第35話 内状と薬屋

 ユーラクストの中に入って辺りを観察しながら依頼元である薬師の元へと向かうのだが、雰囲気がとても気になる。

 それは今まで見てきたイヴァリス、ウルクルズロット、ルベントなどの街の景色とは全く違うものだったからだ。


 ユーラクスト。

 それは数百年ほど前にペイテル・ユーラクストという一人の魔術師が何もない森の中に住みつき作った一つの庭園があった。

 それから数年が経ち周辺にある国や戦闘民族が争いを続けていたところ、森に火を付けられたことに激怒したペイテル・ユーラクストが争いをしていた所に乱入し戦場を焼き払い、嵐を起こして戦士たちを戦意喪失までねじ伏せさせ、国と村を徹底的に潰したと。それからしばらく生き残った者たちを観察し続けやり過ぎたと反省したのか森の果実を分け与えた。それにより人間たちは争いを終わらせ、そして命の恵みを分け与えていただいたことに感謝をしてペイテル・ユーラクストを神として残った人間たちは崇拝しまとまりその名を冠した一つの国を作った。それをまとめていた人間、ラッセル・ヴォルドを認めたのかペイテル・ユーラクストは魔法でその国に様々な植物を与えラッセル・ヴォルドにユーラクストの名前とある一つの杖を与えたと。


 バイロン曰く、ユーラクストは多大なる種類の花や動物達といった自然に満ち恵まれている国であるため『神園からの施されし庭園』と呼ばれている。街道をなぞり挟むように花々を植える長い花壇があり家の隅に植木鉢そして、至る場所の公園は広大な庭園であり自然の動物たちが住み着いて国民と共に共存を望んでいるかのように一緒に遊んだり、常にきれいな庭園であろうと協力して管理が行われていると。


 そう聞いていたのだが、目に映るその光景は全く違うものだった。

 今まで見てきた国のように中世の街並みが拡がってはいるのだが何だろうか…どの建物も少々汚れてたりヒビが入ってたり、道のあちこちにゴミが落ちていたりと、かなり荒んでいる。

 本来であればそこら辺に花々が咲き、子供やその親といった人たちが道で楽しそうに横行していくのだろうが、ここには聞いていた長い花壇などなく、その様な民間人は殆ど見えない、いるのはとても怯えたように端を歩くボロボロな男が少数おり、冒険者と先の荒くれ者というようなガラの悪い男たちばかりで、まるで監視されているかのようにいたるところから視線を感じとても居心地が悪い。そしてその男たちの肩や首、足と見える所に決まって同じ柄のタトゥーの様な物があった。


 居心地が悪いためか自然とシルスとメアが少し足早に進んでいると、二人の前の方から小さな少女が何かをもって近づいてきて用があるのか前に立ち止まる。


「えっとなんでしょうか」

 シルスが尋ねると少女が慌てながら抱えている紙袋を開けて差し出す。開かれたその紙袋からはなんだか香ばしい匂いが漂ってくる。匂いからして焼いた肉の何かだろう。


 少女は六歳くらいの幼い感じで、可愛らしかったであろう薄汚れたボロボロのワンピースを身に纏っている。そして体のあちこちには擦り傷がついており、足は素足で肌色が見えないほどに汚れきっていた。


「そ、その。これ、買ってください…」

 そう寂しげに少女がシルスにお願いする。

「あ、えっと…どうしましょうかクロ」

 どうすればいいか分からず困ってクロトに助けを求めるように尋ねる。


「…買ってやればいいんじゃないか?それくらいなら」

 そうため息をついてクロトが答え。シルスは笑顔で目線を合わせるように屈む。


「それはおいくらですか」


「えっと、500Wです」

「分かりました。はい」

 シルスは財布から銅の代価を差し出し。商品を受け取ると少女はとても嬉しそうにするも、途中で「あっ」と嬉しそうな顔は絶えすこし悲しそうになる。


「どうしました?」

「……う、ううん、なんでもないよ。買ってくれてありがとうお姉さん」

 そう言って少女は出てきた方へと走って帰っていった。

 シルスは不思議そうにそれを見送ると、クロトがすぐ側に来ておりこちらを見つめている。「えっ」と思ったがクロトは私ではなく紙袋を見ていたことに気がつく。お腹空いているのだろうかと思い紙袋の中にある四本ある串焼きの一本を取り出す。


