第24話 ギルドと冒険者登録

 ルベントの街はメウリカを東北に進むとある、そこそこ大きな街で、メウリカを含む三つの国を繋ぐ中継地点とされている。


 ルベントに着き、門番の審査を終えレプニアを預けた後、街の中へと入る。街の中はもう夕暮れ間近ということで家への帰路を辿っているのかそこそこ多いい人通りだった。


 クロトたちはバイロンから渡された紹介状に書かれている建物の名前である集会所という場所を探すのだが見つからず、街の住民から場所を聞いて辿り着く。


 外観はそこらの建物よりかなり大きく目立つ建物だった。

 建物の中は明かりが行き届いており酒場のように広く、まだかなりの冒険者のような格好をした大人達が酒などを飲み食いしていた。

 受付の人に紹介状を渡すと、少しの確認時間の後、部屋へ案内される。部屋に着くなり買い出しをしようと思ったのだが、思っていた通りとっくに店の時間は終えているそうで、明日にしようかと思っていると受付の人が「もし良かったら、欲しいものを書いておいてください。そうしていだけますと明日の早朝にはその物を用意できると思いますので」と言われたので食料の手配をお願いした。手数料は多少かかるができるだけ早く済ませたいことだったのでよかった。


 その後はそこの施設の少し開けた空間で日課をやらせた後汗を流すために施設内にある、個室のシャワー室を使わせてもらった。二日ぶりに温かいお湯を浴びれたのはとても助かった。これで湯舟にも浸かれたらよかったのだが、そこまで贅沢は言えないな。


 シャワーから上がると女性陣は早く出ており厨房を借りさせて頂いてサナの教授のもとシルスとメアに料理の手伝いをさせた。サナが基本的に作った形なのでちゃんとしたものができていた。移動や訓練の疲れか調理中、多少危ないことはあったが怪我なく済んで良かった。


 遅い夕食とはなったが味もしっかりとしたものができていたので、これからもシルスとメアにはしっかりと学んで言ってもらおう、将来的に彼女らには必要なスキルだろうから。

 イブは少しもの足らなそうにしていたが、今回で全部使い切ってしまったので諦めてもらうしかない。

 かなり落ち込んでいたがすぐに寝て貰えたおかげで皆安心して一日を終えることが出来た。

 何故かは知らないが同室のヴァンがよそよそしかったのは謎だったが。


 朝を迎えると宿の人が起こしに来てくれた。

 とりあえず皆、朝の身支度を終え宿のホールに行くと昨日の夜とは比べ物にならない冒険者のような恰好をした人たちが埋め尽くしていた。

 あたりを見まわしていると宿の人に手招きされたのでその人の元まで行く。


「おはようございます。昨日メモを頂いたように役1週間分の食料を裏に用意しています。手数料含め6万Wですが大丈夫でしょうか」


「はい、これでお願いします」


 お金の管理等はとりあえずこなせるシルスに任せることにした。というより彼女自身がやると言うので任せてる。


「そういえば皆さんはこれからどうするんですか」


「隣の国に行こうかと」


「いえ、そうではなく金策です。招待状の片隅にバイロン様から何か手を貸してやって欲しいとありましたので」


 あ~と皆が俺を見る。

 お金はというとイヴァリスで最初に丁半賭博で稼いでいた余り金とバイロンからもらったの合わせて約50万Wになるようにもらった。その前にファイブズポーカーで一応かなり稼いではいたが、それはイヴァリス維持費として全額返している。

 いや、もちろん考え無しでは無かった。

 道中獣を狩ったりして食いつなぎながら売れるものは何処かで買い取ってもらおうと思っていたが、まぁここまで来てみて無理だなと確信した。


「旅人などはどういったことでお金を稼いだりするんだ?」


「旅人というのはすこし難しいですが冒険者であれば色々と紹介できます。例えば張り紙をされた依頼の仕事だったり、宝石や鉱石、魔物の部位などは一応買取できますが、それらの場合冒険者登録が必要となります」


