第41話 魔女と呼ばれる少女との会談
サディア・ネルモネア。
ネルモネア家の娘、双子の姉である。年齢はクロト、メアと同じ十六歳。リーディアが金髪に対して彼女は少し黄色の残った銀髪であった。リーディアと同じように体中に大量の傷跡があり、手を自由に動かせないよう腕を広げて壁から延びる手錠をはめられている。
見てくれは普通の少女なのだが、この異質な雰囲気、いや気配は何処かで…。
そう考えながら彼女の問いへの返答を待っていた。
「……この国の為に死んで仲間になれって…どうやら私が死なないことは分かってるみたいだけど、あんたはどうすんのよ。死刑執行は明後日、つまりあんたは明日を乗り越えない限り私を仲間にするもないと思うけど」
そう言うとクロトは何を言ってるんだこいつというように首を傾げる。
「あんた自分の立場分かっているの?手元を見なさいよ。私みたいに繋がれていないから動き回れるけど、出入口はカギがかけられて出ることなんてできないのよ」
それを聞いてクロトが周囲を見渡し手元を見る。
「ああ、そう言えば繋がれていたな……忘れていた」
そう言うとサディアから離れて壁際まで行くと、急に口に指を突っ込み、一回の嗚咽の後吐き出した。
なんだコイツ…狂ってたのに急に冷静に喋って、急に自分から吐き出しやがった。
クロトは吐き出した所からそれを拾い上げ、何やらモゾモゾとしていた。
どうやら吐き出したものは針金のような物でピッキングを行っているのだが
「あれ…届かないな…。ああ…長さが足りなかったか……」
思っていたよりも手枷が邪魔で届かなかったようだ。
……一応、考えて入ってきたみたいだけど、うまくいかずのことで詰んだみたいね……馬鹿なのかしら。
哀れな目でクロトを見ていると、クロトは悩みとうとう諦めてその道具を床に置く。
「仕方ない、やるか」
するとクロトは座り込み前傾姿勢に左手を下に右手を覆い被せるようにする。
…次は何をするつもりだ?
その左手に体重をかけるように押し潰すと幾つもの骨の音が何度も鳴り響いた。
「……は?」
手の骨を全て外し手枷からその手を引き抜いた。そして引き抜いた左手の骨を填め直すように右手で押し潰したりして治し、同じような要領で右手を手枷から引き抜いた。
何だこの子供は発想がとち狂って言うより、冷静に対応しすぎだろ…。
その手慣れたような一切苦痛の顔を見せない行動に困惑を隠せない。
「お前一体何者なのよ…」
「ん?さっきも自己紹介したろクロトだって…いや、何し来たかの方に近い何者ってことか?う~ん…ウルクルズロットの王の依頼でこの国に調査に来たってかんじでいいか」
「依頼?」
「ああ、この国の異変調査だ。この国の王の手紙に違和感を感じたから多忙で手の離せない、あいつの代わりに俺たちが様子を見に来たという感じだ」
「それで、お前たちはこの国の現状を見て何をするっていうんだ」
「そうだな、もう結構手遅れだが。救える者は救っておこうっていうのが俺の今の考えだ」
「……そうか。だが私は見ての通りあんな男達にも何も出来ないただの弱く、呪いで死ねないただの女だ。お前たちの思っているような魔女ではないんだからな」
「ああ、知ってるよ。あんたは魔女ではないのだからな」
「魔女ではない?あんた何か知っているのか」
「まあまあ、かな。まあそんなことは置いといて、これはあんたにしかできないことだからな。勿論やってくれるならあんたとこの国の民を助けられる。だからいつも通り死んでくれ。その後仲間になれ」
クロトは悪びれもなく満面の笑みでそうお願いした。
「…く」
?
「あはははは、死んだ後仲間になれか。普通ならありえないこと言っているが不死者に対してこそ言えることだな。だけど人間だったものに言う事じゃないだろう。……それであんたに協力して、仲間になるとしての私のメリットは」
「先も言ったようにこの国の民とあんたを救ってやれる」
「はっ、それなら要らないね。私は死なないし、この国の人間なんて死んでしまえばいい。賊も意味のわからない宗教狂も、王もな!!」
そう恨みを込めて言葉を並べた。
それもそうか、彼女らは何の罪もなく巻き込まれて死刑をされたのだからな。死ぬことが定められた人間からすれば、大抵の他者のことなんてどうでもいい、むしろ同じ苦しみを味わえと思うものもいるだろう。むしろ、自分が苦んでいるのに他者の幸せを望み続けるのは、単なる馬鹿か、根っからのお人よし、宗教や薬で狂いきった奴らのみ。まあ、そんな奴は世界に一人か二人いる程度だろう。
「そうか、ならもう一枚手札を出そうか…」
「あ、まだあるのか?まあ何を言っても無駄だと思うけどね」
「あんたの妹、リーディア・ネルモネア」
ーーー!!
