第9話 ファイブズポーカー
困惑しているのも束の間。同名の別人かと思ったが今日の朝まで一緒にいた、あのメアがランドルフが出てきた対面の門から入場し観客からはブーイングの嵐や物を投げるものもいる。
あいつ何でこんなにも観客に嫌われているんだ。
「では今回行われる大勝負の商品と対価、まあまあ皆さんもうご存知だと思いますがこの契約書を開示して説明させていただきます。彼女メア・フラスルトが勝利した場合の報酬は奴隷制の廃止及び全ての奴隷の解放とのこと」
その報酬に気に入らないとばかりに貴族たちの不満の言葉が大きくなっていく。
貴族たちからしたら買ったものを手放せと言われているもんだろうから当然か。奴隷の廃止と解放…まあ彼女らしいお人好しといったところだろうか。だけどそれに対する対価、世界中に共通してある制度だからなお金をかけているとしても億では全く足りそうではないのだが…。
「そして彼女が負けた場合、いつも通り最も多く負けた日の負け分の支払い、及び最終日後日のオークションにて彼女自身に商品として出品されていただきます」
その言葉を聞くなり不満の声を上げていた貴族達は歓喜の歓声をあげて喜び始めた。
馬鹿だ…大馬鹿だろ…。
それを聞いて呆れてしまい顔を片手で押さえ下にうつ向いてしまう。
そして入場した二人は向き合うように中央に用意されている椅子に座る。
余裕そうにふんぞり返るランドルフに対して緊張しているのか強く拳を握り締め膝の上のせて硬い姿勢のメア。この時点で勝負の行方は半分決まったか。どの勝負もそうだ場にのみ込まれた時点で本来の力なんて発揮することなどできない。
そうして一人のあの仮面をつけたスーツ姿のディーラーが入場し彼らの間に立ち一礼する。そしてそれはカードの山を取出し一度表向きにカードを広げた。イカサマやカードの欠損等の確認か座っている二人がカードを見渡す。カードを見るに少し枚数が多いいように見えるjokerでも入れているのだろうか。
「ほら」
と大柄の男から差し出された一枚の紙を受け取る。ファイブズポーカーのルールの書かれた紙だ。わざわざこんな紙があるあたり、バーギャンブルでの男が言っていた通りこの国では有名なゲームなのだろうか。
基本的な役とかは普通のポーカーと余り変わりはないが違う特殊な決まり、ルールがある。
1、スートと数字の優劣、スペードはクラブに強くクラブはハートに強くハートはダイヤに強くダイヤはスペードに強い。そしてスペードとハート、クラブとダイヤは引き分け。1が一番強く2が一番弱い。
2、ゲームは必ず五回行われるのだが。この大ギャンブルとやらは三日間行い一日ごとにチップ数を勝負し一日でもチップを追い越すことができれば挑戦者側の勝利となる。随分と挑戦者に有利な勝負だ。
3、通常の52枚のカードに加えjokerの代わりにHN(Have-Nots)と呼ばれるカード5枚の計57枚のカードを使う。
4、山札は横に広げお互いに好きなところからカードを引くことができる。その代わりにドロップすることはできない。
5、互にゲーム進行チップが20枚配られる。チップは一枚10万Wとする。カードを引く前に最低10万W、最高50万Wかけることができる。これはどちらが先にカードを引くかを決めるためであり先攻後攻の選択優先権は基本的に挑戦者側にある。進行途中で全てを使い切ってしまった場合チップを補充できるが一枚に付き1000万Wの負債とする。そして互いの賭け金の合計に倍率がつく。
6、カードの交換は最大二回まで、一度目はチップを払わなくてもいいが二度目は10万W捨てなければならない。そして、交換するカードは捨て札として扱い互にそのカードを引くことはできない。
7、役が引き分けの場合挑戦者の勝ちとする。
8、HNのカードが入っている場合、役があったとしても強制的に負けとする。そして負の道化として役を手札のカードをもとに役と成立させ倍率を加算する。
9、HNの枚数につき更に倍率がつく。1枚2倍、2枚4倍、3枚16倍、4枚256倍。
10、HNは5枚そろったときのみ正しき役となる。それは全ての役に対して勝つが倍率は相手の持つ役の倍率の5乗とする。
つまりHNが揃ったとしても相手に役がなければ倍率は1、完全な地雷カードってことか。いかにしてそのカード達を引かないようにするかって言うのが大事そうだな。
支払金は三日間のうちの一番負けた日の金額を払うとそういうところもあって、結構挑戦者側に優しいのは配慮なのだろうか。
「ここでは頻繫に大きな賭け事が行われる。それは今回のように奴隷制の権利、この国の王の座、国のダンジョンの権利、国の全財産の一部その他諸々と多くの貴族がこの国の王に勝負を挑み王はその全ての挑戦を受けている。そして勝負に使われているのがこのファイブズポーカーというわけだ」
「そりゃ有名になるわけだ。となると今までの奴らも商品とされて全員売られたのか?」
「いや、あの王は基本的に欲がないからな今までは挑戦料として負け分だけ受け取っていた」
「となると今回が初なのか?欲が出たのは」
「さあな、それはあの男にしか分からないことだ。あの少女が欲しいのであればオークションの商品として出品する必要がないだろう」
「確かに。ということは見せしめか、ほかに何かあるのか」
ルールを読み終え卓の方を見ると、確認を終えたのかメアが頷くなりカードが回収されシャッフルし裏向きに横へ並べられる。
「準備は整いました。メア様ルールの確認は」
「大丈夫よ」
「では、お互い掛け金の提示をお願いします」
双方は最初から決めていたのか同時に片手を出し互いに1枚のチップが出される。
まあ初日、始まりとしては従順なかけ方だろうか。
「では、お互いに同チップ数なのでメア様が先手後手の選択ができます」
「先にひかせてもらうわ」
「ではメア様からお引きください」
メアは一、二枚はすぐに引いていたが残りの三枚は少し考えながら引いていた。ここからは当然、彼女の手札の様子は見えないが彼女の顔を引きが良かったのか少しうれしそうな顔をしている。
だからもう少しポーカーフェイスというものををだな…。
メアが引き終わるを見るなり、やる気なさげに溜息を吐き何かを呟きランドルフが適当に選ぶようにカードを引いていく。
「では、後攻であるランドルフ様から交換の権利がございますが」
「いらん」
「では、メア様交換いたしますか?」
「いいえ結構です」
「それではー」
そうディーラーが開示のすることを言おうとしたのかは分からないがそれを遮るようにランドルフがカードを表向きに場に放り投げる。
「は?」
メアはそれを見るなり固まり観客たちも少しざわついていた。
ランドルフの前に表向きに散らばったそのカードの内容はKのフォーカードとスペードのA。この行為が示す意味は勝ち目は無いからあきらめろという意なのだろう。現状あの手札に勝つことのできる役はストレートフラッシュより強い役のみ。
「ランドルフ様まだ開示の合図はしておりませんが」
「ああ、手が滑っただけだ、聞いてなかったのだが、お前あいつに交換するか聞いたのか」
「はい」
「本当にか?」
「…失礼いたしました。メア様交換いたしますか?」
「は、…あ、交換するわ…」
情けをかけられた…?私は負けるわけにはいかない。だから、交換するけど。それよりなんでこの男は私の手札じゃ勝てないとが分かったの…。
そう彼女は手札の3枚のカードを捨てる。そのカードはスペードを除いたQのカード達。つまりメアはQのフォーカードを作れていたのだ。お互いにありえないような幸運のいい手札だがメアの手札ではランドルフには勝てない。
そうしてメアは再びカードを引くが納得のいってない様子。
「メア様交換いたしますか?あと一度ならチップを一枚出すことで交換可能ですが」
「するわ」
