第39話 ミスティア教
ひと騒ぎが終わり、国中では大男達と似たような格好をした男たちが見回りをしており、賊の様な男たちは大人しく建物の中へ入っていた。
クロト達は目立たぬように隠れながら狭い路地を進み行き、イブの目指す目的の建物の前に立つ。
その建物の外見はこれまで以上にひどいものでほとんどの階の壁が崩れ、抉れており部屋の中が露になっている。何かの争いがあったのか、お皿や壁、家具といったものが赤黒い跡がこびりつき無残な姿となって散らばっている。その全ての部屋はそれが起きるまで生活されていた様な痕跡があり。ある部屋には鍋の中に真っ黒となったドロドロし虫が群がった液体があり、お玉が差し込まれ放置されていたりしている。
そんな、その時から今日まで誰一人として訪れなくなった建物の中をイブに案内されてその部屋の中に入る。
その部屋は外から見えるどの部屋よりもマシな方なのだが、至る所に赤黒い痕跡が飛び散っている。そんな空間の片隅に先程の親子の様な二人が怯えながら身を寄せ合いこちらを見ていた。
クロトが二人の傍に近づくと、体をびくつかせ怯えた目で見る。
…この少女は串肉のか、その横のは初めて見るが……。
クロトが手を伸ばすと女性が少女を守るように隠し背中を向ける。そのまま手を伸ばしその女性の上着の裾を持ち背中が見えるように捲り上げる。
「ちょ、クロ何して……」
急な女性に対する行動で戸惑ったのだが、それを見て口を抑え黙り込む。
その背中は余りに酷く、背中の元あったであろう肌の色は一切見えず青紫色に染まっていた。
クロトがその背中を人差し指で軽く触れると、激痛が走ったのか女性の体は大きく動き、食いしばっているのか声を殺しているのが分かる。
「軽く触れただけで骨が少し鳴ったな……背中全体に重度の打撲、背骨のほとんどがひびが入っているか折れているな。それ以外は特になさそうだな。少女も多少打撲があるだろうが、部屋に入った時は余り痛そうにしていなかった。そこまでひどくないものだろう」
そう少し触れただけで医者のように状態を言うクロトに皆が呆然としていた。
「まあ、今は鎮痛剤だけで十分か」
そう言ってシルスに出させた医療箱の中から錠剤を取り出して二人の傍に置いておく。
「飲みたくなったら飲むといい。痛みを抑えることくらいはできるだろうからな」
素性も知らない人間から薬を差し出されて飲む奴なんていない。信用してもらおうと会話をする必要もない。彼女らが今、シルス達に対してどう思っているのかが重要だ。
クロトはシルスとメアが座り込む前にしゃがみため息を吐く。
「さて、次はお前ら二人だ。罰も兼ねって我慢しろよ」
「「え……」」
その不安のある言葉に二人は固まりながら声を漏らした。
「ちょ、クロこれ以上は流石に……」
「これくらい我慢しろ」
吐息を漏らすメアのその左手をクロトが何かを探るように右手で優しく触れる。
「ここだな……じゃあいくぞ」
「……やっぱり、だっ――」
そうメアが止めようと口にする瞬間、
彼女左手を両手で堤両親指で強く押し込み骨の音が鳴り聞える。
その余りの痛みにメアが口を塞いで鳴らし、痛みを耐えようとしているのか右手を横に伸ばして上下に、足をバタバタとさせる。
「さて、あと薬指と小指、手のひら三ヶ所の骨を治すぞ」
「……噓でしょ」
そう絶望の言葉を聞いて青あざめた顔で目じりに涙をこぼした。
メアの怪我は現状分かる範囲で右手の脱臼と内蔵が少し傷ついた程度。骨ははめ治すだけでいいが、内蔵はどうしようもない。取敢えず治療ポーションを飲ませて肉体の回復に期待するしかないな。
激痛に耐え暴れる彼女と骨の音を聞いて隅にいる二人は更に怯えていたが、それが治療であること、そして見知らぬその人は助けてくれた彼女らの仲間であることを確信した。
女性は差し出されたその薬をじっと見て決心を決め、薬を手に取り数秒見つめた後、飲み込む。
するとすっと痛みが引いてきたのか、苦しそうだった顔が少し柔らかくなった。
それを横目に痛みに耐える涙目のメアの治療をやり終えた。
「さて次はシルスか」
シルスはここに連れてきてから一歩も動けていない。動けているのは両手の指先と上半身くらいか。