「冒険者登録…それって今ここでもできるのか?」


「はい、一応ここはギルドの冒険者達が集まる集会所なので」


「冒険者登録しとくとそれ以外にも何かあったりするのか?」


「ほかとなりますとギルドの宿が安くなったり、知名度が広がったりしますね。あと、冒険者という身分証があればギルドを通さなくても様々な方から依頼を受け安くなります」


「仕事の依頼を受けてそれをほかのギルドで完了報告できたりはするのだろうか」


「ええ、できますよ。ギルドは世界各地にあり情報等をしっかり共有しておりますので、ここで受けた依頼を他のギルドで報告しても問題ありません」


「そうか、なら登録したいんだが登録料はどのくらいなんだ?」


「1人500Wですね。皆さんに全員が登録するなら3000Wですけど、どうしますか?」


「それって一人だけ登録して他は登録せず依頼をするということもできそうだが、その点どうなるんだ」


「できますけど、今目の前にいる私がそれを見過ごすと思いますか?」


 糸目の受付嬢から今までにない冷たい圧を感じる。まあ、そうだよな。最悪冒険者登録自体できなくさせられそうだしな。やめておこう。


「なら、俺を除いた五人でお願いするよ。あんたらが見て感じた通り、俺には魔力も闘気もない無力な一般人なのだから」


 受付嬢がよく観察するようにクロトの頭から足先までじっくりと観察する。その糸目で本当に見えているのだろうか。


「…まあ、そうですね。そういうことにしておきましょうか。分かりました。となりますと一応冒険者登録する時に階級審査を受けることができますけどどうします?」


「階級審査?」


「はい、仕事を沢山こなしていただくことでギルドから信頼を得ることで階級を上げてより報酬の高い依頼を受けることができます」


「信頼?何もしていないと思うが」


「それはみなさん、昨日の様子を見ていていい子そうだったので良かったです。ここは冒険者が集まる場所であり、そこそこの荒くれ者やお調子者が集まったりしますからね。特にバイロンさんの紹介ということで少し心配でしたが何も問題なかったですね」


「バイロンの紹介で心配って何かあったんですか」


「一つ前の受付担当の人がいた時、バイロンさん達がここを拠点としていたんですね。それはそれはお調子者で酷かったとよく耳にしておりました。ほかの冒険者ともめたりして集会所の備品を壊したりと、それは大変だったと何かあるたびに呟いていましたからね」


 少し悲し気なお涙ちょうだいとそんな軽い芝居をしつつ愚痴を並べていく。

 あのおっさんどんだけ迷惑かけてきたんだ。今はかなり丸くなったみたいだけども。あと、その後の愚痴から察するにかなり苦労してるんだな。

 と後ろからは聞いてはいけないことを聞いてしまったと残念そうに顔を抑えるヴァンと他人ごとではないんだろうなと、自分の父は大丈夫だろうとメアが半信半疑の自問自答をしていた。

 たぶんだがメアの希望は薄いだろうな。バイロン曰く、ガイルは幼い時から競い合う野性的ライバルなんて言っていたからな。


「それでその審査って何を行うんだ」


「それなのですが皆さん合格です」


 なんんかよくわからん内に話が進んでいくな。

 疑問を感じ取り受付嬢が答えていく。


「昨夜の皆さんの訓練を少し拝見させて頂いたのですが、しっかりと基礎などが身についており、見たところ現在所属している冒険者の中では上位には届きませんが、それでも中位の上あたりの実力はあると思われます。ですので、本来登録初日はFランクから始まるのですが紹介される方のランクによって、審査を行い少し上のランクから始めることができます。そしてあなた達はDランクからとなります」


「じゃあ、それでお願いするよ」


「では、皆さんこちらで書類等の記入をお願いします」


 そう言われクロト以外が少し離れた受付の場所で色々と記入していた。

 その間周りを見ていると先より人が増えていた。ここが集会所ということだから仕事の張り出しを待っているのか。確かに結構な人の数、多少のトラブルは多そうだな。そう見ていると、別の受付の数人が多くの紙の束を持って掲示板の方に向かい、「お仕事の時間でーす」といって沢山の紙を貼っていく。それに合わせて掲示板に向かうもの、終えた依頼の報告を行うもの、鑑定などと、色々な事が行われ始める。

 そして書類を提出し冒険者カードを受け取ったようで皆がこちらに戻ってくる。


「では、皆さん改めまして。ぼうー」


「ふざけんじゃねえぞ、てめぇ!?」


 突如、男の怒鳴り声が集会所内に響き渡る。

 どうしたのだろうかと皆がその場所を見ると、受付の前で三人の男たちが受付嬢に詰め寄っているのが伺える。


「おいちゃんと、依頼は達成しているはずだぜ」


「それに、この依頼を受けられねぇってどういうことだよ」


 三人の男たちが受付嬢に荒げながら責め立てていた。


「ええ、だから先ほども言いました通り確認をしましたところ依頼主の方から依頼の完了は出来ておらず、あなた方の提出した依頼書にある完了印は偽造されているのが見て分かります。そしてあなた方が受けようとしている依頼はCクラスの依頼です。Dランクのあなた方では受けることはできません」


