第21話 お約束の展開

 

 クロトがキャンプの方へ戻っている最中、調理中というのもあっていい匂いが漂ってくるはずなのだが、いい匂いとは別の変な匂いが漂ってくる。

 嫌な予感がして。いや、そんなまさか。と呟く。


 見たくない知りたくないと足が重く感じるが、どうせ知ることになるのだからとそれの元へ行く。

 拠点に戻ると、そんなまさかだった。

 俺が帰ってきたのに気づき料理がもうすぐできると満足そうになべのそばに立つ二人と一度目を合わせるも直ぐに目をそらすイブとサナ。そして料理のくせに異様に嫌な気配を漂わせる鍋。


 水浴びに行くときに二人はカレーを作るというのが聞こえていた。

 カレーであれば野菜や肉を切って、ウルクルズロットの厨房で分けてもらったスパイスなどと一緒に煮込むだけ、そう煮込むだけの簡単な料理だから、初心者のメアでも器用なシルスがいればできると思っていたのだが。


 そう考えながら鍋の中を混ぜている二人に近づきそれを見て絶句する。

 それは真っ黒に近い何かだった。いや、黒いカレーも存在するっていえばするが、これは少し色がおかしくないだろうか。それに沸騰とは違うような、まるで発酵でもしているかのように粘っこく膨らんだりもしている。香りはカレーのスパイシーな香りに加え、凄く甘酸っぱいような香りもする。

 メアがお玉で混ぜながらそれを掬い上げると、とてもドロドロだった。いや、カレーなのだから当たり前だろうと思うだろうが、そのドロドロは少し違う。お玉で掬い上げると余分にまとわり付いた液体が普通はどんどんと落ちていくはずなのだが、これは大きな塊を作ってやっと落ちるという動きを見せる。


 彼女らは一体これを見てこの匂いを嗅いで、そんなにもできましたよという顔ができるのだろうか。

 いや、見た目や香りはあれだが実は味はいいんじゃないのか。味見などしたからこそ、あの顔ができるのだろうと傍にあったスプーンでそれを掬い恐る恐る味見する。


 それを見て何だか嬉しそうに伺う二人と止めようとしたのか手を伸ばす二人。


 一瞬意識が飛びそうになった。

 どんな味がしたかっていうと。それは本当にもう、ひどい味だった。

 甘い、辛い、酸っぱい、苦いと、旨味以外の全てが激しく強調しあい舌をしびれさせる。今まで食べたことのないような味もする。もちろん美味しいという味ではない、本当に訳の分からない味。そして一緒に食べたであろう野菜や肉は数日煮込んだのではないかというように食感を感じさせず溶けた。それなのにまるで砂のようなじゃりじゃりとした食感がある。

 結論としてこれは無理をすれば食べれはするが、絶対に食べてはいけない人体に悪影響を及ぼすような何かだ。いや、塩分、糖分が非常に多いいのがわかるから絶対だめだ。絶対に病気になる。体からの拒絶反応か鳥肌もたって、少々吐き気もあるが、この程度ならまだ何とか…。


 スプーンを置き近くにあったコップに水を入れて飲み、口を整えようとするのだが、なかなかそれの余韻が抜けない。

 暫くは我慢するしかないようだ。


 コップを置き四人を見てこちらに来るように手しぐさして呼ぶ。

 不思議そうに見る二人と、嫌な雰囲気をだす二人。


「一体これはなんだ?」


「「何って、カレーよ」ですが」


 そう二人が見合わせきょとんとした顔で答える。残りの二人は何も言わず黙っている。


「味見はしたのか?」


「いや、それはしてないけど…カレーって煮込むだけで簡単に出来るおいしい料理なんでしょ?」


「はい、私も一度ピオニスさん達が作るのを見ていたので間違いはないかと」


 と二人が不思議そうに見合わせながら言う。


「あく抜きはしたのか?」


 その言葉をきいて二人が見合わせこちらを向き直す。


「あく抜きってなんですの?」


「私も聞いたことが無いのですが」


 …だろうな。やはりこの臭みはしていないよな。だけど、この酷さはあく抜きだけではないはず。


「まあいい、それでどういう風に作っていたんだ」


 調理の工程を聞けば、このおかしな味の正体も分かるし、この二人の改善点にもなるだろう。失敗は誰にでもある。なにも聞かず結果だけでもうダメだと見限るのはよくないしな。


「それはシルスに聞きながらしていたんだけど」


 とメアがシルスに頼る。まあ、彼女は初心者だからな。調理工程は朧気なのだろう。


「そうですね。まず、お肉と野菜を切って準備し、鍋に油を馴染ませて野菜から順に肉を炒めそこのスパイスを軽く加えました」


 とシルスが示す方を見ると確かにスパイスの入ったビンが並んでいる。並んでいるがそれにしても多いい。どうやら貰った全部の種類のスパイスを使ったように伺える。まあ、取敢えず置いておくとして。

 確かにその調理法なら、あく抜きは別にしなくてもいいかもしれないか。あとは少量水を加えるか野菜に含まれる水分でかき混ぜ煮込みながら味を軽く整えれば、ほぼ完成だと思うがまだ何か続くだろう。


「そのあと少量の水と塩、そしてメアが辛いのは苦手というので砂糖などを加え煮込んでいきました」


 砂糖などを…か。などというのが気になるがまあいいか。


「そして煮込んでいると具材が減っていたのでもう一度新しい具材を用意して煮込みなおして完成です」


「は?」


 思わず声が漏れる。いや、嫌々で水浴びに行っていて時間が多少かかったがそれでも具材が溶けるような時間はかかっていないはずだぞ。それなのに更に新しい食材を加えて煮込んでできたものがこれで口に入れた瞬間溶けるっておかしすぎるのだが。一体何を入れたんだと思うが正直聞きたくなくなってきた。

 そう頭を抑えているとサナが裾を引っ張る。なんだと思い見るとスパイスが並ぶ方を指さす。


 どういう事かと思いスパイスが置かれている机に近づき見ていると、ようやくその意味が分かる。取敢えずひどく強烈な味の正体はスパイスなどの過剰投与であるということだ。元々瓶いっぱいにあったはずなのに、今回の調理だけで全て瓶の三分の一が無くなっている。砂糖に関しては結構大きな瓶に入れているというのに半分も使われている。


 まじか…。器用で頼れるお姉さんキャラのようなシルスが、この料理の出来栄えを見た目と香りでなんとも思わないのか…メアも。


 二人共が何も分かってないようなのでスプーンで一口分すくい上げ差し出す。二人は素直に受け取り「とりあえず一口味見してみろ」と言って食べさせた。

 すると二人は口に入れるなりすぐに見えない所まで走りうがいなどをする。まぁ、そうだよな。


 彼女らとすれ違いざまにヴァンが水浴びから帰ってきて二人を見て何してんだと呟くが鍋の物を見て察し、これを食べるのか?という嫌そうな顔をしていた。


 彼女らのその様子を見ているとサナが隣に来る。そういえば、なんか変な反応していたしサナは知っていたのだろうか。


「一体どういうことなんだ?シルスの料理はバーで1度食べたからそれなりにできるものだと思っていたのだが」


「だから、任せたんですね…。シルスちゃんは器用でなんでも出来ような人なんですけど、料理だけは無自覚に苦手で、作るためのレシピとその食材などをしっかりと分量を分けてやっと料理ができる感じなんです。だから、レシピとかないと目分量とか全くわからず今回のように沢山入れたりしちゃうんですよね…」


 確かにバーでのあれは元々用意していたものを組み合わせただけのようなものだったしな…考えが甘かったか。正直思いもしないだろう、彼女ほど器用な人の料理がこんなことになるなんて…。それに立候補するくらいかなりやる気満々だったのもあったし。


 さて、とりあえずそれはいいとして、これはどうしようかと鍋の方を見ているとムーとレプニアがあれを食べていた。

 動物に食べさせるのはまずいと一瞬思ったのだが、動物というのは嗅覚が優れていて本当にダメなものは基本食べようとしない。飼っている動物は与えられたものだからと慣れや安心できるとあまり考えず食べるが。それに俺たちからしたらやばいものをレプニアはかなり美味しそうに食べているのが伺える。食べ物を捨てるのは勿体ないし、彼らが食べるのであれば今回はいいとしようか。


 とりあえず今後二人には料理はしばらくさせないことにして、俺かサナで二人を交代で手伝わせてできるようにさせてあげよう。二人共が料理はやる気満々だからこれで見限るのは可哀想だしな。

 今晩はもう遅いし早く出来て軽いものにしようか。となると簡単な野菜炒めでいいか。ご飯は飯盒でもう炊けているみたいだしな。


 そう飯盒を開けるとなんか甘い匂いがする。

 まさかと思い軽く掬って食べてみると思った通り、かなり甘い…。砂糖を入れたか…まぁ無くはないかもしれないが…。うん、食べれないことは無いからこれはこれで食べよう。


 シルスを呼んで調理器具と食材を出してもらうのだが、そこで更なる最悪を知る。

 どうやら先の料理に二日分(6食分)の食材を使ったらしく残り一日分しかないということだ。一体あれのどこにそこまでの食材が使われていたんだ…。まあ、煮込みものだから作り置きできるとでも考えていたのだろうか。

 一応食材等は街までの距離は約二日で着く予定だった。それを考えて一日分余分に用意していたので良かったが街に着くなり買い出しをしないといけないようだ。


 とりあえず二人には食材を切らせる手伝いをさせてサナを呼びちゃんと料理ができることを確認する。

 シルスとメアの二人は先程まで聞こえないところで言い合いをしていて今、目の前でも互に料理の醜態をさらしたことで責任の押し付け合いして軽くいがみ合っている。包丁を使っているし危ないからと思い軽く注意すると大人しくなってくれた。

 喧嘩するほど仲がいいのはいいが注意する時はしないとな。


 そうしていろいろとあったものの、クロトとイブの二人が交代で見張りを行い朝を迎えたのだが、それでもシルスとメアはまだ懲りてないようにいがみ合い、とうとうクロトに呆れられ無視されて、それで落ち着くかと思ったが今なお馬車の中で目に見えるようないがみ合いはなくなったが仲が悪いのはそのままである。


 とても重い空気でサナとヴァンは気まずく困っており。さらにはクロトが何も言わずに移動を始めたため朝ごはんは取っておらず、結構な移動時間をしていて、もう昼過ぎで二人も結構な空腹感を感じているのだが、後ろを見てそんな提案を上げれる雰囲気ではない。一応今日の夕刻あたりで街に着く予定で、そこまで我慢しようと思えばできるが…とため息をすると。何やらいい匂いが漂ってくる。


 匂いが漂ってくるその先を見ると小さな丘の先に小さな建物のようなものがあり、その建物から湯気の様な物が空へと昇っていた。

 その香りにお腹がなりそうになるも二人は我慢する。この空気のなか二人にそんな提案を挙げられる度胸がないのだ。どうせならクロトがその提案をしてくれればと二人が願っていると


 小さくお腹の音が鳴った。

 それは二人ではなく眠っているイブだった。

 そしてイブは匂いとその自分の音でゆっくりと起き上がりまだ眠たそうに目をこすり。匂いを嗅ぐように鼻を動かす。


「クロ…おなかすいた…」


「ん?…ああ、そういえば今日飯とってなかったな。もうそろそろ休憩がてら飯にするか」


 ――!?


 二人にとってこれほどにもない助け船が来た瞬間であり、心の中でイブをほめたたえていた。

 後で頭撫でてあげたい。


「というよりこの匂いは何だ」


 クロトは資料を置き振り向いてサナとヴァンの間から顔を覗かせ匂いがする方向を眺める。

 その小さな建物は木で出来た小さな小屋のようで車輪が付いており、何か文字が書かれた青いのれんが垂れていた。

 こんな平原のど真ん中で、屋台開いてんのか。

「食料の備蓄はまだ少しあるし作る方がいいんだが」


 とクロトが考え始める。

 とその声に二人はこの空気でご飯作る時間は嫌だなと思ってい居ると、イブがクロトの裾を引っ張る。


「クロ…はやく…何か食べたい」


 その一言にクロトは考えるのを止めイブの頭を撫でる。


「まあ丁度いいし、そこの屋台で飯を取ることにしようか」


 その言葉を聞いて内心喜ぶ二人とまだ、少し空気の悪い二人と、余り何も考えてないような二人を連れて、その屋台に寄ることとなった。


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