第28話 大鬼

 オーガは上に立つ二人を見た後に周囲を見て状況の確認をする。

「なんだ、この有様は…どういう事だ」


 喋った!?魔物が、それも通じる言葉で。


「まぁ、いい。貴様らここに我らがいると知っていての狼藉と見ていいのだな」

 金色によるその眼光の殺意の覇気は全身に電撃が流れたように震えさせ竦みそうになってしまう。

 二人は呼吸が難しくなるがそれを悟られぬように落ち着かせ今すべきことを即座に思考し、一度目を合わせ行動を行う。


「…へぇ、それは知らなかったわ。ゴブリンがいた事は知っていたけど、ここがオーガの住処だったなんてね」

 メアがすぐに動けるように構えを整えつつ話す。


「そうか…どうやらまだ切ってはいないようだな。だが、せっかく数を増やしこれからだったというのにな。それにあれもまだまだというのに」

 オーガはよく分からないことを呟く。


「何を言っているのか分からないけど、あんたのような凶暴な奴、見てしまっては放っておけないわ。周りのゴブリン同様ここで私たちが倒してやるわ」

 そうメアが煽るように言葉を吐く。

 するとオーガは地面に突き刺していた武器を手に取り目を見開きメアを見る。

 メアにそいつが倒せるという絶対的な自信があるわけではない、かと言って自暴自棄というわけでもない。いま彼女がしなくてはならないこと。それは動けないヴァン達へではなく自身に注意を向けさせるためである。


「小娘が、この我を見て煽るとは面白いが、煽ったからにはただでは殺さぬぞ。ゴブリンどもを増やす孕み袋とし、甚振り、自決も許さず、完全に精神が死して、何の役にも立たなくなる時、ゴブリンの餌としよう」


 煽りは効いておらずむしろ笑みを浮かべるオーガを見てメアが舌打ちをする。だが、時間稼ぎは十分だ。

「やれるもんならやってみなさい!」


 メアが開戦を示すような叫びと同時に、オーガが力任せに地面に刺さった武器を振り上げる。

 先の巨石ほどではないがそれでもいくつもの人間の頭程度の大きい岩粒の弾幕がメアへ目掛けて飛んでいく。

 メアはそれを避けるべくそこからスロープへと飛び降りその道をたどるように走り下へと降りていく。

 スロープを辿って降りるとなると走る軌道と行動は容易に予測が付く。

 オーガは身にまとう巨大に長い鎖を下し、片手に持ち大きく振り回す。

 鎖は壁を容易に削りながらメアの前から迫りくる。

 ここから横に飛び降りようにもこの速度その前に鎖が直撃する。

 一度後ろに後退する、今の勢いのままでは当然無理。

 剣ではじいて防ぐ、ヴァンでも防げないオーガの一撃。私にそれを受け流すように捌くことはできない。

 となると、一択それを飛び越える。

 メアは直ぐに力強く飛び鎖のすれすれを超える。

 オーガは鎖を手放し鎖は勢いのままにそのまま進みスロープを砕きながら地面に落ちていく。

 そして手に持っていた巨剣を振りかぶる。

 それは当然空中に浮ぶメアめがけて投げるためだろうか。

 その瞬間、聞きなれない連続の爆音が鳴り響きオーガの体を震わせる。


 なんだこの音と衝撃は


 オーガが音の聞こえた方に視線を動かせそれを見る。

 そこに立つのは先の白い髪の女。先程まで片手サイズの見慣れない黒い何かとナイフを持っていたはずなのに、今奴が持っているのは木、いや、分からないが初めて見る何かをこちらに向けて両手で持っており落ち行く黒い箱のような何かが消え、何もないところから消えたものと同じものが現れる手に取る。


 何だあれは


 シルスの持つクロトから渡された空間収納の魔法が施された指輪は、食料や生活用道具などを入れる物入れであると同時に彼女の武器庫でもある。

 その武器庫の中にある武器は数十以上と多くある。

 そして今彼女が持つそれはARのAK-47。長年冒険者を続けたバイロンでさえ見たことないのだ。

 魔物であるオーガが知っているわけがない。

 当然それに注意が向き。装填し終えたAK-47は再び銃声を吠え鳴らす。

 何が何だか分からないが攻撃であることには間違いないと判断し防御するために剛腕を立てる。

 フルオートで鳴り響き放たれるその弾丸は巨大な体を持つオーガを相手に全弾当てることなど容易であり吸い込まれるように全身に着弾する。

 そしてその弾幕が続く間に距離を詰めたメアが渾身の振りで右足首を斬り、体勢を崩させオーガの体を流れるように二度斬り行く。それに抗うように雄叫びを上げて振り回す巨剣を避け、弾幕が終わると同時に距離を保つために走り抜ける。


