第36話 内城調査 クロト視点
クロトたちが薬屋に入ってすぐのこと。
薬屋の前には多くの武装した男たちがぞろぞろと集まり取り囲むように玄関近くの建物の陰に隠れていた。
「…おせえな。いつもならすぐ出て来て知らせていただろうに」
「まあ、いいじゃねか。今回の獲物はなかなかの上物だぜ?あいつも手を出せない分、視姦して脳に焼き付けたんだろうよ」
「ちげえねぇな」
「それにあいつらにはまだ知らされていない、たっぷりと時間はあるんだ。変な騒ぎ起こさないように慎重にな」
「確かにな、特にあの白髪の女。胸は少し残念だがそれ以外はどこも最上級な物だ、それで中身を良ければ最高だ。まあ、多少物足りなくても、あのいい顔が歪めさせられるのが楽しみだぜ」
「おれは、あのお嬢様ぶった茶髪のガキがいいな。どこもまあまあだが、あんな強気な奴が泣き叫ぶさまはいいモノだぜ?」
「二人ともわかってないな」
「なんだよロリコン」
「そうだロリコンどうせ変態はあのちっこい静かそうなガキだろ」
「本当にわかってないな。あの物静かそうなのが静かにゆっくりと犬のように従順に奉仕させるのがいいんだろうが」
「わかんねぇな。声があるからいいんだろうが」
「お前みたいに小さなガキの喉を一々潰すっていう面倒な事をしてイタそうとする変態なやつならそういう奴がいいのか」
「変態、ロリコンってな…まあ俺の性癖は置いといて、誰もあの黒髪のガキをあげねーな」
「それならお前が担ぎ上げてやれよ。あんな目の下にくまがある不健康そうな奴、欲しい奴いねぇだろ」
「それにあれ髪は長いが多分男だろ?俺にはそんな趣味ねぇよ」
「そうだぜ?男ならあいつが俺たちを押しのけて、どうせお持ち帰りするだろ」
「そうだな…でも今回なんかやる気なさげだなあいつ、どうしたんだ。病気か?」
「あの唇の分厚いゴリマッチョもとうとう萎え始めたか?」
「それならそれで好都合だろ。あいついたらいたで女の顔面台無しにされることもあるし、俺達だって巻き込まれたりするしな」
「それもそうだ」
そう男さんにが笑っていると
―――!!
急に薬屋の中から騒がしい音が聞こえてきた。
それと同時に一斉に囲っていた男たちが走り込み扉を蹴り開け中へと入っていく。
薬屋の馬鹿が出てこずに大きな物音が鳴ったという事はパターンBかCか。
薬屋の馬鹿が出すお茶には特性のシビレ薬が入っている。飲めばどんな奴でも三十分は気絶して動けない。
パターンA、全員が薬を飲み眠り問題なく薬屋の馬鹿が知らせに来る。
パターンB、数人が薬を飲み眠りに落ちるが飲んでない者がいて薬屋の馬鹿を襲っている。
パターンC、パターンBに似ており数人眠ったが薬に耐性のあるものがいた場合。これは多少なりとも毒が効きはするから取り押さえるのは楽だ。
パターンD、誰も飲まず眠らない何も起こらない、ただの失敗。
まあ、どのパターンでも問題などない。情報じゃ最近冒険者登録したばっかのルーキー。人数は合わないが恐らく最初の仕事で死んだかどこかに待機させているのだろう。たった四人だ、この数いれば容易くねじ伏せられる。
「あ?なんだ」
突然前の方の足が遅くなり止まった。
奥の方では何か騒いでいる。
「おい、お前ら通せ!」
そういって男たちをすり抜けていき皆が立ち止まる場所に行く。
そこには薬屋のトルンが気絶して倒れており、冒険者たちの姿は見当たらない。
どこに行った。この部屋以外の道は俺たちがずっと前に取り壊して塞いでいる。なのにすれ違っていない。
男は窓へ向かいカーテンをのけて外を見る。外には窓からの脱出を考えて半分残している。だが誰一人として持ち場から動いている気配がない。
「おい!お前ら冒険者どもがここから出なかったか」
「出て来てねぇよ。何言ってんだお前」
あいつらが見逃すメリットは無い。ならどこから…。
するとトルンの傍にはコップが転がっており、口元とそのあたりの床が濡れているのに気がつく。
男は何かに気が付き真っ暗中方へと歩き出す。そしてその真っ黒な壁を力強く蹴るとその壁は簡単に倒れ奥から光が漏れる。
