第44話 挨拶はもうこりごり

 プラントさんのご家族と熱い対面バトルをした翌日、セラーナのご両親と叔父さんとも対面した。

 こちらはファンゲルさんの時とは違い、一見穏やかだが水面下で目に見えない戦いが繰り広げられていた。


 始めは魔物やクラン、それぞれの街の話などをし、和やかな雰囲気で経過していた。

 しかし、私生活の話になってから雲行きが怪しくなり、『娘さんを下さい』を待っているご両親と、そういう話題を避けようとするオレの負けられない戦いが始まった。

 隣にいるセラーナはなぜか大人しく本を読んでいると思ったら、『愛される名前の付け方』という本を読んでいた。


 セラーナ、お前もか。

 グウェンさんとプラントも似たような本を読んでいるし、タックとススリーは我関せず『へー、そうなんですねぇ』と適当な相槌を打っている。


 こちらも4時間ほどに渡る死闘の末、何とか引き分けに持ち込んだ。

 孤立無援でジリ貧だったので、これからプラントの引っ越しの荷物を取りに行ってティルディスに向かわなければならない、いつでもティルディスの家や滞在用の家に遊びに来てくださいと伝え、何とか逃れることが出来た。


 ◆


「あぁ疲れた……。こんなはずじゃなかったのに……」

「お疲れヴィト。いやぁ参考になったぜ。結婚する時はああいう感じになるんだなー」


 完全に傍観者だったタックが暢気なことを言っている。

 またしてもムカッと来たので、歩調に合わせて土魔法で小さい段差を作ってやった。


「うぉっ!?」

「どうしたのよ、タック」

「いや、躓いただけだ。びっくりした」

「もう、気を付けて歩きなさいよ」


 ククク……土魔法は便利だぜ!

 神様も魔法を建築や悪戯に使われるとは思っていないだろうな。


「ヴィト、ありがとうございました。うちのお父さんとお母さんも安心してくれたようなのでよかったです。でも本当に遊びに来ちゃったらどうしよう」

「それならよかったよ。遊びに来てくれて全然かまわないけどね。どっちの家も部屋が一杯あるし、しばらく滞在してもらってもいいんじゃない? あ、王都の方は勝手に泊めたりしたらまずいのかなぁ?」

「王都なら叔父さんの所に泊まれますから。でも嬉しいです。もう両親との同居まで考えてくれているなんて……」

「そういうことじゃないからね!?」


 横でニコニコしながら歩いていたプラントさんも加わってきた。


「うちのお父さん、お母さんも喜んでましたよ!」

「えっ? お母さんはともかくお父さんは喜んでないでしょ……。昨日あんなこと死闘までしたのに……」

「でも皆さんが帰った後、お父さん褒めてました。『俺と互角に戦える奴は初めてだった。あの男ならプラントを任せてもいいかもしれん』って」

「任せられても困るよ……」


 プラントさんが頬を赤らめながら嬉しそうに話す様子を見るとやっぱり可愛いと思ってしまうが、プラントさんとは男の友情を築くと決めたのだ。

 流される訳にはいかない。


「ヴィト」

「ん?」

「私は両親がいないから挨拶しなくてもすぐ結婚できるぞ!」

「だから張り合わなくていいから!」


 3人娘(うち一人は男)の間で激しく視線がぶつかり合う。

 ススリーは『もう、しょうがないわねぇ』といいながら微笑ましくその様子を見つめている。

 タックは相変わらずニヤニヤしてこちらを見てくるので、再度土魔法で躓かせておいた。

 この魔法は”階段の踊り子ダンサ・ダンサー”と名付けよう。


 プラントさんの家で荷物を回収する際、ファンゲルさんの態度は先日より軟化していたが、あの話を聞いた後だったから今度はこちらが警戒をしてしまった。

 出立する時には、『プラントの事を頼んだぞ』と言われたので、『わかりました! 友達であり仲間ですから皆で協力していきます!』と強調しておいた。

 決しておかしなことを言っている訳ではないのでご両親もプラントさんも納得してくれていた。


 あとは馬車に乗ってまたティルディスに戻るだけだ。

 ティルディスに戻った後はお待ちかねの時間だ!!

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