 と受付嬢が涼しい顔で冷静な対応をしていた。


 その言葉に男たちは苦笑いをしながら腰にある得物を取出し受付嬢に切っ先を向ける。


「職員だからって俺たちをなめてると痛い目見るぞ」


「やられたくなければ謝罪しろ」


「そうだ、慰謝料払いやがれ。俺たちを不快にさせたな」


 男たちは本気のようなのか脅しにかかる。


「流石にあれは止めた方がいいんじゃ」


「ですね」


 とシルスとメアが向かおうとするのを制止させるように細目の受付嬢が腕だす。


「その必要はございません」


「だけど、あのままじゃ」


「必要はないってどういうことですか」


 二人ともまだまだだな。

 周囲を見ると誰一人として止めようとするものはいない。むしろ声には出さないが嘲笑っている者もいるほどだ。

 そして微かに「ルーキーか」「馬鹿だな」と口々に受付にいる男たちには聞こえないように、いや聞えるかと思うくらいに呟いている。


「忠告です。館内での騒動はお控えください」


 得物の切っ先を向けられている受付嬢は、今なお涼しげな顔で対応する。


「てめぇ、今この状況が分かっていないのか」


「二度目の忠告です。館内での抜刀はおやめください」


「お前、無視してんじゃんぇぞ」


「三度目の忠告です。館内では私達、職員に迷惑かけずに大人しく私たちに従いなさい」


「従えだと?どうやら痛い目にあいたいらしいな。もう我慢ならねえお前らやるぞ」


「おとなしく言うことを聞いていれば良かったともう後悔しても遅いぞ」


「ああ、そうだな。兄者ら」


 とうとう男たちの怒りの沸点が爆発したようで、どうやら三人の長男であるような男が受付嬢に得物切っ先を近づけつつ襟元を掴みかかろうとした。


 刹那、爆風が起こりガラスが割れたような音と何かが折れるような音が大きく鳴り響き。男二人の間を何かが通った。

 爆風から身を守るように顔を隠していたが、それをのけて見ると受付嬢の前にいた男の姿はそこにはなく、後方の建物の壁から粉塵を上げて壁に大きな穴が開いていた。

 そのことに全く理解が追い付かない残された男たちは呆然としながら一度、後方見る。


「あぁ~受付嬢のうじゃばて、なめちょぉう、ちぃききちょるて、さんぞのおとさのちゅらも、なあっつぅのなっての」

(はぁ~受付嬢だからなめた口聞いて、仏の顔も三度までないっての)


 声が聞こえ男二人がゆっくりと受付嬢の方を振り向くと、いかにも何かやりますとばかりに手首の柔軟をしていた。男たちは情けない声を出して震えお互いに手を握り合あい許しをこうように何度も謝り続ける。

 それに答えるように優しく微笑み男たちは許されたとホッとするが、その時には二人の首元に手が掛けられており何を言っているか分からない訛り声を上げて残りの二人の顔面を強く何度もぶつけ合わせ、壊れた壁の方向に投げ飛ばす。

 それで終わりかと思ったのだが受付嬢は窓口を軽々と飛び出て気品よく男たちの方へと歩いていくと数秒の男たちの悲鳴の後、男たちの持ち物らしき物をはぎ取ったのか沢山の荷物を持って何事もなかったように受付へと戻りニコニコと営業スマイルを浮かべる。


 その様子を眺めていた後ろの奴らは呆然としていた。

 それに気づいた糸目の受付嬢が軽い咳をする。


「まあ、多少の騒動はありましたが、改めまして皆さん。冒険者、商業その他諸々の総合組合、ギルドへようこそ。互いの為にもあまり騒動を起こさず、より良い付き合いをしていきましょう」


 挨拶を軽くまとめ上げてくれているが、先のを見たら後半の一言の重みが凄く糸目の不気味さがより一層際立って恐ろしく感じる。

 ギルドでは騒動は絶対起こさないと心に深く誓う四人であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る