第15話 嵐

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 ランドルフと別れて国の城門に行くとバイロンの部下が待機しており用意されていた早馬に乗せてもらい出発した。

 魔法というものがある世界というのもあってか馬に幾つかの魔道具が付けられており、それはすごいものだった。初日に乗った馬を遥かに超える速さで風を切り大地を駆けているのに全くというように風圧が抑えられているのか全く窮屈な感じはしなかった。道中ニ、三度の少休憩をはさんでいたが馬たちからは一切の疲れが見えず休憩を終えるなり直ぐに常に一定の速度で走り続け目的の港に着く。

 出発前はまだ夕暮れ前だったのだが目的の港に着くときには既に日は沈み月が昇り始めたところだった。それほどに早い到着に少し驚いていたがここでは普通なのだろうか。

 魔道具…興味深いな、詳しく調べる必要があるな。

 月の明かりがあるとはいえ深淵とも言える程に暗い海。危険ではあるがそれでも出港しなければいけない理由がある。それは敵である帝都の人間が明日この国に訪れるということだ何の用かというと、それはオークションの為だ。その為鉢合わう可能性を防ぐべく今のうちに離れようというものだ。大きな波など立っていなかった。だが、進行方向は少し曇っている。嵐になっているのではないかなどで少し不安でもあるがこれはむしろいい方向か。こんな不安な天気の中、航海する船は普通はいないはずだから。

 そうしてランドルフの従者らしき者達が紙がはいいているであろうアタッシュケースを持って合流し出港する。

 俺と四人はバイロンに連れられ話を聞かされるのだが、メアは船が苦手なのか早々にダウンしてしまった。


『三十年戦争』それは三十年に一度次元の空間が開かれ起こる勇者率いる人間と魔王率いる魔族による戦争。

 帝都の人間が世界から選ばれた6から15歳の子供を連れていき帝都にある聖剣を抜かせ勇者とし数年鍛えさせて戦わせているとのことだ。よく聞くような勇者ものだが三十年に一度って結構頻繫なものだな。その戦争なのだが、いつから始まった事かは知らないらしい。

 そしてバイロンは王となる前は四国の王達と冒険者をしており前回の戦争に参加していたということだ。

 彼らはその戦果とそれまでの経歴と、その後の天災を退け民に認められ国の王となったらしい。


「それでお前はそこで何を見たんだ?」


「俺達はある魔族と、戦ったんだ。それは四天王などと呼ばれていたな。そいつはとても強い化け物だ…はっきり言ってしまえば俺達はそいつを前に立った瞬間、ガイルとレア以外は直ぐに絶命していただろうな。それほどに強い奴だ」


 ガイルとレアはメアの両親だ。何でもガイルは相当な大剣の使い手でありそのチームのリーダーでもあったらしい。そして二人共メアが5歳の時に亡くなったそうだ。


「つまり、死んでいないという事はその魔族は手を抜いていたと?」


「ああ、奴からは一切の殺意のある攻撃などなく俺達は一擦り傷程度の軽傷ですんだ。そして他の奴らもそうだ。戦争に参加した人間の殆どが腕など体の一部を失うものはいれど死者は一名も出ていなかった」


「それでお前たちが帝都の人間が敵だというのはどこから来たんだ」


「確信ではないが三つある。一つは先話した四天王のような奴が帝都の人間を信じるなといったことだ。二つ目は勇者達が行方不明ということ。死んだという報告もなしに音沙汰もなく姿を消したということ。そして最後が先も話していたランドルフと同じ雨合羽の子供の予言だ」


