第42話 聖浄の儀式

 まだ日が出始めていない薄暗い早朝。見張りのいない東の城壁の傍にシルス達六人が来ていた。

 シルスが作った糸をイブが持って軽々と城壁を跳び上り、糸を城壁の上と中にある建物に固定させて次々と城壁内に入り、三日前にクロトと別れたあの部屋に入って何かを探していた。

「ねえ、本当にあるの?」

「ああ、確かにクロトからの手紙に置手紙をここに隠しとくって書いてあったぜ。だけど本当にこの部屋なのか?」

「ええ、それは間違いないはずなのですが」

「……あった」

 隣の部屋からその手紙らしきものを持ったイブが珍しく”ぐー”と親指を立てて戻ってきた。

「ないすよ、イブ」

 それを見て皆が親指立てて返す。


 紙をシルスが受け取り読み始める。

「今日はお前たちがやりたいように目的を果たしてもらう。事前に渡した手紙の通りにしてきたとして話を続ける――」



 その場で朝食を済ませ、十三時まで準備を整えながら待機し、各自が手紙に書かれた指示通りに行動を開始する。

 ユーラクストの街道はまるで祭りかのように人が横行していた。

 それは賊だけではなく、それはあの時見たらどう見ても場違いであろうと思える裕福そうな服装の人まで来ており、初日に訪れた時とは全く違う人の数だった。

 そんな中をメアとシルスが認識阻害のローブを纏い王の屋敷の前にある広場へと向かっていた。

「全く人の公開処刑を楽しみにこんなに集まるなんて」

「メアあまり喋らないで」

「分かったわよ」

 三日たって認識阻害のローブの効果が大分戻っているとはいえ、以前私達を見ていた男達にはほぼ効力がない。今はこの人混みがあるからこそ何とかなっているだけ。声でその時いた男たちにばれたら騒ぎになってどうしようもなくなってしまう。


 そうして二人は目的地である広場が見える狭い路地の上、建物の屋根近くにある簡素に作られたベランダの様な所で待機する。

 広場には柵が出来ており、中では多くの男達が置いてある加工された木で十字架を組み立てていた。

 その周りには高貴な貴族用の物か高々とした観客席のような物が建てられている。

「まあ、ここならいいでしょう。一応糸も張っておきましたので喋りたいならどうぞ」

「はあ~喋るなって言われると無性に喋りたくなるのってどうしてなのかしら」

「知らないですよ」

「それにしても、どう思う?」

「どうとは」

「それは見てわかるでしょ。この量の人間たちを相手にするなんてさすがに無理だと思うけど。あんたの意見は」

「私からしてもこの数は流石に厳しい……いえ、無理でしょうね。ざっと数えて一万弱といったところでしょうか」

「まあそうよね、だけど私達はクロトを信じる。そうなんでしょ」

「そうね」


 その掛け合いで二人は静かに笑う。



 同時刻。

 サナとヴァンは移動せずその場に待機していた。

 サナは横になって眠り続けるリーディアの看病をヴァンは外を見ていた。


 全くクロトは何を考えているんだ。

 ユーラクストから帰ってきたシルスから受け取った手紙には、その日にあった”リーディアの異変”については一切教えないこと。シルス達から話を聞いて三日後に備えて準備をする事。そして当日にリーディアを連れてクロトと別れたこの部屋に来て隠してある手紙を読めと書かれていた。

 そしてその手紙には、十三時にシルスとメアは認識阻害のローブを纏い王の屋敷の前にある広場が見える路地に待機し、儀式後の”それ”が起こるまで絶対に何もしないこと。

 ヴァンとサナはリーディアの様子を見ながらイブと合流するまでその場に待機。


 …儀式後のそれって何だよ。それに見てもいないはずなのにリーディアさんの異変をなぜあいつが知っているんだ……。本当にバイロン様が言うように気味が悪く…恐ろしい奴だ。