「食べますか?クロ」

 そう差し出すとクロトは受け取り、とても小さな声で「誰も、これは食べるな」と言って歩いていく。

 余ほどおいしそうだから独り占めしたいのかと可愛いなと少し思ったのだが、そういう様子でもなく不思議に思いながらそれには手をつけずクロトについて行く。

 するとクロトがそれを一口咥えて目的地に向かうように急に曲がり、人気の全く感じられない狭い路地を進んでいった。

 その路地をシルスとメアは見て青ざめたがなんの不満無くついて行くイブと気にせずどんどんと進み行くクロトを見て、覚悟を決め付いて行った。


 その路地は端に溢れかえった大量の虫が壁を這い、飛び回るそれが溢れたゴミ箱があったり鼠やゴキブリと言った生物達が地面にある何かに群がり、屋根にはこちらに気が付き何かを咥えて今にもどこかへと逃げていきそうな猫がこちらをじっと見ていた。


 早く抜けたいとシルスとメアが急ぎ足で歩きクロトのすぐ側まで行くと、

「シルス、その紙袋貸せ」


「は、はい」

 急なことでそう戸惑いながら紙袋を差し出すとクロトは紙袋の中から串肉を取り出すなり全ての肉を串から外して袋の中に入れ、ネズミが群がるところ近ずくなり袋を逆さまにして全ての肉を落とす。中身の物はバラバラに散らばり、急落ちてくるそれに驚いたネズミたちはゴミや壁に空いている穴へと急いで避難を始めた。


「ちょっと何してんのよクロ!」

 急なことに戸惑う二人が我に返りメアが口を開く。

 そして追い打ちをかけるようにクロトが手に持っていたまだ残っている串肉のそれを同じように外して放り投り、口の中に残っていた肉を吐き捨て、紙袋の中に全ての串を入れた。


「クロ…せっかく買ったのにどうしてそんなことを」

「そうよ、あの子が一生懸命作ってくれたかもしれないものをそんな風にするなんて」


「落ちついて…よく見る…」

 イブが二人にそう言って、クロトはじっと捨てた方を見ていた。

 どういうことか分からないがそれを聞いて見る。

 そこには先程逃げたネズミたちが次々と出てきて、その散らばったものに群がり美味しそうに食べていた。


 一体それがなんだと言うのだろうかと見ていると、急に一匹のネズミがひっくり返り全身をピクピクと痙攣させ始めた。

 ――!?

 そしてそれに驚き距離をとっていたネズミたちが次々とひっくり返り、同じように肉を食べていたネズミ全てが痙攣を始めた。


「一体何が…」


「毒だよ。死なない程度の麻痺毒ってところだろか…。ネズミたちには悪いが証明してもらうために食べてもらった」


「なら、クロトは毒と分かっていて買ったのですか、なぜ?」


「そんなもん、あんな厳つい大人の男ばかりの所に急に子供が現れて食べ物を売り付けに来たんだ。何か仕込んでると考えるものだろう。そしてあの少女の長めのワンピースは痕を隠すためだ。痛みを気にするような走り方に服の端からはみ出て見えた内出血、恐らくこれが買われなかったらあの少女がその店の奴に暴行をうけていただろうな。あの少女が出てきたところからずっと一人の男がこちらを見ていたからな」


「なら、あの子を早く助けないと」

 そうメアの言葉にシルスも続くように来た方向を向く。


「やめろよ」

 クロトがそう言って制止させる。


「なんでですか」


「俺たちはこの国の調査に来たんだ。今問題を起こせば俺達が追われるし相手側が行動を隠し調査が出来なくなる可能性がある」


「ですが、今もほかの子供たちが」


「何もしなければ苦しいだろうが、昨日と余り変わりない日々を送れるだろう。だが、俺たちがなにかすればそうでなくなる。今その少数の子供を救い、ほかの多くのものが昨日とは違う散々な日を送るか、傷つけはされるがいつも通りの死ぬ可能性はない日々を送る。どっちが正しい選択だ?そして命の選択をお前たちがするなら別に構わないが…。何かをしようとするのは良いが、常に最悪の最悪を考えておけよ…」


