第20話 不安

 どうも皆さん初めましてサナです。

 初の出番なので知らないのが普通なので軽く自己紹介させていただきます。


 私とイブちゃん、シルスちゃんは昔どこかも分からない森の中にいました。魔獣に襲われることもありましたがイブちゃんがその度に追い返してくれていました。

 数日が経ったある日、イヴァリスの王になる前のランドルフさん達に拾われました。そして皆さんが協力しながら生活を続け数年が経ち、ランドルフ様がイヴァリスを建国しました。シルスちゃんはカジノディーラーとして、イブちゃんは他の貴族さん達が望む、悲しい獣さん達との戦いを、そして私なのですが…特にやることがなかったので職員の人達のお手伝いをしました。お料理や洗濯、お掃除などを。

 そんなある日、「痛い、痛い」という声が聞えた気がして、声の聞こえる方へ行くとイブちゃんと戦った瀕死の獣さんが牢屋に閉じ込められ、横になっていました。とてもひどい傷で見るに堪えない姿の獣さん、私にはどうすることもなく立ち尽くして見ていると「寂しい、寒いよ」と聞こえてきました。獣さんの表情はとても柔らかく悲しそうに目元から涙を流していました。私は居ても立っても居られなくなり空いている扉からゆっくりと入ると獣さんがその音に気が付いて威嚇したけど直ぐに力なく諦めるようやめました。私はゆっくりと獣さんの顔に触れ「大丈夫だよ。一緒にいるから」そう言って抱きつき一緒に眠りました。


 どれくらいたったかは分からないのですが、何か騒がしくて起きると牢屋の周りに人だかりができていました。何だろうと見ると職員の皆さんが何やら血相をかいた表情で武器やただの棒をこちらに向けて立っていました。どうしたんだろうと横を見るとあの獣さんが起き上がっており皆さんを威嚇していました。私は驚きました。あんなにも傷つき骨が露になっていたのに、何事もなかったように傷が治っているのですから。そして獣さんは私が起きたことに気がつくと威嚇をやめこちらに大きな顔を近づけ大きな舌でじゃれるようになめてきました。

 その様子に職員の皆さんが呆然としていると、騒動を聞きつけたランドルフ様が来てその場の騒ぎを収めてくれました。


 どうやら私には医療魔法の才能があったようで、その後はランドルフ様から闘技場で傷ついた獣さんの面倒を見るように言われました。ですが、元気に治せても薬物の過剰な投与のせいで長生きできる子は少なく三日以内には皆、死んでしまいます。とても寂しいくいつも泣いてしまいました。

 そんなある日いつの間にか小さな狐の魔獣、ムーちゃんが現れました。とてもかわいく魔獣とも仲良さそうにして、お手伝いもしてくれるとてもいい子です。


 そして時が経ちクロトさんが来てランドルフ様からこれからはクロトさんに付いて行くように言われました。イブちゃんより少し身長が大きいくらいなので同い年くらいかと思っていたのですが、クロトさんの雰囲気は、なんていうかとても怖く寂しそうな感じがしました。そしてウルクルズロットで魔法の訓練ということで回復魔法を見せてほしいと言われたので、足をくじいていた馬さんを目の前で治療すると、今後それは使わず初級魔法と普通の医療術を学ぶように言われました。


 私はどうしてと疑問を聞いたのですが、その時のクロトさんは怒ってないのにとても怖く、何も教えてくれず、ただ使わないようにと念押しされました。その後はウルクルズロットにいる医療担当の人に薬物の種類や配合、医療術魔法を学びながらクロトさんに渡された魔道具の訓練を続けました。


 そして昨日ウルクルズロットを出発したのはいいものの少しばかりというより、とても厳しい状況に陥っています。

 私とヴァンさんは馬車を運転する席に座っています。いや、座っているというより避難してます…。

 そういえばヴァンさんも何だか少し様子がおかしいような…。

 なぜ避難しているかというとそれは荷馬車の方を見ればわかるのですがとても…修羅場です。


 三人とも不機嫌そうに二人を背にクロトは資料を読みシルスとメアはクロトをはさんで距離をとり魔道具の訓練をしていた。イブはというとクロトの肩を借りて眠っている。


 シルスさんとメアさん、船ではとても仲良く話していたというのにいつの間にかとても競うようになり、特にウルクルズロットでの模擬戦は日が経つごとにとても激しくなっていました。だけど、そこまではまだとても仲が良かったんです。


