャミン・ルイスと混ざる前に使ったもの。そして今あいつは混ざった事により更に魔力と闘気を高めた。

 だが、俺はその前のものに対して【秤】を使ったから更新されることは無い。

 つまりあいつは全回復だけでなく強化されたのに対して俺は先の戦闘能力と消費した状態で戦わないといけない訳だが…。

 いいな…このくらいの差は。


 上着を結び終えてクロトはいつも通り構えること無く素立ちでフレイボルトを見る。


「…律儀に上着を巻き付けるのを待ってくれたんだね。脱いでる時に襲ってきても良かったのに」

「治療の時間を与えてくれた借りを返しただけだ」

「そう。じゃあ、何時でもかかってきなよ」

「なら、そうさせてもらおう」


 その瞬間、黒稲妻を地面に帯電させたまま瞬間移動をしてクロトの腹部に黒き獄炎と赤黒の稲妻を纏った拳によってクロトが2~3m後方に吹っ飛ばされながらも、宙返りをして着地した。

 そしてフレイボルトはその速度による追跡は行わずその殴った拳を見ていた。


 それはまたもあまりダメージを負ってないクロトに対して拳がおかしいのではないか…という疑問ではなく。その拳に来ていた痛みを見ていた。


 ベンジャミン・ルイスと更に混ざったことにより思考加速を手に入れたフレイボルトはそれを見逃さなかった。

 その殴りかかった拳とクロト腹の間に開いた右手の腹と更にフレイボルトの拳を覆うくらいの魔力の塊があった。

 その魔力の塊が散ると纏っていた魔法の威力が散った。だが、たった一つの魔力の塊であればフレイボルトのその魔法がうち消えることなどない。そう考えられてか更にもう一つの魔力の塊が現れ、フレイボルトの魔法を完全に打ち消した。そしてただの拳となったそれを右手で受け止め力に逆らわず吹っ飛ばされる勢いを使って足を足が振り上げられるのを利用して俺の右拳を蹴たのだ。


 …やはり、こいつのこれが分からないな。以前あいつから魔力を感じ取れない。なのに魔力が必要な魔力障壁のようなものを使ったのは感じ取れたが。一体どうやって使ったのか。そしてただの魔力障壁でダメージ無く反撃出来たのか。見えはしたものの全くわからん…。だが、さっきとは違い全然耐えられる。なら、もっと早い連撃で反撃もさせないようにすればいいだけだ。


 フレイボルトはにっと笑い。身に纏った電気を溜めているのか、稲妻が激しく発生し光が強くなっていき、一気に解放させ大きな閃光と帯電の軌跡を作りながらクロトに突っ込む。


 〈轟雷冥舞〉


 それはさらに速度と攻撃と重力の様な何かを感じさ〈蒼電乱舞〉と似たような連撃。

 違いがあるとすれば思考加速のおかげだろうか。

 連撃の始めは攻撃から受け流しのカウンターを受けて次第に攻防が加速していく。

 そして三十三撃目その時が来る。

 クロトのカウンターである右足の蹴り上げを右手で受けると同時に左手からの掌底をクロトの胸に打ち込む。


 それには受け流しの感覚が感じられずクロトの反応の変化が違った。クロトの受け流しが出来ていないとフレイボルトは即座に判断しベンジャミン・ルイスによって組み立てられていたプログラムのスイッチを纏ている電流で入れる。

 そのプログラムとは決まった動きを即座に行使するプログラムである。

 さらに纏っている電流により電気信号を完全に無視した動きにより身体の抵抗や迷いを忘れさせ、限界速度以上の動きを可能とする。


 クロトは立て直そうとする思考を始める前に、その隙を与えぬようにフレイボルトは打ち込んで掌打をも一度打ち込む。

 その一度とは一度ではない、掌打を打った反動を使い一瞬話し即座に打ち込むことで二連を生み出した。

 そしてその二連後に服を掴み引き寄せクロトの全身を浮かせる。


 その直後全身を使った十五連撃の攻撃を叩き込み、広げていた両腕を上下にずらして閉じるように手刀をクロトの首を先に当て後に顎を擦らせた。

 脳震盪を起こそうとフッとクロトの目が上を向いていくと同時にフレイボルトはそれまでに溜めていた右足の膝を打ち込み、更に足を伸ばし足先による二連攻撃を与えて吹っ飛ばす。


 その時フレイボルトは思考加速と纏った電流により全ての感覚が超人化し世界が超スローモーションに見え感じており、世界に逆らうように高速で動くことが出来るようになっていた。だが、スローモーションで飛んでいくクロトに対してフレイボルトは追撃をしに行かない。


「世を反転させ、光は闇へと変える、世界に巣くう精霊たちは踊り、笑い、狂い、泣き、叫ぶ」


 思考加速と電流操作によりその詠唱は超高速詠唱を始める

 詠唱を始めると突き出されたその手にある炎と雷は徐々に黒く染まっていき、真っ黒な丸い何かを中心に作り出しそのまわりで激しく荒ぶる。


「混濁と狂気が溢れ、深淵に炎獄が燃え盛り、雷冥を鳴らす」


 そして荒ぶるそれを大人しくさせながらそのふたつの丸いものを合わせ隠すように手を合わせながら、手で口を形作る。その口の中で炎と雷が反発しながらも混ざりあい、異様な反応を出して静かになった。


「万物を焼河し黒き閃光で万象を破壊しろ〈赤黒砲・神象殲滅崩河神象殲滅崩河ログヴォル〉」


 開かれたその手の口から赤と黒き光が溢れ広がるように放たれ、一点に集中し、その刹那く黒赤の光閃が放たれた。

 光閃は宙に浮くクロトを包み込み、目の前の全てを破壊尽くすように貫通してメイザスの咆哮でも破壊できなかった結界を容易く貫通していた。

 そして閃光の余波は、大地、空が悲鳴をあげるように振動しひびを割れて、この世界とは別の亜空間が姿を現そうとしていた。

 余波だけでそれほどの威力があるのだ。そうなればこの閃光の中にあるものなどひとたまりもない。

 そう勝ちを確信しフレイボルトは笑みを浮かべた。


 そうして次第にその閃光は細くなり消え一気に瓦礫の砂煙が舞い上がった。

「か、はあーはぁー」

 〈赤黒砲・神象殲滅崩河〉を放ったことにより全ての魔力を使い果たした〈魔導闘法〉の纏いが解けて現実の時間の世界に戻されれて膝を落とし息を吹き返す。

 〈轟雷冥舞〉を始めてからここまでフレイボルトの体感時間は一分。だが現実の経過時間は三秒も経ってなどいない光速を超え神速の行動をし続けていた。

 そしてその動きを行った対価の負担は〈魔導闘法〉が解除されたことにより一気に体に伸し掛かる。全身に激痛が走り筋肉繊維がズタズタとなっている。光速の動きを行ったことにより血管すらも殆どが破れていく。だが、ベンジャミン・ルイスと混ざっていることにより、死ぬことはなく少しずつ体内の修復が開始されている。


 はぁ…流石にやばいなこの痛みは……しばらく動けないな……。だが、これであいつは倒せた。さっさと足を直した後二人と合流してあの巨大な化け物をどうするか考えないとな……。

 そう光閃を放った方向を見ながら考えていると、その先から物音が聞えた。

 は…?


 砂煙が次第に晴れていく中、徐々にその音が近づいてくる。

 ……まさか。

 そしてその音の正体は煙を払う。そこには黒き閃光を直撃していた筈のクロトが平然と立っていた。

 クロトの周囲はまるで閃光自らがクロトを避けたかのようにクロトの足元そしてそこから後ろの地面は綺麗に残っていた。

「ば、ばかな。この光閃を受けて……無事に立っているだと!?」


「どうやら、それで本当に魔力もネタも切れたみたいだな」

 相変わらず退屈そうにクロトがそう言ってフレイボルトに歩み寄る。

「ひっ」

 あまりに理解の出来ないことに怯え逃げようとクロトに背を向けて体が倒れ這うのだが、既に先の攻撃で魔力も体力も使い切り這うだけの力も出ないでいた。


「く、くるなぁ」

 容易にクロトはフレイボルトの傍に歩み寄り、背中に手を置く

 〈一振〉

 その瞬間フレイボルトの全身に衝撃が走り抜け体内に入っている、混ざらずに残っていたベンジャミン・ルイスのみを潰した。

「とりあえず中にいるベンジャミン・ルイスは処理しとかないとな…それと」

 後頭部にデコピンを入れる。


「へ…」

 突然の後頭部への衝撃で一体何をしたのか分からなかった。

 だがその後それは起こる。

「ひぎぃぁぁあああ」

 フレイボルトはのたうち回り体を丸め膝を足を手で抑える。

「あ、足がぁぁ、足がいだいぃぃぃ」

 先程まで足の痛みなど無いように平然としていたのに、それを思い出したように足の痛みを叫ぶ。


 頭を叩かれたはずなのに、何故こんなにも足が痛い…。


「な、何をしたんだ!!」


「あ?お前の頭は全身からのあまりの痛みに痛覚を遮断したんだ。だから頭に刺激をやって痛覚を目を覚ませてやったんだよ」


「な、何を言っで…」


 苦しい最中、フレイボルトが疑問を問うのだがクロトは既に興味無いようによそを見ていた。その方向とは巨大な影、メイザスがいる方向であり。既に南から北東の辺りまで回ってきていた。


「まぁ、もうそろそろメイザスが北の方まで行って時間が無いんだ。来たか、ノア」


 ノア…ノアってこいつの傍にいたあの小娘か?まさかあの二人が負けたというのか!?


 するととてもその子供のものとは思えないゴツイ足音が迫ってくる。何とか体を動かしそれを見て顔が更に青ざめる。

 それは前にフレイボルトの弟達二人が監視していた二体の鬼にそっくりだったからだ。


 き、飢餓鬼だと!?まさかそれを手なずけたのというのか!俺達が薬を使っても大人しく従わなかったそれを…。


「じゃあ、行くとするか」


「いぐっでどごに…いだぁがぁ」

 するとノアは容赦なくフレイボルトの髪の根元を鷲掴みして引きずって行く。

 その道中には瓦礫の残骸が鋭利な形をしており引きずられて何も出来ないでいるフレイボルトを傷つけ続け、その度に苦痛の叫び声をあげる。


「まぁ、いくつか疑問を答えといてやるよ。お前のどの技も俺に聞かない理由はただ一つ。それはどの攻撃も中身が空っぽだからだ」


 か、空っぽ?


「本来魔法とはその術者の魔力と世界にある魔素によって発現する。そう魔法を使わない一般的にそうされているが、実際はそうでは無い。魔法に必要なのは先上げた魔力と魔素、その他に術式と魔法の理解、魔力制御力、そして経験だ。ここまで言えば理解出来ただろう。お前はベンジャミン・ルイスから得た魔力と知識のみで作ったモノマネ。或いは先も言った中身のない空っぽの張りぼての魔法を使っていたんだよ。魔力制御に関してもお前がやっていたのではなくあいつがやっていたんだろうからな。雷を纏った攻撃に関してはその動きの速度に合わせられていないからインパクトが全く出てなく、威力が外へと分散して逃げていた。あんな攻撃何の意味もない。ただの見かけ倒しだったてことだ。お前これまで全く正面から戦ったことないだろ」


 そう話していると外の景色から暗い建物の中へと連れていかれ、奥の方から二つの笑い声が聞こえてきた。

 その笑い声は既に枯れたようなもので不気味でありながら聞こえ始めてからずっと絶えず笑い続けていた。

 目的の場所に着いたようでノアはひこずっていたフレイボルトをその笑い続けている二人の傍に放り込む。

 投げつけられた痛みに耐え、その声の二人を見渡す。

 それはよく知っている弟二人が左の肩から先を失い自身と同じ様に両足をぐちゃぐちゃに折り曲げられて目を点に見開きながら笑い続けていた。。

「ブラスト…?エリシュカ…?どうしたんだ二人ともそんなにも苦しそうに笑い続けて…」


「さて、そろったな」

 クロトは三人の後ろに回り、笑い狂う二人の後頭部に手を添える。


「い、いったい何をするつもりだ」

「ん?ああ、取敢えず二人の目を覚まさせないとな」

 そう言うと二人は笑いを止めて、大きく息を吹き返すように荒い呼吸をして咳を繰り返す。


「い、一体何が」

「い、今まで何が」

 二人は困惑しながらきょろきょろと見渡す。

「二人共大丈夫か!?」


「「兄さん!」」

「何でここに、というよりこれはどういう状況なの」

「俺も今ここに連れてこられたから分からん。だが俺たちの命はこいつら次第だ」

 それを聞いてエリシュカは怯えた顔でこちらを見る。


「俺たち次第ね。まだ生きていけると思っているのは驚きだ」

 冷めた目でまるでゴミをいや、そこにある何かを見るように見下して言う。


「な!?ならなぜ生かしている。なぜ二人の目を覚まさせた!殺すならさっさと殺せよ!」

「何を言ってんだよお前。お前たちは目的の為に多くの命を巻き込んだんだぞ。そんな奴がそんな軽く死んでいいいわけないだろうが」

「うぐ…」

 それを言われて何も言い返せず唇を嚙みしめ睨みつける。


「さて、二人にも痛みを覚まさせようか」

「えっえっ、なに?」

「覚ますって何を」

 二人の後頭部から再び衝撃を送る。


「ふぎっぎゃああああああ腕があぁぁ足があぁぁ」

「うぐ、ああぁぁぁ」

 二人は右肩と足の痛みを気にするように叫びのたうち回る。


「さらに追加だ」


「い、ひびびびびいだい、いだいいいいい」

「ぎゅがぁっががががばが」

 すると二人は言葉にならない人間のモノとは思えない叫び声を上げた。


「な、二人に何をしたんだ」

「面白いだろ、脳のある場所に刺激をやるとな感度が増すんだよ。今回は痛覚をもっと感じやすいようにしたがな。そしてこうすればある脳の期間をシャットアウトできる」

「シャットアウト?」

「脳っていうのは生命器官なんだよ。目隠しをして水を垂らし、それを出血と思わせることで、出血多量によるショック死と同じ反応で殺すことができるんだ。そして心臓を撃ち抜かれてもそれに気が付かなければ死なないことだってある。脳は思い込みで人を殺すし生かすこともできるんだ。俺がシャットアウトしたのは痛覚や思い込みによる気絶、死に至ることを判断する場所を閉じた。つまり、お前たちはこれから一切の痛みを遮断することができずに気絶することはなく、しぶとく死ぬことができないという事だ」


「あ…悪魔か……おまえは」

「悪魔でも何でも結構だよ。俺は俺だからな。さて次は君の番だよ」

 そう言ってクロトが二人にしたことと同じ様にフレイボルトに行い、痛みが一気に倍増し声にならない叫びを上げ始めた。


「さて準備は整った。じゃあノア、後は頼むぞ。俺はメイザスをどうにかしなくちゃいけないからな。それが終わったらこっちを手伝いにこい」

「分かった」

 そう言ってクロト、聖堂の外へと歩いて行った。

 残されたのは意識をしっかりと保ちながら痛みに悶える三人と異形の姿をした少女。

 三人はこれから一体何が起こるのだと異形を見る。

 ノアは分かったと言ったもののよくよく考えてみたら何をどうすれば良いのか分かっておらず頭を傾げて考えていた。


 任せる…殺した方がいいのかな…。殺しちゃダメなのかな…。ダメだったら殺したら取り返しつかないし…。そうだ!

 ノアは何かを思いついたようにして三人に近寄る。

 三人は近寄ってくるその異形を見ていると、ノアは両腕を上げた。

 するとその二本の腕と頭がグチュグチュと不気味な音をたてて練り込まれるように形を変えていく。

 それは太く長いチューブのようで先は口なのか閉じられている。

 ノアは形作ったそれらの先を三人の顔に近づけて見せる。

 クパァ

 生々しい音をたててねっとりとした糸を引きながら閉じられた口を開く。そこにあるのは形を変える前の頭と同じヤツメウナギのような鋭利な牙がギッシリと生えていた。

 するとその三つの頭が回転し始めた。

 それは徐々に徐々に速度を上げ、三人には全く聞いた事のない音が鳴り聞こえる。

 その音とは機械的な…そう歯医者のドリルの音に近いものだろう。

 その謎の音と意味不明な動きに既に溢れ切っている恐怖がさらに激しくなる。

 そしてその三つの回転する口を下に下げていく。

 徐々に徐々に下げて三人の脚のある方へいき、少しずつ音が迫りとうとう足の先にその回転する口が触れた。

 それはまるで回転ヤスリのようにじりじりと爪を削り、肉を削って血が巻き散る。

 不規則に並んだ細かな牙であるために傷口をぐちゃぐちゃに削れらていき、摩擦により温度がどんどん高くなっていく。

 そして少しずつ削られていき、等々骨を削り始める。

 激しい振動に傷ついた肉が刺激を受け小さな切り口が大きく開き骨が引っかかる事で張り付いている肉をほぐすように引っ張る。

 本来であれば、既に痛みで気絶、発狂、死んでいるかもしれない。

 だが、三人の頭に刷り込まれたクロトの行いと言葉が三人に強く思い込ませた。

 どれ程の痛みを感じても気絶することなどなく、死ぬこともない。そして気が狂うこともないのだと。

 そして三人の右足は足とお尻の境目まで削り切れ、一度口が離れる。

 三人は止まったことに一瞬、終わったのだと安堵した。

 だが、それは終わりでないことを左足の先にそれが触れて、ようやく自分たちがどう終わるのかを知る。


 ああ、そうか。俺達はこの化物に四肢から順番に全てを削り食われていくのだと。

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