第7話 バーとギャンブル
博物館を回るように展示物や装飾を眺めながら上の階へ上がる。
この施設のレストランやバーといった物は上の方にまとめられている。まあ案内板を見直せばその理由が直ぐに理解できた。
今日も昨夜と同じ量出されたら食べきれる気がしないしな。読書しかしていないし軽食を取りつつ一緒に軽い娯楽でも楽しもうとしようか、一応ここはギャンブルの国なのだから。
目的の扉を開けてそのお店の中に入る。
そこはカジノとバーが同接された施設でいくつものバーカウンターとカジノ特有のルーレットやスロットなどが設置されている。
そこには当然、貴族の人たちが沢山いた。入って早々出ようと思ったがあの時ほど酷い甘ったるい香水の匂いはしなかったのでここで済ますことにする。
どうせどこに行っても香水の匂いはついてきそうだから、これくらいは諦めるしかないだろう。
いいところはないかと各ゲームを覗きながら真ん中のバーカウンターの席に着く。
どの卓上のディーラーも顔を隠すための仮面のような物を被っており声にはダミーのようなものがかかっている。勝負事だし変な因縁付けとかのトラブル回避の為だろうか。表情を読まれないっていう点では彼らに少し部がある感じはするが客を見た感じ関係ないことか。全員ではないが一部の客も見ていれば分かる。勝も負けも大して興味などない。
彼らが行っているのは大金を賭けるという己が大きな人間であるという自己顕示、または有り余る使い道のない金で遊んでいるにすぎないのだろうから。勝ちたいであろう者もいるだろうが変にわめきたてても己を小さき輩であるということを周りの貴族たちに露呈するだけだ。だからここにいる誰もがくだらないプライドの為にお金を落としていくのだろう。
それにしても流石本場のカジノ、ディーラーの身だしなみ手際、態度と、とても綺麗でいいな。だけど…
ルーレット…スロット、時間つぶしにはなりそうだけど、どれもダメそうだな。となるとやっぱりカードなのだが…。いや、今回は大人しく軽食だけ済ますことにしよう。
少し奥にある人気の少ないバーカウンターの端の席について立て札のメニューを手に取る。
やはりという感じにお酒しかなさそうだな。しかもどれも一杯数千から数万って…正直お酒なんて飲んだことないしな。フルーツはあるみたいだしお金払えばノンアルコールのドリンクぐらい出してくれるだろう。この際水でもいい。
「ノンアルコールでなにかお願いします」
そうバーテンダーに頼むのだが聞こえていないのかバーテンダー何やら手元で何かしているがここからではよく見えない。
聞こえなかったのだろうか…だけどカウンターに立っているのだから仕事はちゃんとするべきじゃないないのか。そんな手遊びなんてしてないで…。…いや、もしかして本当に私に気が付いてないのか?取敢えずもう一度声をかけるとするか。
「あの…」
その声にようやくバーテンダーは少し遅れこちらを向くのだが、驚いている様子で二度見してきた。だが、すぐに落ち着きを戻し拭いていたグラスをおいてこちらを向く。
「すみません。気が付きませんでした。お手数ですがもう一度お願いします」
「ああ、いいよ。ノンアルコールで何かお願いできる?なかったらお水だけでもいいから」
「ノンアルコールですか。それならそこのメニューに書かれているものをノンアルコールで出すこともできますよ。そのほかでしたらミルクやコーヒー、紅茶、もちろんお水もお出しできますよ」
ノンアルコールのカクテルも用意できるのは良心的だ。ギャンブルに集中したい人用か子連れに考慮していたものなのだろうか。せっかくのバーだしカクテルを頼むか。
「じゃあ、ノンアルコールでさっぱりとした柑橘系のものをお任せで。あとそれに合う軽食を」
「はい、わかりました」
そう注文が決まるとすぐにカクテルを作るための物を準備をして作り始める。
手遊びしていたわけじゃなく疑ったのは済まないと思うが、私って本当に影薄いんだな…。
それにしてもこのバーテンダーはなぜか違和感のような何かを感じる。いや、他の仮面をつけている職員全員から違和感があるのだけどこのバーテンダーだけはなにかほかの人たちとは違う。一体何なのだろうか。
「お待たせしました。ハーバルトニックとトルティーヤです」
