第23話 十二聖将

 クロト達がウルクルズロットを出発した当日、帝都ラズガルド帝国にて、小さな動きがあった。


 王宮の玉座の大広間。

 大きな扉がゆっくりと開かれそこに三人の人影が入り歩いていく。

 そこは明かりがついておらず薄暗く少し不気味だ。

 長くただまっすぐにあるレッドカーペットと前方にある光が示す場所まで歩いていく。

 周囲を見るとその行く道を挟むように統一性のとれた鎧をまとった神兵と呼ばれる騎士が並んで立っている。

 彼らが知っていることによればその騎士は約20人近くいるとか。

 そして光が示す円形の土台の所にその三人は跪く。

 そこは玉座の目の前にある、そこそこ大きな円形の土台のような場所で、天井や上の壁にある高価な装飾が施されたステンドグラスから差し込む光が集まるように照らしている。

 そしてその前には何段もある巨大な階段と王が座る、広間の端からでも見えそうな細く大きい玉座に王が肘をついて座っており、その横に二つの人影が立っていた。

 そこは光が当たっていないせいもあって王たちの姿を見ることは出来ない。


「王ヴェリル・マルドマルクス陛下、聖騎士リヲ・メイニャーここに参上いたしました」


 三人のリーダらしき男が王に挨拶すると王の横にいる人影が王に耳打ちするようなしぐさをする。


「リオよ。急な招集に応対してもらい感謝する」


 王の真横に立つ黒い影の何かがノイズのかかったような声で答える。


「いえ、滅相もございませぬ。五老様」


「今回呼んだのは十二聖将の件だ」


「十二聖将ですか?」


「ああ、お主らも知っての通り数年前、聖騎士殺しメビックによって十二聖将の三人が殺されたのは知っておるな」


「はい」


「その穴を埋めるべく我々がおるしら聖騎士達の中から十二聖将にふさわしい人物を選別し、二つの枠は埋まったのだが、一年、最後の一つの空席が空き続けている。そこでお主を第十二席に仮として任命しようと思う」


「は、光栄であります」


「そしてここからが本題なのだが、お主を第十二席任命するためにやってもらいたいことがある」


「なんなりと申しつけください」


「うむ、お主らには帝都を出て、こやつらを捕らえて来てもらいたい」


 五老が出した紙がリヲの目の前に瞬間移動するように紙が現れ、それを受け取る。


「拝見致します」


「詳細はそこに書いてあるとおりだ。極秘任務であるため他言無用に願うぞ。民の混乱などは避けたいからな。期限はいくらかかっても良い。そヤツらの生死は問わぬ」


「分かりました」


「では、良き報告を期待しておるぞ」


「は」


 そう言い終え指を鳴らすとリヲが持っていた紙が燃え消える。

 そして王と五老が何処かへと歩いていき、それに続くように騎士たちがどこかへと消えて行った。

 三人は立ち上がりその場をゆっくりと出ていく。


 外へ出ると後ろに続く二人がプルプルと震える。


「やりましたね。リヲ様やっと皆さんに認められる時が来ましたね」


「ええ、きっと父方様達もお喜びでしょう」


「二人共そう浮かれるな。確かに十二聖将に仮として任命されたが、まだ油断ならない」


「と言いますと」


「五老様たちからの任務だ」


「そういえばどんな事が書かれていたんですか?」


「任務は罪人メア・フラスルト率いる者たちの捕縛だそうだ」


「フラスルトと言えばメウリカの英雄、剣の王であるガイル・フラスルトじゃないですか!?メア・フラスルトということはその子供ですか?」


「ああ、16の娘だそうだ」


「その英雄の娘が何をしたんですか」


「まだ何もしていないが、どうやら魔族と手引きをして人類の転覆を図っていると記されている」


「やってないということは天啓を得たのでしょうか」


「多分そうだろう」


 五老は多大な魔力を持っており、その力でときおり儀式を行い神から天啓を得ているらしい。そのため彼らはこの世界で帝都の王に次ぐ権力者とされている。


「魔族と手引きしているということは、それなりの数がいるはずでは、軍を動かせばいいと思うが…」


「きっとリヲ様の実力を見越してのことですよ」


「そうなのだろうか」


「ええ、そうですよ。リヲ様ならそんな奴らすぐに確保できますよ」


 そう二人が何度もリヲを賞賛しあう。


 二人が私を信じてくれているのだ。私が自信を持てなくてどうするというのだ。

「ふふふ、そうだな。仮とはいえ十二聖将が一人このリヲにとって悪とくみする小娘など取るに足らん。必ずとらえ正しき裁きを受けて反省してもらおう。そして叔父上様に鍛えられし我の力で十二聖将の席に着くとしよう」


