第47話 フォーステリアの世界

「初めまして。私は“ブルータクティクス”というクランのマスター、セラーナと申します。プラントの召喚に応じて頂きありがとうございます。魔族の方との交流は初めてなのでとても嬉しく感じています」


 セラーナに続いてオレたちも順次挨拶をしてくと、ウンウンと頷きながら自己紹介を聞いてくれている。

 本当に人と変わらないな。


「私は<ブリザイズ国>の王女、リーベラという。よろしくな。因みにここはミリテリアのどこの国なんだ?」

「王女様だったのですね。ここは大陸東部にあるファイライン王国で、ティルディスという街になります」

「おぉファイライン王国か。たしか東側中央部分の国だったな。飯がうまいところだ」

「ご存じなんですか?」

「うむ。以前召喚に応じて来た際に立ち寄ったことがある。これは良い召喚に応じたものだ」


 満足げに笑っており、ご機嫌の様子だ。

 オレも気になる事を聞いてみる。


「ところで、召喚術に応じてきてくれた場合、その後はどうなるんですか?」

「それは術者と呼ばれた者にもよるな。その場限りで終わる場合もあるし、契約を結ぶ場合もある」

「契約を結ぶとどうなるんですか? 命を取られるとか?」

「命など取らんわ。本当に何も知らないのだな。基本的には報酬は魔力だ。魔族にとって魔力は寿命や健康に関係しているからな。美容にもな! だから力を貸す代わりに魔力の提供を受けるわけだ」

「召喚者の魔力が無くなってしまったらどうなるんです?」

「召喚者の魔力が枯渇してしまったら<フォーステリア>に強制送還される。契約自体は解約しない限り継続しているから魔力が戻ればまた召喚はできる。何らかの理由で魔力自体を失ってしまった場合、契約は強制解除になる」

「なるほど。魔力を提供する代わりにこちらはその力を借りられるし、そちらは寿命が延びたり健康になったりするんですね」


 面白いシステムだけど、誰がこの魔法を構築したのだろう?

 魔力を寿命や健康にというのは魔族のみなのだろうか?

 魔族側から召喚はできないのかな。


「召喚されないと寿命がすぐ尽きる、というわけではないけどな。要はアレだ。ヒト族も経済活動があるだろう? 日々働いて一定の収入を得て、その範囲内で生活するわけだ」

「そうですね。魔族もそうなんですか?」

「基本的にはこちらの世界と変わらんよ。しかし、臨時収入があれば少し贅沢な生活ができるだろう? 召喚も同じようなものだな」

「なるほど。余分に使えるというわけですね。あと、先ほど面白そうな魔力と仰ってましたが、魔力によって何か変わったりするんですか?」

「何というか、波長のようなものだな。魔力も人によって相性みたいなものがあるわけだ。先ほどの例で言えば、雇う奴と合わなかったらいくら条件が良くても働きたくないだろ? そんな感じだな」


 確かに雇い主との関係は重要だな。

 グウェンさんはちょっとアレだけどオレの事を気に掛けてくれるし、仕事の腕は確かだもんな。

 ちょっとアレだけど。


「魔族の世界もこちらと変わりないんですね。ではどうしてこちらに侵攻しようとしてくるのでしょうか?」


 セラーナが本題へ移していく。

 リーベラさんはグウェンさん謹製のコロンバインティーの美味しさに驚いてから答えてくれた。


「<フォーステリア>には13の国があってな。我が<ブリザイズ国>もその1つだ。基本的には<ミリテリア>と変わらず、他国と交流や交易をして暮らしておる。まぁ時に小競り合いもあるが、ここ100年くらいは大きなものはないな。ただ、それは平和だからというわけではなく、大体戦力が拮抗しているし、先に手を出した場合に周りから袋叩きにあうからだな」


 再びお茶を口にして喉を潤して続ける。


「しかし、最近<シュゴット>の王が亡くなってな。息子に代替わりしたのだが、こいつが好戦的なやつでなぁ。<フォーステリア>を統一せんとしてるわけだ」

「あーお話でよくあるパターンですね」

「うむ。しかし先ほど言ったように戦力は拮抗しているから簡単に手出しはできない。下手すれば袋叩きになって自分の国が亡ぶからな。だからまず戦力を向上させようとして<ミリテリア>に目を付けたわけだ」