「ありがとう」
ハーバル…何だっけ。まあいいや、初めてこういうの飲むのだけど一体どんな味がするのだろうか。
そう未体験に対する好奇心に早速グラスを手に取り一口飲む。
…うん…大人の味って感じだな。私にはまだ早かったようだ。
香りはとてもいいんだけど…うん…まあ、そういうもんなんだろう。もう少し成長してからこういうのを楽しもう。さて、次はトルティーヤはメキシコの料理だったかな。すり潰したトウモロコシの粉を薄く円形に伸ばして焼いたものに野菜やお肉を包んだもの。
だけど目の前にあるこれは焼いたようには見えない半透明な薄皮に包まれたサラダ。
色からして小麦粉の薄皮何だろうけど火を通してないとあれなんじゃ。いやでも普通に出しているし大丈夫なのか。と恐る恐るかじりつくとその薄皮はひんやりとしていて一切抵抗感を感じさせず溶けるようにちぎれて新鮮なシャキシャキとしたサラダの食感を味あうことができる。この食感からして小麦粉の薄皮を茹でた物を何かして冷やした感じだろうか。でも手に取ったときはちゃんとした皮のような感じなのに口に入れてから溶けるようにちぎれるなんて。一体どういう仕組みなのだろうか。
それにしてもこの冷えた新鮮な野菜の食感とそれに合うように作られたドレッシングとても美味しいな。さっき飲んだ時はいまいちに感じたハーバルなんちゃらもとても美味しく感じる。そう食事を楽しんでいるのだが…。
先ほどからバーテンダーの人がじっとこちらを見ていて何というか…気まずい。それもあの目の高さのところを横長にくり抜かれたお面だ。不気味さも相まってなんだかなぁ…。
「あ、あの何か用?」
とうとうその視線に耐え切れず声をかける。
「い、いえ何でも。申し訳ございません…」
「いや、いいよ。何でもないのなら」
そう返して、残りのトルティーヤを手に取るのだが。やはり、何か用があるのではないかとこちらをちらちら見てくる。どうせもう一度問うても何でもないといわれるだろうからさっさと食べて帰るとしよう。
そう、最後の一口を食べると
一人の男が真ん中の席に音を鳴らして荒々しく座る。
なんだと思い視線だけ後ろを見るとその男の部下なのかここを囲むように立っており、バーテンダーを威嚇するかのようににらみをを利かせている。周りの客も何事かとこちらを見たりするが部下のような人達に見られるやそそくさと離れていく。
私も離れた方がいいだろうかと思い悩んでいると。
「あんただよな、バーギャンブルで権利証を商品にしているのは」
男がバーテンダーに問いかけるのだがバーテンダーは頷きも返事もしない。
「そんなこと聞くことではないということか…まあいい、取敢えずゲームさせろよ」
男がそう言うと後ろから二人の男が前に来るなり四つのアタッシュケースをカウンターの上に置きそのうちの二つを開いて見せる。
「各ケースに一億、総額四億だ。挑戦料は足りているはずだと思うが」
現ナマ四億って…。なんでそんな額普通に持ち歩いてんだよ。しかもそれが挑戦料って。その権利証て一体何なんだ。
バーテンダーは少しため息を吐いて手元で何かゴソゴソするなり何かをカウンターの上にそれを置く。
それはトランプの山札であり表向きに開く。
カードの確認か男がカードを一通り見て頷くとカードを回収しシャッフルを始める。
「では、ゲームはいかがいたしましょうか」
「この国ではポーカーが良く行われているからな。それで挑んでも勝ち目は薄いだろうからなウォーゲームでお願いするとしよう」
ウォーゲームということは【戦争】ってやつか。確かに五十二枚のカードを裏向きに均等に配り、そのカードをプレイヤーが自分のカードを裏向きのまま重ねて山札を作り、何かの合図で互に一番上のカードを出して最も強いカードを出したプレイヤーにポイントとしてその場のカードを受け取ることができるっていう感じのゲームだったか。
「分かりました。では、始めましょう」
そう応答するとシャッフルし終えカードを一枚ずつ交互に行きわたらせ、各二十七枚の山札とチェス風の刻印のされたチップ各二十枚、二人の間に14面0~6の三つのダイスと何やら時計を持った動物のような置物が置かれる。
それを見てそのゲームが自身の知っているゲームでないことが分かる。一体どういうゲームなのだろうか。
