第17話 目標は何か

 実際、俺も暇な人間だ。今だって、活動が終わってホテルに帰ると何もする事がない。パソコンを立ち上げて、ボーっとしながらツイッターを眺めているだけだ。時々は書き込む事もするが。

 オリンピックが終わって、また高松に戻ったら何をしようか。また、何かのイベントでボランティア活動をしようか。だがそれは、たまにしか無い。俺は数十年の間、毎日生きていくのだ。ただ起きて食べて時々散歩して寝る・・・こういうのを何というか。もぬけの殻、いや違う。抜け殻、かな。まだあと10年は何か目標を持って働きたい。自分の為でもあるが、ちょっとは人の役に立つような事をしたい。

 やっぱり、自分の特技を活かすべきだろう。よっぽどやってみたい事があれば別だが、やはり年老いてから全く新しい事を始めるというのも難儀だ。自分が今まで培ってきた知識や技術を使って、また新たなステージで頑張る、とか。

 俺がやってきた事と言えば・・・うどん製品の開発だ。会社でやっていたのは、いかに讃岐うどんのコシを出すか、いかにコストを抑えるか、いかに販路を広げるか・・・そうか、開発と言ってもメニューとしては「素うどん」一筋だったわけだ。あはははは、笑える。讃岐うどんの本場の店では、うどんは変わらずにあり、天ぷらやらトッピングやら、プラスアルファで他の店との差別化を計っているって言うのに。

 そうだ。うちの店でも何か新メニューを出すというのはどうだろう。もう何年も新メニューは出していないはずだ。うどんは変えずに、つゆとか、食べ方に新しさがあれば。今、海外旅行客がほとんど来なくなって、首都圏からの客も減って、地元民にもっとうちの店に来てもらうような努力をするべきだ。母ちゃんや千さんや、それから常連さんの為にも、まだつぶすわけにはいかないよな、あの店を。

 俺は、何かが急に剥がれ落ちたような感覚に陥った。目を覆っていた半透明な幕が剥がれ、クリアに先が見通せるようになったような。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る