第19話 種明し

 時間は少し戻り。

 イヴァリスを出て帝都からの危機と嵐が行き去っての船での翌日の事。

 一先ず皆で名前などの自己紹介を終えた暇つぶしにクロトは資料を眺めシルスはその手伝いのような事をしている間、他の三人はババ抜きをして遊んでいた。


 状況はイブ一枚でメアのカードを引こうとしているところでイブは何の迷いもなくカードを引く。


「ん、一抜け」


「またイブが抜けて私とサナと負け決めかぁ」


 そう言ってメアがサナの方を向いてカードを引こうとする。

 二枚あるカードに触れてサナの表情を伺う。

 小心者のサナはそれに耐えれなく目をつぶって下を向いてやり過ごそうとする。

 メアもそれを見て、なんか大人げないような感じがして申し訳なくなりながらカードを引く。

 どうやらそれは外れ札のようで後ろにカードを回してシャッフルしてサナの方に向けるのだが、サナはまだ引かれた事に気が付いてないのか下を向いていた。


「サナ、次あなたの番よ」


「え、あぁはい」


 そう落ち着きなくおどおどとしながら迷いながらも直ぐにカードを引く。


「あ、やった」


「負けちゃった…」


 少し申し訳なさそうに喜ぶサナと少し悔しそうにするメア。


「メア、遊ぶのはいいがちゃんと伝えたメニューはやっているんだよな」


 そうゲームを終えてサナがカードを集めるのを見てクロトが呟いた。


「うっ。も、もちろんよ。今は、そう休憩だからいいのよ」


「…そうか」


 焦りながら言い訳をするメアの言葉にクロトはため息をつきながら資料を読むことにする。

 船の上だからあまり大きな訓練はできないから簡単な筋トレをさせようと思たが…まあ、ウルクルズロットに着いたら徹底的にするから船での暫くはいいか。


 メアがカードを集めていると、何かを思い出したようにクロトの方を向く。


「そう言えばクロ聞きたいことがあるんだけど」


「なんだ?」


「昨日のランドルフとのポーカーって一体何をしたの」


「ああ、そんなことどうでも…」


 そうクロトがどうでもいいだろと言おうとしたのだろうか何故か黙って考えこむ。


「いや、丁度いいな。話すとするか」


「教えてくれるの?」


「ああ」


 そう言ってクロトは資料を机の上に置いてメアの前に座りカードを受け取り、一度全てのカードを表に向け回収しシャッフルする。


「そうだなみんなに問うがトランプのカードゲームにおいて得られる情報はいくつあると思う」


 その問いにみんなが考え込む。


「いくつ…?そんなの場に出たカードか手札に来たカードが来た時とかその時その時じゃないの?」


「そうだな、他には」


「相手の表情などでしょうか」


「それも一つ」


「…呼吸?」


「そのとおり」


「えっと…わかんないです」


「そうか、皆は」


 そう更に問うと皆思い浮かばないようで困り顔でクロトを見る。

 クロトはシャッフルを終え裏向きに規則性があるのか並べていく。


「トランプというゲームで得られる情報は大量に存在する。まず相手という情報だ。口調や性格、表情に呼吸といったところか。次にカードだ。カードの枚数、ゲームによってはjokerを入れるか入れないかあるからな。そしてゲームが始まる前にカードの山札は何度、どの様にシャッフルされたのかということか」


「…えっと、それが何だというの」


「どういう勝負事もそうだ、相手が魔物や獣、そして人間という生物である以上、無駄なことであれどいろいろな情報を見つけろ。戦う場所、環境、地形もだな」


 そう言って、クロトは縦四、横十三にカードを並び終え一枚ずつ表にしていく。


「…うそ」


 全てのカードが表になったそれは、すべてのスートと1~13まで一枚のミスなどなく綺麗並べられていたのだ。


「一体どうやったの」


「そんなの簡単なことだろ」


 そういうとカードを集め再び適当にシャッフルしバランバラな順番となったカードを表向きに広げる。


「ここでカードの並びを暗記し、どうやって何度シャッフルされたかを考慮してカードの並びを考えただけだ」


 そうさも当たり前のことのように答えるクロトに対して皆は固まっていた。


「そ、そんなことできるわけないでしょ」


「そうか?慣れればできるもんだよ。ほら三人で回してシャッフルしてみろよ」


 カードを集めてメアに渡し、メア、サナ、イブの順番に細かく色んな仕方で何度もシャッフルされクロトに渡される。

 流石にこれだけやれば無理でしょと思っていたのだがクロトは何の迷いもなく山札の上からカードを並べていき、全てが並び終え皆で一枚一枚表にしていく。


「噓でしょ…」


 またもやカードが綺麗に並べられており、疑う余地はもうなかった。


「そんな、驚くことでもないだろ…なあ、シルス」


 ありえないと見る三人を見てそう言ってシルスを見るのだが。


「いえ…確認をして自分でシャッフルするのであれば私も出来ますが、流石に他の人がシャッフルしたものは出来ないと思います」


 あれ…慣れのせいで当たり前だと思っていたが当り前じゃなかったか…。でも、シャッフルを見てさえいればなんとなく分かるものだと思うんだがなぁ。


「まあ、なんだその。その内分かるようになるさ。それにこれに関しては分からなくても生きていく事には問題はないだろうから気にしなくていいだろ」


「まあ、それもそうか」


「さあ、メアは十分休憩できたろ。イブと一緒に筋トレしなよ」


「はーい」


 そう既に話に聞き飽きていたのか腕立て伏せをしているイブの方へメアが向かう。

 サナは植物図鑑といった物を眺め、シルスは資料の整理をし始める。

 クロトはカードを回収し終え預かるように持っていき再び資料を見るべく椅子に座る。


 メア達がいうことも思い返せばその通りだったな。夢の彼女と出会ってから何故か最初トランプばかりして負け続けてなんか悔しくて彼女に勝つために身につけたことだもんな。まあ、それがその先のことにつながるように役に立ったのだから何一つ俺には無駄ではなかったな。


 でも、これを身に着けたせいで一切カードゲームといったことが楽しくなくなったんだけどな。

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