第10話 夢中になって

 そのブログの作者は「YUKI」さん。ユニフォームを配布するという、わりと単純と思われる作業の中にも、悲喜こもごも色々あるようで、読んでいて面白かった。それに、ユキさんの文章は読みやすいだけでなく、とても綺麗で、時々ユーモラスで、俺は彼女の文章の虜になった。

 ユキさんとは一体どんな人なのだろう。俺は毎日そればかり考えていた。想像するのは、髪の長い30歳前後の女性で、少し内気で、けれども芯のしっかりした、前向きな人。俺の勝手な想像だが。

 ブログを読んでいるだけでは満足が出来ず、俺はとうとうツイッターで話しかける事にした。「毎回楽しく読ませてもらっています」とか、そんな感じの事だ。ユキさんは丁寧な返事をくれた。自分も6月から活動をしに行くと伝えると、ユキさんは会えるのを楽しみにしていると言ってくれた。


 緊急事態宣言は、なんとまたもや延長された。5月27日になって、今度は6月20日まで延長するという。

「なにー!!どうなってるんだ!政府は何をやっとるんだ!もう我慢できん!」

俺は家を飛び出した。だが、マスクをしていない事に気づき、すぐに家に引き返した。ああ、なんと不自由な世の中なのだ。

 しかし、もうこれ以上俺たち都外のボランティアを待たせるわけにも行かなかったのか、6月からは都外のボランティアも活動を開始出来る事になった。どれだけ胸をなで下ろしたか。ボランティアをやりたい、という思いに加え、ユキさんに会いたいという思いも募ってしまった。会ってみたい。どんな人なのか、一目見てみたい。


 5月31日。飛行機で羽田空港へ。都内のホテルに入った。明日からいよいよボランティア活動をするのだ。まだユニフォームを受け取っていないが、明日受け取った後に活動が出来るそうだ。

 東京UACに近い六本木のホテルに、2ヶ月間滞在する。もう、貯めた金を全部使ってもいいと思って来た。俺は東京オリンピックの為に生きている、とさえ思っている。これが俺の夢、今の俺の全てだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る