「奴らは裏口から外へ出やがった、ここにはいない!」
「何だと!あいつらの手に渡る前に探せ!あいつらが連れていったら絶対に回ってこねぇぞ」
その男の声にほかの男たちは騒ぎながらも、追うべく外へと走っていった。
薬屋の馬鹿から薬を飲んだ時の反応が出ていやがる、それも初期のそれじゃなく少し時間がたった後のそれだ。
先の大きな物音は争ったものではなく、あの壁を作ったものか…。
床が濡れているのを見て冒険者どもに薬の入った物を無理やり飲まされたんだろうな。だが、なぜばれた。こいつが今更裏切るのは有り得ない。毒については無色無臭の域まで至っているのは確認済み。一体どうやって毒が仕込まれていると気づいたんだ?ただのルーキーではないのかあいつらは…。
「ちっ、へましたかしてないかなんてかんけぇねぇか」
男は舌打ちをのあとにため息紛れにトルンの傍に歩み寄りしゃがむ。
「はぁ、せっかくの上物だったのによ!お前のせいで!何もかもが!台無しだ!」
男は身動きできないトルンの胸ぐらを掴み一言一言、告げるたびに力いっぱい顔面を殴った。
――ぃ。
「あぁ?」
トルンの口が小さく動き涙が零れる。
「ぼうじ、ばべ、ございば、べん…。ゅぅ、ぃで、ぅだ、ざい…。」
力ない口を動かして男に謝罪をし、許しをこい始める。
「許すわけねぇーだろうが。オラ!オラ!オラ!」
何度も何度も男に殴り続けられながらも、トルンは気絶するまで、ただ謝罪だけをし続けた。
薬屋で別れ、男たちから大分距離を取ったころ。
クロトは国の中央辺りで建物の陰に隠れながら、おそらく王が住んでいるであろう屋敷の観察をしていた。
屋敷の上の階に開けたベランダの様な物はあるが人影はない、一階は大きな庭園があってよく見えないな。よく見ると整備されているのだろうか、ほかの建物たちよりかなり綺麗だ。
そして屋敷の隣にはシャルトル大聖堂に似た形のそこそこ大きく立派な聖堂がある。
両建物の周囲は二、三メートルの黒い鉄柵に囲まれている。
周囲にいる見張りだが、兵士の恰好をした賊だろうか。やる気なさそうに昼間から酒を飲みながらだべっておまけにトランプで遊んでいる。こんな調子なら見計らって中に入れそうではあるが、今はいい。今回は取敢えずこの国の全体を見て回ってどこにどんなものがるかを調べるだけだ。そして気になった場所を絞って調べに行けばいだけのこと…。
そう歩いていると気になるものが目に入った。
それは王の屋敷の前にかなり大きな広場がある。恐らく国民を集めて演説などでもする場所なのだろうか。
その広場の中心はかなり黒く散らかっていた。周囲には先の賊のようにふざけた見張りをしており、中心では働く多くのボロボロの男たちがいた。ある者たちは黒くなっている倒れた大木やパンパンになった麻袋をどこかに運び、ある者たちは広場の中心の黒くなっているのを拭いたりして掃除している。どの男も賊の男たちとは違い酷く瘦せこけているものが多いい。
火事か、それとも建っていた建物か何かを焼き倒して片付けさせているのか…だが、広場の形的に建物が建っていたようには思えない。いや、記念館といったものならあり得るか。それとも…。
そうここで見たモノのせいで少々嫌な事が頭を遮った。
いや、無いだろうそれは。
すると何か音がしてその広場が少し騒がしくなる。
「ひ、ご、ごごめんなさい」
「何してんだよぉ、てめぇらはよぉ」
見てみると大木が転がる横で二人の男が倒れており賊の二人が怒鳴り散らしている。
様子を見るに転げたのだろうか、倒れている男たちの足はがくがくと震えている。過剰な負荷と疲労による脚の痙攣だと思うが。
それを見て少し離れたところから結構若い一人の男が歩きゆく。
「その許してはもらえないでしょうか。彼らは休憩も無しに三日間働き続けておりまして。足に限界が来ているようですし」
「ああ~そうか、確かに足が生まれたての動物みたいに震わせてんな。ぎゃはは」
「おいおい、笑うなって。まあそうだな仕方ないな」
そう軽くどついて頭を搔いて、納得したように笑顔を向けた。
