第18話 その手があったか
次に勇樹君と活動が一緒になった時、
「そういえばさ、この間話していた夢の事だけど。」
俺が切り出すと、
「うん。夢見つかった?」
勇樹君も乗ってきた。
「ああ、見つけたんだ。」
「なになに?」
「実家のうどん屋で、新メニューを創り出す事。」
「でも、うどん屋には携わってなかったんじゃなかった?長く居る従業員さんがいて、居場所がないんでしょ?」
前に話した実家の話を、勇樹君は覚えていてくれた。
「そうなんだが・・・。でも決めたんだ。高松に帰ったら、俺もうどん屋をやろうって。それで、新メニューを考えて、店で出すんだ。それが俺のこれからの目標だ。」
「へえ。かっこいいじゃん。じゃあ、僕の夢は、その新メニューを食べに行く事にしようかな。」
「お、いいね。」
「香川は遠いけど・・・日帰りで行ける?」
「行けるけど、夢なら大きく、だぞ。香川に来て俺の新メニューを食べたら、それから金比羅さんへ連れて行ってやる。瀬戸大橋も渡ってさ、宮島にも行くか?」
「わあ、いいね。僕修学旅行にも行けなかったから、瀬戸大橋なんて写真でしか見たことがないんだよ。」
「きっと行けるさ。俺の生きている内に頼むぞ。」
「それは、僕じゃなくて、医療の研究者が頑張るしかないからさ。」
勇樹君は気楽な感じでそう言ったが、俺はやるせない気持ちになった。確かにそうだ。夢を持て、なんて言ったって、彼の頑張り次第でどうにかなるものではないのだ。
「ごめんな。おっちゃん、何も力になれないな。」
「うううん。」
勇樹君は首を横に振った。俺は、何とか勇樹君を元気づけたかった。
「だけどさ、おっちゃんは勇樹君の書く文章が好きなんだ。いつもブログを読んでるよ。そうだ、ブロガーってのは今からでもなれるんじゃないのか?」
俺がそう言うと、勇樹君は少し困ったように笑ってこう続けた。
「僕が書いているのは日記だもん。ブロガーとして稼ぐには、どこかに行ったり、話題の新作を買ったりして、それを売り込むような文章を書かないと。僕には無理だよ。お金もないし。でも・・・。」
勇樹君は言葉を切った。そして、ちょっとはにかみながら、
「文章を褒められたのって、初めてかも。良く書けたね、くらいは学校で言われたかもしれないけど。」
と、言った。
「そうなのかい?でも、すごく文章が上手いじゃないか。」
「どんな風に?自分では上手いかどうかよく分からないんだけど。」
「すごく引き込まれる文章だし、なんか、上手く言えないけど、とにかく、おっちゃんは好きだなあ。」
「あ、ありがと。」
勇樹君はぼそっと言って、足下に置いてあったペットボトルの水を手にとって飲んだ。照れ隠しだな?俺は思わず微笑んだ。
「今からでもさ、闘病生活をブログに綴ったりすると、多くの人に読んでもらえるんじゃないかな。いずれ本になって出版されるかもしれないぞ。そうしたら、立派な仕事だ。」
俺がそう言うと、勇樹君は一瞬ぽかんとこちらを見た。
「そっか。その手があったか。」
そして、そうつぶやいた。
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