第26話 小鬼の巣窟

 農夫を連れて城門でレプニアを回収し道中で回収できる、並行で受けている依頼の薬草集めをしながらユーラクストへと向かって進む。

 薬草に関しては農夫が生えている所に詳しく捜索にあまり時間かけることなく採取することができた。どの薬草も何か甘い香りが漂っており、農夫からはあまりそれを嗅がないようにと注意された。何でもどれにも幻覚作用を含むものがあるからと。

 だけど、サナは結構花が好きだからと注意を受ける前に結構香りを嗅いでいたが、症状を訴えたりと変化はない。幻覚作用は個人差があるのだろうか。ムーもその薬草を口に加えて集めていたし。


 何も問題なく薬草の回収を終え、今回の一番重要な依頼であるゴブリンの根城近くまで案内される。

 農夫は用事があるからと帰っていった。安全上からもいない方がこちらも助かる。

 根城から二百メートル離れた場所で準備をする。レプニアは連れていけないため、ここに置いておくがもしも俺たちがいない間に襲われないとは限らないため、荷馬車や縄など全て外して置いておく。しっかりしつけがされているからか縄を外してもどこかへ行こうとはせず大人しくそこらの草を食べている。

 サナが頭を撫でて「襲われそうになったら逃げるんだよ」と声をかけると、理解してるのか返事を返すように鳴く。

 皆の準備を終えゴブリンの根城の方へと向かう。


「ほら、お前たちに二つずつ」


「これは?」


「糸目の職員からの冒険者登録祝いだそうだ」


 手渡されたのは青と緑の液体の入った二つのポーション。


「回復ポーションと解毒ポーションだそうだ、効き目は知らないが、冒険者が必需品とばかりに持つものだから効き目はあるんじゃないか」


「ありがと…あれ、クロのは?」


「俺は必要ない。ゴブリン退治をするのはお前たちの仕事なのだから」


「それって一緒に来ないってこと」


「いや、途中までは一緒に行くよ。そこから先はお前たちがすることだ」


「なんだか、それずるくない」


「メア、クロトには魔力がないのですよ。仕方ありません」


「それは分かってるけど」


 頬を膨らませてそっぽを向き二人は体を近づけて何か話している。

(クロトに成長の成果と言い所見せたかったのに)

(それは私もですよ)


 仲良くなったようで何よりだなとその後ろ姿を見ながら歩いて行く。

「そして作戦というわけではないが皆どういう布陣で行くか覚えているな」


「はい」

「勿論」

「ああ」

「…うん」

「ん」


「一応もう一度伝えとくが前衛はメアとヴァン、中央にイブとサナ、そして後衛にシルス。そして前にも話したことだが、基本的に指揮するのはシルスだ、問題ないな」


「はい」


「それと今回の実践は基本的にイブは手を出すな」


 ――!?


「それはどういうことですか」

「何で?」

「聞いて…ない」


「ヴァンとイブ以外は生物の殺生はこれが初めてだ。お前らがこれからも誰かの為に、今回のような依頼を受けるというのであらば、今回でできるだけ慣れておく必要がある。そして一番重要なのはいつだって強いイブがお前達のそばにいれるわけではない。だから、今回は基本的にお前達の力のみでこなせ。緊張感をしっかり学べ。そして本当に危ないと思った時イブ、お前がこいつらを助けてやれ」