「で、では」
「じゃあ、お前たちいらないわ」
「は?」
その一言と同時に助けに行った男の体が揺れた。
男がゆっくりと視線を落とすと賊の一人が刃物を腹部に刺していた。
刃物を抜き、刺された男は口から血を垂らして膝を落として体が力なく倒れる。どくどくと腹部から大量の血が溢れ地面に血だまりができていく。
「ゴミが俺様に意見してんじゃ、ねぇーよ!死ね!死ね!死ねよ!この奴隷どもが!」
男が追撃とばかりに倒れ抵抗のできない男の顔面を何度も何度も踏みつぶし続けた。
それを見ていた周りの男たちは声が出ず見ぬふりをしながらただ震えていた。
「あ~あ~頭をイッチャてるぅね」
そして高笑いしていた男は武器を抜き倒れている二人の元へ行く。
「じゃあ、お二人さんも使い物にならない脚なんていらないよなぁ」
そう言って男は二人の両足を楽しそうに笑いながら何度も抜き差ししていく。
二人は疲れ果てているためか、枯れた叫びを上げながら悶え苦しんでいた。
逃げようと手や腕を使い這うのだが、刃物で脚を刺して逃がさぬようにと肉を引き裂きながら引きずり戻す。
周りでは笑いながらそれを肴に酒を貪る見張りどもと、何もできず見て見ぬふりをして作業を続ける男達。
そうして二人から完全に声が出なくなったくらいに男は止めて周りを見る。
「おいてめぇら、このゴミどもをいつもの所に持っていけ」
それを聞いて数人男が駆け寄り三つの肉体を抱えて行った。
残された者たちは何も声を上げぬよう唇を内に血が出るほど嚙みしめ、飛び散った肉塊を回収し、血だまりを布で吸い上げ地面を拭き取って作業を再開し始めた。
賊の二人は満足そうに元いた見張り場所へと戻っていく。
…こちらに俺が来て正解だったな。完全タガが外れたという感じだな…。あいつらがこっちを探索していたら…いや、あっちも大丈夫なのだろうか。
そう気になりながら右手を見ると、爪で切れたのか手のひらから少し血が垂れ始めていた。
何なんだろうなこれは…。
クロトはそれを気にしながらも、その場を後に広場に沿って大きく迂回し、男たちが色々なものを運んで行っている方へと進んでいく。
しばらく進むと王の屋敷ほどではないが、かなり大きな灰色のレンガで建てられた建物が見えてきた。
窓のような物はあまり見えず、あるのは窓の代わりか鉄柵で塞がれた横に細長い小さな穴がいくつか見える。
その建物の傍には木材を材料に簡易的に作られた物置小屋のようなものが三つ並んでおり、周りは森のような木々と簡単に作られた木の柵がある。
するとその一番奥の物置小屋のような所から、先程男たちを抱えていった者たちが出て来て、涙を何度も拭いながら作業場へと急いで戻っていった。
人の気配は無いな…。
周囲をしっかりと確認して小さな柵越えて物置小屋の傍に隠れる。
耳を当て、小さな隙間から中を見て人がいないのを確認し一番手前の小屋の扉を少し開く。
すると中から知っている匂いが漏れてくる。
中は中心を囲うようにした三段の棚があり全ての棚にドラム缶が並んで埋め尽くされている。
これはオイル…可燃燃料か。
扉を閉め真ん中の所も確認したが、それは先の小屋の物と同じ燃料保管庫だった。
そして最後の小屋の扉を開くとその隙間から強烈なにおいが漂い音を立てながら無数の蠅たちが出て来て周囲を飛び回る。
「ほんと趣味がわりぃな…」
扉の中には真っ黒な四角い置物が間隔を開けて三つ並んでいる。
それはガラスで出来た水槽の様で中を透かして見せる。
その中から見えるのは裸にされた人の体。
赤子から老人までといった動かぬ肉塊が硝子の壁に押し付けられ顔が歪むほどに、ぎゅうぎゅうに押し詰められている。
二つの水槽には蓋がされているが隙間が空いており、そこから髪や腕がだらりと垂れながら、無数の虫たちが隙間から出入りしていた。そして目に見えるその肉塊などには埋め尽くすほどのウジ虫が湧いてうごめいている。
水槽は地面に溢れて垂れるまで、ある液体が溜められている。
血や排泄物、腐食臭が強烈だが、その匂いも強いため隠れるものではない。
