第5話 丁半賭博と戯れ

「へえ、やるじゃないか」


「どうも」


 その場にいる私と女賭博師以外が冷静さを失い動揺していた。

 それもそのはず。ここまでに四度の勝負が行われており四回連続で出目を当て続けているのだから。

 確率は21分の1を四回連続にして当てる。それは軽く計算してしまえば20万分の1だ。

 流れは完全に私が持っておりこのままいけば五回連続、400万分の1を当てることとなる。気が遠くなるそんな確率、到底できるとは思えない。そう女賭博師の後ろの男たちは最初の方で笑みを浮かべていたが、三回目あたりでその笑みは完全に消えイカサマを疑い彼らのチェックが入ったが何もでない。当然のことだ私は何も持ってないし笊やサイ、盆布とゲームの物を使用し用意したのはあちら側なのだから。


「じゃあ、最後行こうよお姉さん」


「ふ~、そうだな最後行こうか」


 そう言ってサイを振り笊を盆布の上に伏せる。

 最後の勝負というのもあり空気がチリついたようにも感じる。それは女賭博師からの圧だろうか。だけどそんなの関係ない私は出目を言うだけなのだから。


「最期らしい出目だねお姉さん…ピンゾロの丁」


「そうなのかい?ピンゾロの丁でいいんだね」


「ああいいよ」


「じゃあ、開けようか」


 そう女賭博師が笊に手をかけ周りの人たちがその結果をじっと固唾を呑み待つ。そうして女賭博師が笊を上げようとする瞬間。


「一体何の真似だい?」


 笊を開こうとする女賭博師の手の上にクロが手を置き制止させた。


「いや、なに最後なんだ一緒に開けてもいいだろう?」


「なんだい気持ち悪いな…まあいい、じゃあ。開けるとするか」


「イチニの半」


「何?」


 そう出目を言うクロに女賭博師は睨みながら聞く。


「いや、出目の言い直しだよ」


「ああ?そんなの通ると思っているのか」


「いいでしょ別に、まだ笊を一ミリも浮かせてないのだから。出目が確認できたわけじゃない。それとも何だろうか、まだ出目が分かってもいないのに言い換えられるとお姉さん的にまずいのかい?」


「っち…分かった。イチニの半でいいんだね」


 女賭博師は少し気に入らなそうにしていたが反論することがないと諦めたように目を閉じていうのだった。


「ああ、いいとも」


 そうして笊を開くと再びその場がどよめく。出目はイチニの半。正直凄いことだから盛り上がったりしてもいいところじゃないと思いながら女賭博師の手を離し一息つく。


「あんたの勝ちだね。賭け通りこいつらの負け分は帳消し。あんた、女を離しな」


「へ、へい」


 動揺しながら男がメアをクロの隣で離す。


「そこの男は離してくれないのか?」


「お前さんも嬢ちゃんも何を勘違いしているかは知らないがこいつは元々うちの社員のようなもんだ。金持って逃げたからけじめを付けさせようとチャンスの博打させただけだ」


「そうだったのか。なら余計な事だったのかな…ところで何を賭けていたんだ」


「指だよ。一回負けるごとに左手の指一本」


「それは…ある意味私が勝って良かったのかな…?」


「そうだな。お前さんのおかげでこいつは何の障害もなく職場に復帰できるんだからな」


「それは良かったよ」


「お前さん、人生の運をここで全部使いきったんじゃないかい」


「そうかもしれないし、そうでもないかもしれないよ」


「全くかわいげのないガキだ…ほら賞金だ。行くぞお前ら」


「「へい」」


 女賭博師達が行き去るのを見送って事なきを得たとか。



 とメアは私と女賭博師とのやりとりを説明してくれた。メアはその男がどういう要件で捕まっていたのかは知らずにただ何やら怪しく暴力などを振るわれ連れていかれそうになっていた男を離すようにと相手の賭け要求もちゃんと聞かずに勝負に乗ってしまったようだ。人がいいのはいいが余りにも無鉄砲なことだ。因みに勝負の賭けは五回勝負、一回でも勝てれば男の指の免除、だが五回全部負ければ彼女の左手の指全部を切り落とすとか…あの姐さんどんだけ左手を切りたいんだよ…。


「でその後、貴方にお礼と名前を伺おうとすると、急に鼻血を垂らして気絶するのだからびっくりしたわ。恩人である貴方を放ってはおけず背負ってここまで戻ることになったし」


「ああ、それはごめん。ありがとう助かったよ」


 急に鼻血垂らして気絶って何事だよ…。そんなしんどいことした覚えないんだけどな。


「でもなぜ、助けてくれたの。私たち面識ないですよね」


「ただの気まぐれだよ」


 そうただの気まぐれ。商業区域に行くために彼女のような上品な服装の人に恩人を売っとくにちょうどよかっただけ。まあ、あと姐さんの最後のやり方が気に入らなかった。ただそれだけ。


「で、ここからが私が聞きたいことなのですが」


「なんだい?答えれる範囲なら答えるよ食事とかのお礼に」


 机に出された食事を食べ終えまだ少し食べ足りず机の端に置かれていたパンのおじさんからもらった小袋に手を伸ばす。


「一体、どうやって。サイの出目を当て続けたのですか!?」


 メアは勢い良く机に手をついて食い気味に体を前に突き出した。


「ああ、それね」


「はい、貴方は普通じゃ有り得ないように出目を当て続けました。きっと何かして出目が分かっていたのでしょう。例えば透視能力といった魔法…いや、ここでは国の役員以外魔法は使えないはずとなると。魔法ではない何か…」


 わあ、急に魔法とか、超能力みたいな話出てきて語りだしたよ…そういうの信じちゃうオカルト大好きっ娘だったのだろうか。私はそんなの使えないしな~それにそういう知識疎いから何を話せばいいのか…取り敢えず合わせた方が夢があるというものだろうか…よく分からないな。


「ま、まあ…そうだね。じゃなきゃあんな無謀な勝負しないからね」


「一体何をしたの」


「それは」


「それは?」


「残念だけど教えられないかな」


「な、答えられることなら答えるとさっき」


 メアは一瞬気が抜けたように目を点にしていたが直ぐに戸惑いからか口早になる。


「うん、言ったけど。だけどそれを答えても君じゃ理解できずに意味が無いというか…」


「理解できないってなんなのよ、私を馬鹿にしているの!?」


 そんなに怒らないでくれよ…。だってあれは魔法とか超能力のような複雑な考えじゃなくてもっと単純なことだし。説明しようにもできないし分かってる範囲で教えたところでそんなホイホイできるようなものではないとやった私が思うことだし。


「まあまあ、落ち着いて。食後でちょうどいいしゲームしようよ」


 少し怒り気味のメアに手のひらを向けて落ち着かせるようにして提案する。にしてもそんなに必死にならなくても。


「ゲーム?」


「そう、ほらそこに丁度カードがあるしね」


 と夜景を眺めるための物か窓近くに椅子と机があり何かに使っていたのか何枚かトランプが並べられていたのが見える。


「そうね。ゲームなら話をしながらにもちょうどいいわね」


「そうそう、ゲームに勝ったらしょうがないから教えてあげるよ」


「いいの?私は先ほどの賭博は初めてで負けたけど、カードゲームは最近猛特訓していて自信あるのよ」


 そう自慢げに言う彼女を見てフッと笑いその机に向かって歩きながらクロが言う。


「そう?ならよかった。でもただ普通に勝負しても面白くないから特殊な形でやろうか」


「特殊な形?」


「そう、勝負は三つ。ジジ抜き、神経衰弱、そしてBJ。その勝負で一回でも君が勝てば君の勝ちだよ」


「わかったわ」


「じゃあ、ジジ抜きからしようか――。とその前に各ゲームのルールは分かる?」


「問題ないわ。それで特殊な形というのは」


「簡単なことだよ」


 そう言いながら一度カードがちゃんとそろっているかを確認するように全てを表向きに広げて回収しシャッフルを終えてジジとなるカードを一枚裏向きに置いく。そしてクロは近くにあるメモに彼女には見えないように何かを書いて裏向きにジジのカードの上に伏せ彼女は不思議そうにそれを見ていた。


