第4話 マカロン
「ただいまー。」
「あ、お帰り。」
「清太郎さん、お帰りなさーい!」
「お帰りなさい!」
「お帰りなさいまし。」
母親、バイトの女の子、男の子、千さんが、それぞれ声を掛けてくれた。俺は店に直接入って来たのだった。店はもうのれんを下ろし、片付けと明日の準備をしているところだった。うどん屋は朝が早く、終わるのも早い。夕飯時に開いている店もあるにはあるが、主に繁華街の中にある場合だ。うちは午後3時まで営業し、後は明日の仕込みなどをして終わりだ。みんながまだいたので、俺はマカロンを出した。
「これ、お土産。」
俺が箱をカウンターの上に出すと、
「わぁ!これ、マカロンですよね!銀座の!すごーい。」
と、バイトの女の子が喜んでくれた。
「マカロン?なんか聞いた事あるね。甘いのかい?」
母ちゃんも興味を持ったようだ。
「今食べるかい?俺、コーヒーいれてくるよ。」
俺は自宅の方へ渡り、自分の分も含めて5人分、コーヒーをいれてきた。そして、箱を一つ開ける。ちなみに、朝番の人たちもいるので、今開けるのは1つだけだ。
「すごい色ですね。」
千さんが言った。
「確かに。どぎついね。」
俺は苦笑した。田舎者には理解出来ない食べ物かもしれない。
「おいしー!」
「ほんとだ、上手い!」
若い子たちは、喜んでいるようだ。
「甘いねえ。良い香りだわ。」
いや、母親も喜んでいる。しかし、
「甘いっすね。」
千さんは苦笑して、無理矢理一つ食べたけれども、絶対にそれ以上は食べそうもなかった。女2人は2個目に手を出していた。俺も、実はこれは甘すぎて苦手。千さんは俺よりは少し若いからいいかと思ったが・・・千さん、すまん。
千さんは、30代から雇って、かれこれ20年くらいこの店で働いてくれている。千田(せんだ)なので千さんだ。調理場をしきってもらっている。千さんの揚げる天ぷらは、こんにゃく、なす、かぼちゃが絶品だった。俺は里帰りをするといつも、それらの天ぷらを毎日のように食べたものだった。
千さんのお陰で、うちの店は成り立っている。ここで働いてくれてありがたい。けれども、この千さんのいる限り、この店に俺の出番はない。店先の掃除くらいしかやることはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます