第48話 クロト対フレイボルト
屋敷の方では常に破壊の音と銃声が吹き鳴らされていた。
「おらおらおらおら、逃げてばっかじゃつまらねぇぞ」
フレイボルトによる爆発する火炎の槍は終える気配がなく、壁や家具といったモノを容易に貫通し破壊していく。
当たればその箇所が消し飛ぶ恐れがあった為、クロトは必死に高速のその攻撃からひたすら逃げるしか無い、そう見えてしまうのだが。
これまで数百、数千という弾丸が放たれているのだが、クロトはそれらを一発たりとも掠りすらしていない。
むしろ、避けながら拾った石を弾丸を避けてフレイボルトに向かって投げる余裕すらある。
な、何故だ、これ程大量に放ち続けているのに一発も当たらない…。そして何だあいつは…。
フレイボルトは常にクロトを見ていて気づいたことがある。それはフレイボルトを見ていない、それどころか攻撃自体を見ずに、考え事をし始めてブツブツと呟いていた。
「貴様、こんなにも攻撃されているというのに何を余裕そうに考え事なんてしているんだ」
フレイボルトは今ある螺旋赤爆弾を全て放ち終わった後、装填をやめて話しかける。
「あ、あぁ、すまんちょっと気になってた事がな」
「気になってた事?」
「ベンジャミン・ルイスはこの国を使ってHSASTEと魔女の実験なんだが、お前達の目的がわからなくてな。この国で何かをするでは無く、ゴブリンの巣窟や王子に化けて村で何かしてたんだろ。だからお前達のやりたい事がさっぱりなんだよな」
「そういう事か、俺らの目的は先祖からの願いであるこの国を滅ぼすことだよ」
「先祖からの願い?」
「ああ、そうだ。俺達の先祖は数百年前ユーラクストができる前の国と争っていた部族の族長だ」
「なるほど。つまりお前たちの先祖が森に火をつけて、その森に住んでいた魔術師の怒りを買ってボコボコにされたってことか」
「まぁ、そんなところだ。そして先祖の怒りは呪いと変わりそこから生まれる子供は決まって皮のただれたモノとして産まれるようになった。俺達はその先祖の怒りを収め呪いを解くために滅ぼそうとしていた。元々はな」
「元々ということは今は違うのか?」
「まぁ、弟達二人は変わってないが俺は違う」
「へ~お前の目的ってなんなんだ」
「そりゃー女だよ」
「女?」
「そう、リーディアを手に入れるためだ」
「リーディア?あの子を攫ってなにかの生贄にでもしようとしたのか?」
「なわけねぇだろ。俺はあの女に惚れた。ただそれだけだ」
「へ〜それならさっさと連れ去ればいいのに何故、ずっと村に居続けたんだ?」
「できねぇんだよそれが」
「?」
「ベンジャミンが言うにはサディアが魔女の権能とやらを対価に死の間際、俺たちに呪いをつけやがったんだ。リーディアに触れることの出来ない呪いをな。そのせいで触れようとすればそこから燃えようとしやがる。それにあの村より遠くに連れていくのはやめておいた方がいいとな。やつがその呪いと解呪できるまで」
「なるほど、そういう事か」
HSASTEに見初められて魔女、なり損ないになる場合、ある権能を授かる。それはほぼ万能にふさわしいもの。それを使ってサディアはリーディアを守ろうとしたのか。そしてそれを口実に三人をさらに利用し続けたという事か。
「それにしても好きな女のために国を巻き込んだのか…」
「悪いか?」
「いや、いいんじゃないか。それも一つのやり方だ」
「…普通のそこは、そんな事のために国を巻き込んだのか、って怒るところじゃないのか?」
「なんで怒る必要がある。確かに人としてであればそれは間違いで許されない行動だが、生物としてであれば何らおかしいことは無い」
「ほう、お前はそれなりに話が分かる奴だな。なら、」
「だけど、他人に迷惑かけてんだ。その他人から迷惑も邪魔をされても文句は無いよな」
「ああ、ねぇよ!」
そう発した瞬間これまでにない一撃の赤き閃光がクロトに目掛けて放たれた。
「…は?」
そう、クロトに目掛けて放たれた筈なのだが。その弾丸は狙った場所とは違うクロトの真横の壁に貫通することはなくただめり込んでいた。
そしてクロトはというと右腕を真横に伸ばしており、ゆっくりとポケットに手を入れた。
「…全く芸がないな。手に入れた力を思う存分使うとか言っといてそればかりじゃねぇか」
「避けてない…直撃した筈なのに…何で逸れた、それも真横に…」
「驚くことじゃないだろ。ただ弾いただけなんだから」
「弾いた?」
「普通弾丸の速度は時速約700~1500km。それに対してお前のそれは時速400kmそこそこ。そして今のはまあ早かったがそれでも時速約1200kmでやっと拳銃の速度にたどり着いた程度。それに偏差も全く無く、素人が放つ弾丸なのだからな。そんなもの誰だって避けられるし弾くことだってできるんだよ…」