 なんでこんなことになっているかというと少しさかのぼり、昨日出発してから少しして、今後の予定を話していました。


「俺たちの目的は正直ないが、俺の目的は取敢えず世界を見て回りたい。言ってしまえば世界一周の旅か。それのついでとしてバイロンの依頼で途中の街を経由して隣国ユーラクストに向かう」


 世界地図を開き経路をなぞりながらクロトが説明する。


「依頼というのはただの国の状況調査だ。ユーラクストの王はバイロンが冒険者時代にお世話になった人らしく友好関係を築いている。だが、メアの騒動から忙しいのもありここ最近連絡を取っておらず。俺たちがウルクルズロットに着いた翌日、久しぶりに連絡が取れたらしいのだが、それが何か気になったようで俺に観光がてら見てきてほしいということだ」


「観光ついでに調査って叔父様適当過ぎませんか…」


 さすがのメアもそのテキトウさに呆れていた。同じように手綱を引くヴァンもため息を漏らしていた。


「それでお前達にはこれから色々と付き合ってもらうからな。一先ず渡すものは渡しておこう」


 クロトが懐から何かを取出す。それは指輪と腕輪のアクセサリーだった。


「シルスには取敢えずこの指輪だ。ランドルフからもらった空間収納魔法の術式を組み込んだ指輪だ。両国からもらった食料や生活用品が中に入ってるからその管理を頼む。あと、イヴァリスの同僚からの贈り物も入っているらしいから確認しとけ」


 空間収納魔法。それは世界の中に新たな別の亜空間を生み出し、物を収納する魔法。空間系の魔法はかなり珍しく、それも魔道具や術式となると幾つかの小国を容易く買い取るほどの価値があるとされている。


「はい、ありがとうございます。大事にさせて頂きます」


 少しうれしそうにそれを受け取り大事そうに胸元でギュッと握りしめる。


「メアは、腕輪だ。同じ様に空間収納魔術が施されているがそれは付属品のようなものであまり収納できないがお前のいろんな武器を仕舞う事はできるだろう」


「ん、ありがとう」


 素っ気なく受け取るメア。


 サナとヴァンには二人が心の中でとても喜んでいるのが容易く思い浮かび微笑む。


「そしてサナとヴァン、お前達にはこれだ」


「は?」

「え?」


 思ってもないことに動揺した。まさか自分達にも贈り物があるとは思っていなかった。だってそれは好意を寄せているだろう二人にだけ送るものだと思っていたからだ。そして差し出されたものは首飾りとブレスレット。


「サナは後衛ヴァンは前衛のタンク、二人共もしもの時の生命線ともなる重要な立ち位置だからな。大した術式は施してないがお守りにはなるだろう」


「え、ああ、ありがとうございます」


「ああ…」


 二人ともが何となく受け取るのだが二人の視線が少し怖い…。

 え…これ本当に貰っていいのだろうか。

 というより。もしかしてクロトは二人の好意に全く気が付いていないのだろうかと二人の頭にその考えがよぎった時だった。



 そして夜を迎えた。

 森の中の小川付近にある少し開けたところで焚き火を御こしキャンプする事にした。

 女性陣四人が水浴びを終え交代でクロトが水浴びにいく。


 昼はクロトが弁当を作って用意していた。ご飯は当番制にしようという考えなので今日の晩はシルスとメアが料理することとなった。クロトはシルスが作ったものをあの時バーで食べたのを覚えているので任せられると判断しメアをサポートしながらということで、この二人に頼んだ。

 なんかサナとイブが驚いた様な顔をして何か話し合っていた。どうしたのだろうかと思いながらも、まあ少女二人のあまり聞かれたくない話でもあるのだろうと思い聞かないことにする。


 クロトはゆっくりと森の中を歩いていき水浴びができるキャンプ地から徒歩二分程度の距離の流れが全くない小さな湖へと向かっていた。そう二分で着く距離なのだがクロトの足取りはとても重く遅いものだった。


 今日は特に何も起こらなかったな…。バイロンがいうのは道中魔獣や魔物が襲ってくるのが日常茶飯事だと言っていたんだけどな。いや、まあ。平和に越したことはないないか。だけど、水浴びか…はぁ。憂鬱だ。


 そうしてとうとう開けたそこそこ広い湖につく。

 そこはとても綺麗な場所で透き通った水で少し奥をみれば綺麗な月が写っている。そんなキレイをな景色にすこし心を奪われていたが、すぐに意識が戻る。


 湖に指を付けて水温を確かめる。

 やはり、かなり冷たい。

 クロトは冷たい水が嫌いである。それは異常な低体温質であり、ほかの人より冷えやすいのだ。それは過去の記憶で夢の彼女が冷房の設定温度を24℃より下に下げた時のことで、クロトからすれば設定温度24℃でも結構寒いのに更に下げられると指などが、かじかんでしまい低い温度によるストレスが酷かった。それほどに他の人にとっては心地よくてもクロトはキツイことであり、他の人が寒いと感じることはクロトにとってそれは軽い拷問に等しい。


 入りたくないと思考を埋め尽くすが共同生活なのだから、そうはいかないだろうと服を脱ぎ近くの岩の上に置いて。足先から湖に入ろうとする。足先を付けた瞬間冷たくすぐに引っ込めたが観念して入る。


 同時刻くらいにヴァンも水浴びをする為に湖に向かっていた。

 キャンプを張った時に色々と準備をし終えたあとそれぞれで訓練などしていたのだが、それでもほぼ一日手綱を持っていたヴァンには物足りずに女性陣が水浴びしている間も訓練を続けていた。そして満足でき、女性陣が帰って来たのをしっかりと確認し水浴びに向かっている。


 クロトはいなかったから先に行っているのだろうか。帰ってきてたいたのなら教えてくれたらよかったのにな。


 そう歩いていると水の音が聞こえた。

 もうすぐそばかと見ると湖が見えてきて人影が動いている。

 やはり先に水浴びしていたんだな。軽く声でもかけようとした。


「おーい…!?」


 立ち止まり月明かりに照らされて見えるクロトの体を呆然と見ていた。

 自分がおかしいと思った。

 その美しくほっそりとした綺麗な曲線が描かれ、いかにも女性と思わせる華奢な体、左腕を手で洗って見せるその綺麗な横顔に目を奪われる。


 するとクロトは立ち尽くすヴァンに気が付き声をかける。


「ああ、ヴァンも来てたのか。先に水浴びさせてもらっているぞ。俺はもう直ぐ上がるからゆっくり水浴びするといいよ」


「お、おう」


 ヴァンはクロトの方を見れずそっぽを向いてクロトから結構離れたところまでいき水浴びの為に上着を脱ぐ。

 その様子をクロトは不思議に思いながら見ていた。


 わざわざ、そんなにはなれなくても…まあいいか。寒いしさっさと戻って焚き火で温まろう。


 湖から上がりタオルで水を拭き取り服を着ていく。


 その様子を遠くから見ないように背を向けてヴァンは水浴びをしていた。


 …なんで俺はこんなにもドキドキしているんだ。落ち着け。クロトって男だよな…だけど、あの体つきは男のように見えなかったし、なんだあの横顔の変な色気は…。そもそもクロの性別なんて聞いてないから男という確証がなかった。戻ってほかの奴らに聞くか?いや、聞いたら聞いたでもし女だった場合、変な勘違い、いや勘違いじゃなく疑われて変な目で見られそうだ。そうなると今後がしんどいな。それにこのことをあの二人が知るとなると…。万が一の事を考えて今後の水浴びとかそういうのちゃんとクロトがいないのを確認してからにしよう。


 そう自分の熱を冷ます様にヴァンは湖の中に潜るのだった。

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