そうしてメアが捨てるのは先ほど引いたであろう三枚のカード達。それはJ、10、9と並んだスートの違うカード達。彼女の手札がQは確定としてもう一枚が8であるのであればストレートの役は成立していただろうか。
最後の交換でメアが最初の一枚を引いて固まるも残りの二枚をさっさと引いていく。
「ではランドルフ様は既に開示しておりますのでメア様、開示をお願い致します」
メアはゆっくりとカードを表向き場に置く。
カードの内容は8のワンペア、そしてHNの二枚。
「おおおっと開始早々HNを二枚もだしてしまったあぁぁぁ」
先程まで静かだったアナウンスの男が急に声を上げる。それに釣られるように観客達も盛り上がる。
「精算します。ランドルフ様Qのフォーカード、それに対しメア様8のワンペア、そしてHNを引いているためメア様の負けが確定致します。Qフォーカードにより20倍、そしてメア様のHNカード二枚によりに4倍、更に負の道化による8のワンペアは負のフォーカードとなり20倍、合計1600倍。賭け金は20万Wの為ランドルフ様に3億2000万Wとなります」
たった一回のゲームで3.2億か…流石ギャンブルの国のゲームあたまおかしいお金の動きをするな。そしてメアはあの様子じゃあ、もう無理そうだな。
そうして待つ暇もなくディーラーはカードをシャッフルし第二のゲームが始まる。メアは1枚に対してランドルフは最大の5枚のチップをだす。ランドルフが先攻となり互に引いていき互にあまり手札が良くなかったのか互に三枚のカードを交換しそれでもカードが良くなかったのかランドルフがチップを1枚捨てカードを二枚引き直す。のだがに何故か観客席には戸惑いのどよめきが生まれていた。
メアは捨てられたカードを確認する。捨て場には既に互いが捨てたHNのカードが3枚捨てられている。ランドルフがHNのカードを引いていなければ確率は2/36引く。
HNのカードを引く確率はかなり低いが…。
「メア様は交換いかがいたしましょうか」
「いいえ」
「では、互にそろったので開示して頂きます」
そして互いにカードが開示される。
その手札に会場がどよめきが強くなる。
メアの手札は7のスリーカード、それに対するランドルフの手札は6と9のツーペアと一枚のHNカード。
「ランドルフ様HNのカードを引いているためメア様の勝利となります。7のスリーカードにより3倍、ランドルフ様のHNカード一枚により2倍、そして負の道化となりツーペアは負のフルハウスとなり7倍、合計42倍。賭け金は60万Wの為2520万がランドルフ様から差し引かれます」
結果を告げ終えてディーラーが第三のゲームを始めようとシャッフルをし始める中会場はまだどよめきが収まっていなかった。
「観客は何を戸惑っているんだ」
「見たまんまのことだよ。ランドルフがHNを引いたからな」
「意味が分からないな。五十七分の五の確率なのだから引くのは不思議なことではないだろう」
「確かにそうなんだが…お前さんランドルフが何と呼ばれているか知っているか?」
「知らないよ。ギャンブルの王だから豪運の王か」
「ああ、その通り豪運の王。そして負を知らぬ者。これはあいつがこれまでのギャンブルで一度もHNのカードを引いてこなかったことから付けられたものだ」
「へえ…」
それを聞きながら三ゲーム目の交換を見る。メアは二枚、ランドルフは三枚を交換しているところだった。
…そういうことか。
そうして一度隣の男を見てその場を離れるべくエレベーターの方を向き歩き始める。
「まだ終わってないが」
「もう、いいよ。今日の結果は大体予想はつく」
「そうか」
互いにそれ以上の言葉はなく、別れを済ます。
エレベーターで一階まで降りて扉が開くなり再び歓声が聞こえ始める。それを後にエレベーターからでて全く人のいない廊下に立つ。来た時は沢山の人が行きかっていたのに今は誰一人、自分以外の人の影は見えない。そうして出口を求めエントランスホールの方へ歩いて行くと小さな出店があった。