そう説明しているのだが、フレイボルトは何を言ってるんだという顔でじっと見ている。
「じ、じそく?」
「ああ、そういう細かい知識は与えられてなくて分からないか…つまりお前のその攻撃は遅すぎるって事だよ」
遅いだと…?ベンジャミン・ルイスから与えられた事ではただの人間が弾丸を避ける、ましてや弾くといった情報などなかったぞ。
「な、ならそんな容易に弾けるのに避け続けてたんだ」
「避け続けてた…ああ、少しばかり実験してただけなんだが…お前には分からなかったか」
「実験?」
「どのくらいの魔力障壁を使えばその魔法の第一層つまりは弾丸を包む炎の槍を障壁で相殺できるかってことだよ。あと、どれくらいでどのくらい威力を弱めることが出来るかってことも調べていたが」
それを聞いてはいるもののフレイボルトはさっぱり分からないという顔をしている。
「まぁバカがいくら知ろうとしても無駄なんだ。さぁ次は何をしてくれるんだ?」
「ば、バカだと?…まぁいい。見たいなら見せてやるよ。魔法を極めし魔法の帝王達が編み出した魔法を」
魔法の帝王達?
「はあぁぁぁぁぁ」
フレイボルトは何か溜めるように声を上げ始めた。
するとフレイボルトを囲う様に風が舞い上がり、雷がフレイボルトの周囲で起こり弾け、体に炎を纏い始めた。
「〈魔導闘法〉【纏い】『炎天雷鳴』」
魔導闘法。
それは魔導と闘気を組み合わせたもの。
魔導とは魔法の時代に闘気をあまり持たない魔術師でも近接戦闘を行えるように考え編み出されたもの。
また、魔法を苦手とした魔力を持ったものが、魔法そのものより自身の肉体を信じたもの達が編み出したとも考えられている。
身体強化によって自身を強化し、更に属性などの魔法を拳や武器に纏わせる事により、近接による魔法が成立し魔導となる。
だが、闘気と違い魔導は一時的に魔力を纏わせているに過ぎない為、攻撃、防御をする度に纏った魔力が削られる。
また纏うだけでも徐々に纏った魔力は霧散していく為、闘気のように常時使用することは不可能であり、使うたびに再セットする必要があり魔力消費の効率がかなり悪い。
その為使うタイミングが限られるために使用者が少なく一度諦められた技術の一つである。
だが、ある一人の魔導拳闘士によって諦められた魔導が世界に知らしめた。
それが魔導闘法。
どう習得するかは記されていなかったが魔導闘法は攻防時の魔力消費、霧散がなくなり再セットの必要がほぼなくなるとされている。
視観的だが、身に纏った魔力が闘気に似た感じになっているというところだろうか。それ以外はよく分からないな。
「それは、初めて見るな」
「そうだろうな。なんせ、これを使えるのはその魔法の時代にも十人もいなかったのだからな。これならお前もつまらないと言わず満足できるだろう」
「まぁやってみなよ」
「そうさせてもらおう」
ーーー!?
フレイボルトは一瞬の電撃の光と音と共に姿が消えた。
消え…いや、―――――
そして、クロトが背後を見ようとしたその直後、背中が大きくしなりながら前方へ吹っ飛ばされる。
〈蒼電乱舞〉
蒼き電光の如くフレイボルトは蹴り飛ばしたクロトを回り込み更に攻撃を重ね続けていく。
息のつく暇などない、一瞬に行われるその数十往復以上の攻撃に、常人など反応する事は出来るはずもなく、雷を纏いしその体は加速を続け。それは光速の領域に達していた。
〈炎帝双連爆〉
両腕に纏った燃え盛る火炎の拳を何度も打ち付けその度に爆発が起こる。
だが、これは光の速度のもの連撃による爆発のずれは生まれるとしても光速であればそれはほぼ同時爆発となり。
前後左右上下から爆発の圧力がかかり全ての衝撃を逃すことなく受けたクロトは吹き飛ばされることなくその場に浮いた。
〈炎雷爆轟撃〉
爆炎と轟雷を纏う天災の拳。
それを宙に舞う無防備なクロトの体に打ち付ける。
その瞬間クロトとフレイボルトの間に二つの強大な魔法が混ざろうと空間を歪ませながら放電する爆発を生み出し全てを破壊した。
地面に電撃が帯電し周囲に爆発で生じた煙と共に電気が舞っていた。
「ふ~このくらいか…。奴は跡形もなく消し炭だな」
その光景を見てフレイボルトは満足そうに電撃を纏うその右腕を目の前に掲げ強く握りしめる。
三つの高出力の技を使ったと言うのに疲労感が全く感じられなかった。それは溢れ来る力の万能感に浸って、アドレナリンの痛みを感じないものに近い状態である。
「それにしても素晴らしいな、この力があれば破壊の魔女にだって――」
そう慢心しようとすると、何処からか強大なプレッシャーを感じ取る。
な、何だ!?
