第29話 鬼?
敵が増えたことによりオーガは攻めあぐねていた。
メアとイブの連携により対局面上にずらして攻撃が行われる。
オーガが攻撃しようとすればシルスの銃により柔らかい部位を撃たれ、その連続する衝撃により怯みが生じ思うような攻撃ができない。
そしてその攻撃は先ほどより威力はないのだが、体内にめり込むなり弾が破裂したように体内で散らばる。
オーガからして見れば小さな傷なのだが、修復範囲が広くなり少しづつ回復が遅れつつあった。
「くそがあぁ」
オーガはイブたちの攻撃を無視し巨剣を振り上げ、力の限り地面に叩きつける。
大地は大いに揺れはじけ飛び、地面の破片と揺れの衝撃で天井から瓦礫が降り注ぎイブたちを襲う。
当然それは自身にも当たるがオーガの強靭な体で容易に耐え、それを巨剣で薙ぎ払うことで弾丸となり追い打ちをかける。
まだまだ体力のあるイブとシルスは容易に駆け避けるが、メアとヴァンにはそれを避ける余裕はなく、少しでも避けようと動きながら被弾しそうなものは盾で防ぐのだが、降り注ぐ瓦礫のせいで地形が変わっていき上手く動き回ることができない。
そして降り注ぐ巨石に進路を断たれた刹那二人に大きな悪寒が走る。
それを見かねたオーガは瓦礫を無視し、メアたちの元へ一直線に突進して渾身の一撃をくらわそうとする。
ヴァンは盾を構えるが迫りくる巨剣を見て防ぎきれないことを察する。
これは、やばい
それでもほかに道はなく口を強くかみしめ備える。
するとイブが力強く大地を蹴り飛び、その巨剣を蹴りそれを援護するようにシルスの弾丸が巨剣を持つ腕に命中する。
それでひるめば良かったがオーガはそうなる前提で動いていたようで、一切ひるむことなくその巨剣をイブとヴァンを巻き込み振りぬく。
その巨大な衝撃と激痛でヴァンは意識が途絶えそうになるも、そうすれば絶命してしまうと口を強くかみしめることで何とか意識を保ち盾で受けきる。
盾と巨剣がぶつかり轟音が鳴り響きイブとヴァンは壁に吹き飛ばされ叩きつけられる。
それを確認するオーガが満足そうにしていたが、即座に疑問が浮かんだ。
二匹だけ…もう一体はどこに…
メアはヴァンの盾の影に隠れ、地面に伏せることでその巨剣を躱し通り過ぎると同時に深く空気を吸い武器を構えオーガへと向って走り、最後の一撃とばかりにオーガ中心、胸を切り裂く。
魔物は魔素などから生まれるため、人間より高濃度の魔力と魔素を体内に宿している。
そして成長の果てに突然変異を起こす者が時おり生まれる。本来魔物にはこのオーガのような瞬間的回復能力は存在しない。その様な魔物には核があるとされる。それは臓器が魔鉱石のような核と変化を起こすのだ。その核が体内の魔素をより良く循環させ作用を起こすことで肉体が強靭となり、又、修復が行われるのだ。
核はそれ程に良いものであり、どれだけ臓器や肉体が傷つこうと平気であるが、その反面核を砕かれればどんな魔物であれど絶命してしまう。
そしてその核があるのは強靭で分厚い肉体と多くの骨で守られる心臓とほぼ同位置にあることが多いい。
これまでにない渾身の一撃で胸を切り裂き巨大な切傷を付けたが、当然メアでは核まで刃を到達させることはできない。
オーガは即座に巨剣を持たぬ拳を振りメアを襲う。
メアはその一撃ゆえに隙が大きく受け身を取れず弾き飛ばされる。本来であれば即死に近いオーガの攻撃なのだが。すでにオーガの体力の疲労そして核が傷つけられそうになったという焦りにより仕留めるには至らない、引き剝がすためだけの攻撃だった。
即座に胸へ意識を集中させ修復を行う。肉からまるで肉の糸が生えているかのように縫い合わせられ徐々に治っていく。
はぁ…はぁ、危なかっ――
そう安堵しようとすると、壁に叩きつけられたメアを見て余裕がすぐになくなる。
メアは痛みに耐えるような顔でも、悔しそうな顔でもない、ただ笑みを浮かべて口を動かしていた
最後は頼んだわよ。
あいつ何を笑っ――
