第18話 騒拳のケリ

 ウルクルズロットを出発する六時間前の前夜

 夜の街道をふらつきながら歩く影があった。


「もぉ〜飲みすぎよ」


「大丈夫だっつ〜の…あ?」


 それはリヴェルトと女の二人であり、リヴェルトは前方にいるひとつの影に気がつく。


「なんだ、お前はあの時の…そう気持ち悪いガキか。こんな夜中に何してんだ?さっさと帰っておねんねでもしてろ」


 そう小ばかにするように煽りながら片手に持っている酒瓶をあおる。


「騎士って確かこうやるんだったか?」


 そうクロはポケットから取り出した物をリヴェルトの顔に投げつける。それは見事にリヴェルトの顔に張り付くように当たり、ゆっくりと地面に落ちる。


「なんだおめぇ、やるってのか」


「そうだけど、明日…いや今日の朝には出ないと行けないからな。その前にちゃんとケリをつけさせてやろうと思ってな」


「ふん、ばかばかしいそんなのに乗ると思ったのか?いくぞ」


「いいの?」


「いいんだよ、俺はもう寝てぇんだよ、今日は。そのために酒飲んでんだからな」


 そう言いながらクロトの横を通ると異変に気づいて即座に警戒したのか少し距離を作りクロトを睨み付ける。


「…てめぇ何しやがった」


 クロトは右手人差し指と中指の第一第二関節を曲げて立てている。


「ん?ただの酔い覚ましだよ。酔いと眠気が覚めたらやってくれるんだろ?」


 何だこいつの構えは、見たことないぞ…それに何かされたはずなのに体のどこにも触れられた感覚が無い…ふ。

 そう考えこむもリヴェルトはすぐに笑みを浮かべる。


「…いいぜ、やってやるよ。酔っていたから勘弁してやろうと思ったが、酔いが覚めちまったら仕方ねぇ…ぶっ殺してやるよ」



 訓練場に行くなり女が何やら魔法を展開していた。それは訓練場にある強化魔法の上にさらに補助魔法をかけているようだ。


「さすがに俺がそのままここを使えば、ここはただじゃ済まないし騒ぎになっても面倒だからな」


「粗暴なフリするくせに結構皆のことを考えてんだな」


「本当にそう思うのか?これはお前に助けを呼ばせないためだと言うのにな」


 怒りなどは感じられないが、見開いた殺意全開の眼光で睨み付ける。


「そうかい」


 女が準備できたようで上の席に着いて手を振る。


「じゃあ始めるか」


「そうだな」


 そうリヴェルトは構えを付ける。

 両腕を立てたボクシングの基本的な構え、やはりイブの時は遊んでいたか。

 もう始めの合図など必要なく戦いは始まっているのだが、互に動かないでいた。それは達人同士の先の読合い…ではなく。


「…お前ふざけてるのか?上着はそのままで構えもない…仕掛けてきた癖にやる気がないのか?」


 リヴェルトの言う通りクロトは何の構えもしようとしない。ただ突っ立ているだけでぶかぶかの上着で両肩を晒している。どう見ても動きにくい格好だ。


「やる気は満々だよ。これはお前と俺の上下関係を作るのと、俺の力を確かめるためなんだからな」


「上下関係な…そんなもんつかねぇよ。一発でてめえの意識はなくなるんだからな」


 そうリヴェルト言うなり音を置き去りに5m離れた位置から一瞬で距離を詰め右の一撃がもろに入り爆音が鳴り響き、クロトは吹き飛ばされて前のように壁に叩きつけられる


 はずだった。

「!?」


 手応えが全くない。見ると

 クロは片腕を立てて受け流したように立っていた。

 受け流したようなのだがその手応え自体がなかった。

 こいつ…一体何を、どうやって。

 そう一瞬考えるも直ぐにやめて、ラッシュに入る。一撃一撃が空を弾かせ爆音を鳴らす程の拳圧のある一撃。だがそれ全てをクロトは容易に受け流し避けていく。そうして受け流し距離を詰め掌底を懐に入れようとする。