「それは一体なんなの?」


「ここに、各スート、数字のペアカードについて書いた。これに書いてあるペアのカードでしか僕は上がれない。それ以外で上がれば君の勝ちだよ」


「つまり一枚でもそこに書かれたカードを私が切ってしまえば貴方は詰みになる。随分とあなたに不利なルールね。そこまでしないと私は勝てないと」


「まあ、そういうことでもあるけど。言っただろ普通にしても面白くないって」


 そう誰もがわかるような煽り気味な顔に言うと少しばかりメアの顔が引きつっていた。


「な、覚悟しなさいよ。そんな余裕すぐになくなるように貴方が書いたそのカードたちを抜いて見せるから」


「楽しみにしているよ。じゃあ始めようか」


 互に山札の一番上から一枚ずつカードを引いていきペアとなるカード棄てていく。



 当然ここでクロの書いたペアが捨てられる可能性もあるのにどうして自分にそんなルールを設けたのでしょうか…ですが、今のところ捨てたカードたちに反応した素振りもないですし…というより全然見てもないような。一体何を狙っているのでしょうか。


 互に準備が整いメアの様子軽く見ながらさっさとカードを引いていくクロに対しずっとクロの様子を見ながら熟考し引いていくメアなのだが当然のようにクロが先に上がって一旦クロが勝ってしまう。


「ま、負けた…だけど勝負はここからよね」


「そうだね。私が最後に上がったペアのカードはスペードとハートの9」


 そうニコニコとした笑みを浮かべながら言う。メアもいったん負けたことに悔しく思いながらながらも、まさかという風にジジの上にのるメモに手をかける。


 ――きっとその笑みはハッタリでしょう。きっと勝負に勝ってその笑みで確認することさえ意味ないのだと思わせるため。確かに負けてしまったが諦めてないわ。残念ですが私はしっかりと確認するわ。どうせ何も書いてないか適当なものを書いたに間違いない。さあ、そのデタラメを用意したことを後悔して私に教えなさい。


 メアはキッとクロを睨みながらメモを表にする――


「なっ――」


 予想外のことにメアは目を見開いていた。


「い、いったいどうやって…そんな…な、なんで…」


 彼女はそこに書かれていたものが信じられなくて動揺を隠せないでいる。

 そこに書かれていたのはクロが言った通りのスペードとハートの9ペア。そこまでならもしかしたらと心の隅で思っていた。

 だけどメアが驚いていたのはそこではない。その下に書かれたものだ。

 そこにはジジのカードと最後にメアが持っていたカードが書かれていた。


「さあ、どうやってだろうね。じゃあ次、神経衰弱行こうか」


「ちょっと、まっ」


「待たないよ」


 カードをサッサッと回収し綺麗に並べていく。


「さあ、始めようか。次はシンプルに先行はメアで失敗しても五回まで続けていいよ。当然だけど私は一回失敗したらターン終わり」


「も~わかったわよ。これで勝ってみせるから」


「そうそうその意気だよ。ほら頑張って」


 ――完全になめられてる。ですが私、記憶力には自信があるわ。一旦どんどん違うところをめくっていって位置を覚えつつ見つけた同じ数字はどんどん取らせてもらうわ。もしかしてクロには心を読む力があるのかもしれませんがこれならあまり関係ないはず。


 ほら、この通り一ターンで5ペアも取れました。私に五回も連続と言ったこと後悔なさい。


「ふふふ、予想以上に取られて言葉も出ないようね」


 とメアは自信満々にクロに向かって言うのだがクロは待ち時間の暇つぶしか部屋に置いてあったパンフレットの様な物を眺めていた。


「ん~終わった?5ペア?」


「ええ、貴方が余裕ぶって――」


「もう一回くらいやってもいいよ」


 クロがそう言い残してパンフレットに再び目を移す。


「な、結構よ」


 ――これはきっと動揺させるための作戦だわ。

 それに私が確認のために引いたカードの殆どが私に回収されて未確認のカードが圧倒的に多いい。

 残りのカードの枚数は42枚そして確認できているカードはそのうち6枚のみ。だからここでもう一度私にターンを与え他の所のカードを引かせてクロの選択肢を増やすための誘い。ですがそんな誘いにほいほい乗る程単純ではないのよ。


「そう?なら引いていこうかな」


 とクロが伸ばすそのカードに咄嗟に笑みを隠せないメアだった。


 何をしているの?それは先ほど私が最初に確認したカード。普通はまだ未確認のカードを引いてそれに合う確認したカードを引く物だというのに。もしかしてもうあきらめたの?それなら次の私のターンでさらに差を開けてあげます。