「うー…わかった」


 少し不満そうだが、皆の為だと理解をして頷く。

 ほかのみんなもちゃんと意図が伝わったようで気が引き締まったようだ。

 会話をしているうちにゴブリンの根城近くまで来ており大きな山と洞窟の入り口が見えてきた。

 皆は身を隠すようにして周囲を観察する。これは見張りなどがいないかどうかの確認だ。

 魔物や魔獣退治を訓練で経験しているヴァンの知恵を皆で共有しており、しっかりと慎重に動けている。

 そして見張りがいないことが伺えクロトと分かれて皆は入り口の前へと行く。

 入り口の中はというと大人二人が両手を横に広げても楽々に通れるほどに横にも縦にもかなり広い空間が作られている。

 奥はとても暗く一切の光を感じない。

 事前に用意していた二本の松明に火を付け中へと入っていく。


 中へと入るなり異臭の匂いが酷く。皆咳をしそうになるが服で音を抑え落ち着かせる。

 匂いからして生ゴミと排泄物が混ざったような何かが腐ったようなものだろうか。

 イブは慣れているのか平気そうだ。

 メアとヴァンがゆっくりと足を進め、それについていくように歩みを進める。


 暫く歩みを続けたが一向にゴブリンと遭遇することはなく、むしろ生物の気配が感じられないでいた。

 だが誰一人一切の気を緩めることなく、ただただ深い洞窟を進み続けていた。

 そして微かに何かが聞えた気がしてメアが松明を少し上に上げて先を照らそうとすると一瞬先の闇の中で何かが光った。


「ヴァン!」

「ああ」


 咄嗟のメアの声の意図に反応しヴァンが前にでて全身を覆い隠せるほど大きな大盾を前に構え皆がその後ろに身を隠す。

 そしてその大盾なんかが当たり鉄の音を鳴らしそれは地面に落ちる。

 それは鉄や石などで出来た矢じりのついた使い古されたようなボロボロの矢である。

 それを確認するのも束の間に奇妙な鳴き声を叫びながらこちらに走ってくるのがきこえてくる。

 声の主達は目の前にある鉄の壁を乗り越えようとする者と避けてその奥へと行こうとする二体、計三体が松明の明かりでようやく姿が露になる。それは過去に冒険者が身に着けていたであろう武器を仕舞うベルトなどを身に着けたゴブリンたちが。

 だが鉄の壁を乗り越えようとする者は突然動き出す鉄の壁に引っ掛かり思うように身動きが取れず、そのまま壁へと叩きつけられ頭を潰される。そして抜けようとした二体はそれにわき目も降らずにナイフのような何かを片手にメアへと飛びかかる。

 だがメアはとっくに得物を振り構えており距離をしっかりと見図り得物を振りぬく。

 すると二体の持つ得物ごと綺麗に体が真っ二つ割れ、両手剣に引っ張られるように横の壁に叩きつけられる。

 そして奥の方から何やら声が聞こえたが、三度の何かの空気音が鳴るなり、奥の方から倒れる音が聞こえた。


「相変わらず貴方のそれって結構ずるいわよね」

 メアが少し呆れ顔にシルスを見て言う。

 二人が剣や盾で戦う中、シルスが手に持っていたのは黒い消音器のついた拳銃である。


「そうでしょか」


 そう言いながらシルスは後ろを向かずに後ろに銃口を向け二発撃つと、再び何かが声を一瞬上げて倒れる音が聞こえた。

 倒れたゴブリンたちがしっかりと死んでいるのを確認して追い打ちをかけるようにトドメを刺して再び進むと音の数通り三体のゴブリンが倒れていた。三体ともしっかりと目検の間を撃ち抜かれており、それでもまだ少し動いていたのでヴァンが腰につけていた短剣で三体の首を降ろす。


「そうでしょうかって、弓なんて一発一発を引いて撃つのにそれはトリガー?を引くだけで何発も連続で撃てるのよ。ずるいでしょ」


「では、あなたも使えばいいではないですか。まだまだいっぱいありますし」


「あんた、それは嫌味と捉えていいのかしら」


「…?」


 シルスはよくわからないように首を傾げる。

 銃は当然この世界ではあまり知れ渡っていない。

 なら何故そんなものをシルスが持っているかというとクロトの知恵による製造

 ではなく、イヴァリスの衛兵でありシルスに護身術を教えていたピオニス達が錬金術などで作ったものをシルスに幾つか渡して亜空間の中に収納し渡したのだ。

 シルスはそれをウルクルズロットで試し打ちするも最初はあまりうまく扱えていなかったが二発撃つごとにその制度は上達していき、止まっている的なら百発百中で、動いている的であれば八割の命中率を身につけた。

 訓練の際メア達も軽く触ったのだが、どれだけ撃っても成長が見えず、結局剣の方が単純だからと見切りをつけたのである。


「まあいいわ、それにしても貴方のその性格な射撃どうなっているのよ、後ろ見ずに当てちゃうし」


「位置とターゲットの背丈さえ分かれば簡単ですよ」


「ほんと口にするのは簡単に言うけど、貴方の器用さが異常なんだからね」


「シルスとメア、とりあえずその辺で…まだいるのかもしれないのだからな。クロが言っていた通りやはり小鬼どもの数体は侵入者であるこちらに気が付いているようだ。どうするんだ、シルス」


「そうですね。取敢えずこのまま警戒を怠らず奥まで進みましょう。後ろの警戒は私に任せてメアとヴァンは前方と横の警戒を、後ろから来たということは事前に聞いていた通り抜け穴があるということが考えられますので」


「ええ、まかせなさい」


「わかった」


「では、いきましょう」


 シルスが手袋のずれを直していると指先から数本の糸のようなものが垂れ松明の光の影響で軽く光る。


 魔法属性の適正。

 それは個々に差があるものである。

 火の魔法が得意な者がいれば水の魔法が得意な者がいる。という感じものだ。

 適性がないからといってその魔法が使えない訳では無い。

 使えない訳では無いが適正というのは魔力の消費効率や魔力操作の差が現れ大きく術者に影響を与える。


 だから時間さえあれば誰でも全ての魔法が使えるようにはなれるとされている。というのが魔法時代の研究で明らかにされているが実際、確証がないのである。それは人間の時間では到底、足らなすぎるのだ。

