第105話『悪寒』
前半ちょっとグロいかもしれません。
――――――――――――――
きがつくと、めのまえに自分がいる。
自分のすがたはよくおぼえていないけど、たぶん自分だった。
ここはお兄ちゃんと一緒に住んでいる家だ。違和感のある光景にまぶたをさすった。
「ねえ?あなた毎日彼に寄生して、依存して、楽しい?幸せ?」
よく意味がわからないことを唐突にきかれる。
楽しいというよりもお兄ちゃんと一緒にいられるならしあわせ、とかえそうとしたがなぜか声がでなかった。
しかたなく、首を縦に動かしてこたえた。
「そう……でもあっちは、ゼントもそう思ってるとは限らないよね?あなたは一方的に彼の厚意を貪っているだけなんでしょ。だったら、私とそこを変わってよ」
相変わらず自分の声はだせなかった。ちがう、口がうごかせないんだ。
複雑な言葉づかいで意味はわかんなかったけど、全力で首を振ったことだけはおぼえている。
この人がなにをかんがえているのかわからなくって、こわくなって、必死にひていした。
ここはゆーらのばしょだから、いやでもだれにもわたせない。
でも目の前の自分は反応をかえさないで、顔色一つ変えずに手を正面にかざす。
すると突然全身がやけるようにあつくなって、ものすごくいたくなって、
ふと両腕を見ると、ゆっくりじわじわとすこしずつ溶けていってる。
やがて先のほうからどろどろになって、真っ赤になって体から崩れおちてく。
こげたような変な臭いがした。鼻をつまもうとおもったけど、腕全体がもうとけてた。
急に視点がさがる。脚がとけてなくなったから、たっていられなくなったんだ。
地面でのたうち回ることしかできない。おもわず叫びそうになるけど、喉はやっぱり声はでない。
代わりに激痛と共に口から赤いものが出てきた。血ではなく、溶けた肉のようなもの。
かすれて、うめき声にもならない音がでたけど、もう何も聞こえなかった。
臭いが感じられなくなって、目も見えなくなって、
そのうち痛みも感じなくなって、
――真っ暗な世界に閉じ込められた。
「――ユーラ!ユーラ!」
目が覚めると、炎のような光がみえた。
時間はそれほど経ってないようにかんじる。
「おにいちゃん、あれなんで……ゆーらはいきてるの?」
「大丈夫だったか?どこか体が痛んだり、変な感じとかはないか?」
そう言われて急いで体中をみわたす。
良かった、あの赤くて醜い姿じゃない。いつもとおなじ姿だ。
でもあれはなんだったんだろう。
「……それはだいじょうぶ……なんだけど」
「良かった……何があったんだ?森の奥で気を失っていたらしいけど」
ゆーらがそんあところにいくことなんてない。
でも何か心配させるようなことをしてしまったのかな。
とにかくはやくあやまらないと……
「ごめんなさい、なんにもおぼえてないの。おにいちゃんのかえりをいえでまってるところまでは、はっきりおぼえてるんだけど……」
「……そうか。まあユーラが無事ならそれでいいんだ」
「でも、おにいちゃんからだがとけてなくなっちゃった。ここはおそらの上とかじゃないよね?」
「……それはユーラがきっと何か悪い夢でも見てたんだよ。ここは現実だよ」
手を視界にもってくると、たしかにいつもの手があった。
感覚もあるのに、でも逆におかしなかんじがする。
お兄ちゃんもいってくれた。これは夢だ。そうだいつも見る悪夢にちがいない。
だってもしこれが現実だったら、ゆーらはしんじゃってるんだから。
形のない怪物になっているか、それかこの世にいなくなっちゃってるんだから。
死ぬときはお兄ちゃんといっしょだって決めたの。
いまげんじつではたしかにゆーらがいきている。
だからあれは夢だ。夢だ夢だ夢だ夢だ夢だゆめなんだ。
自分にそういいきかせても、まだ体がふるえている。
でもあの全身にかんじた痛みは、瞳が捉えた地獄のような景色は、
――夢じゃなくて、まちがいなく現実のものだったきがするの。
「――本当に助かったよ。森の中もきちんと見たつもりだったんだが、早合点で奥までは探さなかった。恐れ入ったよ」
一瞬、ゆーらのことをほめてくれたのかとおもったけど、ちがうみたい。
おにいちゃんの顔はゆーらではなく後ろにそそがれていた。
そこにはもう一人の人間がたっていた。何度かみたことがあるおにいちゃんの……
「うん。それでゼントが喜んでくれるならよかったよ。多分だけど、寝ぼけたまま森の奥に入って、そこでまた寝ちゃってたんじゃないかな」
そんなわけがない。おにいちゃんが夕方に帰ってくるのに、呑気にねているはずがない。
昼間はずっと退屈だから眠気が少しでもあったら眠って、おにいちゃんが帰ってくる時間にあわせるはずだから。
でも記憶があいまいで、もしかしたら黒くて長い髪の人のいう通りかもしれない。
つぎからはもっと気をつけないと、またしんぱいさせちゃう。それはいやだ。
「何かお礼をさせてくれないか?なんならユーラが作ってくれた食事でも……」
「お礼はいらない、私はもう帰る。それよりも明日の件を忘れないでね」
そう言ってその人は後ろを振り向いて出て行ってしまった。
明日の件ってなんだろう。今日はおにいちゃんは一日仕事に行っていて、明日はずっと家にいてくれるはずなのに、
あの人はおにいちゃんのなんなんだろう。
それになにか…………女の人からいやなかんじがする。
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