取敢えず仰向けに寝かせ、全身を手で触診を行う。
メアと同じように魔力で守っていたから五ヶ所の脱臼で済んでいるな。それ以外に怪我らしきものは特に無い。となると殴打による神経の麻痺か。意識はずっと持っているしこれは時間経過だな……。
「ちょっと、シルス。治療なんだから、いやらしい声出してんじゃないわよ」
「し、仕方ないじゃないですか。だって、そのクロが触れるとくすぐったいのですから。それにあなただってクロに触られていやらしい声を出していたじゃないですか」
「そ、それはその、そう私もくすぐったかったのよ。他意なんてないわよ」
と二人がいつも通り言葉を交わす。
「そのくらい元気があるなら。問題ないな、シルスも骨を簡単にだが治すぞ」
「……は、はい。大丈夫です、お願いしまっんん――」
右膝を両手で横から挟み込むように覆い左右からゆっくりと圧力をかけてズレを修正する。
覚悟は決めていたが、それでも思った以上に痛かったようで閉じた口から声が漏れ出てしまう。
それを見てニヤニヤ笑みを浮かべるメアを睨み付ける。
いつも冷静な顔しているから、いいざまだわ。
あなたは先ほど泣いていたでしょうに。
他に気を取らて睨む元気があるなら問題ないな。
そう判断したクロトは黙々とシルスの骨の治療を行っていく。
「いッ く、クロ!? うっ――ぅ」
取敢えず簡易的な応急処置を終え、二人は治療をポーションを飲み、皆が落ち着くまで休憩する事にした。
隅にいた二人も落ち着いたのか怯えた感じは薄くなり、出されていた水を警戒無しに飲む。
もうそろそろいいかな。
「俺の名前はクロトで、右からシルス、メア、イブっていうんだが二人はなんて言うんだ?」
「私はエーリィ・メルデーラ。この子は娘のヘネシーといいます」
「そうか。俺達は冒険者で隣国のウルクルズロットの王からの依頼で、この国の様子の調査を受けてきた。聞きたいことはたくさんあるんだが順序よく、この国に何時から何が起こったんだ?」
「……私達も何が何だか分からないのですが、こんなことが始まったのは二ヶ月ほど前の事です。この国に先ほどの大男たちを連れたミスティア教を語るオルド枢機卿という方がサン王と対談する為に突然、来日しに来たのです。最初は兵たちに止められていたのですが、突然王が対談を受け入れたのです」
この世界にも神を信じる宗教があり各地域でそこの出身の英雄や、過去の伝説の存在を崇める事がある。その中でも世界的に有名なものは神聖と生命、水を司る癒しの神。癒神‐ミクフォクシィ―-と書いてあったか。
「ミスティア教……聞いたことないな」
「私達もありません」
「私も」
「そして数時間して対談を終えた王は急遽、城内にいる国民を広場に集めミスティア教について話し、この国にその教会を置くとしたのです」
「反対はなかったのか?」
「それは勿論ありました。私たちの信じる神はユーラクスト様だけです。ですが私達の王はとても寛大であり、国民からの支持も厚い方なので皆、王を信じ従ったのです」
「なるほどな…で、そのミスティア教ってのは何なんだ?」
「ミスティア教とはミスティアという小さな国にいる神とされ、生物の中に潜む悪を浄化させる教えだそうです」
内に潜む悪の浄化ねぇ…陰陽師、エクソシストに近いものか。宗教とかあまり詳しくないからなぁ。
「そして対談終えた、その三日後に事件が起こったのです」
「事件?」
「はい。オルド枢機卿達がある場所から生きた人間を人体実験を行っていた場所を見つけ、ある家を検挙したのです。その家というのがこの国で王に次ぐ権力を持つネルモネア家です」
「そうか、ネルモネア家の人間がどんな人間かは知らないが、ミスティア教の奴らが見つけたという事はそいつらの偽装という考えも出ただろう」
「はい、もちろん出ました。ネルモネア家の領主様は王と同様に国民からも、領土に住む村の人たちからも信頼されている方ですから。ですが、その人体実験を行っていた場所というのがネルモネア家の地下であり、国の捜査兵が見たところその部屋は少なくても七年前からあったと報告されたのです」
七年前ほど前、そうなるとさすがに信じる者たちも疑心暗鬼になってしまうものだな。