そう考えるときに背後から今までにない一つの轟音が鳴り響き体に衝撃が走る。
オーガが背後を見るとシルスが一つの拳銃を構えて立ちひるんでいた。
その拳銃は、他の拳銃より少し大きく赤黒いカラーリングがされている。
【レッドライン・レプリカ】ピオニス達が知る怪物と称する一つの拳銃をモデルに作ったレプリカである。それは端的に言えば【デザートイーグル】に類する強力な拳銃の一つである。その威力はレプリカでありながらARを容易に超えSRに匹敵する威力を持っており、その為、人一人、それも女性一人ではとうてい扱えることなどできない代物である。
ピオニス曰く、本物は熊のような大男でさえ腕が吹き飛びそうな威力を持つと言う。
今回シルスは持っていた糸に魔力を込め周囲大地や壁、そして天井に固定することでその反動を分散させ射出したのだ。
それでも反動が大きく怯みはしたが、その弾丸をオーガの核目掛けて射出することができた。
核を持つ生物は魔素の変動により、その血肉を部位ごとに強靭にさせることができる。
それ故にその魔物達が攻撃を受ける分かる部位に意識が向くと、自然的に防御することができている。
だが、今回は違う。オーガはシルスの攻撃に対し最初こそ魔素を働かし防御したが全くダメージがないと判断し、その攻撃に対し魔素をよういた防御を怠っていた。それは他ならぬシルスが分かっていた。シルスはただサポートの為に射撃していたわけではない。攻撃をしつつオーガの回復や部位の柔らかさを観察していたのだ。
弾が効かない部位、効く部位。着弾してから出てくるまでの時間差。それにより分かる部位の防御力。
そして到達した核を狙える部位。それは横腹の二点。
胸への回復を集中するあまりにほかの部位の防御はなく、シルスの攻撃に対する完全なる油断により、シルスのその一撃は思惑通りに核目掛けて貫通して行ったのだ。
これで、オーガは核が砕け終わり。
だが、そうはならないようにオーガが笑みを浮かべる。
「く、くく…残念だったようだな。完全に油断していたためにその一撃をくらい核へとは到達したが、どうやら砕くまでとは行かなかったな」
胸を修復に集中し、ほかの部位には魔素の守は行き届いてはいなかった。いないが胸を修復しているが核の周りは違う。そこは意識せずとも常に魔素の働きがかかっている場所であり威力が高い弾丸が到達しはしたものの、多くの肉の抵抗と魔素の防御の抵抗が加わりその弾丸は核を砕く威力を失ってしまったのだ。
「ええ、これで私の攻撃は終わりです」
シルスは打つ手なしと銃を下しオーガをみる。
オーガは胸の修復を遅くしながらも全身への魔素の防御を行い一切の油断をせず立ち上がる。
「我をここまで追い詰め核を砕こうと一歩足りなかった、その実力を誉め、貴様らの肉体はしっかりと利用してやろう」
終いを告げるその言葉を吐き、武器をもち歩み寄ろうとする。
「そうですか…、そうなれば良かったですね」
こいつまだあきらめていない、一体なにを。だが、こいつが今から何かをしようとする気配を感じない。周囲の三匹もそうだ、起き上がろうとはしているが、我を攻撃できるほどの力は見えない。なら、なんだ。
「≪火の聖霊さん、集どい目覚め―」
そして周囲へと意識を向けた時、その声が微かに聞こえた。後ろからかとそちらを見ると小さな小娘が上で祈りを捧げ詠唱していた。
「《―悪鬼から守り滅するために蒼炎をともして》《火炎》」
《火炎》かそんなもの通じるわけないだろう。と呆れるように見たが、すぐに異変に気付く。
奴の魔法は何処で起こっているんだ。確かに発現している魔力の動きは感じる。だが、見えない。どこだ、こんなにも近くから感じるというのに…
そう考え気づいた時には遅かった。
サナが使った魔法はオーガの体内で起こっていた。
「があぁあぁぁぁあぁ」
そう痛みからか膝を付き天井を向いて叫びを上げる。そしてその口から火があふれていた。
なんだこれは!あり得ぬ!体内から魔法を発現させるだと!?そんなものあり得るわけがない!!
