第48話 恐ろしいのは魔族よりも味方でした

 魔族と正式な契約を結ぶと何を取られるんだろうか……?


「魔力ですか? お金はオレたちそんなにないですけど……」

「魔力はプラントの分で十分だ。こちらのお金も必要ない。こちらに来たときに先ほどのお茶やお菓子のように美味いものを食わせてくれ。あと、これはもし可能だったらでよいが、この屋敷の部屋を1つ私にくれないか。滞在場所があれば存分に遊べるし、家出するのにちょうどよいからな!」

「そ、そのくらいでよければ……。魔族でも家出ってあるんですね。」

「あるぞ。私も面倒な立場だからな。ここなら見つかる事もないしな! それから私の屋敷にもここの風呂を作ってほしいところだが、それは難しそうだから我慢するか」


 魔族と協力関係を結ぶなんて歴史上重大な出来事のはずだけど、その報酬が食べ物と部屋だなんていいんだろうか?

 本人がいいならいいんだけども……。


「家出してくるにしても、こちらに自由に移動できるんですか?」


 プラントさんが尋ねた。


「いや、できんぞ。その時は召喚してくれ」

「でもどうやって?」

「契約を結んだ場合はこちらとあちらで離れていても、会話は出来るんだ。私とプラントだけだがな。こんな感じだ」

「わっ? 頭の中に声が!」

「自身の内側に私の魔力を感じる部分があるはずだ。それに意識を向けて頭の中で話しかけてみよ」

「ええと……これかな? こんな感じかな?」

「おっ、聞こえたぞ。『プラントです。聞こえますか』とな」

「本当に通じた!」

「これで私がこちらに来たい場合は話しかけるから召喚を頼んだぞ! あと、何か情報が分かったら教えてやろう。それからそちらの都合で召喚する場合は前もって話しかけてくれるとありがたいな。風呂に入ってたら困るからな!」

「わ、わかりました! よろしくお願いします!」


 魔族との協力関係に加えて<フォーステリア>との連絡手段も出来てしまった。

 あまりの急展開に戸惑いを隠せないが、今後非常に役に立つことだろう。

 プラントさんと、召喚で来てくれたリーベラさんには感謝だな。


「あとはお前の子種でも貰おうかと思ったが、それは順番待ちとするか」


 リーベラさんがオレを見て、『わっはっは』と笑いながら笑えない冗談を言い放った。


 瞬時に殺気を放つ3人。

 えっ3人?

 もしもし、プラントさん……?


「わっはっは。怒るな怒るな。優秀な子孫を残そうとするのは魔族も人も変わらんからな。ヴィトほどの者は<フォーステリア>にも滅多にはおらんぞ。どうだ? 私の所に来ればいずれ王になれるぞ?」


 また悪戯っぽく笑いながらこちらに問いかけてくる。


「あの、オレ」

「お断りなのだ! ヴィトは王様より<タンブルウィード>の店主になりたいのだ!!」

「ヴィトは私のお父さんのお仕事を継ぐってもう決まってますから!!」

「<スーパースーパースパスパ>の店長になるんです!!」


 またオレの知らないところで将来が決まっていた。

 うーん、その中だとスパスパの店長はお断りかなぁ……申し訳ないけど。

 親父さんもそうだけどお客さんも謎が多すぎて怖いもんね。

 特に地下組織が。

 あと、セラーナのお父さんも何をしている人か知らないんだけど、いつの間にそんな話になっているやら?


「そうか? 王になれば好きに出来るぞ? もちろん私のこともだ」


 兵器を強調するようにやや前屈みになって言ってきたので、つい『よろしくお願いします!!』と返事してしまいそうになったが、グッとこらえた。

 危なかった。

 タックはフラフラっと吸い寄せられて、ススリーに後頸部を鷲掴みにされていた。

 このままでは”ブルータクティクス”の男性陣が全滅してしまう。


「あ、あはははは! 魔族の人は冗談もうまいなぁ!」

「いや、別に冗談で」

「そういえば聞きたいことがあるんです! 先ほどの件なんですけど!!」

「う、うむ。なんだ?」

「申し訳ないですが警戒の為に“スキャン”をしたら全く手ごたえがなくそれは“ジャミング”のせいだと言ってましたがどういうものなんですか? これからジルグライン達が攻めてくるときに“スキャン”が通用しないと不便なので教えて頂きたいなと!」


 まず笑って誤魔化し、畳みかけるように一気に早口で話して話題を変えた。

 無理やりだが、こうでもしないとオレとタックは殺される。

 魔族ではなく味方に。


「あぁそれか。通常の“スキャン”は魔力が波紋のように流れて、引っかかったスキルを検知するんだ。だから魔力を乱して、その波紋も乱して消やれば見破られない。また、“スキャン”する際も上手くやらないと使用していることも居場所もバレてしまう。魔力が飛んでくるわけだからな。だからやる時はこうやるんだぞ。“模倣コピー”と“魔法創造クリエイトマジック”使いのヴィト君」


 ニヤッと笑うリーベラさん。

 “スキャン”をされたようだが全く気が付かなかった。

 ただ、召喚された直後と今、2回もオレに“スキャン”をしてくれたことで“模倣コピー”出来てしまった。

 ラッキー!

 “新型スキャン”は魔力が隠蔽されているのに加え、魔力の波紋も複雑に変化しているようだ。

 試しにリーベラさんに使ってみる。

 火魔法Lv7、風魔法Lv8、雷魔法Lv6と他にいくつかスキルがあるようだ。

 “ジャミング”も突破したみたいだけど、今のはバレなかったかな?


「リーベラさん、気が付きました?」

「なにがだ?」

「“スキャン”したの」

「なっ!?」

「とりあえず火魔法、風魔法、雷魔法ですよね」

「もう使えるようになったというのか……? “ジャミング”を無視して“スキャン”が出来るのはそんなにいないんだぞ。 これが“模倣コピー”か……。素晴らしい! ますます私の婿に相応しいな!」

「それもう勘弁してください!」


 殺気だった3人娘(?)を宥めていると、リーベラさんは一度自分の世界に戻るとのことだった。

 どうやら会議中で退屈していたところに召喚されたので、面白そうだったから応じてみたとのことだった。

 会議中の他の人からすれば、突然消えたように見えるらしく、おそらく大混乱だろうと楽しそうに笑っている。


 帰るときも召喚魔法で帰るらしい。

 どうやら召喚魔法は呼ぶ魔法と帰還させる魔法があり、契約を結んだ場合、その魔族専用の送迎用魔法が使えるようになるようだ。

 プラントさんが帰り用の魔法を唱えると、地面に魔方陣が展開していく。

 召喚魔法は見ただけでは“模倣コピー”できなかった。

 自分が受けることも出来ないので、召喚魔法の習得は難しそうだな。

 今度リーベラさんに聞いてみよう。

 “ジャミング”は作用が何となく分かったので自分で作ってみることにした。


 魔方陣に乗ったリーベラさんは『じゃあまたな』と言って手を振って、出て来た時と逆に魔方陣へ沈んでいった。


 こうして魔族との緊張しつつも賑やかな初対面は無事に終わった。

 ……が、オレたちの試練はここからだ。


 3人の番人がオレを取り囲み、オレをソファ被告人席へと促してゆく。

 果たして弁明させてもらえるだろうか……。


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