間違いないな。この水槽は死体を加熱燃料で漬け込んでいる。
…これだけ生きてる人間を残虐に殺されたのを、こうやって酷いものを目の前で見ているというのに、吐き気すら湧かず……全く動じないんだな。
小屋の確認を終え周囲の探索を再開する。
レンガの建物の壁に沿って森の中へ入って行く。森は思った以上に深く、生い茂っている為に奥が暗くて見えない。
歩いていると奥が開けているのが見え、多くの人影が見える。
茂みに隠れて近づき覗くと、そこにも先と同じように作業を行っている男たちが見えた。
見ると簡易的なテントがあり、幾つもの切り倒された木が詰み置かれている。
男たちは何か作っているのか、ノコギリや鉋で大きな木を切ったり削ったりしていた。
仮置き場だろうか、大木の杭の様な物が沢山並んで立てかけられている。
準備物か。見たところ、かなり大きなものを作っているみたいだな。できている大きな杭は苔などが生えている。あれは恐らく削れば済むものなのか、ずっと前に用意していたのだろうな。
そう見ているとテントからおかしな人間が現れる。
それは神官のような恰好をした男だ。その男は何か紙を持っており賊の男と話し合っている。
なんでこんな所に神官が…。
すると神官はなにやら至る所に指をさして怒鳴り散らして始めた。
どうやら神官の方が立場が上らしく賊の男が困り果てているのが見える。
こんな国の惨状なのに神官さんは何も救わず、力なき者と賊を働かしこき使うだけなんだな。一体何の神を信じているのやら。
しばらくそれを見ていたがそれ以上のものはなく、再び建物の壁に沿って進み始めるのだが。
建物の隙間の穴から鉄の鎖が擦れる音や啜りなく声が聞えてくる。
半周したところで森の木々が途切れ開けてしまう。
森の傍は少し広い道があり隠れるための建物は少し遠いいな。
すると、遠くから声が聞こえ二つの影がこちらに近づいてくる。
一つは相変わらずの賊の男かと思われたが、その男は少し違う少しスーツに似た服装をしていた。
そしてもう一つの影は暴れているのが伺える。その影は二人の男女であり、首に鉄の首輪と鎖が見える。その鎖はスーツの男の手へと伸びて引きづられている。
「離して!離してぇ」
「やめろ、やめてくれ 俺は違う」
二人は声を上げて必死に抵抗している。
脚を見ると二人の両足が曲がるはずない方向に曲がりズタズタにされていた。
「うるせぇな全く、おとなしくしろっての」
そう男は懐から注射器を取出しその二人に刺して中身のそれを注入する。すると二人は急に静かになりビクビクと痙攣をし始めた。
あれは麻痺毒…いや少し違うな。
二人の様子は確かにあの麻痺毒の物に反応は似てはいるのだが、二人の顔は何だか赤く、焦点の合わない目で少し幸せそうな表情をして唾液を垂らしていた。
男は二人を引きずったままそのレンガの建物の中へと消えて行った。
あの男、片手で暴れている大人二人を息一つ変えず連れて来ていたのか。ここの連中はイブには及ばないが、なかなかの力を持っているようだ。
それを見送り建物が建ち並ぶ所を進み行くと賊の男たちの姿が増えてきた。見ているとローブを纏う姿も見えた。これ以上隠れて進む必要はないと判断して堂々と表を歩くことにした。
男たちは一度こちらを見るが大した興味などなさそうに仲間と話し始める。
先ほどから周囲に建つ無数の建物からは生活感が全く感じられないのだが、カーテンの隙間から覗く目が至る所から感じ取れる。
その目は何かを訴えるような何かか。
すると先の方から聞いたことのない生物の声が聞こえてきた。
様子を伺うとそこには十三人の男が縦長い天井の空いた四角い檻を取り囲んで盛り上がっていた。
主催者の男が奥におり、そのもう一つ後ろには小さなゲージの様な檻が八つ積み重ねられ、二つの檻が開いて地面に転がっていた。
檻の中には同じくらいの大きさの犬と鶏がいた。
行われているそれはつい前に見たものだった。
その二匹の様子はとてもおかしなもので、常に唸り鳴き、目の焦点が常にあちこちを向いて意味の分からぬ行動を繰り返していた。