 薄暗い静かな暗い部屋にクロトが立っていた。

「来たか」


 クロトが振り向くとイブとノアが傍まで歩きよる。

「俺は用があるからな、イブあいつらを頼むぞ。解放の許可は出しておくから自分の判断で使え」

「分かってる」

「ノア、村にいる間に何か思い出せたか?」

 静かに首を横に振った。

「そうか、まぁいい。どうせ今日には思い出せる。とりあえずついて来い、お前の役目はその内にある事を果たさなければならないんだからな」

「…うん」

「じゃあ、始めるとしようか」

 頷く二人を見てクロトは一息つき二人の間を進み行く。




 広場での組み立てが完全に終わり立派な十字架が出来て横に寝かせて置かれていた。

 国中にいるすべての人間がぎゅうぎゅうに集まり、貴族の観客席も満席に埋まっていた。そして待機していた楽器を持っていた男達が時間を知らせるべく音楽を弾きならす。

 王の屋敷の門が開きそこから騎士が両端に並び、神官らしき男と王のような恰好をした二人が用意されている壇上へ向かい歩いて行く。


「あれがオルド枢機卿とサン・ヴォルド王」

「そうですが、あの王…」

「あんたも感じた?」

「ええ、あの王からは生気の様な感じがしない…」

「なのに二つにずれたような気配がある」


 壇上に上がったオルド枢機卿が王、そして皆に礼をして前に立つ。

「では、これよりミスティア教。聖浄の儀式を行う」


 その宣言に広場の人間たちは大いに盛り上がる。

 すると東側から執行者達が鎖に繋がれた七人を連れて壇上の前を通り広場の中へと入っていく。


「銀髪の少女がサディアさん。リーディアさんのお姉さん」

「やっぱり双子っていうのもあって、とても似ているわね」


 そして連れていかれた者たちは倒されたてある十字架に寝かされ十字架に両手を広げられる。

「悪しき魔女の印を持つ者を動けぬように聖痕を与えなさい」


 すると執行者達は銀の杭と金槌を取出して両足の甲を重ね、両掌を広げさせてその中心を十字架に張り付けに固定させるように杭を打ち込む。

 鳴り響く金の音をかき消す苦痛の叫び声に、観客は盛り上がる。


「ああ、悪しき魔女の誘いに惑わされ、取り憑かれし異端者達よ。もう何も問題ありません。私達が其方らに潜む悪を逃がしなどはしない」

 杭を打ち込み終わり口を布で封じられ六つの十字架が立てられ固定が行われる。それによって血が十字架を沿って垂れ落ちていく。

 そして、何の前触れなどなく観客達はその貼り付けにされる者に対して石などの投擲が行われ始めた。


「そうです。皆で取り憑きし悪を苦しめるのです。もうこれ以上私達のような正しき正義の人間に取り憑かぬようにと」



「何が正義よ。ただの非道でしかないじゃない」

「抑えてメア」

 シルスが飛び出さぬように震えるメアの右手を左手で開かせて握る。

「心配しなくても分かっているわよ…」



「では、これまでにして火の聖浄の儀式の準備を」

 すると執行者達が来たところから観客が騒ぎながら道を開く。それは十字架の組み立てを行っていた男達が虫が飛び回る黒く赤い布で覆われた、大きな箱の様な物運んできていた。