何処から魔法が起こっているんだ。
オーガが思っている通りほかの生物の体内から魔法を起こすことはできない。それは体内にある魔素が外からの魔力の抵抗を起こし魔法の発現を防ぐ為だ。
だが、それは今、起こっている。
それは何故か。
魔法はシルスが放ったその弾丸から発現している。
どうやって起こっているのか、それはメアたちが時間を稼いでいる間にその弾丸を作っていた。
二つのアタッシュケースの中身はいま彼女が持つ銃と、その弾丸を作る小分けされた材料が入っていた。
その一つの弾丸にサナの魔力を多く宿し術式を施し、作り上げたのだ。
それにより対外からの魔力の供給は必要なく、詠唱を唱え遠くからオーガの体内から魔法の展開することができた。
単純な仕組みと思えるがそれは多くの魔力を込めたことにより発現できたに過ぎない。一般的魔術使いであれば発現させることなどできないだろう。
そして、なぜこんなにもオーガに対し《火炎》がダメージを与えているのは言うまでもない。
防御力の高い外皮があったからこそダメージはなかったが体の内にそんな防御力などあるわけもなく、体内にある水分が蒸発しているのだ。それはどうしようもない苦痛であるだろう。
そして一度発現してしまえオーガの口などの穴からサナの魔力の供給が可能になり、より多くの魔力が加わりその炎は更に火力を上げ体内を燃え上がらせる。
当然、オーガは叫ぶ声を上げながらもそれに耐えるように魔素で核を守ろうとしながら体の修復を行うのだが、それは全く意味をなさない。
魔法はその弾丸から発現しておりそれを取り除けばそれで終わり。だが、それはできないのだ。オーガは体内に受けた弾丸を修復と同時に取り出していた。それは修復した血肉が弾を外に押し出すように治っていたからだ。
つまりオーガの意思でその弾丸を押し出すことなどできない。
ならなぜ、あの時取り出さなかったのか、それはその弾丸のところに更なる追い打ちを警戒し弾丸を体内に残してでも穴を修復しつつ魔素による守りを固めたため。
だから、今オーガがその弾丸を取り出すならば核をさらけ出す前提で自身で血肉を弾ごとえぐり取らなくてはならないのだ。
だが、オーガにその素振はない。何故なら今なおオーガはその魔法の発現している仕組みに気が付いていないからだ。
今考えているのは核を守りつつの修復、そして周囲の警戒。ただそれだけ。
今のオーガに攻撃をする余裕などもうないのだ。
シルスは追い打ちをかける素振はなくメアたちの元へ行く。
当然だ。もう終わったのだから。
核は常に魔素を使い修復を行っていた。だが、当然その魔素は無限ではない。徐々に修復の速度は遅くそして無くなり、守りの薄くなった核は《火炎》の熱に耐えきれず割れ朽ちる。
あり得ぬ――我が――人間ごときに?――我は――死――……
オーガは絶命し意志と抵抗力を失った肉体は、サナが魔法を止めた後も魔力の供給を必要とせずただ自然に燃え続け、その肉体は燃え朽ちて行った。
戦いを終えサナによる応急処置が行われる。
それは動ける程度の回復だ。先の《火炎》を高魔力による二度の行使でサナの魔力の八割が消費されているためそれ以上の回復はできない。
みな数十分と休み、立ち上がる。
魔物の巣窟故、長居はよくないだろう。
だが、その前に確認した方がいいと思う場所があった。
それはオーガが来たであろうその大きな穴の先だ。
事前にサナの魔力感知を行い他に敵がいないかの確認をしてその中を覗く。