 華奢な人間の掌底などたかが知れている。リヴェルトは防御など不要とし受ける前提のカウンターを決めにかかろうとした。


 何も音がならなかった。

 リヴェルトはとっさに両腕を立てて防御をしていた。それは自身の思考ではなく、思考よりも深く信頼における本能がとっさに防御させたのだ。だがそれは正しかった。リヴェルトの両腕に巨大な衝撃がありそれは全身にまで響いていた。

 なんだこれは…こいつのどこにこんな力が…ただ添えるように触れただけだぞ…。


 クロトの方を見るが追撃の気配を感じられない。

 あれほどの力のある攻撃で俺の虚を突いたのに攻め込んでこない、何を考えているんだこいつは。初めてこいつを殴った時も変な違和感があったが今回のそれとは少し……なるほどそういう事か。


 リヴェルトは少し考えた後に再び攻撃をしにかかり、クロトが再び受け流していきまたクロトが攻撃に入りカウンターをしに行くのだが、何かに気が付きとっさに攻撃から受け流しの姿勢に切り替えて少し距離を離す。


「なるほどな」


 その様子を伺いリヴェルトが呟いて構えを解く。


「…何か気がついたのか?」


「ああ、お前の魔法に関してだ」


 俺の魔法か…攻めてくる気配は感じられない、何か話したげだから聞くだけ聞くか。


「へぇ、一体何が…分かったんだい」


「お前の魔法は相手の力を防御することで蓄え打ち返すカウンター魔法だろう。だからお前は魔力を完全に隠すことに専念している。その魔法が使えるならば闘気も必要ないからな」


「ふむふむ」


「どうやらあっているようだな」


「はぁ〜残念ながら違うよ」


「なっ…」


「あんたが俺を吹っ飛ばした時シルスが言っていた通り、俺は魔力も闘気も持たない。つまり魔法なんて使えない。じゃあ、それがスキルかどうかというと残念、スキルでもない。これはただの武術だ」


 すごい考え方だな。まあ魔法があるという世界であればそう考えることもあるか。


「じゃあ、こちらも答え合わせと行こうか」


「ああ?」


「そんな間違っていたからって怒らなくてもいいだろう。あんただってわざわざ答え合わせしようとしたんだ。なら俺もしてもいいだろう」


「ちっ…なんだ」


 そう不満げにイラつきながらも話は聞いてくれるようだ。やっぱりコイツ根はいい奴なんじゃないのか。


「じゃあ、答え合わせしようか。あんたの魔法は簡単に言えば空気砲か。あんたの特出した身体能力と身体強化による単純な物理的魔法。あんたの豪腕と魔力をうまく使い、拳を振りぬく際にある空気を逃がさず集め圧縮し、圧縮された空気の爆弾を作る。そうして敵に拳が当たるより先にその爆弾が直撃し衝撃を与え、さらにその上から本命である魔力のこもった一撃を与える。当然先の空気の爆発によって生まれた真空を応用し、生まれた引力を使って威力高めてな」


 そう答えている最中にリヴェルトが再び攻撃を仕掛け、それを受け流す。


「ちっ、これも受け流しやがるか…」


「おいおい、まだ喋ってただろう」


「長いんだよ。真空?なんだそれ。意味の分かんねぇこと言ってんじゃねえよ」


「そうか、この世界では真空はそう知れ渡るほどのものではないのか」


 こういう戦いの才能持ちは理論より感覚型だもんな、こういう話そもそも通じるわけないか。


「何をぶつぶつと言っていやがる」


 男の大振りを利用して壁端まで一気に距離を離すと時間差で壁に大きな衝撃が走った。


 やはり、こいつの魔法は蓄積して開放する魔法…魔法のはずなのだが、どれだけ集中してみても魔法発動、魔力の気配が全く感じ取れん。まさか、本当に武術だというのか。そもそも闘気も身体強化も無しにどうやって俺の動きについてきているんだ。そしてこいつが受け流す時の違和感の正体は何なんだ…方向性を変えよう。