 そして広場の中心まで運ばれその布を取る。

 それは可燃燃料で漬け込まれた遺体の詰まった箱である。

 男達はその中身にあるものを丁寧に持ち運び十字架の下に置いていく。


「彼らは悪しき刻印を刻まれ儀式の前に耐え切れず命を落とし、眠れる肉体に宿したまま蝕まれていた者たちです。彼らも一緒に聖浄の儀式を行います」

 急にきた嫌な臭いを漂わせるそれに対して不満を出させないように枢機卿が声をかけた。それにより少し不穏に騒いでいたのがすぐに収まていった。


「オイさっさとしろよ馬鹿が、時間かけてんじゃねぇよ薄ノロ」

 強烈なにおいに鼻と口を腕で覆う執行者の一人が作業を行う一人を蹴り飛ばす。

「それともなんだ?いまからお前たちも聖浄の火種となるか?」

 それを聞いて男達は急ぎ両腕にドロドロの肉塊を一杯に抱え並べ終わらせた。


「ああ、ミスティア様よ、悪しき者に惑わされ蝕まれる彼らを救い、そして彼らの為に肉体に潜む悪とこの地に漂う悪を焼き払いたまえ。『聖浄の灯』」


 そのオルド枢機卿の言葉には魔力が感じられ、その全てが詠唱であったことに気が付いた。


「うそ…何よアレは」

「なんて魔力」


 その詠唱によってオルド枢機卿の背後に神聖の光が差し、巨大な人の形をした光る影が浮かび上がる。そしてそれの背には六つの巨大な翼を生やし、まるで何かを包み込んでいるように両手を重ね胸を抑えていた。

 まさに奇跡、天使又は神と呼べるその光景に先程まで騒ぎ石を投げつけていた手は止まり、静かにそれに祈りを捧げ見惚れていた。

 そしてその神のような存在が吐息を吹き出すと、七つの黄色く輝く火が現れ十字架の下にある物をへと導かれ、それに火をつける。


 火のついたそれは燃え始め、少しずつ少しずつ火力を上げて高く上へ上がり、磔にされた者たちを燃やし始めた。

 目に映るその火は神がその柔らかい手で包み癒しの如く優しいモノに見えていたのだが、徐々にその神のようなモノが消えゆき変化が感じられた。

 実際はそうではなく、磔にされた者たちは必死に大きな口を開き、叫び暴れる。苦しみの火であるのが目に映った。


「これは幻術の魔法?」

「ええ、それもこんなにも巨大なものは敵ながら凄いですよ…広場にいる全員にかけられているのですから」


 いつの間にか幻術から覚めた二人が見ているのは、彼らの叫び声は虚しくもその神のような何かに遮られ掻き消えている。


 そこからは地獄の時間だった。

 磔にされた者たちは火に包まれながらも直ぐに死ぬことはなく、まるで苦しめることを優先とするようにオルドが微弱な治癒魔法をかけているのが見えた。


「あいつ…」

「我慢、我慢です。私たちの目的は儀式後に救うべき者を救えです」

「分かってるわよ。分かってるけど…」


 繋いだ互いの手に力が入り込む。

 ここで動けば、私たちの知らされていないクロトの予定が狂う。あそこに磔にされている人達は既に薬漬けにされ体内がボロボロで救うことは出来ない事は手紙で知らされている。

 いるけども、これを見て耐えろというの?救えない命だから見捨てろっていうの…。



 周囲の火で焼かれもがく者たちとは違いサディアは身動きせずただ遠くを眺めて焼かれていた。

 肉と髪、身に纏う衣服の燃える音と匂いが漂う。

 全身が酷く熱く、何かで何度も全身を刺されている痛みが走り渡る。

 もう何度目のことだか忘れてしまったがやはり慣れることは無な。

 熱い、痛い、苦しい、助けて、早く殺してくれ、早く、早く。

 薄く開く目の先に青白い火の玉が黒い靄に侵されそうになりながらぼんやりと漂うのが見え、頭の中に声が響いてくる。それは今焼かれている者たちだけのものではない。これまで焼かれ又は国の至る場所で殺され漂う魂達の声だろうか。

 それらはまるで逃げているのか、それとも迷子なのだろうか、ただひたすらにあちこちを行き来していた。

 サディアはそれを迎え入れるように手を広げると、その魂のようなモノたちはそれに気が付き寄ってくる。

 寄ってきたそれらをまるで我が子を抱く母のように優しく包み抱き寄せる。


 みんな苦しいね…苦しかったね…。苦しいけど私に協力をしてほしいの…。今回の犠牲を最後に、これ以上私達の仲間が家族が殺されないように、守るために協力してほしいの。


 ―――――――。

 魂達の声を聞いてサディアは笑みを浮かべる。


 そう、ありがとう…。なら、あいつらに私達へ与えた以上の地獄を還しましょう。



 そしてまるで何時間と経ったような長い時間が終えようと火が徐々に弱まっていき、残された真っ黒に染まったそれは風に吹かれる度に少しずつ朽ち削られ、灰となって消えていこうとしていた。


