第13話 待ち伏せ
逡巡した。そんな事をしたらストーカー扱いされて、怖がられて、嫌われてしまうのではないか。
溜池山王駅はUACからは少し離れている。推奨ルートにもその駅は入っていなかったので、そこから通ってくる人は少ないと思われる。だとすると、ユニフォーム姿の人が来ればその人がユキさんという事になるのではないか。つまり、そこで待っていればユキさんが誰なのか、分かるのだ。
だが、ユキさんだと分かったところでどうするのだ?声を掛ける?何て?ドキドキしてきた。これは、単なる動悸息切れではない。まさか、まさか恋?分からない。恋なんてずっとしていない。いやいや、六十を過ぎて恋なんて気持ち悪い。やめやめ。そういうのではない。ただ憧れているだけだ。素敵な文章を書くあの人を尊敬して、憧れている。どんな人かが分かればそれでいい。それで十分だ。
翌日、俺はまるでストーカーのように、溜池山王駅の改札口前にいた。お昼の12時半だ。さすがにまだユキさんは通り過ぎてはいないだろう。あまり目立つところに立っているのも気が引けるので、きょろきょろと辺りを見渡し、少し離れた所にある看板のそばに立った。ここから改札口を通ってくる人を見ていれば、いずれ青いユニフォーム姿のユキさんが現れるだろう。
13時までは来ないと思っても、気になって何もする気になれない。腕を組んだり、足をトントンしたり、首を回してみたり・・・。いや、落ち着け。スマホでも開いて、嘘でも何か見ている風を装おうではないか。
スマホを開いて、思わずいつも使っている電車情報のアプリを開いた。この間路線図を調べたので、路線図が表示される。何となく、溜池山王駅を探す。
はっ、溜池山王駅は銀座線だけだとばかり思っていたが、もう一本地下鉄が通っている!南北線?どこだ?いや、どっちの改札から来るか分からないのだから、改札口で待っていてもダメだ。出口だ。桜坂がある方の出口!
今度は地図アプリを出して、この辺りを探す。桜坂は・・・あった、13番出口。うわあ、こっから遠いぞ。今何時だ?いや、まだ13時になっていないから大丈夫。俺は急いで13番出口へ歩いて行った。
5分弱で13番出口へ。地上へ出てみたものの、いやはや、よく分からん。ユキさんはここからアメリカ大使館の横を歩いて行くと書いていたが・・・。
しばらく13番出口付近に立っていたが、何となく、もう行ってしまったのではないかと思われた。もうUACに向かうかな・・・。だが、まだ13時4分。もしかしたら、さっきの銀座線の改札から今、こっちへ向かって歩いているかもしれないし・・・。
外で待っているつもりだったが、急にぽつぽつと雨が降り始めた。梅雨時だから仕方がない。傘を出そうとしたら、ざーっと激しく降り始めた。ここに立っていたら靴がびしょ濡れになってしまう。とりあえず雨宿りの為に地下道の方へ入った。階段付近にいると迷惑なので、階段を下りて少し行ったところで壁際に寄り、タオルを出した。俺はここを何分に出れば活動に間に合うのだろうか。そこまで考えていなかった。タオルで濡れた腕を拭きながら、まっすぐ伸びる地下道の方へ目を移した。
あ、来た・・・。まだ小さくてどんな人だか分からないけれど、フィールドキャストのユニフォームを着た人物が、歩いて来るのが見えた。
ユキさんだろうか。きっとそうだ。心臓の音が外にまで聞こえそうだった。ドクドク、ドクドク、と脈を打つ。これ、血圧大丈夫だろうか。そんな事を考えてしまって、ちょっとおかしくなった。いくら歳だからって。
だいぶユニフォームの人が近くなってきた。すらりとした人だ。髪は短い。ん?あれ、あれ?あれー?
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