「その意気ですリヲ様。第十二席ではなく第一席まで上り詰めましょう」


「そうです。我々はリヲ様に一生ついていきますぞ」


 部下である二人の言葉にリヲは嬉しそうにするも、それを見せぬように顔を横に振ったあと頬叩き何も言わずに歩きゆく。

 二人は何も言わぬ彼を信じ嬉しそうに見ながらついていく。

 これは彼らにとって目指す、悪を正し平和なる世界の為にとまた一つ、大きな一歩を進んだ日なのである。




 蕎麦屋をでて少し時がたった頃。

 軽い訓練と話し合いで疲れたシルスとメア、サナとお腹いっぱいで眠るイブに囲まれながらランドルフとバイロンからもらった情報の資料を読んでいた。

 すると気になるものがあった。


『太陽が落ちた日』それは今から四十年も前のことだ。

 二個目の太陽が突如として現れた。これは世界各地で観測されており、かなり大きな騒ぎになったらしい。そして日に日に大きくなり行く、その太陽と上昇する世界の気温。そしてようやく世界の皆々が太陽が落ちてきていることに気がつく。あらゆる国の者たちがそれにどう対処するか考え行動を行っていたが、余りにも巨大すぎるそのエネルギーの塊になす術がなかった。

 全ての者たちがもう無理だと、世界の終焉と諦めていたそんな時。

 灼熱として焼かれていた世界が平温まで下がった。突然のことで皆が困惑し神の助けだろうかと思った。だが、太陽は迫り来ており一番の問題は解決していなかった。そして太陽が空を覆いつくすほどに近づいてきた日。その太陽が横真っ二つに切られた。その影響で太陽が爆発しようとしていたのだが、太陽はどこからか現れたか分からない大量の水に包まれ世界に何の影響も与えずに消滅したという。

 ただの作り話と思われていたが、皆が親や大人に聞いたことがり知っている一つの伝説であるそうだ。


「なぁヴァン、『太陽が落ちた日』って知っているか」


「ええ、訓練場でこの世界最も強いものは誰かという話題をする時によく出る話ですね」


「誰かという事はその太陽を消滅させた者は判明しているのか」


「確証はなく噂なのですが、皆口をそろえてその者の名を言います」


「そいつは何者なんだ」


「帝都にある聖騎士団の団長とされる十二聖将の第一席、第一聖将。名を五将源 漿汞というそうです。なんでも、その騒動の後直ぐに帝都の人間が彼を十二聖将の第一席に向かえたそうですから」


「ふ~ん、お前はそいつのことを一度でも見たことあるのか」


「いえ、一度も帝都に行ったことがないので見たことありません。それに十二聖将は魔族からこの世界を守るのが第一でその次に帝都の守護とされているため、基本彼らは帝都から出ることがないのです」


「そうか。十二聖将ってことはそんなやばい奴らが十二人もいるということか?」


「いえ、その第一席は皆が思う通り怪物という別次元ですが、残りの十一人は彼ほどではないといわれています」


「例えるならどのくらいなんだ」


「バイロン様が言うにはガイル様と同等かそれ以上という話ですね」


「結局一人一人が英雄級の実力の持ち主ってことか」


「まあ、そんな所ですね。少し前にメビックという男がそのうちの三人を倒したという話を聞いたこともありますね」


 船の上で会ったあの男か。聖騎士殺しなんて帝都の人間から警戒されながら言われていたし、かなりの強さを持っているんだろうなと思ったが、想像以上に強い奴だったんだな。


「お前はどう思っているんだ。俺たちが帝都と敵対していることについて」


「仕方ないのではないといったところでしょうか。一応世界の中心国とされていますが、すべての大陸の国々が帝都を支持しているわけではありませんし。現に何故かメア様が証拠の無い罪を着せられて追われていますからね」


「まあな、それでお前は勝てると思うか」


「いや、たぶん無理でしょうね。現在の状況では」


 かなり嫌そうな表情でヴァンが呟く。

 まあその通りだろうな。メウリカのもつ戦力は約5万強に対し帝国は各大陸に小さくながらも領土を持っており聖騎士を育てる教習所のような所がある。つまりは帝国の戦力は中心だけではなく各地にも多くいるということだ。そして中心だけでもメウリカ一強とされるガイルより強い者が十二人と船の上で見た神兵と呼ばれるもの数名、聖騎士は少なく見積っても約50万強。


 戦力差は歴然だ。帝国からしてみればメウリカという小国は直ぐに消し去ることができるだろうな。

 だから帝都の人間たちがまだ何もしてこないからいいものの、もし本当に戦争になった場合バイロンたちはどうするつもりなのだろうか。あのメビックという男が手を貸してくれるとしても厳しいと思うが。

 あいつらは直接言わないが多分俺達も彼らの戦力に入れられている可能性は無い訳では無いしな。

 あいつらの言う予言の子供とやらは何処まで予測しているのやら。


 まぁなんにせよ、今は帝国の人間にはあまり関わらないようにしつつ、もしもの時の為に皆に抵抗できるくらいにはなってもらわないとな。そしてしっかりと対策となる備えもしておかないと。彼女らの為にも。俺の目的の為にも。


 今後の考え事をしていると馬車は森を抜けて夕暮れ近くで空を橙色に染め、その灯りが隙間を抜けてクロトたちを照らす。


「クロ、ルベントが見えてきましたよ」


「やっとか」


 資料をまとめて床に置き振り向いて目的地である街を見る。

 それはウルクルズロットとあまり変わりない少し低めの城壁に囲まれた街で、夜が近いためか火の明かりが付いているのが分かる。


 とりあえずバイロンから宿の紹介はしてもらっているし、今日は宿をとってから明日に備えて色々と準備するとしよう。


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