「皆様、悪は浄化されました。悪を宿しモノ達の見送り、心より感謝します。皆にミスティア様のご加護があらんことを」


 オルド枢機卿が儀式の終わりを告げ去っていこうとすると、広場の方からざわめきが起こる。

 またか…やはりあれは死にきらないな……な!?

 それを見るといつものモノとは違う事に気が付く。

 いつもであれば黒く炭となった魔女の遺体の隙間から血肉が湧き出るように溢れ元の姿に戻すというもの。だが今目の前で起こっていることは溢れた血肉が零れ落ち真下に血肉の池を作ろうとしていた。

 すると一瞬上から押さえつけられるような大きな重圧と気持ちの悪い感覚が走り、広場いる多くの人間が体をよろめかせ気分が悪そうに吐き出し騒ぎはじめる。


 …何だこれは知らないぞ!まさか!


 オルド枢機卿は何かを思い出して王の屋敷へと走っていく。

 二人はそれを不思議に思いながら見ていたが、血肉の池の方から鼓動が聞こえ始めそれを見る。


「大丈夫ですかメア」

「心配いらないわ。だけどなによこれ、この気持ちの悪い気配は…一体何が起ころうとしているの」

「分かりません…分かりませんが、これはとても嫌な気がします」


 血肉の池は徐々に泡立つように膨らんでいき、まるで生きているように鼓動が大きく鳴り響く。

 それを見ていた観客たちにはそれに対する不安が溢れ混乱し騒ぎあるものは逃げ、あるものはそれに目が離せずじっと見て、あるものは武器をそれに向けて構えていた。

 そして鼓動が止んだ。騒ぎは収まることはなく武器を構えた者たちが球体となったそれの様子を見るべく近づくと、球体の至る所に口の様な物が現れた。


「な、なんだ……口?」


 その様子を見て見ていると口がくちゃくちゃと咀嚼するような動きをした後、大きく開く。

 キャアアアアアア―――――――!

 その瞬間、甲高い女性の悲鳴が鳴り響いた。それはこの国全体に同じ声量が聞こえるものでどこにいようと耳を塞がなければ発狂または気絶しそうになるもので、その声を聞いた者は耳の穴を強く塞ぎ目を瞑り体を低くした。

 そして十数秒続いたその悲鳴が鳴り止み、目を開けると景色が変わっていた。

 先ほどまでは雲が散り散りに、鳥が飛んでいるような平和な晴天の青空だったのに対し、今は全く違う。

 それは世闇のごとく空は真っ黒に赤く、太陽は無く光がないのに明い。赤や紫の雲がかなり遠くにあるのが見える。


「何…これ…。空が、空気が変わった?」

「それだけじゃありません、先ほどまであった魔素が全く感じられません。それどころか感じる気配にノイズの様な物が」

 二人は不意に感じた体の異変を確認すると両手、いや全身が勝手に震えている。


 寒くもないのにこの震えは何?

 私達は何かに恐怖しているの?


