第46話 魔族との遭遇
「ここはどこだ? お前たちはヒト族か?」
女性が話しかけてきた。
言葉も通じるようなので、まずは丁寧に対応することにした。
「えぇそうです。ここは<ミリテリア>大陸という場所です。あなたはどちらからいらっしゃったのですか?」
女性は眉を顰めて訝しげにこちらを見た。
「どこからって、<フォーステリア>に決まっているだろう。お前たちが召喚で呼んだのだろう?」
「はい、召喚術を使ったのはオレたちです。ただ、初めて使う術だったのでどういう作用かもわからないままだったので……」
「初めてだと? それにしては完ぺきだったぞ。思わず私も応じてしまったほどだ」
「それはよかったです。召喚に応じるとか応じないとか決められるんですね」
「うむ。お前たちも気に入らない奴に呼び出されたくはあるまい? 媒体となる魔力が気に食わなかったら応じはせん。今回はなかなか面白そうな魔力だったことと、術式が見事だったこともあるが、召喚なんぞ数百年ぶりの事だったからな。面白そうだから来てみたわけだ」
「なるほど。応じて頂きありがとうございます」
頭を下げてお礼を言う。
実は先程から“スキャン”も掛けてみているのだが、何も手ごたえがない。
スキルがないのか、防ぐ方法があるのか分からないが、どんな魔族かはっきりしない今は、友好的に接して損はないはずだ。
しかし、魔族から召喚魔法の事を聞けるなんて思いもしなかったな。
話が通じる魔族の様だし、これはラッキーだ。
「ところで、何か分かったか?」
ニヤッと笑いながらオレをみて問いかけてきた。
“スキャン”がバレていたようだ。
嘘をついてまずいことになっても困るので素直に謝った。
「すみません。何もわかりませんでした。こんなこともあるんですね」
「そうだろうな。“ジャミング”を使っているから普通の“スキャン”ではわかるまい。そしてやはり先ほど言った『召喚が初めて』というのは本当らしいな。それだけの力を持っているのに力の使い方や知識が未熟だ」
声を出して楽しそうに笑っている。
こうやって会話をして笑顔も見ていると<ミリテリア>の住人も<フォーステリア>の住人も変わりはないんだろうなと思えてくる。
「3か月ほど前から使えるようになったばかりなので、まだ手探り状態なんです。色々教えてもらえるとありがたいんですが……」
「3か月前? どういうことだ? 突然使えるようになったという事か?」
しまった、喋りすぎただろうか。
今の所敵意は感じられないとはいえ、相手は魔族だ。
侵攻してこようとしている奴にあまりこちらの情報を与えるべきではない。
「あぁ、心配するな。私はお前たちやこの世界をどうこうしようとは思っておらん。もし思っていたら初めから召喚に応じておらんしな。まぁ言いたくなければ別にかまわないけどな」
しばし逡巡するが、正直に話すこととした。
「<フォーステリア>の魔族が<ミリテリア>に侵攻しようとしているという話はご存知ですか?」
「あぁ<シュゴット>のジルグラインがそんなことを企んでいると聞いたな。なるほど、それで神がまた人に力を授けたという訳か」
「ご、ご存じなんですか?」
「ある程度はな。聞きたいか?」
「教えて頂けるならぜひ」
「構わないが、少し長くなるな。それに折角来たんだから何か旨いものが食いたいなー。何か喉も乾いたなー」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらこちらを見てくる魔族の女性。
神さまが言っていた、『魔族の全てが悪という訳ではない』というのがよくわかるし、こういう人たちばかりだったら仲良くできると感じた。
「大変失礼いたしました。あちらにオレたちの家がありますので移動してもよろしいですか? 魔族の方をお招きするのは初めてですので、十分なおもてなしが出来るかわかりませんが……。失礼があったら申し訳ありません」
「気にするな。そんなに堅苦しくせずともヒト族の友人と同じように扱ってくれればよい。むしろ召喚に応じて客人のような対応を受けるのは初めてだぞ。大体、使い魔として上から対応してくる奴か、崇拝するようにひれ伏す奴か、どちらかだったからな」
楽しそうに話すその姿は、人と変わらない。
初めての召喚でこの人が来てくれてよかったのかもしれない。
結界の外で待っていたタックたちに事情を話し、魔族の女性を家へと案内する。
「ほう……。これは見事だ。建築も素晴らしいが結界もかなり上等なものだな。至る所に付与術が施された道具もあるが、あれは何だ? 侵入者防止用か?」
「あれはただの生活便利道具です。“トーチ”、こんな感じで言葉に反応するようにしてあります」
「これは面白いな……。我が国でも採用したいくらいだ」
皆にお茶や食べ物の用意を頼んで屋敷の中を軽く案内する。
やはり食いつかれたのはお風呂の24時間システムや風魔法を使ったバブルバス、ジェットバスだった。
女性は人も魔族も変わらないようだ。
一通り案内した後、お茶やお菓子の準備が出来たようなので応接室へ案内する。
初めて応接室にお招きするお客さんが魔族になるとは思いもしなかったな。
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