第2話 フィールドキャストに応募

 オリンピック・パラリンピックの話題には敏感になっていた。すると、あれやこれやとニュースに上るのは不祥事ばかりだった。競技場の設計見直しや、エンブレムの盗用問題、招致に関する金銭授受問題など。そもそも、招致時に発表された額よりもかなり莫大な金が使われるらしい。そんなマイナスなニュースばかりだった。

「あーあ、早くボランティアの募集始まらないかな。」

毎日のようにぼやいていた。

 それから、都市ボランティアと大会ボランティアのネーミングが決まった。シティーキャストとフィールドキャストだそうだ。また、マスコットキャラクターが東京の小学生の投票で決まった。ミライトワとソメイティだ。まあ、キャラクターはおじさんにとっては何でもいい、というのが正直なところだが。


 2018年9月。ボランティアの募集が始まった。俺は大会ボランティアであるフィールドキャストに応募した。

 応募はインターネットだった。一応会社でパソコンを使っていたし、苦手な方ではないと自負しているが、これは簡単ではなかった。英語表記も多いし、なんだかよく分からない。人に聞くことも出来ないし。これでは、お年寄りは応募出来ないだろうと思った。俺くらいの歳の人が上限じゃないかな、というのが実感だ。幸い俺は、どうにかこうにか応募は出来た。


 ボランティアに応募はしたが、募集される8万人を超えたら、全員採用されるわけではないらしい。まだ活動出来ると決まったわけではないのだ。しかし、うるさい事を言わなければ採用してもらえるのではないかと思った。うるさい事というのは、例えばどうしても野球に関わりたい、それ以外はやりたくないとか、活動出来るのは土日祝日だけ、とか。

 俺にはとにかく暇はある。1ヶ月だって2ヶ月だってやれる。仕事内容もこの際何でもいい。あまり英語には自信が無いから、英語力必須の仕事でなければ何でも。

 採用される事を祈りながら、店先の掃除をし、散歩をし、うどんを食った。店の中には入らない。俺は、会社ではうどんの製品を売っていた。うどんを打っていたわけではない。うちのうどん屋で出来る事など何もない。


 「ああ、早く決まらないかな。」

ため息ばかりが出る。そうして半年もの間、俺はボランティアが出来るのか、出来ないのか、と悶々としながら暮らしていた。冬が過ぎ、春が来た。

「おっ、メールが来たぞ!」

2019年3月。とうとうボランティアに参加出来る事を知らせるメールが届いた。俺は思わず小躍りして喜んだ。

「母ちゃん、メールが来たよ!オリンピックのボランティア、出来るってよ!」

すぐに母ちゃんに知らせたが、母ちゃんは分かっているんだかいないんだか。

「そうか、良かったね。」

一応、そう言ってくれた。

 メールには、オリエンテーションの予約をするようにと書いてあった。すぐに予約をした。俺はいつだっていいのだ。一番早く予約の入れられる所へ入れた。4月3日だった。

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