謎の圧力に弟二人を心配しようとすると、
「魔女にその実力で勝てるわけないだろ」
「は?」
技を放った煙舞う先から声が聞えた。
煙は徐々に舞い散って消えて行き、黒い影から無傷のクロトが姿を晒しだし他所向いていた。
「あっちは心配は要らなかったようだな…」
そう小さく呟いてフレイボルトの方を見下すように見る。
「ば、馬鹿な…なぜ無傷で立っている」
フレイボルトは大きく困惑していた。フレイボルトがこれまで使ってきた技の全ては今回初めて使ったものばかり。それはベンジャミン・ルイスより与えられた、魔力、闘気、そして知恵を与えられたもので出来ている。そしてその知恵を使って行った魔法の全てが魔法の時代。魔神を倒し最強とされていた五人の帝王の内の二人。【炎帝】と【雷帝】の魔法を、力を使ったというのだ。魔神と戦うほどの力だ、普通に考えてそれを受けて無傷で済むはずなどない。それも魔力も闘気も感じられない人間がだ。だが今目の前で無傷でそこに平然と立っている。つまりこの目の前にいる子供、クロトという存在は、その魔神と同等、それ以上の強さを持つことを示すこととなる。
「あ、あり、あり得ない!」 ぐしゅ
――ぐしゅ?
後退りした瞬間、足の方からそんな音が聞え、急にバランスがとれなくなり後ろ向きに倒れてしまう。
なんだ…一体何が…!?
不思議に思い足を見ると膝から下が複雑な形に捻じれ折れていた。
「は?な、なんッふぎゅっ――――!」
そう間抜けに声を出した瞬間足の方から激痛が走り出し悶絶する。それはまるで何千何万という焼かれた釘を脚全体に打ち付けられ今なお金槌で叩きつけられている感覚がフレイボルトを襲い続けた。
い、一体何が!?
「さて、足を封じて身動きの取れないようにしたが。どうする?」
その問いが理解できずに苦痛に耐えるようにしながらクロトを見上げる。
「まだ、何が起こったかわからない顔だな。まあいいよ。つまりはこのまま何も知らずに死ぬか 」
クロトは両手を前に出して提案を上げるように人差し指を立てる。
「まだ、何か残っているのなら待っあげるよ。どうせ治せるんだろその足」
その二つの提案を差し出した。
それを聞いてもフレイボルトは理解できてないように呆けている。
「はあ~男なんだからシャキッとしろよ。つまり今すぐ死ぬか、諦めずに俺を倒そうとするかの二つに一つだって言ってんの」
「お、俺に治療魔法なんて使えないぞ」
「ああ?問題ないだろ。ベンジャミン・ルイスならなおせんだろそれぐらい。どうなんだ?」
『う~ん、一応直せはするけど治療魔法は全く使わないからな~。少し時間かかるけど問題ないかい?』
「別に、そう言ってすぐ治せんだろ。それで、どうするんだ?諦めるのか続けるのか」
こいつ、一体何を考えているんだ。せっかくの倒せるのにわざわざ俺にチャンスを与えるだと…。よくはわからないが、俺にある選択は一つしかないだろ。
「そ、そんなもの決まっているだろ!やってやる!やってやんよ!!」
血眼に見開かれた目で睨み付け覚悟を決めたように拳を握りしめる。
「なら、いいよ」
その一言にフレイボルトの足から黒い糸の虫がうじゃうじゃと飛び出して治療を開始した。
クロトはそれを見て傍にある瓦礫に腰をかけ、頬杖を立てて余裕からか眠たそうにフレイボルトを見下ろす。
くっコイツ……。
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