第10話 対策
宿泊しているホテルに向かって戻りながら受け取ったファイルを一通り流し見する。
やっぱりそういう感じか…さてこれはどうすればいいかなのだが、やはりわかりやすくまとめるべきか。
エントランスホールの受付の人に白紙の紙を用意してもらい部屋に戻り、早速資料を元にまとめていく。
部屋の中はとても静かで時計の針が微かに聞こえ、入れていた紅茶の香りが漂い机の上にはチョコの包みのゴミが時間経つごとに増えていき、たくさんと転がっていた。
取敢えずまとめ終え背を伸ばし空になったコップに紅茶を入れて飲む。すでに冷めており香りは余りたたないがそれでも飲めばその香りを感じることができ疲れを少し癒すことができる。
気がつくと針の音とは全く違う音がきこえてくる。窓の方を見ると薄暗く空を雲が覆い激しく雨が降っていた。外を見るとすっかり光輝く夜の街となっているのだが、すでに道を行く人影は一切なくすこし寂し気に思えた。
そしてまだメアは帰ってきていない。大丈夫だろうかと心配になるも探しに行っても行き違いになる可能性もありどうしたものか…そう考えていると部屋の扉が小さく音を立てて開かれ人影がゆっくりと部屋の中へと入ってくる。
音の鳴った扉の方へ向かいそれを出迎える。
「メアお帰り」
そこには酷く暗く雨に濡れ切ったメアが立っていた。声をかけたのだが返事が無くずっと虚ろな目で何かを見ているようだった。心配になり彼女の肩に触れるととても冷たかった。一体どれほど長いこと雨にうたれていたのだろうか。
メアはゆっくりと触れられた肩に目をやりこちらを向く。
「…あ、ただいまクロ」
メアはこちらに気付くなり何事もなかったように明るく装うと挨拶を返してくる。
「いや~参ったわ。少し外で日向ぼっこしてたらいつの間にか寝てて。起きたら大雨降ってるなんて…ほんと今日は災難だわ」
「メア、そんなことより体冷たい。はやく体を温めないと」
「そうだね。ちょっと先にお風呂に浸かってくるよ」
そうメアはふらふらとおぼつかない足取りで浴室に向かおうとするも壁に当たりそうになりとっさに体を引く。
「いや、お湯の用意は俺がするから取敢えず座って待ってて」
「え、あ、うん、分かった…」
そういってメアを座らせる。部屋の中にあるタオルをいくつか使いメアを覆いかぶせ紅茶の為に沸かしていたお湯とはちみつや生姜湯などを使った簡単な温かい飲み物を渡して急いで湯船の用意をする。多少浸かれる程度まで入った所でメアを脱衣所に連れていきゆっくりとしてもらう。
こういう時は一人にさせてやるのがいいのだろうがあの足取りで彼女は大丈夫って言っていたが心配だ…。そしてこの話はどう切り出すべきだろうか。彼女の為を考えるのであれば今日話すべきだろうし。
数十分程して彼女は出てくる。
「心配かけて、そのごめんなさいね。いや、ほんと」
何やら寝ていた後のことなどを再び明るい顔と声で話すが、どう見ても空元気の作り笑顔と分かる。
「メア、もうそんな作り笑顔も、無理して明るく振る舞うのやめなよ。今それやるの凄く疲れるだろそれ」
「クロ、一体何を言っているの?私は別に作り笑顔なんて 」
「見てたよこの国の王とのギャンブル」
メアの言葉を遮るように言うとメアは一瞬硬直し目を合わせたくないのか下を向いていた。
「そ、そう…見ていたの…」
「メア、なんで自分の身を賭けてのギャンブルをしてるんだ? 君の正義感は昨日の行動からも、多少察する事はできるが余りにも無謀が過ぎる」
「…それは…その…でも」
「まあ、始まってしまったもんは仕方ないしな。とりあえず勝つ方法を身に着けてもらうよ。このまま負けられて奴隷になったりされると生活を紹介される側からしたら気が気でないからね」
「はい…て え?」
下を向いていたメアだが、その言葉を聞くなりようやくこちらを見てくれた。目を点にしてだけど。
「勝つ方法ってあるんですか」
「そりゃあるでしょ」
興味を持っているし先程の暗い様子も少しばかりは晴れたか。
彼女の前にファイブズポーカのカードの山、ファイル、そしてまとめた紙を目の前に広げる。
「これがその勝つ方法だっていうの?」
「ああ」
「一体どんなことが」
そう彼女が手を伸ばしファイルに手に取取ろうとするのを止めるようにそのファイルを押さえつける。
「その前に」