中は先の場所と同じ様に地面や壁から明かりがあふれているために明るい空間だった。
その中に入るなり感じたのは先の空間とは比べ物にならない腐食した異臭が漂っていた。
周囲の、壁に山となっているその残骸をサナに見せないようにヴァンと二人を置いて三人は進む。
隅々まで確認をし生き残りがいないか確認するが当然いないようだ。
そうほかに遺品等の何か無いかと歩いているとたまたまメアはそれを見つけた。
何この死体は…頭と四肢が無いけど、ほかの死体と違って肉がしっかりと残ってる。今日ゴブリンたちに殺されたのだろうか。凄く青くも薄い朱色の肌で少し人間みたいな体に見えるけど違うと分かる。これは一体…。まあ、いいか。
三人は中央に集まる。
「どう、何か見つかった?」
「いいえ、こちらは何とも」
「何も…ない」
「そっか、じゃあ。もう帰ろうか。正直こんなところ早く出たいし」
「そうですね」
静かに頷くイブをみて三人は二人と合流し、外へ向かい歩く。
洞窟の入り口を出るとクロトが入り口のすぐそばにある、こし掛けれるような場所に座ってムーのお腹を撫でて待っており。ムーは皆が来るのに気が付き急いで起き上がりサナへ向かって走り飛びこむ。
小さな悲鳴のあと笑みの声を浮かべながら洞窟から出てくる。
「おつかれ」
そうクロトの声掛けに皆が大きく息を吹き出しただいまと答え、安心したのかどっと疲れたように座り込む。
「ボロボロだな」
「聞いてよクロ。核もちの魔物、それもオーガがいたんだからね」
「そうか、それは大変だったな」
「大変だったなって、軽すぎない」
「イブもいるしお前たちなら問題ないだろ」
「それは、そうだけど」
と嬉しそうにメアが答えそれを聞いていた皆も嬉しそうにしていた。
「そういえば、クロはここでずっと待ってたの?」
「いや、少しムーと周辺の探索をな」
「へ~そういえばクロの横にあるの一体な――」
そう起き上がりシルスも気が付いていたようでクロトの横にあるそれを見て声を止め、すぐに起き上がり二人は警戒するように武器を手に持ち身構える。
「どうしたの二人とも」
「どうしたんだ、そんなに警戒して」
それを見てびっくりしながら困惑するサナとヴァンが二人に尋ねる。
「一体どういうことですかクロ」
「そうよ、クロ説明して」
鬼気迫るようにメアが吠える。
一体何なんだとヴァンとサナも立上り二人が見たそれを見てさらに困惑する。
クロトの横にあるその影。人型のシルエット。鬱血したような緑がかった薄青の肌の色。人の顔をして人型であるが人の気配を感じさせない、寧ろその気配は、そうゴブリンにそっくりな何かがクロトの横になっており、それは確かに生きている。
「落ち着けよみんな。取敢えずここで時間潰すのは良くない、村に向かいながら説明するよ。イブ頼む」
「…うん」
答えを出さずクロトは立ち上がりレプニアがいる方向へ歩いていく。
イブもイブでなんの動揺もせずにクロトの指示に従うようにゴブリンの気配を放つ子供を抱えついていく。
一体どういうことなんだ。そう叫びそうになる事を抑え、府には落ちないが確かにここで揉めては村に着く前に夜を迎えてしまい移動が危険となる。
皆はそれでも警戒するように武器を持ちつつ、クロト達の後ろを追いかけるように歩く。
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