 それはさておき魔法を学び始める者のほとんどがまず初めに自身の適正属性を確認する。五大元素による初級魔法の行使を行い、発現するかどうか。発現した魔法の強弱で確認することができる。

 皆の結果はヴァンは地属性でありほかの皆に五大元素による適正属性はなかった。

 先も言ったように使えないわけではない。五大元素の中に得意属性がなかったのだ。


 サナは火属性をシルスは五大元素全ての初級魔法を発現できた、が強弱から考えみてそれが得意属性ではないということだ。

 ちなみに残念ながらメアとイブは五大元素全て発現させることはできなかった。

 彼女らは五大元素に得意属性があるのではなく、ほかの何かが得意である可能性があるということだ。

 だが最悪どの魔法も使えないという可能性もあり得る。

 だけどそれを知るすべはなく、ならどうすればいいのかということなのだが、それはとにかく時間を待つしかない。本人がその内目覚めるまで。


 そして一番最初にその自身の特性属性に目覚めたのはシルスである。

 その属性は【糸】。物質としてある糸となるものに魔力を通す、または自身の魔力で編み込んだ糸を作りそれを操るというものだ。まだまだ、目覚めはじめというものもあり自身で編み込んだ糸は全くの強度がなく軽く引っ張れば簡単に切れてしまう。だが、それが全く使えないわけではない。

 今回の陣形でシルスが一番後ろにいるのはその切れやすい糸を使うためだから。

 彼女は歩きながら壁から壁へ通り道にその糸を付け垂らしている。これにより後ろからくる者が入れば糸が切れることによりそれをシルスに知らせ、そしてその纏わりついた糸がマーキングのようになり魔力感知で見ることができ体全体にまとわりつけばシルエットを浮かばせることができる。それによりシルスは正確にその敵を打ち抜くことができたのだ。

 魔力感知ができる相手、またはかなり警戒心の高い獣なら罠だと気が付くかもしれないが魔力感知などできない下級の、それも自分達のテリトリーだからと強気でいるゴブリン達には気が付くことなどできはしないのだ。


 その後もゴブリンによる襲撃があるも冷静に対処していき進んでいく。

 皆、クロトから『ゴブリンエンド』の話を聞いておりいつも以上に警戒をしており、細心の注意を払いながら歩いていると、微かに空気が奥に流れていくのを感じた。

 そこから少し進むと、その先にあるのは広大な空間だった。

 先ほどまではただ掘って作られた洞窟の様だったのにここは少し違った。

 円形の塔を型取ったような空間で人工物のように装飾の堀施された石壁、二つのスロープのような道が対局線上に見える。下の空間があるようなのだが、ここからではその先は見えない。

 武装したゴブリンが十数体が寝転がったり話していたりしている。侵入には気が付いているはずなのだが、何をやっているのだろうか。先行隊が倒したと思っているのだろうか。それなら、それでこちらとしては好都合だ。


「サナどれくらい居るのか分かる?」


 サナが祈るように握り瞳を閉じる。

「たぶんだけど、二回構造で上に12、階段のような所に7、下には24…その中の半分以上がまだ寝ていると思う」


 サナは今までの人生を魔獣たちと多く一緒に怪我などを治してきたからなのか、それは定かではないがこの中で広範囲に魔力、それも生物に対する魔力感知の特出した才能を持っている。それもその生物の平常、怒り、睡眠といった精神状態までも何となく認識することができる程度に。


「それでも43か…結構多いいわね。どうするの」


 手を口元に添え考え考えをまとめている。

「取敢えず作戦は出来ましたが、その前に皆さんの意見も聞きたいです。一度帰って増援を頼むのもありですが」


 顔を上げて皆の意見を伺うように見ていく。


「確かにそれが正しいかもしれないが、時間が経てば先行隊がやられたことに気が付き別の場所に移動する可能性だってあり得る。この数を放っては置けないだろう」


「私もそれがいいと思う」


「私はなんも問題ないわよ、クロに言われた通り今は貴方が指揮するのだからあなたに従うだけ」


「イブは何かありますか」


「ううん…何も言わない。もしもの時…守るだけ」


「そうですか、ならここでやりましょう」


 少しでも声が漏れ聞こえぬように皆を呼び寄せ作戦を伝達する。

 サナは少し自信なさげではあったが「大丈夫」と意思固める。

 皆その作戦に反論はなく、各自にその準備を整える。


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