「それから捜査を徹底的に行うこととなったのですが、家は焼かれ証拠隠滅をしようとした領主夫妻、そして双子の姉を捕らえ一時的に牢屋に閉じ込めることとなりました。双子の妹は行方不明となっており数日捜索されたのですが見つからず、死人とされ捜索は打ち切られました」
死人とされ?それなのに捜索は終わっていなかった。という事はあの賊とこの国の連中とはつながりがないとみるべきか…。
「口を挟んで申し訳ないのだが、この国の王子の捜索はしていないのか?この国を歩いていると王子が行方不明という事が聞こえてな」
「はい、確かに王子の行方不明は騒ぎになり王の命令によってこの国の精鋭を集めた捜索隊が編成されたのですが、捜索に行ったきり帰ってきていません。王も心配でありますが王が国を空けるわけにもいかず、更には国にとっての大問題が起こっている故に、ただ待つことしかできないのです」
「……そういうことか、なんとなく分かった。続けてくれ」
「そして数日後、再び王が国民を広場に集めそれを見せたのです。髪も顔も別人のように豹変し荒れ果て、ひたすらに魔女様と叫び狂う領主夫妻の姿を。そうして王は最優の友であったネルモネア家を有罪として死刑を言い渡し、それを見つけ悪を浄化させるというミスティア教の人達に一任したのです。そうして早急に信者の人たちが、どこからか持ってきた木で出来た大きな十字架を広場の中央に立て掛け、罪人達を貼り付けにし”浄化の炎”の儀式として火刑に処したのです。そして私達はそれを見てしまったのです」
何かを思い出し、急にエーリィの顔が真っ青に染まり体が震える。
「火刑に処され、黒焦げに崩れて朽ち落ちていく中、黒焦げた炭の血肉から血が溢れて真っ赤な血肉が湧き溢れ、皮膚を作り死刑される、いや捉えられる前のような何事もなかった様に傷一つない綺麗な体に戻る、サディア・ネルモネア様の姿を。そしてオルド枢機卿が彼女が人体実験の元凶の魔女と称して、罪人らの悪行の悪が魔女によってこの地に拡散して、無尽蔵に眷属と使徒を作り出すと言ったのです」
火刑。それも黒く朽ち落ちてからの再生…確かにそれは化物…魔女と言えるものだろうな。そしてそこからの悪の拡散というわけか。
「そしてその悪と言うのがあんたの中に住みつき、手首にあるその印、魔女の眷属又は使徒という事か」
「ち、違います!私は…私は魔女の使徒ではありません」
エーリィは右腕の印を力強く握りしめ涙を流し訴えかける。
「そんな事わかっているよ、そんな偽物の印なんてな」
「え?」
そんなつまらなそうにしながらもクロトは断言したことに目が点となる。
「シルス紙を一枚くれるか」
「は、はい」
クロトはすぐそばに落ちている板に紙を張り付けるように置く。
するとクロトが懐からそれを差し出し皆に見せる。
「それは”魔女への裁き”…どうしてそれを……」
「彼女らが気絶させたその信者と呼ばれる男たちから拝借してな。さて、これが恐らく魔女の眷属かを調べるものであっているか?」
「はい。オルド枢機卿が言うには魔女は眷属と使徒に所有物として、決して傷がつかない印を施すのです。それが右の手首であり。眷属でなければその棘は肉を刺し血を流しますが、眷属であれば眷属の印がそれから守るようにして印が浮かび上がると」
「それでこれまで、その印が浮かび上がり捕らえられた者たちはその処刑された領主と同じように魔女様と叫び狂い、処刑されたと?」
「…はい。魔女を滅ぼすにはその眷属と一緒に処刑しないといけないと、これまで何度も広場で処刑が行われています。国の兵士や住民、そして訪れる旅人や冒険者達と関係なく繰り返され続け、いつからかこの国は枢機卿が管理し賊の様な者たちが表を自由に歩き、暴れ回る無法地帯と変わっていました」
「まあ、そんな感じであればそんな猿芝居でも、信じてしまうものか」
「猿芝居?」
すると”魔女への裁き”と呼ばれるそれを、床に置いた板に叩きつける。
「まあこの通り、ただの板だからな、魔女の眷属でも使徒でもないし、尖っているからただ刺さるだけだ」
「……?」
「それがなんのよクロ」
「まあ、見てろって」
クロトはそれを抜き取り、板を皆に見えるように上げ、次は優しくそれの尖った先をつける。
―――!?
