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 ああ、心の底から幸せだ。どこか心地いい。胸躍るとはこのことなのかと実感できた。

 なぜなら、夢にまで見た願いが今日一つ叶ったからだ。ずうっと昔に見て憧れていた記憶。

 それはゼントから贈り物を貰う事。何でもいいから私に対しての物が欲しかったのだ。


 ゼントはあの女が生きているくらい昔、あいつに色々なものを渡しあっていた。

 少し回りくどいけど、それも愛情表現の一種なのだと認識している。

 私も気持ちを伝えたかった。他にできる表現方法も思いつかなかったから。



 試しに心臓をあげたら彼も応えてくれた。剣や防具はただ心配だから作ってあげただけ。

 しばらくずっと観察していたけど、ゼントは誰かに物を贈ったことは一切ない。

 つまり、これは私を意識して送ってくれたものに間違いなかった。


 ようやく彼の近くに居られるようになったのにあまり進展がなく焦っていた。

 だけどこれで一歩前進しているのだと証明できた。今後はもっと積極的になれる。


 なにしろ今は世界の全てが輝いて見える。自分がおかしくなってしまったのかと悩んでしまう程に。

 興奮でまともな思考ができなくなりそうだ。少しは頭を冷やさないといけない。

 でも、ずっと維持していきたくもある。だってこの先そう簡単に味わえるものでもないから。



 ところで、この紫色の石は何なのだろうか?

 目的も無く渡してきた物とも思えない。きっと何か意味があるはず。

 でも人間は綺麗なだけの宝石を好む傾向があった。だとしたら――


 例えそうだったとしても関係ない。私の為にくれたものなんだから。

 それにしてもこの変な形の石、大昔にどこかで見たことがある気がする。

 まあどうでもいいか、重要な物ならあの石が覚えているだろう。



 ああ、でもとにかく嬉しい。言葉では表現できないほどに。

 きっと私に好意があるんだ。芽生えてくれただけで心が満たされる。


 以前、ゼントの大切な物を壊してしまったから嫌われてないか心配していた。

 原物はもう復元不可能だけど、念のためと標本を採っておいて正解だ。

 壊れにくく調整した模造品を渡して事なきを得たけど、どう思っているのか本心までは分からなかった。


 だから、私はこの感じた気持ちを少しも零さないようにしなければならない。



 ◇◆◇◆




 人間は本当に脆く壊れやすい。少しでも目を離すわけにはいかない。なのに……



 なのに、どうしようゼントがどこにもいない。町中を隅まで探したけど見つからない。

 町の外に行ったことだけは分かるけど何故?依頼に行くなら私が居ないとだめだ。

 ということはそれ以外の用があって、仕方なく町の外に出ていたのか?とにかく探しにいかないと……


 あの後から観察を怠ってしまっていた。あまりに嬉しくて感情が覚めず、はしゃぎすぎたのが原因だろう。

 やっぱりこれじゃあダメだ、怠惰だと思われてしまう。少しでも自分の利益を追求した己を罰したい。




 でも万が一のことも無く、すぐに無事に戻ってきた。

 あの赤い髪の女の肩を持って………


 何で一緒に居るの……? 私を置いてどうして……?



 ゼントは私の事を好きになってくれている。

 それは贈り物をしてくれたことからも分かった。

 なのに、どうして別の女と一緒に行動しているのだろう。


 疑問だけで頭の中がいっぱいになって、足は無意識の内に後を追って行っていた。

 あいつの家の中で二人が会話をしている。こっそり中に入って盗み聞きをした。勿論無意識の内に、


 よく思い出してみるとゼントの行方を捜した時に、微塵に破かれた紙が外に打ち捨てられてあった。

 何とか集めた後、書かれていた内容と今の会話から推察してなんとなく理解できた。


 どうやら女の方が怪我をして、ゼントは自分のせいだと責めているようだ。

 そうなるのも当然だろう。弱い人間と一緒に居ると少なからず危険が及ぶ。


 思わず体に力を入れてしまっていた。握っていた建物の一部が悲鳴を上げるほどに。

 すこし苦労したみたいだけど、これでよくよく理解したはずだ。傍に居るべきは誰が真理なのか。



 でもとにかく無傷でよかった。もしかすり傷一つでも負わせたのなら絶対許さない。でもそもそもあいつは……

 いやまだ傷付ける目的が不明瞭で、確かな証拠もないだけだ。少しでも疑わしい言動があれば即刻処理できる。


 もうあいつの行動には我慢がならない。ゼントをこそこそ後からつけたり嗅ぎまわったり。気付かれてないとでも思っていたのだろうか。忠告も入れたはずなのに、

 それでも慎重に行動しなければいけない。これ以上のあやまちを犯してはいけない。




 ……落ち着こう。また感情が思考の先を行ってしまっている。

 私は今、優位な状況に立っている。成果が出るまでに時間が掛かっただけで、きっと今までの接触方法でよかったんだ。

 でもだからこそ、他の女と一緒に居られると余計に腹が立つ。



 以前はゼントに対する考え方がもっと違った。

 彼が誰と一緒にいようと幸福に過ごせているのなら、私は遠くから眺めているだけでよかった。

 もちろん、他の女が近くに居てもゼントが楽しそうなそれでもいいと思ってる。


 でも今は……心がたまらなく壊れてしまいそうなほど嫌だ。

 呼吸を忘れてしまうほどの拒絶と切なさを覚える。


 猛々しく、劇的で、暴力的で、官能的でもある情緒。

 ……また怒りが漏れてしまっていた。何故か押さえつけられない。



 ゼントは私の事が好き。この青紫で綺麗な石を貰った事実がある限り絶対に覆らない。

 愛し続けていれば、愛し続けてさえいれば、向こうも分かってくれて、それはきっと見えるものになるはず。

 あの卑しい愛玩動物にも私の邪魔はできないだろう。

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