第25話 終わりを告げる依頼の噂

 総合組合【ギルド】

 この世界にある組織の一つであり、聖騎士団に次ぐ大きな組織だ。

 各大陸に幾つもの国と国を繋ぐ街がありその全ての国がギルドによって管理されており、各国にも小さなギルド支部を置いている。

 ギルドが行っている事は、冒険者の管理、各地域の人々からの依頼等の手続き、鉱石や薬草、魔獣の部位、衣食住といったもの様々な売買や加工、国交の貨物の運送といったものと殆どの事を行っている。

 そして少し話が変わるが関係ある話がある。

 この世界にはすべての人間というより、すべての存在がある一つの存在を恐れている。

 それは赤く長い髪と赤い瞳の何かである。というのもドラゴンや魔王、あの天災よりも恐れられている。

 そのためか未だに赤い髪と赤い瞳の人間は見かけておらず、噂話では赤い髪で生まれた子供は、恐れなどで直ぐに殺されているのではないかなどと色々噂が立っているほどだ。

 そして皆にも赤い髪と瞳の事を聞くと、何故だか分からないが怖いらしく実際に鳥肌が立っていた。

 なぜこれがギルドと関係しているかというと、ギルドという組織は千年前ほどから存在しており、組織のトップに立つその存在、破壊の魔女と呼ばれている存在が関係していると思われているからだ。

 破壊の魔女は人前に全く現れないためにあまり知られていないのだが、幾つかの目撃情報もあり、更にはギルド職員からもその魔女の容姿は真っ赤の髪と赤い瞳の女性だといわれている。

 その破壊の魔女と呼ばれる所以というのがこの世界にある一つの天災に関わっているとされ、そのことでも人々は恐れている。

 だから、赤いものの恐れの根源はその魔女であるとされているがクロトは別の要因も考えていた。


 そしてギルドに所属している一人一人がその魔女に指導されて認められたものが職員と働いているようで、実力というのが全盛期のバイロンと同じくAランク冒険者に匹敵するものだという。

 今でこそかなり知れまわっており落ち着いているが、過去には先のような者が多く、その度に集会所が冒険者というより受付の職員によって荒れ果てていたとか。(冒険者談)


 とまあ、取敢えずそう言った情報を話つつ依頼の張り出された掲示板を眺めていた。

 どうせ受けるのであれば目的地の道中で達成できるもので、今後の為にもそこそこ報酬の大きな依頼を受けたいのだが、日をまたぐような観測系の仕事や数時間では難しそうな魔獣の捜索及び討伐といったものが多いい。

 登録等をしていて出遅れているのもあり、もうほとんどの依頼が他の冒険者達に取られている。まあ、早い者勝ちだろうから仕方ないな。

 取敢えず報酬は少ないが道中で回収できそうな採取系の依頼をやっていくとしよう。

 皆で相談しながら依頼の紙を集め十枚ある依頼の三つ、感濡草と甘媚花、イノクダケの依頼を受けることにした。この三つの植物は道中で回収できそうなものであり納品場所が目的地近くということでちょうどよかった。

 その依頼書をシルスとメアに渡して受付の方で手続きをさせることにする。

 冒険者でない俺が依頼書を持って手続きをするのは違うだろうからな。


 二人が受付で手続きをしているのを眺めていると隣の窓口で少しもめていた。

 またか、と思ったが様子をみると先のようないちゃもんなどの様な様子ではない。というのも受付と話しているのは冒険者ではなく農夫のような少し歳を取った老人に見える。


「どうか、これで何とかなりませんか。村の皆も家畜も心配で、毎日夜に怯え続け、皆少しずつ衰え始めているのです」


「と言われましても、こればかりはどうしようもないですし。張り出したとしても受けてくださる方がいるかどうか…」


 そう互いに少し困った表情になっている。

 周囲の冒険者達がそれを見て呟く。


「ああ、またあの依頼か」

「あの依頼ってなんだよ。俺たちにも教えてくれよ最近来たばかりなんだ」

「なんだお前達、知らないのか『ゴブリンエンド』だよ」

「『ゴブリンエンド』っていうことはゴブリン依頼か?まあ、確かに誰も受けたがらないよな。あんな労力と報酬が余り見合わないもの。それならほかのものを受けた方がいいてもんだ」

「いや、まあそうなんだがあれはそう言ったものじゃないんだよ」

「どういうことなんだ?」

「あの依頼の報酬は普通のゴブリン討伐依頼の何倍もの報酬が出るんだ」

「なんだそれ、めっちゃいい依頼じゃねぇか。だれも、取らないなら俺たちがもらおうか」

「まぁまて、というより依頼に対しての報酬に対して疑問を持てよ」

「なんだよ、どうせホブゴブリンかオーガが出るとかじゃないのか?それならうちのパーティーなら余裕だぜ」

「そうじゃない、ホブゴブリンとオーガの目撃情報はない」

「何で知ってんだよ」

「それは、あの依頼はもう何度も完了して、何度も張り出されているからだ」

「完了したのに張り出されるってどういうことだよ」

「もう説明が面倒だから、あの依頼のなにがやばいのかを教えてやるよ。あの依頼は必ず達成されるんだが、受けたパーティーは必ず一人だけ帰ってきてそのほかが帰ってこない。これは何度も見てきた俺たちだから知っていることだ。ほかの奴に聞いても同じ回答が返ってくるだろうよ」

「は?たかがゴブリンに殺されるなんて、そんなのルーキーか子供ばかり受けていったんだろ。そんなよくあること、驚くことじゃねぇだろ」

「ああ、俺たちも最初はそう思っていた。だが次第に皆が怪しく思い始め等々受けるものがいなくて、今のように困っている所にあの【紫百合の園】が現れてそれを受けたんだ」

「【紫百合の園】…。ああ、少し前に確かあのフロストドラゴンとドラゴンの群れを討伐して、確か全員がBランクになって有名になっていたパーティーだな。…まさかそいつらが」