「…すみません」

「…ごめん」

『命の選択』この一言を聞いて二人は思いとどまるしかできなかった。クロトの言う通り彼女ら二人の行いでこの国の調査が十分にできず、多くの命が関わる可能性があるとなるのだからそんな軽率なことは出来ないだろう。だけど、彼女らの気持ちは収まらないだろうかずっと強く手を握りしめているのが見える。


「じゃあ、行くか。もうすぐ目的の薬屋だ」

 そう言ってクロトが歩いていき皆が歩きついて行く。

 正しい選択か…。どんな選択にもそんなものなどないとわかっていながら彼女らに言うなんてな…。




 路地を抜けて数分、人気の無い暗い道を進んでいると目的の薬屋にたどり着く。

 薬屋はとても大きなもので、ほかの建物とは酷く違うものだった。その建物の全ての窓割られており大きな穴が開いていた。辺りを見ると建物のそばには多くの石が転がっているのを見るに、故意的に割られたものだろうか。割られた窓から真っ黒なカーテンがはみ出ており、それによって中が見えぬように隠されている。

 どう見ても廃墟にしか見えないが、目的の場所はいくら依頼書を見て確認しても間違いはない。人の気配は微かにあるが…。


 シルスが扉をノックするのだが返事はない。

 このありさまだ、居留守でもするつもりだろうか…。

 再びシルスがノックすると、建物の中から大きな物が落ちたような音が聞こえたあと、大きな足音を立てながら走ってくるのが聞こえ、勢い良く扉が開かれる。


「す、すみません。おくれっヴぇぇ」


 そう慌てて飛び出してきた一人の男は何も無いところで躓いてバランスを崩しそれは見事な流れで顔面から地面に叩きつけられた。

 あまりの事にびっくりして皆がそれを見てしまっている。


「…大丈夫か?」

「あ、ははははは。はい大丈夫です!今日はどういったご用件で」

 男は頭をあげると痛々しく口を切ったのか、鼻と口から血が垂れ出ていた。


「…あのどちら様でしょうか」

 こちらの様子を見て思っていた人物たちでないことに気がつき尋ねる。


「俺達は冒険者だ。あんたの依頼を受けて薬草を納品しに来たところなんだが」

 いつも通り依頼書を見せる。


「…あ、そうなんですね。私この国で薬屋を営んでます。薬師、トルン・エディッテと申します。準備しますのでどうぞ中へ。お茶をお出ししますから。へへへ」

 トルンの落ち着きのない話が気になりながらも案内されるままに中へと入っていく。


 中は外から見ていた通り…いやそれ以上に酷いものだった。廊下は電気は無いために壁に付けられた少ないロウソクの明かりが心もとないものであり、至る所にある大量の蜘蛛の巣がその灯りに反射して見える。先の路地同様に無数の鼠や虫達が蔓延っていた。

 そして歩く度に埃が宙を舞うのが良く見え皆が口元を抑えて進みゆく。


 このホコリの量いつ火事になってもおかしくないぞ…。大丈夫なのだろうか。


 そうして進んでいるとトルンが両扉を開き。先程の暗さとは思えない明るい部屋が現れた。中に入ると薬屋であるために色々な薬品の匂いがするのだが、そんなに気になる様な感じがしない。

 そして外から見た通り真っ黒なカーテンが窓を覆っているのだが、外から見たより分厚くないようで光がしっかりと差し込み部屋を明るく照らしている。部屋はかなり広いのか二階の高さまで吹き抜けた所で、綺麗に整列された天井まで伸びぎっしりと本が敷き詰められた本棚が並んでいる。多少埃はあるもののそれがいい味とも言えるように少し幻想的で汚いのだが綺麗と思わせる部屋だった。


