第47話 ノア対ブラスト&エリシュカ
メイザスはクロトの言っていた通り他を見向きもせず、下半身にある巻き付いた腸の様な肉塊から生える足や腕を潰しては生やすを繰り返し這うようにして、リーディアを連れた五人のいる南へと迫り進んでいた。
それは周囲にある建物という壁など存在しないかのように押し潰し、体から生えた鞭の様にしなる触手が崩して破壊する。
シルス達は五人はメイザスによって更地となった南の城門瓦礫付近で待ち構えるようにしていた。
「それでこっちに近づいてくるまで待機という指示だが、何か考えがあるのかシルス」
「正直何も考えてませんが、時間を稼ぎながら逃げるとすれば一度南まで引き付けるべきだと思っただけです。そうすれば壁に沿いながら円を描くように少し余裕をもって逃げることができます」
「確かにあの図体だもんね…最初っから逃げていたら常にあいつと近い距離でどうにかしなくちゃいけなくなるわね」
「それに初撃のあれを見てどうにもならないと思いましたが、再びあれを撃ってくる気配はありません。あれは何度も使えるものではないのでしょう。それにクロトが私達に任せたのです。どうにかできる何かがあると思うんですが、イブ、他に何か聞いてないですか?」
「聞いてるけど…それは…倒す方法…」
「倒せるの?」
「前の…オーガと同じ…あの中にある…核を潰すか…取り除けば…倒せる…」
「核ですか…イブから見て倒せると思いますか?」
イブは少しメイザスを観察した後、首を横に振る。
「ううん…無理…あの大きな体の…どこにあるかわからないし…触れに行ったら最後…取り込まれて…潰される…と思う…」
「確かにな、それにあの四つの触手をどうにかしながらなんて無理だぜ。そもそも五人であの巨大な化物をどうにかするのがおかしな話だと俺は思うが」
「それは同意見ね、この雰囲気を私達は知っているもの。メウリカの天災の怪物ヌメラトゥラスに似た何かだわ、これは」
「その時どれくらいの兵力で挑んだんですか?」
「私は四人の王とお母さま、それと多くの兵士と冒険者としか聞いてないわ」
「兵士二千人と冒険者三百人だ」
「それに対して私達の戦力三人に支援が一人、動物が一匹と眠り姫を抱えた護衛者一人といったところですか」
「確かに普通に考えれば無理ね。それでどうするのリーダーもうそろそろ化物の触手の範囲内よ」
「わかってます。それならイブあの触手は私達でもどうにかできるとお思いますか」
「たぶん、できる…あの巨体は…ここにあった物が…混ざって…できたもの…だから魔物のものと違って…柔らかい…二人なら簡単に切れる…」
「分かりました。では先の通り、引きつけながら逃げれることに徹底しましょう。イブ、メアと私で触手の対処と本体への牽制。サナは皆に支援をヴァンは二人を抱えて上手く引き付けるように、あとは各自その場の判断に任せます」
「…「「「了解」」」」
各々がやることを理解し、行動に移す。皆に身体強化の魔法をかけてヴァンはサナを背負いメイザスを引き寄せるべく一度結界の傍まで寄り少しづつ東へと歩いて行く。メアは屋根上へと飛び登り。イブとシルスは地上からと三つに別れてメイザスに向かって走る。
メイザスのは迫ってくる、小さな生物に気が付きうねり動く触手の一本一本をその三人へ向けて打ち付けようとする。
イブはそれに向かって正面に走り迫って上へと蹴り上げるようにし跳ぶ。
イブの蹴りを受けたその触手は衝撃が内側に溜まって膨れ上がり破裂した。
その飛び散る肉塊と液体を避けながら落ちている巨大な瓦礫をメイザスに向かって蹴り飛ばす。
シルスはAK-47を持ち遠距離から触手を避けるようにして本体に向かって乱射を行う。
迫りくる触手は張られていた〈切断糸〉の壁に勢いよく接触し、その触手は糸をすり抜けながら勢いを落とし、まるでところてんの様にぼとぼとと落ちていった。
メアには二本の触手が迫っており、自身と同じくらいの両刃の大剣を走りながら振りかぶり、一本を横に両断し後から迫りくる触手に向かって飛び込んだ。
しならせた背骨を大きく起こしながら持つ大剣を降り下げ、遠心力を使いその触手を縦に切り裂いた。
そしてシルスがそれに合わせて張っていた糸の足場に着地し準備時に回収していた賊達の落した武器をメイザスに向かって投擲する。
巨大な瓦礫は鈍い音を立てながら本体にめり込んだが全く効果が無いようで、転げ落ち巨大な肉塊に取り込まれるように押しつぶされ消えて行った。