 ボクシングの構えをしていたリヴェルトは呼吸を整え直し構えを変える。


 後ろかかとを浮かせた前傾姿勢…レスリング系の構えか。


 リヴェルトは再びクロトに向かって両手を開き掴みかかる。

 クロトはそれに対して一切受け流すようなことはせず、逃げるように動き回り全てを避けるので精一杯という動きとなっている。それもそうだ魔力も闘気無しに捕まれてしまえば、華奢なクロトの体では到底抜け出せるわけもない。

 武術を使えばいいのでは、ないかという疑問があるがこれは恐らく自由な状態による受け流しの姿勢が必須だとリヴェルトは考える。なら受け流しの姿勢ができないように捕まえてしまえばいい。


 そう考えていたのだがクロトは器用に避け続ける。まるで意志を持っているのではないかと、長い髪と余分な上着がリヴェルトの指に一切触れぬようにと気味が悪いように避けさせる。


 だが、


 リヴェルトが空気の勘を掴み取り瞬時に距離を詰め深く踏み込みながらボクシングスタイルに移行し一撃を繰り出そうとする。クロトはそれにしっかりと反応し受け流しの姿勢に入り懐に入り込みカウンターをリヴェルトに入れる。それは見事に決まりリヴェルトはよろける。


 だが、クロトはリヴェルトが笑みを浮かべているのに気づき距離を取るべく次の動きに入ろうとするのだが。


 もう遅い。

 リヴェルトは直ぐにクロトの腕を握り折るかの如く掴んで振り上げ、引き寄せながら力いっぱい握りしめた拳を腹部に入れる。


 かはぁ


 魔力はこもっていないがそれでもリヴェルト巨体と身体強化の一撃は重く内蔵がつぶれたのではないかと思わせる激痛が走り、衝撃が全身に警報がなっているかのように響き渡る。


 リヴェルトの攻撃はそれだけでは終わらず、そのまま何度も殴り、両腕を掴み何度も腹部へ膝を打ち付け、しまいには片手で地面に叩きつけるように振り回し宙へ浮かばせ魔力を込めた拳がクロトを殴り飛ばす。


 クロトはそのまま施設の魔力障壁に叩きつけられリヴェルトが一直線に振りかぶりながら飛び込みトドメの一撃とばかりに更に魔力を込めた一撃を腹部へ叩き付ける。

 クロトの内蔵が傷ついたのか透明な液体ではなく真っ赤な液体が宙を舞った。そしてその衝撃に魔力障壁は耐え切れず五枚重ねてあった魔力障壁の四枚が割れてしまう。


 上で様子を見ていた女はやり過ぎじゃないかと心配になり立ち上がっていた。


 クロトは力なく壁にもたれてうつむいている。赤黒い液体をたらたらと流しながら。


 リヴェルトはそれを確認しながら己の手を開いたり閉じたり繰り返した後に振り向き立ち去ろうとする。


「おい、いくぞ」


 リヴェルトは上にいる女にそう声を掛けると一向にそこから動く気配のない女の様子がおかしいことに気づく。女はずっと倒れているクロトの方を見ている


 まさか


「何処に…行くって…?」


 そんな力ない声が後ろから聞えた。

 振り向くと満身創痍なクロトが立ち上がろうとしていた。


「はあ…丁寧に腹部…ばっか殴りやがって…」


「なぜ立てる…」


「ああ?…んなもん…簡単だよ…」


「…?」


「かりぃんだよ…お前の攻撃なんてな」


 一切表情の変っていないクロトが煽り口調に言う。


 !?


 その言葉を聞いて二人は驚き動揺をしたがリヴェルトはすぐに笑みを浮かべた。


「そうか、なら。もう絶命するまで徹底的にやってやるよ」


「…俺も少し勘が戻ってきたところだ…特別に今の本気でやってやるよ」


 口元の血を親指で拭い見下すようにリヴェルトを睨み付ける。


 先に動いたのはクロトだった。今まで受けに回っていたというのに、その異変に二人は再び動揺したがリヴェルトはすぐに切り替え迎え撃つように攻撃に入る。


 クロトはそれを軽く手首の動きではじくように避け、まるで優しく触れるようにもう片方の掌をリヴェルトの腹部に添えた。


「お返しだ」


 無形流術 黒式 四 『共振』


 リヴェルトは何かを受けた気がして咄嗟に身を引き距離を取る。

 なんてことない。ただ触れられただけ。それなのに巨大な衝撃が全身のあちこちに響き渡り内側から何かがこみ上げ口元から垂れる。

 何だ?