 本棚の隙間を進んでいくと少し開けたかなり明るい空間にでる。

 作業机だろうか、机の上に大量に積まれた本と調合中かなにかの液体が入った試験管やフラスコといった道具が並びその奥には巨大なタンクが三つほどならんでいる。机の真横には結構高価そうなガラス棚がありそこには商品のような液体の入った瓶が綺麗に並んで入れられていた。


 トルンは相変わらずドタバタと慌ただしく謝りながら部屋を駆け回り埃の被った椅子を拭いて用意した。

「それで御依頼した薬草はどこに」

「どうぞ」

 シルスが亜空間に仕舞っていた薬草を取りだして渡す。

「あはは、どうも。では、品質等の確認しますのでお手数お掛けしますがゆっくりしていてください」


「ああ、分かった。そこら辺の本を読んだりしていてもいいのか」


「ええ、もちろん。あ、それならお茶を用意しますね」


「いや、それは構わな 」

 そう断ろうとしたのだが、トルンは聞こえてないように落ち着きなくお茶の用意をするためか隣の部屋へ走っていった。


「はぁ、全く…」


 そうため息を吐いて積み重ねられた本を適当に手に取り流し見して次々と本を見ていく。

 それを真似てかメアやシルスも本を手に取り読み始めた。イブは灯りを頼りに隅にいる虫や動物を観察していた。

 トルンが行った先から何かを落として割れる音が聞こえてくる。

 …本当に大丈夫か、あいつ。


 本の中身は思った通り薬物や医療についての事が書かれていた。薬草の手描き絵とその植物の特徴や使用例、調合先、生物の臓器の位置や、病についてと様々な物が書き並べられていた。

 五冊目を流し見終わり、六冊目を手に取り開く。


「何人だ」

「恐らく二十八人くらいは居るかと。玄関の前を囲って待機しています」

 クロトの問にシルスが答えた。

 メアがシルスの方をチラ見すると本を読む手の先から一本の糸が垂れていた。

 いつの間に。

 メアもそれを聞いて外に意識を傾けて、人数まで的確には分からないが、確かに多くの人の気配を感じとった。


 シルスはあの路地裏での麻痺毒、男たちの視線の事で、そこからこの屋敷まで警戒を強めゴブリンの巣窟でも使った魔力の糸を張り続けていた。

 そして彼女が思った通り約五十メートル以上離れたところから無数の男達が追ってきており、シルスの仕掛けた魔力の糸が絡まり無様にもシルスにそれを知らせていた。

 先の戦いからの成長か、その糸の使用できる距離がかなり広がり、出力が増した為に糸の設置が早くなって細やかな形で仕掛ける事ができるようになった。

 他にも多様な糸の性質の変化もできるようになった。


 さてどうしたものか…。

「すみませんドタバタしてしまって。ささ、どうぞどうぞ」

 トルンはお盆を持って戻ってきて、お茶の入ったコップを皆の前に置いていき自分の席へ座り眼鏡を外して、仕事用のものなのかレンズにさらに三つの円型のレンズが着いた眼鏡をかける。


「では、品質等の確認をしますので少々お待ちください」

 トルンはそう言って三つあるうちの二つのレンズを下ろし集中して、隅々まで薬草を見ていく。


 植物や鉱物などといった採取系の依頼はこのように納品時に確認が行われる。それは依頼したものに間違いがないのか、偽物でないかという確認もあるが一番重要なことは品質である。

 例えばだ。ある森で育つ林檎の納品の依頼があったとしよう。幾つかはいいものが取れていたがそれ以外の物が少し収穫時期が早かったり、少々熟れすぎたりしていたとする。正直いえばそんなもの受け取りたくない筈だ。中身を虫食いなんてされたら論外だろう。

 そのため納品時に確認が行われる。


 しばらくしてトルンが全てを確認し終え眼鏡を掛け直す。

「ええ、納品していただいたものに間違いなどなく、品質はとても素晴らしいものですね。こんなにも取ったばかりのような新鮮な物を持って来られたのは初めてです。チップを弾んでおきますね」