 シルスは間髪なく銃の装填を行いメアは呼吸を再び整え互いに仕掛ける準備をする。

 それは互に一人ずつが攻撃をしてもあまり効果がない事を今の事で理解したからだ。


「未知であるが故、警戒したが…どうやらもう警戒は必要ないようだ」


 オーガの様子を見ると先程切った深い足首の傷はほぼ治りかけており、それ以外の傷は見えない。そして打ち込まれた弾丸はまるで生きているかのようにオーガの肉体から這い出てきて地面に落ちていき、何事もなかったように傷がふさがっていく。

 つまり今の二人の攻撃はオーガに対して無力である事となる。


「と、あいつは言ってるけど。どう?シルス」

「そうですね…今の私たち二人では、無理の様ですね」


 そのシルスの諦めの言葉にメアに怒りなどなく、寧ろ仕方ないという風に肩を竦め構えていた武器を降ろす。


「ほう、どうやら諦めたようだな。少しつまらないがいい心がけだ」


 オーガは武器を振り降ろし、のそのそと地を鳴らしてゆっくりと歩み寄る。


「だが、当然逃がすつもりなど一切ないぞ。今ここで足を手を切り落としてくれよう」


 そして巨剣の射程に入り振り上げる。


「逃げないわよ。そして、あきらめたわけじゃないわ」


「なにを――」


 そのメアの言葉に疑問を持ち、思考する。

 闘気はまとっているが魔力の動きも見えない。上の女もそうだ…。

 未知なる物体との遭遇により、まだ他にも何かあるという懸念。それによりオーガが深く二人を警戒させた。

 その二人への注力が大きいが故に、その気配が近づいてくるのを感じ取らせなかった。


「すみませんが頼みますよ」

「頼むわね」


「「イブ」」


「うん…」


 オーガがその気配を感じた時には顔の真横に小さな子供がおり、華奢な足が顔面をめり込ませオーガの牙を折った。

 二人に意識が向いており、その感じさせない気配と華奢な体に対しては防御をしようとはしていなかった。がそれは大きな誤算でありイブはインパクトと同時に自身の持つ力を瞬時に解放された一撃はとても大きく、オーガの巨体を軽く浮きあがらせ後退りさせた。


「なんだ、その餓鬼は…何処にそんな力が―」


 口を拭うと同時に前を見ると、既にイブが迫って来ていた。


「なめるなよ、この餓鬼が!その小さな頭かち割ってやる」

 迎撃するように巨剣を振り始める、その瞬間銃声が鳴り響きオーガの右腕に弾丸が撃ち込まれる。

 ダメージは全く期待できないがそれでも動きの出遅れを起こすことはでき、イブは軽々とその巨剣を躱しオーガの体に攻撃を叩き込む。

 だが、先とは違いその攻撃はダメージにまでは至らず空いているもう片方の腕でイブを薙ぎ払い壁際まで吹き飛ばされる。


「小癪な人間が、そんなものが二度も通じると思うな!」


「それでもこれは効くでしょ」

 とイブに注意が向いている隙をついてメアが渾身の一振りで再び足首を切る。先の傷が少し残っているのもあり更に深く切ることができていた。


「クソがぁ」

 そう怒りのままに振り回すオーガの攻撃を避け距離を保つためにイブが反対側から攻撃をしに行き、それを遠くからシルスが援護射撃をする。


 そんな攻防をしていると回復したヴァンがシルスの横に立つ。


「今、どんな状況なんだ」


「…強いて言えば、とても厳しいとだけ」


「そうか…」


 とても順調なヒット&アウェイと思えるがそれは大きな間違いだ。

 現状こちらが有する最も強い攻撃を持つのはイブとサナ、メアである。だがイブの攻撃は身構えられては大きなダメージを与えられず、サナに関しては、その魔法を使うのに大きな隙がある上に《火炎》の中で火傷を見せず行動をしていたのを見るにオーガのあの外皮がある限り意味がないだろう。