シルスによって放たれた弾丸はその肉塊を貫通しながら出血のように赤い液を出させたが直ぐに止まり、空いた穴も肉が湧くようにして弾丸を外へ取り除き塞がってしまう。
仕掛けていた性質を変化させた〈切断糸〉の壁が本体に接触し切り傷を開く。だが、切り口から再生するように湧く肉の圧力により切断を防がれ、糸よりも先に建物が耐え切れず崩れ糸が緩んでしまった。
メアによって投擲された剣達は簡単に根元まで刺さるものの、内側から肉が湧き出て弾丸同様に外へ押し出され、傷が塞がってしまう。
切り刻まれ破壊された触手は、同時に本体に比べかなり遅い再生を開始し始めた。
物理的な攻撃は効果が薄い。傷がふさがってはしまうものの銃弾や斬撃に対する攻撃は効果は確かにある。
三人は互いにやった事の結果を理解し各々が次なる行動を開始する。
屋敷の中はほぼ全ての壁が破壊され広々と散々な姿と変わり果てていた。
埃や羽毛といった様々なものが舞い視界が悪い。
そんな中、ノアが常に移動し走り続けていた。
「〈侵酸ノ粒弾〉」
その声は右斜め後方から聞え、放たれたその魔法はノアの近くにあったその壁を容易に消化しながら一直線に貫通しノアに迫る。
ノアは咄嗟に横へ飛び避けるも足や右腕に掠り大きな火傷のような傷を負わせた。
ノアが飛び込んだ先は屋敷のエントランスホールであり外へ向かおうと階段を飛び降りていくと、着地する横にある柱の物陰に一人の影が右手を前に構えていた。
「〈嵐斬ノ突風〉」
右手から放たれた突風は台風の如く暴風が起こり、先のメイザスの咆哮に似たようにノアの周囲を渦を巻くように全てを風の刃が切り刻み破壊しながら屋敷の外まで吹き飛ばす。
そん暴風域を抜け出して屋敷にある庭園の中を傷だらけのノアが駆け走る。
それを追うようにノアを挟んで茂みの中を陰が走り揺らす。
すると左の陰が消えた。それを確認すると、
右から一体がハルパーによく似た湾曲したナイフを振りかぶりノアに向かって飛びかかる。
ノアはその刃を左手で防ぎながら地面へと逸らし右手で攻撃しかけると後方から先程姿を消したもう一体が、茂みから現れ武器を横に刃を向けて構えながらノアの背中に突進する。
「かはっ」
ノアはその突進に対応出来ず刃が背中にめり込み勢いよく吹っ飛ばされ、茂みを突き破り屋敷の壁にヒビが入るように叩き付けられる。
突進したその一体はそれを見て笑っていると、刃と地面を見て不思議に思う。
「刃で切るように突進したというのに血が全く出ていないよ、ブラスト兄さん」
「ん?結構丈夫みたいだな、あの小娘…。まぁ気にしなくてもいいんじゃないか、反撃できていないしな。今はこの溢れくる力を楽しもうではないかエリシュカ」
先程まで声帯がおかしかったのか魔物のようにカタコトのように喋っていた二人とは思えない、声が変わり普通の人間のように話しをしていた。そして先程までは全身がただれていたような容姿だったのに、クロトたちの所から離れてから少しずつ変化していきその時の面影はなくなり綺麗な美青年、美少年のものとなっていた。
「そうだね。それにしても力だけじゃなく顔までしっかりとした物になってるよ。感激だよ本来の自分の顔を拝める時が来るなんて」
「おう、そうだな。案外可愛い顔してるじゃないかエリシュカ」
「えへへ〜ブラスト兄さんこそとってもカッコイイよ〜」
「そうか?まぁともかく。今は狩りを続けようか」
「うん!」
壁に打ち付けられたノアは疲弊からゆっくりと起き上がり警戒するように周囲を見渡すと、
屋敷の上の方から爆音と大きな振動が連続して鳴り響き続けた。
あそこはさっきまでクロと一緒にいたところ…。クロ大丈夫かな…。いや、そんな心配してる場合じゃーーー
「よそ見なんて、余裕そうだな!」
ブラストが走り飛びかかり、ナイフを振り下ろす。
ノアはそれを迎え撃つように弾くが、それに合わせるように真横からエリシュカが切りにかかる。
それを振り払おうとするもエリシュカに気が行った隙にブラストがエリシュカがと交互に途絶えることの無い攻撃が繰り返される。
どの攻撃もノアの体を刃物で致命傷を与えることは無理だと理解してか、笑いながら弄ぶように早く浅い攻撃のみを繰り返す。
ノアはどうにも出来ず一度、防御の姿勢をとった。そして一体に集中して左から突っ込んでくるブラストの刃を掴みとり、引き寄せるようにして右手を大きく開き切り裂くように振り下ろす。
ーーー消えた!?