 そう手で拭い見ると血が付いていた。

 一体何が起こった!?


 アドレナリンか、それとも単に胆力があるのかあまり堪えていないな。

「いったい何が起こったて、顔だな。怖いか?」


 その言葉に一瞬固まり。すぐに笑みを浮かべ飛びかかる。


 それは考える事の放棄。

 彼は楽しんでいた。今目の前にいる理解できない未知を行使する生物との戦いを。


 だが、それはもう一方的なものだった。

 リヴェルトの攻撃は全て弾いたように避けクロトの攻撃に見えない攻撃がリヴェルトを襲い続ける。


 しばらく続いた攻々も終わりに近づいていた。


「もう、終わりだな」


「はぁ…まだ…まだ…」


 満身創痍だったと思われたクロトはあれから攻撃を一切受けず、むしろ回復しているかのようにピンピンしている。それに対しリヴェルトは満身創痍で今にも倒れそうな姿だった。


「そうかなら終わらしてやるよ」


 クロトはゆっくりとリヴェルトに歩み寄る。

 近づいて来るのを迎え打つように最後の力を振り絞った攻撃をするも、容易く避けられクロトは腕を軽く振りリヴェルトの体に掌底が軽く触れる。


 無形流術 黒式 五 『一振』


 その攻撃は触れている所から一定の衝撃が全身に扇状に広がり突き抜けた。

 それは今までで一番弱い攻撃だった。だがリヴェルトを倒すにはそれで十分であり、その衝撃が抜けたのに任せるようにリヴェルトは背中から地面に倒れる。


 静かな一時が流れ近づいてくる足音が鳴りやむなり、直ぐにリヴェルトが笑みの声を上げた。


「かっかっか、負けた。殺すなら殺せよ。俺はお前を殺す気でやっていたんだ。殺されても文句は言えねぇ」


「はぁ?何言ってんだ殺すわけないだろう。最初に言った通りケリを付けに来ただけだよ」


「ケリ?そんなもの。何もないだろう」


「ああ、すまん。間違えたケリを付けさせに来ただったな。臆病なお前のな」


「あ?」


 意味が分からない。お前のではなく俺のケリ?何を言っているんだ。こいつは。


「分からないって顔だな。まあいい、理解できるように説明してやるよ」


 説明?一体何を…


「11年前のヌメラトゥラスの天災 」


 !?


「ある騎士の団長がいた」


 まさかコイツ知っているのか…


「その男は常に皆を導き、守りながら無敗であり続けた」


 やめろ…


「時には厳しく鬼教官と呼ばれても、彼はとても優しい人であると皆が理解し付いていった」


 やめろ、やめろ


「そんな彼がヌメラトゥラスとの戦いの最後で呪いを受けた」


「やめろ!」


「そう、指示を無視して戦い続けたお前を庇ってな」


 …


「おかしいと思っていたんだ騎士団長が呪いを受けたと聞いたのはヌメラトゥラスが倒されて半年後、そしてお前が訓練をやめたのがその二か月前、関係がないなんてことはないだろう」