「ああ、それはありがたい」

 とても嬉しそうにトルンは依頼書の確認印を押し終え。依頼が無事完了した。依頼書の紙と報酬をシルスが受け取り、皆が本を置いてい立ち去る支度をしていると。


「あ、あの、お茶は飲まれていかれないのですか?」

 そうトルンが問う。

「もしかして、何かお気に召されませんでしたか?」

 せっかく出したお茶を誰一人として触れていないのだから、誰だって気になるだろう。


「そうだな、そんなに喉は渇いてないんだが、せっかくだから頂くとしよう」

 そう言ってクロトはお茶を飲もうとコップを手に取った瞬間、イブが一気にトルンに近づく。

 トルンはそれを見て驚き後退りするのだが、イブはそのまま体に手を置き押し倒そうとする。トルンはされるがままに後ろに倒れるのだが、床に叩きつけられることはなく倒れる寸前でシルスが張った糸により背中から支えられ、ふわふわと倒れる途中の姿勢で宙に浮いている。

 そしてイブは驚いて開いた口に向けてコップの口を無理やり押し込み中の液体を無理やり飲ませる。

 突然の事でトルンはむせて、抵抗するように暴れるのだが上手く力が入らず振り解けない。多少飲んだようだがそれ以上は飲まないようにするがイブが無理やり飲まそうと口と鼻を塞ぐ。トルンは呼吸ができないため息苦しく口に含まれた全ての液体を飲み干すしかなかった。

 口と鼻を解放されたトルンは必死に呼吸をして振りほどくためにイブに殴り掛かろうとするのだが、その拳はイブに届く前に力なく落ち、男は痙攣を始めて気絶したのか泡を吹いて白目むいている。


「やはり、お茶にも麻痺の毒か」


 やりすぎたのではないかと思い、一応体を調べる。

 少し呼吸と脈が遅い少し危ないか…いや、周りに人を待ち構えさせているのだから捕らえることを前提とした量のはずだ、心配いらないか。


「それにしてもよく合わせたなシルス」

「このくらいであれば当然です」


「それで、クロこれからどうするの?表は囲われて待ち構えられているわ。正面突破なんて流石にしないでしょ」

「ええ、それにこの様子だと私達の顔が割れていると考えた方がいいのではないかと」


「もちろん正面突破なんてしない。まぁあの大通りを普通に歩いていたからな。顔は覚えられても仕方ないか。シルス、認識阻害のローブの準備を、裏口から出るぞ」


「分かりました」


 トルンを放置してお茶などを用意していた部屋へと向かう。たいていの調理部屋であれば外に通じる扉が当然あるはず。そう思い見つけたが、使う気がないのか大きな棚でふさがれていた。

 出るにはこれをどかさなければならないが変に音が漏れる可能性がある。なら、出ると同時に倒してその音に釣られて奴らが表から入ってくるのに合わせて外に出るのがいいだろう。

「これから二手に分かれて行動する」


「二手に?」


「ああ、この薬屋は丁度中心地点にある。だからここから下、城門の方の半分をお前たち三人で、上半分を俺一人で探索する」


「一人で?そんなの危ないじゃない」


「心配しなくていい」


「でけど」

「ですが」


「要らない」

 めんどそうな顔で拒絶するように言う。

「「はい」」


「はぁ…。寧ろ俺は一人の方が動きやすい。むしろ危険なのはお前達だ。お前たちの方は既に顔が分かって探している奴らが多いいのだからな。ゴブリンの時同様、シルスに判断を任せる。すぐに危険だと思ったら逃げろ」


「分かりました」


「そしてイブお前が自分でどうにかした方がいいと思ったら即座にお前の判断で動け」


「分かった」


「イブこの棚をさっきの部屋の方に向けてどけろ」


「りょーかい…」


 その掛け声と同時にイブがその大きな棚を持って後方に向けて投げ大きな音を上げる。

 その瞬間奥の方から多数の足音が響いてくる。


「じゃあ行くか」


 メアが固く閉じられた扉を切り開きローブを纏った四人は二手に別れて行動を始める。



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