「魔力を貰うためですか?」

「そうだ。先ほどの話だと最近魔法を使えるようになったようだが、使えるか使えないは別として、基本的には人にも魔力が備わっている。これまでは垂れ流している状態だったわけだが、それに目を付けたのがジルグラインだな」

「でも魔力があっても召喚できる人は多分そんなに多くないですよ?」


 神様に力を授かってから数か月経つが、召喚術を持っているのはプラントさんが初めてだった。


「召喚はあくまでも契約だからな。魔力を奪うだけならそんなものは必要ない。『魔力を生み出す道具』として使えばいいだけだ。また、強制的に従属させて戦力として活用することも出来るしな」

「道具として……」


 ただ侵略するわけでなく、人を道具として扱おうとしていることに驚いた。

 絶対にそんなことはさせない。


「それを防ぐために神が力を授けたのだろうよ。授けたというか、解放したといった方がいいかもな」

「なるほど。なぜ神様は魔法を使えないようにしていたんですかね?」

「多くの者は適切に使うだろうが、強い力を持つと使いたくなる奴がいるだろう? ごく一部でもそういう奴がいれば、そして、そういう奴が強い力を持てば持つほどその被害は大きくなり、弱いものが泣くことになる。神はそれを防ぎたかったのだろうな。まぁ実際の所はわからんがな」


 リーベラさんはお茶のお替りを頼み、待っている間セラーナ御手製のお菓子を頬張って再度満足そうな笑顔を見せている。


「他の国は何か対策していないんですか? 要は戦争の準備をしているということですよね?」

「そこが難しいところでなぁ……」


『うーむ』と悩みながら腕を組むリーベラさん。

 それによって主張を激しくする胸に目を奪われるが、横にいるセラーナから殺気を感じて慌てて目を逸らす。

 さっきから視線がチラッと胸にいく度に殺気がチラッと出てくる。

 プラントさんの目もマジで怖い。

 目に力や光が宿っておらず、ダークサイドの人の目になっている。

 この人大丈夫かしら……。


「戦争の準備ではあるんだが、他の国に危害を加えてるわけじゃないからな。例えば兵士を雇うのだって、装備を作るために鉱山を掘るのだって戦争の準備にはなるが、自国内でやっている分には文句は言えんのだ。それに裏でコソコソやっているから、表立って指摘すると今後の諜報が難しくなる」

「でも<ミリテリア>に手を出そうとしてますよ?」

「<ミリテリア>は異世界だからな。どの国のものでもない。むしろ<シュゴット>がやるならうちもという国もあるだろうな」

「げっ……。リーベラさんのところは……?」

「我が国はそういうことはしない方針だ。わが国にも<ミリテリア>の住人がいるしな。こちらの知識を広めてくれて感謝しているくらいだ。他の国も殆どが<ミリテリア>手を出そうとは考えていないから安心せい。そんなことを考えているのは<シュゴット>とあと1~2つくらいなものだな」

「それならよかったですけど、<ミリテリア>の人がいるんですか?」

「多くはないがな。<ワームホール>でこちらに取り込まれてしまう者が時折いてな。捨て置くのもかわいそうだから保護しているわけだ。他の国でも保護している所はあるはずだぞ」


 神様が言っていた神隠しの件か。

 異世界で保護してくれる人がいなかったら、すぐに命を落としていただろうな。

 帰ってきたいだろうな……。


「オレが言うのはおかしいかもしれませんが、保護してくださってありがとうございます」


 頭を下げてそういうと、リーベラさんは目を丸くした後、笑い出した。


「やはり人は面白いな。見知らぬ他人の為に頭を下げるとは。気に入ったぞ。ジルグラインの件は我が国も手を焼いている所だったからな。召喚の縁もあるし我らも協力してやろう」

「本当ですか!? すごく助かります!」

「といっても、表立って魔族と戦うわけにはいかんがな。これでも名は知れている方なので、私が<シュゴット>の魔族を倒したりすると、こちらの国が攻められる可能性がある。あくまでも情報提供と言ったところか」

「それでも十分です。オレたちは<フォーステリア>のことを何もわかっていないので」

「しかし、報酬はもらうぞ。これは召喚とはまた別だからな」


 リーベラさんがニヤリと悪い笑顔を浮かべた。

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