第110話110「決勝トーナメント準々決勝(3)」



「それでは、次に準々決勝二回戦! レイア・クラリオン選手、リュウメイ・ヤマト選手の入場です!」

「「「「「ウォォォォォーーーーー!!!!!!」」」」」


 司会のフェリシアがそう告げると、観客が一際大きく声援を送った。


「「「「「うぉぉーーー! レイア姫様ぁぁぁあぁぁあぁーーーー!!!!」」」」」


 いわずもがな、レイア姫様のファンたちによるものである。


「す、すごい、人気だな、レイア⋯⋯」

「そりゃ、そうよ。なんてったってこの国の第二王女よ? しかも、成績優秀で、おまけに魔法も武闘術も男性以上に長けている。それどころか、騎士学園入学前から魔獣討伐をするほどの実力よ? 正直、彼女が本気出したら一回生どころか、他の上級生を加えても上位に位置するほどの実力だと思うわ」


 レコはレイアのことをかなり認めているのか、スラスラと解説をした。


「レコはレイアのこと、かなり評価しているんだね」

「当たり前でしょ! 第二王女という立場に甘んじないで努力し続けている人だもの! そうじゃないと、いくら王族だからって、十歳であそこまで強くはなれないわ」


 ごもっとも。


「だけど、次の対戦相手はあのヤマト皇国の王太子⋯⋯リュウメイ・ヤマト。あの男、相当強いわ」

「レコ?」

「これまで約五年間騎士団にいたけど、あのリュウメイ・ヤマトの実力は、騎士団の中でも上位に食い込むくらいには強いと思うわ⋯⋯」

「ま、まさかっ!?」

「まだ、彼の本気を見ていないからなんとも言えないけど、たぶん、それくらいは強いと⋯⋯思う」

「レコ⋯⋯」


 レコが舞台に上がっているリュウメイを見ながら、若干震える声でそう呟く。レコがそこまで言うのは珍しかった。



********************



「はじめまして、レイア姫様。ヤマト皇国王太子、リュウメイ・ヤマトです」

「はじめまして。クラリオン王国第二王女、レイア・クラリオンです」


 二人が舞台上で挨拶を交わす。レフリーも二人の立場を察して、そのまま会話を続けさせる。


「レイア姫様のお噂は聞いているよ。騎士学園入学時前⋯⋯八歳の時から魔獣討伐に参加。Bランクの魔獣を単独撃破するほどの腕前⋯⋯と」

「そうですか、よく調べておいでですね。詳し過ぎる・・・・・ほどに⋯⋯」


 レイアはそう言って、リュウメイを軽く威嚇する。


「⋯⋯レイア姫様はどうやら誤解・・しているみたいだね」

「何のことでしょう?」

「ううん、何でもないよ。はそれで⋯⋯」

は⋯⋯?」

「それではっ! 準々決勝第二試合、試合開始ぃぃぃーーーー!!!!!」


 ゴーーーン!


「ハッ!」

「むっ!?」


 試合開始の合図直後、リュウメイが先に仕掛ける。素早い動きで体を右へ左へステップを踏んだ直後⋯⋯⋯⋯姿が消えた。


「⋯⋯フン!」

「ぐっ!? う、うそ?!」


 リュウメイの姿が消えたのはまさに錯覚・・で、実際は左右のステップから、急激に加速し移動することで相手に姿が消えたように見せるだった。


 しかし、レイアはそれを見破ると、背後からのリュウメイの突きを体を回転させ躱すと同時に、お返しとばかりにリュウメイの後頭部へ肘を打ち込もうとする。


 リュウメイはレイアが自分の突きを躱したことに驚きつつも、レイアの繰り出した肘を余裕を持って腕でカバーした。


「今のはヤマト皇国の武闘術『龍拳』の技の一種ですか?」

「うん、そうだよ。龍拳・一位階『疾風はやて』。まさか、初見で躱されるとは⋯⋯⋯⋯驚きだよ!」


 リュウメイは今の攻撃を避けたレイアにニッコリと笑顔を返した。


「⋯⋯さっきもそうですが、ヤマト皇国の者たちはどうもクラリオン王国を軽く・・見ているようですね」

「そ、そんなことないですよっ!?」


 そう言って、リュウメイが両手を前に出し、バタバタと振って必死に否定をアピール。


「そうでしょうか? 先程の試合のウキョウ・ヤガミの態度も然り。それ以前の試合においては、お二人ともです」

「ま、ウキョウは負けてしまいましたけどね⋯⋯アハハハ」

試合では・・・・です。実戦であれば結果はどうなってたかわからないというのが私の見解です」

「!⋯⋯⋯⋯なるほど。レイア姫様は実に達観していらっしゃる。これは本当に驚きです」

「!」


 突然、さっきまでの軽い感じだったリュウメイの雰囲気が変わる。


「一つ、誤解しないでいただきたいのは、本当にクラリオン王国の方々をに見ているというのは違います。それだけは訂正させてください。ただ⋯⋯」

「ただ⋯⋯?」

「ただ⋯⋯⋯⋯我々、ヤマト皇国の個人の力は他国に比べて強大であると自負しているだけです」

「っ!? そ、そんなの⋯⋯言っていることは一緒⋯⋯」

「一緒ではありません! 我々、ヤマト皇国の民はどんな相手にも『敬意』を持って接します。同時に、我々ヤマト皇国の民は自身の国や力を『五大国一』だと『自負』してもいます。それは相手を下に見ているということとは全然違います。聡明なレイア姫様なら⋯⋯⋯⋯わかるでしょ?」


 最後、リュウメイは最初の『おちゃらけ』に戻って、ニコッと悪戯な笑みを浮かべる。


「わからないこともないが、あなたの⋯⋯いや、お前・・の言葉は、いまいち信用⋯⋯⋯⋯できんっ!」

「そりゃ、どう⋯⋯⋯⋯もっ!」


 そう言うと、二人は互いに間合いを詰めると接近戦を始めた。先ほどより何倍も早い拳や蹴りを繰り出して戦うその様子に、観客は言葉を失い、ただただ眺めていた。


——しかし、その接近戦は長くは持たなかった。

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