そう言ってクロは一つの透明な液体の入ったグラスを彼女の前に差し出す。
「これは一体…」
「取敢えず話は、これを飲んでからかな」
そうクロが意味深なことを言いながら液体の入ったグラスを差し出す。
「なぁに飲んだって死にはしないさ、まあ飲むもの飲まないも君次第で、私をどれくらい信頼して――」
と最後まで言うことなく彼女はそのグラスを持ってその中身を飲んでいった。
「少しくらいは警戒してくれないかな、全く…」
「だって、ずぶ濡れの私を心配してここまでやってくれたのだから警戒するも何も、でもこれって」
「ただの水、普通のお水だよ」
心配して優しく振舞えば誰でも信頼できるのかこの子は…先が心配だ。
「まあ取敢えず明日勝てるように準備を始めようか」
「ええ」
一通りファイルの中身とまとめた紙に目を通させて説明しながらトランプを用いて実践を繰り返す。
「確かにこれが本当なら勝てるかもしれないけどこれって――」
「そこまでわかっているなら結構だよ。取敢えず大体の感覚が身に着くまで繰り返すよ」
「分かったわ」
そうして淡々とクロがシャッフルして広げてはメアがカードを引いていくのを繰り返した。
「なあ、聞いていいか」
「何?」
「一応、メアは王っていう立場なんだから従者とかいるだろう。だけどここでは一度も見てないけどそういうのはいないのか?」
「いや、一人いるけど今は国にいるわ。国ではやることたくさんあるから、留守の間にいろいろと代わりにやってくれていると思うわ。従者はいませんがここまではこの国の使者の人達に案内されてきたわ」
確かに国を放って置けず従者が残って仕事をやるのは分かるが、それでも護衛を一人も付け無いのはおかしくないか…。
「そういえば闘技場のアナウンスしていた奴が持っていた契約書みたいなものはメアも持っているのか」
「持っているけど、見る?」
「ああ、一応」
メアは鞄の奥から四つ折りにされた紙を取出し差し出し、それを受け取り広げる。
契約書には呪文のような装飾がされており、しっかりと賭けられたものと双方のサインが書かれてあり、その下にもいくつか書かれていた。
1この契約は双方の真の同意の元結ばれたものである。
2途中の破棄は認められず破棄しようとした場合強制的に敗北と見なされまた、契約魔法の元災いがおこるだろう。
3決闘などの場合においてイカサマの発覚・証明があった場合立会人の判断により違反者の敗北とする。
4双方の同意のもと決闘の場所での魔法の使用をこの契約の元に封じる。
「一体どんな考えをしてたらこんな内容の契約の賭け事に同意するんだ」
「それがその…あまり記憶がないのよね。少し恥ずかしいけど」
「記憶がないって?それほどに熱くなってたのか」
「かもしれないわ…」
一息つきカードを引こうとするメアを無視してカードを回収し片づけていく。
「え、あの」
何が何だかと困惑するメア。
「お前は奴隷制を廃止して解放したらどうなると考えているんだ」
「それは誰も道具のように扱われない良い世界になるんじゃ?」
「そうか…確かにそうだな」
「あのクロ?」
その答えを聞くなり何だかクロは残念そうなそんな表情をしていた。私の答えは間違っていたのだろうか。誰だってみんなが平和で平等な生活を送れることを願っていると私は思っているのに。彼は一体どんな考えを持っているのだろうか。
「一先ず今日はこのくらいでとりあえず休め。ずぶ濡れになっていたんだから風邪ひかれて明日、本調子が出なかったら元も子もないし困るだろう。それに練習なら起きてからでもできるだろ」
「確かにそうね。でもその前に」
とお腹を抑える。
「ああ、そう言えばご飯を食べていなかったかどうする?軽くなら冷蔵庫の材料でどうにかなるが、ホテルの従業員にお願いするか?」
「いえ、もう遅いし軽食を済ませましょう。…そのクロの作った物が食べたいですし」
「そうかなら簡単なものを用意するよ」
「ええ、ありがとう」
満面の笑みを浮かべて返事をする様子を見てとりあえず今は心配する必要はなさそうだ。元は自信を失わせてしまったのは私のせいだし、そのせいで彼女が負けて奴隷にでもなられるのは他人であれど少々複雑で嫌な気分になる。だけど後のことは彼女次第か…。
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