「そうだ、あいつは俺を庇って呪いを受けた。それは徐々に衰え魔力と闘気が肉体から抜け始めるという呪いだ。俺は幼い頃にあいつに救われ憧れて、追いつく、いや、追い抜けるようにと騎士に入り訓練を続けた。だが、無敗と言われたあいつは誰よりも努力していて、そんな簡単に追いつけるようなもんじゃなかった。だから常にあいつと競いながら鍛え続けた。そして天災がきて少しでもあいつに追いつけるようにと実戦に挑んだ。だが、俺は自分の事しか考えてい無かったせいで不意を突かれ、あいつは俺を庇ってあの怪物の呪いを受けた。最初は全く気がつかなかった。あいつは天災から何故か何倍も訓練を始めた。そしてしばらくしての模擬戦で俺はとうとうあいつの一歩手前に辿り着いた。とてもうれしかったし、何よりあいつが嬉しそうに褒めてくれた。だがそのあとすぐに気が付いた。あんなにも訓練を続けているのにあいつは一切強くなるどころか少しずつ衰え始めたからだ。あいつが何倍も訓練を始めたのは衰え抜ける分を補おうとしているのだと知った。俺はあいつに声をかけようとした。だが、あいつはいつも何事もないように笑って話す。俺のせいなのに。俺のせいであいつのこれからを奪ったというのに、あいつは何も言わない。なぜだ。攻めろよ、俺を攻めろよ。怒れよ、怒ってくれよ…」


「そしてお前は自分の一人強くなるのが申し訳なくなり。訓練をやめたということか?」


「…そうだ」


「だ、そうだぞおっさん」


「は?」


 すると訓練場の入口の奥から誰かが歩いてきているのが聞こえてくる。


「やはり、そうだったか」


「なんで…アイアス…お前歩けなくなったはずじゃ…」


「ほう、ひさしぶりの再会だというのに呼び捨てかリヴェルトよ」


「一体何が、どういうことだ。呪いのせいで寝たきりの生活となったと聞いていたのに」


「それは、このお方のおかげだ」


「は?」


「だから、クロト殿が私の呪いを解呪してくれたのだ」


「そんなバカなカリエンテのババアでも解けないといっていたのに」


 そうリヴェルトが言った瞬間アイアスは懐にしまっていた豆粒サイズの何かをリヴェルトの頭に弾いてぶつける。


「メイシス様であろう、この馬鹿もんが」


「だが、一体どうやって」


「残念企業秘密」


 人差し指を口元に立ててクロトが言う。


「まあ、そのことは、もうよい。それよりもだ、ワシが体が衰え始めたことを気にしていたと思っているのか?」


「それは…そうだろう」


「そんなわけがなかろう。私は誰かを守るために騎士になったのだ。己が傷つくのは覚悟の上だ」


「だが、同じ騎士だった俺のせいでそれが出来なくなっただろう」


「確かにそうだが、俺はあの時から成長が停滞しておったし、待っているのは老いによる衰えだけだ。それなれば、そんな私よりも、私より可能性のある若者を守り、その先を託すのは当たり前であろう」


「アイアス…」


 お、何だかいい雰囲気だな…お邪魔虫は退散した歓談でも楽しんでもら―


「だというのにこの馬鹿門が、全く勝手に騎士団の訓練をさぼり抜けてあちこちで遊び呆けおって」


 あ~…


 とアイアスの愚痴が始まりだす。

 俺は無関係なのでこっそりと抜け出口あたりまで行き振り向いて彼らを見る。

 怒ってはいるがやはり、どこか嬉しそうに、そして楽しそうに話している。抜けてきて正解だった。後は師弟の二人でこれまで話せなかった分、しっかりと語り合ってもらおう。


 帰路をたどっていると鼻血が垂れ、それを手で拭う。

 今の限界は大体一分か…結構…いや大分、引き抜かれてるな…。それはそれで好都合か。頼り過ぎは良くない、本来もつ自身の性能容量を増やすのが今俺のやるべきことだ。


 街灯は既に消え、心もとない薄明るい星々の明かりを頼りに夜道をゆらりくらりと歩き姿が消えゆく。



 後から聞いた話だが、リヴェルトは俺たちの出発前にバイロンに長期休暇の願いを出して国から出たそうだ。これもアイアスと話したことによって出た彼なりにこれからの事を考えてのことなのだろう。

 アイアスはというと、少しずつリハビリをしながら筋トレをしているようだ。

 バイロンのあの嬉しそうな表情は二人の進展を喜んでのことだったのだろうな。


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