振り下ろした先にブラストの姿が無く、左手には武器を持っていた。
「ほう?やるっな!!」
その声と同時に腹部に衝撃が入る。
武器を掴まれたブラストは即座に武器を手放して左に倒れるように視界の外へ攻撃を避け、体を捻りノアの腹部に回し蹴りを入れ込んだ。
ノアはそれを耐えようと踏ん張るのだが、前方から地面を蹴る音が聞こえた。見るとエリシュカが飛び蹴りをするようにしてその足の裏がすぐ目の前まで来ていた。
「どーん」
そんな楽しげな発言とは裏腹にその蹴りから出た鈍く大きな音が鳴る。
頭が吹き飛びそうな強烈な蹴りが炸裂しノアは抵抗できず隣の建物へ向かって二つの鉄柵の間を開き破りながら地面を跳ね、その建物の扉をぶち破り床を転げ回る。
「あ、いっけね。聖堂を壊しちゃったよ」
「まぁ、いいんじゃないか。もう、国がこうなってる以上ここに居続ける意味もないだろうし。用済みだろ」
「それもそうだね。イシシ」
二人はそう笑いながらゆっくりとノアの方へと歩き行く。
震える腕を立て上体を起こすとぽたぽたと顔から液体がこぼれ落ち綺麗な赤い絨毯が真っ黒に染まっていく。
さっき投げ飛ばしたときはあんなに軽かったのに…投げ飛ばしたあとから急に二人の全てが変わった。身長は私より少し大きい程度だったのにいつの間にか一人はシルスさんほどに大きくなってる…。それに容姿や声だけじゃない、メアさんたちが言っていた闘気や魔力のが大きく強くなって雰囲気も変わった。あの洞窟でとらえられていた時に痛めつけられていた時の比じゃない。今の二人はその時と全くの別人…。一体何があの二人をこんなにも変えたの…さっきのルイスって男の贈り物っていうモノのせい?
そんなことを考えているとやられたものとは別の何かが頭に響く。
いつっ…こんな時に…頭が…。
その頭痛は記憶を思い出させるように大量の何かが頭から湧き、入ってくるような感じである。
ノアは記憶がはっきりとしておらず今のように時折出るぼやけた記憶の頭痛に悩まされていた。
何なのだろうか…これは…。いつもこうやって何かを思い出させようとするのに…ずっとはっきりしない…。
クロトが出したあの言葉を聞いてとっさに人の姿が思い浮かんだ。だけど、ただそれだけで私が誰なのかは分かっていない。
私はきっとその人達の生まれ変わりかもしれないとクロトが言っていた。
何か重要な鍵となるものを見れば少しづつ思い出せるだろうって言ってたけど…。
頭部からの液体が落ち黒く染っていく絨毯を見ていると視界の右端に青いような光が射し込んでいるのが見えた。
気になりその光の方を見上げる。
ここはオルド枢機卿たちによって新しく建築された聖堂であり、その建物の中はとても広く幾つもの長い椅子が整列され、こんなにも黒く不気味な空模様の中でも神々しく煌びやかな彫刻の施されたステンドグラスが青く輝いて光を射していた。
ノアの視界は先の蹴りで歪みぼやけているのだが、そのせいでそのステンドグラスが本来とは違うあるものに見えて静かに眺めていた。
「青紫色の花…」
それを見た瞬間、頭痛が収まり頭の中にある全てが大人しく静かになりあるものが浮び上がる。
それはある一人の後ろ姿と手の甲を上に手を乗せていくその映像、互いに見合う四人の顔が四つの視点で映った。
ああ…そうか。クロトが言っていた通り私は"その誰でも"なかったんだ…。
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