バーテンダーが置物のスイッチを押すなりメトロノームのように一定のリズムを刻み始める。
制限時間だろうかとみていると二人は互に山札の一番上のカードを場に置き互に手を引っ込めゴソゴソと動かし直ぐに置いたカードの上に手を置く。そして時間を知らせるように置物の音が鳴り、互に手をのけて裏を確認するそれを終えた後カードを表に開示する。
場に出たカードはバーテンダーが6、男は13。
それを見て最初は男の勝ちと思われたが男は舌打ちをし自身のカードをバーテンダーの方に弾く。
結構変則的なルールなのだろうか。
それからゲームは黙々と進み何となくルールが理解できた。
まずカードの強さなのだが、それは±6の法則だ。例として1なら8~13に強いが2~7に弱いって感じだ。
それだけであればただの【戦争】とあまり変わらないゲームなのだが、大きく変わるのは手元で何かした後にカードの上に手を置き裏を確認する時だ。ゲームの最中、あの刻印のされたチップがそのカードの上に置かれていた。それの確認のあとそのままカードの強さで一度勝負するのだが、その後にまた一つ勝負が行われる。それがダイスを使った勝負だ。
ゲームを見ていてそのチップには五つの種類がある。
戦争の階級に当てはめるとして兵のチップは一つのダイスを振ることができる。そして准士官は二つのダイス。少将は三つ。
まずカードの勝負の差分でポイントが付けられる。例で3と7なら勝った方に4ポイント、負けた方は0ポイントと。jokerは出した方が1ポイントである。
そのあとチップを出していた者はダイスを振る。そしてその出た目をポイントとして加算することができる。
五種類ある内の二つ中将と大将のチップは特殊で中将は1ポイント、大将なら2ポイントを加算し三つのダイスを振る。
そしてポイントで勝てばその前で負けても二枚獲得でき、引き分けであれば互に一枚ずつ、負ければ相手がそのまま二枚を獲得する。
普通の【戦争】のゲームのようにカードの強さだけではなく出たカードを見て残りのカードを考えつつどこで自分が有利にさせるかというチップを使った駆け引き、そしてダイスを振る有利があれど0を引けばどうしようもないという、もう一つの運勝負もあってそこそこ考えられているゲームであるなと関心を持っていると、ゲームはもう終わり間近となっていた。
ゲーム序盤は男が優勢が続いていた。
数ターン後、男は連勝しており更に有利を取り流れを自身のものにしようと大将の駒を使ったときバーテンダーは准士官の駒を使った。男は駒を見て一瞬躊躇ったがそれでも駒の強さで言えば自身が有利であるには違いなく自身満々にカードの開示がされる。
だが、それを見てさらに男は焦る。
それは男のカードが5に対してバーテンダーは11と最も強い6ポイントを獲得したからだ。
大将の駒の為2ポイントがありポイント差は4とダイス差は1。まだ勝負は分からず男は三つのダイスを振りポイントの合計は16。かなり強い数値でありバーテンダーは二つのダイスで10ポイント以上を取らなくてはならない。
そうと分かり男は余裕を取り戻し笑みを浮かべ、バーテンダーの振り見る。
バーテンダーの出目は両方とも6の合計18ポイントとなりバーテンダーの勝ちとなり二枚を獲得することとなる。
流れを確実につかみたかったであろう男にとってそれが大きなダメージとなりその後は酷くカードで負けてダイスを振るも0を出したりと負けが多く続いた。
そして現在獲得枚数は男が18、バーテンダーは26。互いの山札の残りは5枚ずつ。つまりあと一勝負でも男が負ければ勝負が決まってしまう。
そんな状況でありさらに男を辛くさせるものがある。それは当然戦況を大きく変えるチップであり。男の手元にはもうない大将のチップをバーテンダーは残していたのだから。
そして互にカードを置きチップを置くかの時間。有利であるバーテンダーは早々に決めるが、男とは言うとバーテンダーの大将の駒に准士官の駒を当てなければならないという苦悩がある為、長考してしまう。
だが時計を持った置物は待ってくれず合図の音が鳴る。
男は悩みに悩み、ゆっくりとカードの上に手を置きそしてチップの確認をし男は落胆する。