するとそれを中心に、彼女の手首にある魔女の眷属の印と全く同じものが浮かび上がった。
「一体…どういう事なの…」
「わかったわ、力の加減で印が浮かび上がるのね」
そう自信満々にメアが答え、それを見てクロトが微笑む。
「違う」
「え……」
「それなら、俺たちが国に入るとき優しく刺したら印が浮かび上がるはずだろうが」
「確かに」
「答えはもっと単純だ」
そういってクロトが持っている一本をみんなに見せながら手首を強く振ると、一本だったそれは二本に増えていた。
「信者どもは使い分けていたんだよ。刺せば当然のように刺さるものと、刺せば先端が凹み、そこからにじみ出て印を浮かび上がらせる魔法道具をな」
「それってつまり冤罪をかけて悪を作ったという事?いったい何のために」
「それは、さすがに俺も知らないよ。気ままに罪人を作る奴らなんだから。まあ考えつくのはその死刑、儀式とやらをしたい何かがあるという事くらいか」
「そんな……」
そう絶望するエーリィ。誰だってそうなるだろう。奴らの気ままに罪人に仕立て上げられ、恐らく監獄に連れていかれて拷問されたあと、死刑されそうになったのだからな。
「ま、待って下さい。ではサディア様は一体どうやって、それに豹変した彼らはどういうことなのですか」
「そのサディアの魔女については…まだ、分からないが豹変の正体については分かっている」
するとクロトが懐から三つの黒く高価そうな装飾の箱を出す。
すべての箱を開けていくと見えたのはピンク、緑、赤の液体の入った注射器だ。
「おそらく催眠効果のある薬物の投与による洗脳だろうな。そしてこの薬物の出どころも分かっている」
「いったいどこまでわかってるのよクロは…」
「この匂いはお前たちも知っているはずだぞ」
そう言ってクロトは棚にあるそこそこきれいなコップを取り出し、注射器の中にある液体を入れる。
「手で仰いで軽く嗅ぐ程度にしとけよ」
「わ、分かっているわよ」
そう注意を受け、シルスとメアはそのコップから漂う匂いを嗅ぐ。
「これって、チーツの香りですか?」
「ほんとだ、ほかの匂いが混ざってて分かりにくいけど確かにチーツの香りだ……まさか、私たちが飲んだあの液体、本当は危ないものなんじゃ」
そう思い出しメアが慌て始める。
「あれは問題ない。それにあの液体がだめなら日常的に飲んでいる、あの村の住人達がすでに皆がおかしなことになっているはずだろ」
「ほんとだ」
「最も危ないのは恐らくチーツの皮か皮と果肉の間にあるものだろうな。もし果肉に毒がったのであれば、あの時触れていたあの人の指に異変が起きていたはずだからな」
「三種類の色の違う液体……という事は私たちが採取し納品した薬草は」
「察しがいいなシルス。俺たちが依頼で納品した薬草はチーツと調合することにより、これらの三つの薬物、さらに組み合わせを考えれば最大十一は作られるんだろうな」
現状分かるのは理性を失わせ狂暴化させる薬、おとなしくさせる薬、催眠薬……くらいか。
「さて、今の国の現状はなんとなく分かった。それでその次に行われる儀式、公開死刑はいつくらいなのかわかるのか?」
「週末の午後三時ごろに行われるので、三日後です」
「そうか…とりあえず、この件は置いといて、お前たちは他に気になる物は見なかったか?」
そう言って皆を見渡すとシルスが手を挙げた。
「一つだけ、あの城壁が崩れていた件です」
「ああ、あれか」
「あそこ見たんだけど、地面が綺麗に整地されたように礫一つ残さずきれいなことになっていたわ」
それを聞いてエーリィを見ると少し考え始めた。
「私も聞いただけですので詳しくはわからないのですが、最初の公開処刑が行われてすぐのことです。その整地されたという場所は元々冒険者が集うギルドがあった場所です。ギルドの人達は基本的に国の方針には口出しはしません。だからその時どうにかしようと動きを見せることはありませんでした。しかし、依頼であればどんなことでも依頼を各ギルドに張り出すことができます。だから城壁外へ出ることを禁じられ、異常を感じた国民は金を集めギルドにこの国の調査を依頼しようとしたのです。ですが、それを許さぬ信者たち、あの大男が率いる執行者の達が、それを防ぐべく乗り込んだのです」
「ギルドの職員と言えばAランク冒険者に匹敵する実力を持っているはずだ、あんな奴らに負けないだろう」
「はい、その時は誰もがそう思っていました。ですが職員の方々はその男達に為す術なく倒されたんです」
「うそでしょ……」
それを聞いて皆が驚愕する。それはつまりあの男たちがAランク冒険者以上の力を持つという事になる。だが、そんなわけがない、魔力も闘気も戦闘技術もあまりない荒くれ者のような連中だったのだから。