それを見ている観客達は一向に進まないことにイラついたのか柵を通る細さの棒で二匹を殴りつける。
だが二匹は痛みを感じていないのか鳴くことはなく、唸り続けながら何が起こったとキョロキョロと首を振る。
すると、鶏のくちばしが犬の体に当たると鶏は大きな鳴き声を上げ、その犬の体をつつき始めた。
それは鶏が穀物を啄むようなかわいいものではなく、激しく犬の体を細かく千切り、啄み続けボロボロと細切れにされた肉が零れ落ちた。それでも犬は何が起こっているのか分からず、何もすることはなく臓物が垂れ落ち、程なくして倒れ込みただの肉塊となっていった。
そしてそれを見ていた男たちの中にその結果を望んでいない者が数人おり、悔しそうに怒り、肉を貪る鶏を檻の外から持っていた武器で刺し殺した。
動かぬ肉塊となったのを見た後、男たちは満足げに座る男たちに金銭を渡していた。
やはり、闘技場か。イヴァリスに比べればかなり小さく簡素なものだが…。やっていることは同じか。
主催者の男が二人の男に命令をし、二人はその檻の中の物を外へ放り出して簡単に掃除を始めた。
掃除の間に主催者の男は一人の男を呼び戻し後ろにある二つの檻を前に出させる。中には猿と大きなトカゲ…コモドドラゴンの様な生物が閉じ込められている。
その二匹は先ほどの動物とは少し違い、近くにいる人間たちを今にも襲い掛かりそうに威嚇をして檻の中で暴れまわっている。それは後ろにある檻の中にいる動物たちも同様だ。
前に出された動物たちを客は品定めするようにし声を上げて賭けが行われる。
掃除を終えたのか男が檻から出て、二人は賭けが整った二つの檻を土台を使い担ぎ上げ、檻の開口を下に向けて待機する。
主催者の男は脚立を使い、懐から取り出した注射器を二つの檻の隙間から差入れる。すると先程まで暴れて揺れていた檻は大人しくなった。
そして主催者の男の合図で二人が檻の扉が開き、中にいた二匹の動物達が無抵抗に地面に叩きつけられるように落ちていった。
二匹は先のモノと同じように意味の分からぬ行動をしていたが、すぐに猿が何かに気が付いたようにコモドドラゴンに襲い掛かり、コモドドラゴンがそれに反撃をした。
先ほどとは違う激しい攻防に客の男たちは大いに盛り上がり声を上げた。
クロトが静かにその真横を通るが主催者でさえ、それを見て盛り上がっている為に気が付かなかった。
静かに何者にも気が付かれず認知されない空気のように、積み上げられた檻の傍に立つ。
無意味に動物同士で殺し合うのか。それとも自身の為に逃げ、残りの数日を生きるか。それとも命を掛けて戦うのか…。それはお前達次第だ、好きにしろ。お前たちの残り短い一生なのだからな。
そうクロトが通り過ぎていった。
すると何か音が聞こえ主催者の命令を聞いていた二人はそれを見て怯え逃げるように走り出した。
「おい、お前たちどこへ行っている。殺すぞ」
そう主催者が声を上げた瞬間、足から激痛が走り叫び声を上げ倒れる。
「いでええええ。い、一体何が」
そう男が見ると後ろに置いてあった檻の扉がすべて開いており動物たちが出てきていた。
足には二匹の犬がその足で嚙み潰すが如く嚙みついており、客が地面に突き刺していた武器を猿が手に取りその顔面を刺す。
そしてそれを見た十人の男たちは焦りながら急いで武器を取り、その襲い掛かってきた動物たちを迎撃するべき武器を振るった。
後から聞こえてくるのは、男たちの悲鳴と怯え、雄叫び。動物たちの唸り声ともがき襲い掛かる声が。
きっと動物達は薬物を投与されているために痛みはあまりないだろう。薬のせいで狂暴化して理性などほとんどなく、そこにいる生物をただ襲い続けるだろうな。そして理性無き直線的な攻撃では直ぐに武器を持った人間たちによって全滅させられるだろう。だが、何もせず殺し合い、死ぬよりかは幾分かましだろうか…。
後ろを振り向かずそれを見送り、静かに歩み続けた。
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