 広場にいる人達もその異変に辺りを見回していると、広場の球体が動き始めた。

 一本、また一本と腕を伸ばし人間のような物が球体から何体も体をだしていく。服装はボロボロに体は全身の皮膚がはがれているのか真っ赤に、至る所に刺し傷や切り傷が見える。

 その動きは、のそのそとまるでゾンビの様に近くにいる男達に迫っていく。

 そしてそのゾンビたちは少しずつ顔が変化していき顔を整形させた。

 その顔にその場にいる皆が見覚えがあった。先程、魔女と一緒に火刑に処された人達の顔である。


 するとそれを見ていた賊の男達は笑い始めた。

「ぎゃはははは。こんだけ大層な演出しといてたかがゾンビかよ」「違いね~期待はずれにもほどがあるだろ」

「てかこいつらさっき死んだ奴らじゃねぇか」「ぷっ、まじかよ。ならさっさと眠らせてやろうぜ」

 そう言って武器や松明を持った男たちが、そのゾンビ達の頭を潰すために斬りにかかる。


 ゾンビ、つまりはアンデットに属する存在は火や神聖のものに弱く、肉体が全体がもろい為容易に倒しやすい。特に頭を破壊すれば一撃で倒せる魔物だ。


 だからそこにいる男達であれば容易に倒せると誰もが思っていた。


 ―――!?

 男達の武器は確かにゾンビの頭を捉えてた、なのに少し切れただけ。

「あれ?いつもの力がでねぇ……てかこいつかたゔぇ――」

 ゾンビが手を横に大きく振った。ただそれだけで賊の男の頭が千切れ吹っ飛んだ。

「へ?……はえぇぇゔぉ――」

「や、やめ、ぶぇ――」

「はぁああはあああッ――」

 斬りかかっていた男達が狼狽えた瞬間を逃すことなく次々とゾンビ達がそれらを逃さぬよう捕らえ殺していく。


「な、なんだよ。コイツらただのゾンビじゃねのか……」

 それを見ていた周囲にいる武器を持っていた男達が怯え後ずさりし始める。


「逃げるなぁぁ!」

 一人の男が大声を上げた。


「たった六体のゾンビだ!周囲で数人の即席のチームを作り処理すれば問題ないはずだああ!」

 その男の喝に皆が戦意を取り戻し、ゾンビ一対に対し五人くらいが取り囲む様にする。

 囲まれたゾンビはまるで意識があるようにゆっくりと辺りを見渡す。


「全員用意はいいな!」

 皆が武器を構える。戸惑っているのかゾンビから動く気配はない。

「掻かれ!!」

 その掛け声に男達は一斉に襲い掛かった。



 広場に人が集まっているからか王の屋敷に人の気配は全くない。

 そんな屋敷の中をオルド枢機卿が服装のせいで走りにくそうにも、慌てるように急いでどこかに向かっていた。

 そして、目的の部屋にたどり着き勢いよく扉を開いて中へ入る。

 そこは屋敷の主人が執務をするような部屋で壁に沢山の本棚があり、部屋の少し奥に執務するための大きな机、そしてその後ろにベランダに出る大窓がある。

「無い、無い、無い!」

 オルドは何かを探しているのか荒々しく、まるで空き巣のよう至る場所の引き出し開けていく。

 手当たり次第に全てを探したころには、紙が舞い散らばり、家具は倒され部屋は散々な姿に変り果てた。

「無い!一体どこへ行ったんだ!」

 そう鬼気迫るように大声を荒げていると

「探し物はこれか?」

 ―――!?

 突如、後方から声が聞こえた。

 ベランダの方でゆっくりと角度を変えながら近づいていくと、真っ黒な長い髪を垂らす誰かが広場の方を向き、体を預けるように手すりに肘を置いて一枚の紙をこちらに見せるようにクロトが立っていた。


「貴様、何者だ!ここで何をしている。それになぜそれを持っている」

「これはこれは、久しぶりオルド枢機卿」

 クロトはあいさつしながらオルド枢機卿の方に顔を向ける。

「久しぶり?誰だ貴様は」

「誰だって?俺のこと知っているはずだろ」

「貴様など、知らんぞ」

「まだ芝居を続けるのか……いいよ、なら自己紹介をもう一回するか」

 そうめんどくさそうにオルドの方を向いて立つ。

「初めまして、俺の名前はクロト。お話をしようか、オルド枢機卿。いや、サロワ・ヴォルド・ユーラクスト」

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