「それを見ていた人達は絶望し、執行者達がギルド職員を連れていこうとしたとき、突如として現れたのです。”破壊の魔女”様が」
”破壊の魔女”確かギルドのトップの存在だったか。
「それを見ていない私も、それが聞え全身に鳥肌が立ったことを覚えています。その場にいた人以外の全てを消し飛ばしそこに立っていたと。あまりにも突然のことでか、それとも魔女様を見たせいで皆が怯え、恐れからか全身に鳥肌が立って足がすくみ、立てなくなったそうです。皆、魔女様におびえていましたが、確かに希望が感じたそうです。破壊の魔女様は辺りを見渡した後、職員を見て大男を倒そうとしたのか歩み寄ると、オルド枢機卿が表れ魔女様と会話を始めたそうです。恐れのせいでその場にいた誰一人としてその会話を聞こえていませんでした。そして話し終え魔女様がオルド枢機卿の真横に威嚇のような攻撃をした後、何もせず、職員達を抱えその場から消えたと」
「見捨てた……いや、我関せずといったところか。お前たちからすればどうしてと思うことだが、あんたが言っていた通り、ギルドの方針はギルド外に関する事には一切手も口も出さないのがギルドのやり方。それも最高責任者であればそれを貫くのは当たり前だな」
「そうして、ギルドの依頼の可能性を失い、先の話の通りその場にいた殆どの国民は牢獄に連れていかれ、この国の魔女と一緒に死刑されました」
まあ、そうなるわな。
「それで、他に気になったことは?」
皆を見渡すが特にないようでただ空気が悪く、俯く。
「そうか…なら、これからの行動を伝える。その二人はもうこの国にはいられない状況だ。だから二人を村へ連れていって匿ってもらい守れ」
「分かりましたが、誰が村に帰るのですか」
「お前たち三人だ」
「なっ、そんなクロはどうするのよ」
「おれはもうしばらく一人で探索する。やることがあるからな」
「そんな一人では危険です。流石にだれか一人残すべきです」
「お前たち二人は認識阻害のローブを堂々と脱いだんだろう。認識阻害のローブは人の前で脱げばその人間に対して効力がかなり薄くなる。そんな奴は残せない。そもそも怪我人のお前たちは足手まといだ」
「「うっ……」」
「それに、先の大男がそちらに行かないとは限らない、ならイブも当然そちらに行くべきだ」
二人は何かを言おうと口を開けようとするのだが、何も言い返せず諦め下を向く。
「はあ……お前たちは多くの人を、この国を救いたいんだろう?なら今やるべきことは多少この国の住民には苦しんでもらうことになるが、最低でも三日後に備えてサナにしっかりと治療してもらい、万全な状態で戻ってくることだ。分かったな」
「はい」
「わかったわ!」
それを聞いて嬉しそうに二人は返事を返した。
結構結構。それだけやる気を出してもらえば十分だが……。
「シルスちょといいか?」
「何でしょうか」
「紙とペン、それと何かを軽い衣服になりそうなボロ切れのようなもの持ってないか」
「すみません。さすがにそういった物は……」
「あ、あの」
それを聞いてかエーリィがゆっくり手を上げて声をかけてきた。
「ボロボロの衣服をお探しという事ですよね」
「まあ、そうだな」
「それでしたら中央街に私のお店である服屋があるので好きに持って行ってください。これはその入り口のカギです」
ズボンのポケットから鍵を取り出して差し出してきた。
「いいのいか?」
「はい、助けられた恩人様達のお役に立ちたいので」
「そうか、なら借りるよ」
それを受け取りクロトは受け取った紙に何かを書き二つ折りにしてシルスに渡す。
「これを村に着いたらヴァンに渡せ」
「分かりました」
「そしておそらく俺たちが合流するのは恐らく三日後だ。恐らく大きな戦いが起こるだろう、しっかりと準備を整えておけよ」
「わかったわ」
「イブ、皆を頼むぞ」
「……うん」
十分に休憩をして、話しておりかなり時間が立ち。外を見ると夕日はすでに沈み光輝く月が天上に光り輝いている。
隠れてこの国を抜けるには絶好な時間だ。
「じゃあな、三日後待ってるぞ」
「ええ、クロも気を付けて」
「そうよ、私達に大口叩いといて捕まるんじゃないわよ」
「ああ、問題ない」
「では、行ってきます」
そう、皆が出ていこうと扉を開く。
「シルス、メア」
その声に振り向くとクロトは窓の外をずっと見ていた。
「救うべきものを救え」
……?
何を当たり前のこと言ったのだろうかと二人は考えるが、二人が出す答えなど決まっており、ただ「はい」と返事をするのだった。
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