男は兵のチップに対しバーテンダーは早々に大将のチップを切ったのだ。
チップの確認を終え次にカードの確認が行われる。
男としてはここで6ポイントを獲得しておきたいところだが、そんな事は起こらず。
男は4に対しバーテンダーは8。格差4はであるがバーテンダーは大将のチップを使っているため更に2ポイント加算され6ポイント。
つまりバーテンダーが三つのダイスで総計7ポイント以上を出せば勝負が終わる。
男はただ祈る。バーテンダーがダイスが0を出すことを。
賽が振られバーカウンターで跳ね転がる音を鳴らし出目が出たことを無音で知らせる。
男は周りの音が聞こえていないのかその出目をゆっくりと確認する。
出目は5と3、合計8となりバーテンダーの勝ちとなりゲームが終わる。
「獲得数18の28。残り8枚となりこれ以上の勝負による勝敗の変化はないのでここで終わらせていただきます。では、挑戦資格である四億の提示は確認させてもらっているので挑戦料である一億は頂きます」
そうバーテンダーが終わらせようとすると
「……だ」
先程まで落胆していた男が小さく呟く。
「てめえインチキしているだろう」
男は顔を上げて威嚇するように怒鳴りつけた。
「カード、チップ、ダイス。その全ててめえが用意したものだ何か細工してるんだろうが」
ああ、予想通りの言葉が出てきたな。まあ、確かに男の言い分も分かるがそれは始める前に細工されてから確認するべきことじゃないのか。まあ、様子を見るに負けた時様の言いがかりをする為の手札だったのだろうか。
「そうですか、ではこれら確認していただいても構いませんよ」
男と周囲の仲間たちに睨まれながらもバーテンダーは冷静に場にある道具に触れず確認してどうぞと冷静に対応する。
男は周りの男を近くまで呼び道具を凝視して確認始める。カードの傷やダイスの重さ、道具の中身にないか仕組んでいるのではないかとナイフで切ったり割ったりしていた。
普通の人であればその様子もそうだがこの男たちに詰め寄られたりすれば萎縮したりするだろうにこの人は落ち着いているな。
このまま何事もなく終わればいいのだがと動こうにも動きにくい状況だしと思いながら待つのだが。
「おい!てめえ、一体何だこれは」
当然終わるわけなく男が怒鳴る。
「何でしょうか」
そうバーテンダー確認のために聞く。
「何でしょうかじゃねえよ。ダイスの一個の中からこんな物が出てきたぞ」
怒鳴りながら何やら小さな球体のような物とこれに入っていたと割った賽を見せる。
だがそれらを見る限り誰がどう見ても賽に入っていたよう跡などは見えない。というより机に置いてある破片が多分その割れた賽に合うだろうしな。
「…その賽はそこにある破片が形がぴったりと合うのではないのでしょうか」
彼も気づいていたようでその破片を指さすが男がどこだと探すフリをしてどこかへと弾く。
あの球体の様な物は後ろの男がポケットから出していたし事前に用意していたものだろう。大人数の仲間で確認しようとすれば視線を遮ってそういうものを取り出すこともできる。
やるなぁ…さて、これに対してどう対応するのだろうか。
バーテンダーはその様子を見てため息を吐く。
「そうですか、確かにダイスに細工が施されていたかもしれませんね。ですがダイスに関しては互いに同じ物を使用しています。それは公平であると私は思いますが」
確かにその通りだりだなと笑みをこらえる。
男たちは怒りのままに声を荒げながら、他に手はないかと時間稼ぎをするのだが。
「すみませんが。他のお客様に迷惑ですので早々にお引き取りください」
そうバーテンダー男たちの言葉を完全に無視し始める対応を取った。
大胆な対応だな。だけどそれは火に油を注ぐようなものだろ…。
と考えている通り男は今にも殴りかかりそうになるが周囲の警備の目もあり握りしめた拳を緩める。
「…なめるのもいい加減にしろよお前」
そう男が何故か重そうにゆっくりと右腕を上げて手のひらを開いてバーテンダーに向けようとする。
バーテンダーはその動作の意図がよくわからず何もせず立っている。
「死ね」
そう男が呟き右親指を曲げると爆音と何かが割れる音が鳴り響いた。
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