「ずいぶん余裕そうだね」


「ええ、これなら勝てる気がしてね」


「そう?」


 そうクロが迷いながら選ぶ姿にメアが笑みを堪える。


 なにその動きは。運試しするの?まさか私がひいたカードも全く記憶してないのではないの。勝てるわ、これは。


 そう確信の自信をもってクロの様子を見ているとクロがようやくカードを選択する。


「お、合ってた合ってた」


「運が良かったですね。喜んでいるところ悪いのですが運というのはそう簡単に続くものではないのよ」


「そうだね~」


 と再び先ほどメアが確認したカードを引いてしまう。


 もしかして本当に私のターンをみていなかったようね。余裕ぶっているから痛い目に見るのよ。


 そう――彼女はその時まで思っていた。そうしてクロはまた未確認のカードからペアを確立させまた、メアが一度引いたカードを先に引いてはペアを確立させるとを繰り返していき、そうして確認できていたカード6枚全てを回収しきってしまった。


 ――う、運が良かっただけ。そう、偶々運が良かっただけ…逆転はされたけどここからは完全に未確認のカードのみ直ぐに私のターンが回ってくる。それに数が減れば減るほど私の五回連続引いていくのが活かせる。なにも問題ないはず…。


 だが直ぐにクロのターンは終わらなかった。いや、クロのターンが終わることはなかった。それから一切の迷いなくクロは未確認のカードを引いていきペアを確立していった。そう、場のカードをがなくなるまで。


 さすがのメアも信じられず「イカサマをしているんじゃ」というのでカードの確認をする時間を与えるがカードに目印になるような傷などなくメアは観念して負けを認める。


「じゃあ、最期BJをしようか」


「もう…勝てる気がしないわ…」


「もう戦意喪失してるのか?張り合いが無いな~始める前の自身はどこへやら」


「…」


「まあいいや、もう夜遅いし一回勝負でさっさと終わらせようか。ジジ抜きと同じように私はBJ以外は負けでいいよ」


「そう」


 と元気のないメアなど気にせずカードをシャッフルしていきどこのカードを引きやすいように広げて彼女の前に出す。


「ほら、二枚引いて」


「え?」


「どうせ私はBJ以外は負けなんだからそれに最後のゲームだし特殊的にやってもいいでしょ」


「それでなんで二枚?」


「メアが二枚引いた後に私が一枚引くそのカードたちの合計が21なら私の勝ち」


「最後というのに結構適当ね」


「適当が一番なんだよ。こういうところは」


「…?」


 そうクロの発言に疑問を浮かべながらも二枚引くとクロが直ぐに一枚引いてメアに渡す。


「はい、終わり。私もう眠いから寝るね」


 とクロは既に勝ちを確信したかのような発言をして残りのカードを机に置くなりベットの方に歩いて行く。


「ああ、そうそう。答えは教えられないけどいいことは教えてあげるよ」


「…それは…一体なんですの?」


「大きな賭け事であるほどイカサマがある。そしてそのイカサマは、イカサマであってもイカサマではないんだよ」


「…は?」


「それと君はこういうゲーム?というより賭け事の勝負には向いてないよ。常に冷静であり感情を制御し悟られず観察するこれができて初めて一般レベル。それができていない君は素人同然。昼間の女賭博師レベルを相手にするなんて到底無理だよ。だからこれからはそういうところに無暗に突っ込まないことだね。じゃあ、私は寝るよ」


 そんな意味不明な言葉と彼女を否定するような言葉を残してクロは眠りにつく中、ただ座り落ち込むメア。カードゲームには本当に自身のあった様な彼女が何もできずに完敗しただけではなく。クロは自分がイカサマをしていたかもしれないと言っていた。彼女の前で堂々と。一度確認をしたのにも関わらずそのイカサマを見抜けずにいた。自分自身がとても間抜けに思えてしまう。そうして引いた二枚のカードと渡されたカードを見て呟く。


「本当に…何なのよ…もう自信が…叔父様…お父様…私は一体どうすれば…」


 そう彼女の声と小さな雫がこぼれ落ちる。

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