それを聞いたサディアはクロトを睨みつけ殺気を溢れさせ向ける。
「なぜ妹を知っている。妹は今どこに」
「まあまあ、落ち着けよ。あんたはあの日恐らく二人は家におらず燃やされた家を見て逃げてあんたが囮になり別れたといったところだろ」
「なんでそれを」
「ここまで得た情報からの予測だよ。あと妹さんはこの国のそばの村で眠っているよ。あんたと別れた後その村の付近の森で倒れてたところをその村の人間が治療していたよ」
それを聞いて、ほっと安心したようにするが、それでも向けられている殺意は消えない。
「別に妹を人質に取るわけではない、そんなこと仲間が許さないだろうからな」
「……それで妹は元気だったの?」
「いいや、あんたの妹はその日からずっと眠り続けている」
「は、眠り続けている?あの娘と別れてもう結構たっているはずよ…」
あり得ないことを言っているけど、これまで見てきた噓をついているような奴らとは全く違う……噓の雰囲気が全く感じられない。有り得ないことだけどそれは自身に起こっているこれも同じだ。なら本当に眠り続けて……。
「心配しなくていい、確かに生きている。だが、このままでは一生目覚めることは無いだろう」
「…助かるのか?あんたに協力すれば、目覚めるのか」
「ああ、保証してやるよ」
その自信満々にいうクロトをみてサディアはしばし考える。
「…わかった、あんなの言う通り死んでやるし仲間になって協力してやる。だから、妹は必ず救えよ」
「勿論。彼女の協力も欲しいからな」
こいつ私だけじゃなく眠っている妹にも協力をさせようとしているのか……まぁいい、仲間になったあとは私があの子を守ればいいのだから。
「じゃあ、協力してくれるそうだし。あんたの知らないこれまでの二ヶ月間。そして、あんたら二人に何が起こっているのか、これから何をするかを話してやるよ」
朝を迎え、執行者達がすし詰めで眠る。その一室で一人が目覚める。
……今日の当番は俺か…。
執行者の当番の男が仕事の為に早起きして並ぶ男達を連れて獄中の中を見回る。
それは牢獄の中で死んだ肉塊や、獄長や執行者のお遊び後の片付けや掃除といった事、投獄者の人数の管理が仕事である。
男は挙動不審に辺りを何度か見渡す。
よし、獄長はどこにもいない。明日は聖浄の儀式が行われるから朝早くから、いつも通り枢機卿が滞在している王の屋敷に呼ばれているようだ。そうなると明日の早朝まで獄長が戻ってくることはない。ほかの奴も眠っているし、俺は一足先にお楽しみでもするとしようか……。
「じゃあ、お前ら。俺は用事があるからな、さぼるんじゃないぞ。終わったらいつも通り広場の作業に行けよ」
そう男は命令し、休憩所ではない魔女のいる奥の部屋へと行った。
ひひひ、ああ楽しみだ。昨日は獄長がヤリまくっていて俺達はお預けにされていたからな。昨日できなかった分、昨夜に手に入れたいあいつで楽しませてもらわねぇとな。
そう自身からあふれる欲望を全開にパンパンに詰まった肩掛け鞄を撫でまわす。
そうして魔女の部屋の鍵を開け、獄長がいないことをいいことにお構いなしにその扉を開く。
「おまたせぇ~僕のかわいいかわいいオモチャちゃん。寂しくしてなかったかい?魔女に悪いことはされなかったかい?大丈夫!これから僕が寂しかった分を楽しいで埋めてあげるから…ね…」
楽しそうに踊りながら声を高くして牢屋の前に近づいていくと、ある異変に気が付く。
牢屋の中を見るとあるのは魔女の姿のみ。何処にも夜に入れた子供の姿が見当たらない。そして魔女の周りを見ると、そこにはバラバラにある血肉と血、見覚えのあるボロボロの布が破けて散らばっていた
「あれ……。僕のオモチャちゃんは?」
先程まで笑顔満点だった面影はなく、ただ無表情となっていた。
「おい、魔女」
魔女に問うたが返事はない。
「おい聞いてるのか?なあ、なあ、なあ」
無表情のまま男は牢を掴み荒々しく揺らし始める。
すると魔女の口元から何かが落ちた。
それをよく見ると人の指の形をしていた。
「あ?食ったよ、もう」
「は?」
男は俯き体をぷるぷると震えさせた。
「何馬鹿面してんだよ…あれは私の飯だったんだろ?」
「ふざけんじゃねぇぞ。てめぇ!俺の!俺のおもちゃを!!」
男は怒り狂い荒げ、慌てて鍵を取出そうとして手提げかばんが床に落ち、沢山の拷問道具が散らばった。だが男はそんな事など気にすることはなく扉を開けようとしようとしたのだが。
「おい、お前!何してんだ」
男が大きな声を出したことで目覚め、異変を感じた仲間達が駆けつけて男を取り押さえ始める。
「離せ!離せぇ!こいつ俺の得物を食いやがった!」
「分かった、分かったがそれは儀式の後にしろ。今変に魔女を傷つけたら獄長、オルド枢機卿に殺されるぞ」
取り押さえている男たちが制止させようとしているが、聞く耳を持たず男は暴れ続ける。
「ダメだ、コイツ楽しむために薬打っていやがる。だれか俺が抑えているから鎮静剤を打て」
それを聞いて仲間が鎮静剤を打ち込むがあまり効いておらず、二本打ち込むことで大人しくなり、ぐったりとした男は連れていかれた。
「全く儀式の前日はどれも使ったらダメだと言われているというのに」
そして出ていくときの男たちの魔女を見る目はいつも通り化物を見る目だった。
それを見送り完全に足音が聞えなくなり少し待ったあと。サディアの顔は青くなっていき吐き出した。
「おえぇぇぇ」
……全くこんな酷い演技させやがって。クロトめ……。
「じゃあ、俺は出るから。俺を連れて来た男が来たら一芝居頼むぞ」
「は、芝居って何だよ」
「そりゃそうだろう。捕まえた奴がいなくなってるんだ。騒がれて捜索されるのは面倒だからな。サディアに食べられたことになった方が簡単だろ?」
「まあ、確かにそうだが……私に芝居なんて…」
「じゃあ、そういうのは用意するから我慢してくれよ」
そういって容易に牢屋の鍵を開けて出ていった。
「ちょ、話聞けよ……」
そうして一時間くらいして丈の長い白いワンピースのような恰好に着替えたクロトが荷物を持ってきて牢屋の中でそれを並べ始めた。
「お前それって」
並べたそれは肉塊、それも結構真新しいものだ。
「おれは、そんな人殺しなんてしないよ。これは昼間に見せしめで殺された遺体から借りたものだ」
「借りた物って」
それでもダメだろと思いつつも、並べていくクロトのそれはとても丁寧であり、借りたという道具のような扱いには一切感じなかった。
そう並び終え着替える前に着ていたボロボロ服を上から被せた。
「じゃあ、芝居下手なお前の為にコレ」
そう言って切り取られた指を差し出した。
「コレって、どうするんだよ」
「そいつが来るまで咥えといて。いや、咥えろ」
お願いをするように言うと、嫌な顔をしだすサディアを見てすぐさま笑顔で命令形で言い直した。
「……まじか」
「まじ」
そうあの時のような悪びれのない笑みでお願い(命令)をした。
あいつの言った通り、怒り狂って中に入ろうとしたところを仲間に抑えられて連れていかれたが。
全く『病気になってもお前なら問題ないだろ』じゃないんだよ!一応、私女の子だぞ!十六の少女なんだぞ!乙女なんだぞ!それなのに誰の物か分からない指を咥えろって鬼畜か!なんなんだよ、あのクロトって子供は……。どう考えても普通じゃないだろ。……だけど、そういうやつだからこそ、何かを持っていて、変えることができるのかな…。
儀式の前日というのもあってか、獄中も国中もとても静かで何事も大きな騒ぎが起こらずその日を終えて、各々が目的を持ち儀式の日を迎えるのだった。
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