 メアに関しては外皮を超える攻撃を持っているが、それは力を込めた渾身の一撃のみ。それはかなりの集中力と体力の消費をする。

 そんなこちらの攻撃力に対しオーガの持つ攻撃は全てが一撃必殺と言える攻撃。

 イブであるからオーガの肉体の攻撃に耐えられているが、メアやシルスであればそれに耐えることなどできないだろう。

 オーガは高い魔力量を持っていて、更に高い再生能力を持っているようで浅い傷は直ぐに治し、深い傷も跡は残るものの全く動きに影響を与えない程度までに回復をしている。

 それに対してそんな回復力を持たないイブはメアにオーガの攻撃が当たらないよう攻撃をずらさせたりとして、身代わりをしているかの様にかなりボロボロになっている。


「だが、続けているってことは何か手はあるんだろう」


「ええ、先ほどまでは何もありませんでしたが、今思いつきました」


「そうか、なら俺は一体なにをすればいいんだ」


「二人と一緒に死なないように時間稼ぎをお願いします」


「死なないようにって…ああ、分かったよ。頼んだぞリーダー」


 そう言い残してヴァンは下に飛び降りその戦いに参加する。


「では、サナ手伝ってください」


「私?」


 シルスは空間魔法を使い武器庫からアタッシュケースを二つだした。




「――ああ、結構な貧乏くじだ」

 ヴァンが加わったことで少しばかり戦いが変わった。

 それは、ヴァンがメアの守りに徹する事でイブが思うがままに攻撃を避け、攻撃に徹するようになれたからだ。

 イブが攻撃しメアが視界外に周りこみ攻撃し、メアに対する攻撃をヴァンが身を挺し盾で受け流すように防御する。

 そのためイブの動きがさらに早くなりオーガは、その動きに遅れオーガにとってあまりダメージとならない攻撃と攻撃は当たれど仕留めきれない事に対する苛立ちが募り動きは荒くなるもその威力は大きくなっていく。

 そんな攻防が数分続いたが、もう終わりに迫っていた。

 メアがオーガの腕の腱を斬り迫りくる攻撃をヴァンが防御し距離を保つ。


「まだやれる?」


 そうメアがヴァンに声をかける。

 それはヴァンの両腕が腫れ上がっていたのが見えていたからだ。

 攻撃を盾で受け流すと言っても完全にダメージを受けずに受け流すことなどできはしない。多少なりとも衝撃が体を襲う。

 当然オーガの一撃はヴァンにとっても脅威であり生身では決して耐えることなどできないと盾で受けるたびに全身の細胞が叫び彼に教えるように反応している。


「やらないとダメでしょう。今現状確実なダメージを与えられるのはメアのそれだけなのだから」


「そう、なら頼りにしているわよ」


「ああ、任せなさいな」


 そしてイブが攻撃しメアが斬りかかろうとした瞬間オーガのイブへと向けていた巨剣の矛先を無理やり振り回しメアへと向ける。

 それを咄嗟に割り込むようにヴァンが盾で防ぐがオーガがそれを力いっぱいに振りぬくことで二人まとめて壁に叩き飛ばされる。


「が……」

「かは…けほ…げほ…」

 ヴァンは立ち上がるがメアはその衝撃に立ち難していた。

 メアはずっと攻撃をし必死に避けようと動き回っているために体力の疲弊が大きく、すでに体力の限界など越している。

 動き回っていたからこそ無理矢理に動けていた体なのだが、今のダメージと止まってしまったがために体がドッと何かがのしかかるように重くなる。


「ええい、ちょこまかと駆け回りおって、だがこれで終いだ」


 オーガが動けないでいるメアの元へと迫り行こうとする。


「させ…ない」

 そうイブが迫ろうとしたが何か聞いたことのある音が聞こえ足を止め後ろに飛びヴァンは即座に盾を構えメアを守ろうとする。


 その音はオーガには聞こえておらずまた一歩と前へと進んでいると、目の前に二つの黒い豆粒が見えた。

 何だこれは…。

 そう考えた瞬間、一瞬にして爆発音をならし周囲一帯に衝撃を起こした。



「ぐおぉおぉぉ」

 叫び声を上げ顔面を両手で抑えふらふらと後ずさりする。

 オーガの目の前に落ちていたのは手榴弾であり爆発した衝撃で飛んだ手榴弾の破片が顔全体を襲い、見開いていた眼球に刺さりオーガの視界を奪った。

 ヴァンたちの前にシルスが駆け寄る。


「全く遅いわよ。打つ手なしかと思ったわ」


「すみません、お待たせしました」


「それで、作戦は」


「先ほどと同じ様に隙を見て私の攻撃を入れるとしか」


「はあ…つまり、私達にまだ働けと」


「はい、お願いします」


 ヴァンとメアは手持ちの回復ポーションを飲み干し立ち上がる。


「全く人使いが荒いリーダーだことだ」

「まったくその通りだわ」


 そうつぶやきながらシルスを間に立ち武器を構える。


 目の修復を最優先にしたからか、オーガの目が修復したようで抑えていた手を振り回す。

 怒りからか血管が浮き出ており青い肌が少し紫色に変わっているように見える。


「くそが、くそが!殺してやる!絶対に殺してやる!」

 怒りのままに巨剣を振り回し大きく吠える。


「では、皆さんお願いします」


 その掛け声に皆が頷きオーガへと向かって駆けた。


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