「ああ、その通りだ。利き腕をなくしたパーティーの一人、オルシアがボロボロになって完了報告をしに帰ってきたんだ。何があったのか聞いても聞こえてないのか、ずっとぶつぶつと独り言をしてどこかへと消えて行っちまったよ」

「まじか…もしかして」

「それ以上は言うな」

「ああ、すまん」

「だからゴブリンエンドというのは依頼を受けたパーティーの一人が生き残り冒険者をやめるということでそう呼ばれるようになった。これを聞いても受けるというなら、もう止めはしないが」

「いや、受けねぇよ。聞いてよかったわ」

「おう、そうしておけ。金より自分の命のほうが大事なのは当たり前だ」


 何やらすごく物騒な会話が聞えたな。まあ、そんな大事な事を聞けて良かった。

 俺もそれを聞いていなかったら報酬次第であの二人に受けさせていたかもしれないからな。

 にしても必ず一人は帰ってきて完了報告が行われるか…それは、それでおかしな話だな。

【紫百合の園】とやらがどれほどすごいのかは知らないがそんな彼女らが一人しか帰ってこない依頼をルーキーたちでも完了させて一人帰ってくるのだからな。

 まあ、俺達には関係ない話だな。


「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます。」


 と男の声が聞えた。どうやら受付嬢が張り出しをしてくれるのか、だれか情弱が依頼を受けたんだろうな。まあ、受けるなら受付の人がどういう依頼か説明してくれるだろうから、受けるのをやめるだろう。


「どんと、大船に乗った気でいなさい」

「ええ、任せてください」


 と二人の声が聞えた。ああこれはまさかと思い二人の方を見ると農夫と話していた。


「なんと感謝すればいいやら」


「いや、あの二人ともこの依頼は」


 と受付嬢が声をかけようとするのだが、


「ゴブリン退治でしょ、大丈夫まかせなさいよ」

「問題ありません」


 自信満々にそう答える二人。


「えーあのぉ」


 話を聞こうとせず話が進む三人に受付嬢が困り果てている。

 いや、あんたそんなキャラじゃないよな。あの三人を吹っ飛ばしたのは何なんだ。切れてないと強く言えないキャラなのか。

 まあ、人のためにとして生きて来たあの二人を止めるのは少し難しいか。


「おい、お前ら相談もなしに依頼を増やそうとするんじゃない」


 受付嬢が助け船が来たと少し嬉しそうな表情になる。


「ですが、この依頼」


「クロト見てよこの依頼、目的の調査に少し関わってると思わない?」


 シルスの言葉を遮りメアが前に出て言い、シルスは少し頬を膨らませている。

 そんなことでまた喧嘩はしないでくれよ。軽い揉め事ならいいが。

 で、一体何が目的の調査に関わっているのか差し出された依頼書を見る。

 内容は予想通りゴブリン退治。なのだがそのゴブリンの分かっている根城というのがこの農夫の村と目的の国の間。これならその国が動いてもおかしくない。それなのにわざわざその国にではなく冒険者ギルドに依頼する。というのがおかしく思える。確かに国の調査ということであれば国の周辺というのもあるが…。でも、受けなくてもいいと思うが。

 だが二人を見るにこのまま放置はできないような感じではあるし。

 どうするかと考えていると用があるとイブがいつも通り裾を引っ張るのでそっちを見る。


「心配…いらない…私が…見てる」


 その一言に暫く悩むように考え

「そうか…分かった。受けるとしよう」


 その一言にぱっと明るく二人と嬉しそうにする農夫、そして残念そうな受付嬢。

 まあ、仕方ないだろう。俺も受けたくないがバイロンからの依頼である国の調査を引き受けたのは俺だしな。


「取敢えずその四つを手続きをしておけ、後のことは移動しながらでもいいだろう」


「分かりました」


「わかったわ」


 さて、初めての討伐系の依頼だが、どんな準備をした方がいいのだろうか。

 そう考えていると糸目の女性が手招きしているのでそちらに行く。


「本当に受けるの?あのどうしようもない依頼」


「どうしようもない?」


「ええ、今回解決できたとしても数週間もすれば直ぐに、新たなゴブリンがその跡地を利用し村を襲うのだから」


「確かにな。だが、放っておくこともできないだろう。あんたらの対応からしても一応、村の連中は助けてあげたいのだろう」


「それはね。だけど、そんな不気味な後の調査なんて私達職員でも正直行きたくないですからね。私達も死にたくはないので」


「わかっているよ」


「あなた達の目的地は確か隣の国のユーラクストですよね」


「ああ、そうだが」


「そうですか…くれぐれも気を付けてくださいね」


 そう言って高い音がぶつかるような音が鳴る何かが入ったポーチを幾つか受け取る。


「これは?」


「ゴブリン退治は初めてでしょう、これらは最低限の必須アイテムだろうか持っていきなさい」


「いいのか?」


「ええ、冒険者登録祝いとして受け取っておきなさい。私達も冒険者が帰ってこないというのは、とても悲しいことですから」


「大丈夫、あいつらはちゃんと無事に戻ってくるよ」


「その言葉、そうなるようにと信じ願っておきますよ」


「ああ、みんなで願ってくれよあいつらが無事で居続けることを」


 上着の裾で隠れた右腕を上げて別れを告げ、受け取ったポーチを持って皆の元へと戻る。

 依頼の手続きを終え準備満々な彼女らと悲しく心配そうな表情をする受付嬢と、周りの冒険者を置き去りに農夫を連れて集会所を出る。

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