 ほんと色んな所に手を付けているな。だが逆に怪しくもなる。それは後々でいいか。


「それでその子供が何なんだ」


「その雨合羽の子供は三ヶ月ほど前急に私の前に現れたのだ。そして言った「君たちの人間の本当の敵は帝都の人間だよ。信じる信じないは勝手だけど信じることになる一ヶ月後くらいに君の親友の娘が危機に迫るだろう。それは君には救えない。彼女の近く歩く黒い兎を頼れ。そうすれば危機から救うことができる」とな、一応もしもの時にとランドルフと関係をもって、どうにかしてメアを助けようと考えていたが、その予言通り黒い兎ではないが黒い髪のお前さんがメアの近くに現れた。そしてお前さんが危機から救った雨合羽の子供を信じざるを得ないだろう」


「なるほどな、それは納得だ」


 一先ずバイロン達が俺たちに協力的な事を知りその後も現状知っている話を聞き今後のことを決めまとまりかけていた。そう言えば彼女らとちゃんとした挨拶とかしていなかったか。それに彼女らの考えとかも聞いておく必要もあるしな。

 そう考えていた時。


 船が突然、大きく揺れる。

 外に耳を傾けると雨の激しい音が聞える。

 嵐だろうか。まあ、その辺は彼らに任せておけば問題ないだろう。

 すると慌てて走る足音が聞こえて来てバイロンの部下が勢い良く扉を開く。


「た、大変です、バイロン様!帝都の船が突如現れこの船の横に付きバイロン様に合わせてほしいと」


「何!?…こんなにも早く…それもこんな真夜中だというのに」


 バイロンの様子を見るに予想外のことに動揺している。

 これは結構まずそうか。



 バイロンからローブを渡され俺たちに、ここに隠れているようにと言って急いで甲板へと向かって行った。いつもバイロンが身に着けていたものだ。バイロンが言うにはこのローブには超強力な認識阻害と魔力感知を無効化するものらしい。まあ、俺には必要はないのでそれを一緒に乗っている彼女らに渡して甲板のに向かい影に密んでバイロン達の様子を伺う。

 外は既に雨が激しく振り注ぎ船が大きく揺れていた。そして不思議なことに少し明るい。それは天を覆う真っ黒な曇に小さな割れ目があり月明かりが射していたからだろう。

 船の甲板にはバイロンと部下数人、そして帝都の人間だろうかローブを深く被り顔を隠す者と、その後ろに統一された鎧を身につけた騎士達がいた。


「これはこれは、夜分に申し訳ない。イヴァリスに向かう道中、怪しげな船影が見えたのでな、帝国の者として見過ごせずに止めてしまった。さて、君らはどこの国の者だ?」


「我は四国メウリカの一国ウルクルズロットのバイロン・ヲルコットだ。急用があってだな今イヴァリスから帰国しているところだったところだ」


「ほう、お主がバイロン王か。ではこちらも挨拶するべきか。帝都ラズガルド、五老の一人。名前はないのだが悪く思わないでくれよ」


「そうか、ならもう、行ってもいいだろうか。こちらも急いでいてな」


「まあ、まて。実はな、何やら魔族に繋がる人類の転覆を図る者がいるというのを聞いていてな」


「…我がそんなことをするとでも?」


「いや、お前さんではないのだよ。もう名前も出ており数日もすれば手配書が出回るのかも…しれぬ」


「いったい誰なんだ?」


「メウリカの一国メルクリアの現王であるメア・フラスルトだ」


 ーーーー!?


 その言葉を聞いた瞬間、バイロンから放たれる闘気、覇気という威圧が放たれバイロン部下たちはそれに合わせて臨戦態勢を準備する。バイロンの武器だろうか、巨大な盾と剣がどこからか投げられてバイロンのそばに落ちる。


「そして、そのメアはイヴァリスにいるそうなのだが、何やらその逃亡を手引きしているというのを耳にしてな。一応この船を調査させていただきたいのだが…どうだろうか」


「拒否すればどうなる」


「何故拒否する必要がある?」


「それはいきなり来て赤の他人に触れ回られるのは嫌だろう」


「確かにな…面倒だが、仕方ないな」


 ローブの者はゆっくりと左腕を上げ始める。何かの合図だろうか、それより本当にこんな海のど真ん中で始めるつもりか…。バイロンの部下たちも武器を握っているしこれは避けられそうにないな…。

 そうしてローブの者の手が上がり切り振り下ろそうとする瞬間。


 再び大きく船が揺れさらに巨大な波の音が聞える。


 次はなんだ。と前を見るとローブの者達、バイロン達が何か黒くなっていくように見える。

 いや、暗く見えるが正解か、何かが月の明かりを遮っている。上?

 そう見上げると球体や結晶の形をした何かが浮かんでおり、よく見るとその上に一人座っていた。


「この、魔力…聖騎士殺しのメビックか…」


 ローブの者が上を見上げながらゆっくりと腕をおろして呟いた。

 聖騎士殺しそんな奴までいるのか…。にしてもこの存在感…ただ座っているだけなのにバイロンの先の圧より少々でかく不気味だ。何者だ…。


「漂流してたら帝国の船が見えてな。潰そうと思ったが一般人がいるから巻き込むわけにはいかないから、やめようと思ったが…。お前たちがやり合うのであれば関係なさそうだな…」


 と臨戦態勢に入ったのか四つの巨大な水球が現れ、それは何時でも船を押し潰せるというように二人の言葉を待ち空中で制止する。


「いや、こちらは別に。訪れてきた帝都の人間に挨拶をしていただけだ」


 バイロンは出していたオーラのような物を直ぐに抑え答える。


「ふーん、でお前は」


「ここでお前を消しておくべきだろうが海の上で不利だからな、やめておこう。下手に神兵を失うわけにはいかないからな」


「じゃあ、俺の気が変わる前に帰りな」


「そうさせてもらおう」


 ローブの者達は振り向き船へと戻って船は離れていった。それを見送るなりメビックという男も空中の水球を消してどこか夜の暗闇に消えて行った。

 危機が去り張りつめていた空気がなくなりバイロンの部下たちは気が抜けていたように姿勢を緩め船の作業に移る。バイロンも警戒を解き一息つき部屋に戻ろうとこちらを向く。

 気づかれる前に戻らないとな…。そう急いで戻ろうとすると。


「いるのであろうクロト」


 ああばれていたか。まあ、バイロンには使っていなかったし当然か。

 バイロンは部屋に戻るべくこちらへ歩いてくる。


「全く…。身を隠しておけといったであろう」


「いや、なにお前たちが敵という帝都の人間がどんなもんかと思ってな。俺たちの敵なんだ、直接見て知るのも大事だろう」


「それで、どうなんだ。お前から見て」


「そうだな、お前たちの全力を知らないし気配を隠しているからはっきりとは分からないが、直感的なものだと強い順に、メビックと神兵は同じくらい後は五老の次にあんたってところか」


「なるほど、俺が一番下か…」


「違ったか?」


「いや、お前の思った通りだろうな。我は基本盾役、個人の実力はそう高くない。だからあのまま戦っていては負けていただろうな。たぶんランドルフに感謝しなくてはな」


「そうだな」


 何故ランドルフに感謝というとこの世には魔法の別にスキルというものが存在する。そしてランドルフが持つのが《幸運》とその上にある《豪運》というものだ。《幸運》は常時発動しているがランダム要素が激しい。だがそれでもポーカーで役を九割の確率で作り出すことができる。そして《豪運》は万能ではないがそのランダムを除き思うがままに願いなどが叶うこと。

 こんなにも都合よく聖騎士殺しが現れ危機から逃れるなどあるはずがない。

 だからバイロンがスキルを使ったのか何かしらで情報を得て助けてくれたのだろう。

 殆どのスキルには対価が存在しないのだが、彼の《豪運》には対価が必要であり、使うには多大な何かを使うらしいが、それはバイロンも知らされていないと言ってはいたが…。大体予想はついてしまう。


 一先ず一難去りその後は何の問題もなく船で過ごしバイロンの国へと向かった。

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