第109話109「決勝トーナメント準々決勝(2)」



「火属性中級の防御魔法『炎陣防壁フレイム・プロテクト』。しかも、炎の防御威力が⋯⋯だいぶ高いな」


 試合を見ているレイアが感心するようにボソッと呟く。


「そうですね。あのウキョウ・ヤガミというヤマト皇国の人⋯⋯魔力量けっこう高そうですね」


 レイアの言葉に呼応するかのように呟いたのはカイト。そして、


「そうね。ウキョウ君、かなりの魔力量を保持しているんじゃないかしら。しかも、まだ全然余裕ありそうだし⋯⋯。ただ、イグナス君も魔力量が増えたおかげで、魔法や武闘術に魔力を供給することができるようになった。この勝負、まだまだわからないわ」


 冷静に二人を分析するのはレコ。三人とも並んで試合を観戦していた。


 レイアもレコも『カイトへの想い』を図らずもガスに知られてしまったことにより完全に開き直る。結果、二人は舞台裏で見つけたカイトを捕縛し、半ば強引に舞台横の観覧席へと引っ張ってきて今に至る。


「な、何が、どうなっているんですか、あれ?!」

「お、俺も知らねーよ! 兄貴、知ってますか?」

「俺も知らん。なんか、気づいたら⋯⋯ああなってた」

「ふ⋯⋯カイト君、モテ期到来ですね」

「な、なんだとぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」


 ザック、ガス、カート、ディーノ⋯⋯つまり、カイトの『舎弟メンバー』らは、カイトを挟むようにして並んでいるレイア・クラリオンとレコ・キャスヴェリーを見て戦々恐々としている。いや、正確に言うとカートだけである⋯⋯。


「カイト、許すまじっ!!!!」


 眉間にシワを寄せながらカイトに熱い視線を送るのは荒ぶる神、カート・マロン。そんな荒ぶる神をよそにイグナスとウキョウの戦いは激しさを増していった



********************



「「はぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」」


 二人は距離を置くと、魔力を練り始める。すると、二人の周囲がユラユラと蜃気楼のように揺らいでいる。


 初め、二人は体術で一進一退の攻防を続けていたが、お互い「埒があかない」と判断。すると、二人が同時に相手から距離を取る。そして、示し合わせたかのように魔力を練り始めた。


「す、すごい⋯⋯練り上げる魔力で二人の周囲が揺れて⋯⋯」

「お、おいおいおい⋯⋯大丈夫なんだろうな、舞台の防御結界魔法は⋯⋯」


 客席からは、凄まじい魔力を練り上げる二人を見て、これからぶつけるであろう魔法攻撃を想像し、舞台の防御結界魔法が破れないものかと不安を口にしていた。


「二人とも体術は互角⋯⋯と見て、魔法勝負に出たわね」

「うむ。それにしても二人とももの凄い魔力を有しているな。正直、ここまでとは⋯⋯ウキョウ・ヤガミも凄いが個人的にはやはりイグナス・カスティーノがこれだけ魔力が増えたなんて⋯⋯いまだに信じられん。カイト、さっき約束したとおり、カイトの魔力コントロールを教えてくれよ?」

「は、はい⋯⋯っ!」

「え? レイア姫様もカイトの魔力コントロールを習う約束をしているんですか?」

「何? レコ先生もカイトの魔力コントロールを習う約束をしているのか?」


 レイア姫とレコがカイトをギロッと睨む。


「えっ?! あ、いや、その⋯⋯い、一緒に学んだ方が楽しいかなって⋯⋯」

「「はぁぁぁあぁぁあぁぁ〜〜〜〜!!!!」」


 レイアとレコが大きなため息を吐く。


「⋯⋯わかった。とりあえず、いま・・はそこから始めよう」

「⋯⋯そうですね。勝負・・はまだ始まったばかりです」


 フフフフ⋯⋯。


 オホホホ⋯⋯。


 舞台外では、また別の戦い・・が始まっていた。そんな、レイアとレコふたりに囲まれ、蛇に睨まれたカエルのように縮こまっているカイトを見たガスが「⋯⋯お、恐ろしい」と恐怖と同情を込めて呟いた。



********************



「勝負だ!『火炎弾ファイヤー・バレット』!!!!」

「望むところだ!『氷結凝固フリーズ・パック』!!!!」


 一方——舞台では、ウキョウ、イグナスともにお互いの最大威力の魔法を展開。お互いが繰り出したのは中級魔法ではあるが、威力的には上級魔法に近いレベルのものであった。


 ズズズズズズズズズ⋯⋯。


 二人の強大な魔法がぶつかる。どちらも相手の魔法を飲み込まんとしようとしている。


「す、すげえぇぇぇーーー!!!! ふ、二人とも、なんつー魔法威力だよ!?」


 カートが二人の魔法を見て、興奮混じりに叫ぶ。


「ウ、ウキョウ・ヤガミ⋯⋯私の予想以上です。あれだけの魔法を駆使できるとは⋯⋯」

「それよりもイグナスだろ!? あいつ⋯⋯あれだけの威力の魔法を発動できるくらい、魔力量が上がっていたのか!?」


 ディーノはウキョウの実力に驚愕するが、その横でガスはイグナスの予想以上の魔力量に驚きを隠せないでいた。


 二人の魔法がぶつかること、数分。そして⋯⋯⋯⋯決着はついた。


「勝者⋯⋯⋯⋯イグナス・カスティーノ選手!」

「「「「「ワァァァァァァァーーーーーー!!!!!」」」」」


 最終的に、イグナスの氷魔法がウキョウの火魔法を飲み込み、そのままウキョウに着弾。一瞬にして氷漬けになるウキョウ。レフリーのカウントが始まり、その間にウキョウは何とか自身の火属性魔法で氷解を試みていたが、結局間に合わず、レフリーがテンカウントを取ったことにより、レフリーストップでイグナスの勝利となった。


「まいったよ、イグナス・カスティーノ。あんた⋯⋯強いな」

「フン。お前の方こそな、ウキョウ・ヤガミ。正直⋯⋯⋯⋯手強かったぜ」

「おお? ま、まさか、お前からそんなお褒めの言葉をいただけるとはな⋯⋯。お前、結構、良い奴みたいだな」

「ほ、ほほほほ、ほっとけ! べ、別に、褒めたわけじゃ⋯⋯ない!」

「へへ、俺、お前のこと気に入ったぜ、イグナス・カスティーノ。いや、イグナス!」

「なっ!? い、いきなり⋯⋯馴れ馴れしい⋯⋯」

「準決勝頑張れよ! イグナス・・・・!」


 ニッと笑うウキョウ。


「フ、フン! お前に言われなくても、俺は全力を尽くすだけだ!」


 そう言って、ウキョウの『名前呼び』を頬を染めながら認めるイグナス。


 そんな、せっかく軌道修正した『BL路線』を盛り返したイグナスが、ウキョウ・ヤガミとの対決を制したのであった。

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