その出店はどう見てもこの施設には似合わない雰囲気で看板には漢字で『情脚宮』と書かれた怪しい店だった。店員はあの仮面とは違ったどこかの部族のような被り物のようなものをしており怪しさが倍増している。
取敢えず何も見ていないように前を通って行く。
「ちょいちょい、そこの君」
男か女か分からない中性的な声が聞こえ、先の店員を見るとそれは手招きしていた。
見てしまったからには無視することができずその店員の前に向かう。
「さあさあ、いらっしゃい。新鮮なものがたくさんそろっているよ。何買っていく?」
と商品をご覧くださいとばかりに手を広げるが、そこには新鮮なものという商品の様な物は一切見当たらない。そこにあるのはカウンターテーブルと片隅で大人しくくつろぐ猫と犬だけだ。
「動物を買う気はないよ」
「…?うちはペットショップじゃないよ」
何言ってるのこの人というように少し首をかしげて顔は見えないがキョトンとしているのが感じられる。
「じゃあ、何屋なんだ」
「ちゃんと看板に書いてあるだろう『情脚宮』だよ」
「いや、知らないよ」
「そ、そっか、知らないか…いや知らなくて当然かぁ」
そう寂しそうに隅っこに座り指で地面をなぞっている。
「よくわからんが情って文字あるし情報屋でいいのか?」
「そうだよ。情報屋さ」
店員はゆっくりと立上り元の位置に戻る。
「『情脚宮』。むか~しむかし、さらに昔、東の大陸にある小さな島国。そこのとある高貴な人に仕えておりいつしか出店として『情脚宮』の名前が与えられました。終わり」
「それだけ?」
「この先は有料で~す」
ぶ~と手を交ささせて×印を作る。
いや、有料と言われてもそんな興味ないからいらないけど。
「あっそ、で何の情報を売ってくれるんだ?」
「それはこれさ」
すると用意していたのか手を横に伸ばし一冊のファイルをだす。
「なんだそれは」
「それは買ってからのお楽しみだよ」
「ちなみにいくらなんだ」
「え~とだね」
そう懐からそろばんを出すなり陽気に弾き始める。
「2億Wです」
と笑顔満点にいうので
「いらないかな」
興味ないように無関心にで拒否し返し再びエントランスの方へ歩み始める。
ただのファイルに2億?それも内容も教えずなんて怪しすぎだし下手な詐欺にもほどがあるだろう。
「説明はできてもその根拠は理解されない。仮設は仮説に過ぎず。99%の確信、1%の不安、その1%の不安を消すには、その確かな情報となるものがあればいい、そうなんじゃないのかい?」
その意味深な言葉が引っ掛かり立ち止まり店員の方を見る。
「売り文句は分かった。だがなぜ2億だ」
「それは、簡単です・人が一生をかけて稼ぐお金。その平均に当たるのが約1億5000万。本来であれば100億のところですが。大大サービスです。これはあなたにとってはそれほど価値がありますからね。もう一つ言えばこれは我々の保険ということです」
「平均1億は大富豪から貧民を合わせての平均だろう。皆が皆1億も稼げているわけではないだろうに。それに俺が欲しいものが分かっているなら懐事情も分かっているだろう」
「ええ、わかってます。ですから未来払いでも構いませんよ」
「何でも知っているって感じで気持ち悪い奴だな…どうせ利子とかいって払う時には100億にするんだろう」
「おや、先に言われちゃったら駄目ですね。わかりました、利子はつけないことにしましょう」
やはりこういう相手は隙を見せず確実に証言を取らないとな…。
「じゃあ商談成立でいいのか」
「ええ、どうぞお受け取り下さい。またのご利用お待ちしておりますよ」
「どうも、払ったらそれ以降は利用しないだろうがな」
そう嫌味気味に言葉を投げファイルを受け取り今度こそ出口へと歩いていく。
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