第43話 スパスパの死闘
「ただいまー」
「おかえりプラント。しっかり登録できた?」
プラントさんがドアを開けると、プラントさんから幼さを取り除いたような、物凄くきれいな女性が出て来た。
「うん、皆さんもいてくれたから、ちゃんと登録できたよ! あ、皆さん、こちら僕のお母さんです」
「“ブルータクティクス”の皆さんね。初めまして、プラントの母のリルミアと申します。うちの子がお世話になっております。こんな子だけど、どうか仲良くしてあげてくださいね」
深々とお辞儀をされたので、オレたちも同じように挨拶をして頭を下げる。
「お父さんも待ってるから、皆さん上がって下さいな」
「「「「お邪魔します」」」」
プラントさんに案内されリビングに行くと、そこには椅子に座り腕組みをしながらテーブルに視線を落としているスキンヘッドの筋肉の塊がいた。
「お父さん、ただいま。こちらが“ブルータクティクス”の皆さんだよ」
「お、お邪魔します……」
「おかえり、プラント」
筋肉のお父さんがゆっくりとこちらに顔を向け、重低音を発する。
デカい岩のようで半端ない威圧感だ。
眼光もするどい。
本当にこの人が<スーパースーパー スパスパ>なんてふざけた名前を付けたのか?
とてもそんな冗談を言うような人には見えないんですけど……。
「皆さん、狭くて申し訳ないけど座って下さい」
プラントに促されるままダイニングテーブルの椅子に掛けていく。
「プラントさんのお父さん、初めまして。私は“ブルータクティクス”のマスター、セラーナです。この度、プラントさんが私たちのクランに加入してくださることになりました。今後ティルディスにある私たちの拠点で一緒に生活してゆくことを希望してくれましたので、まずご挨拶に伺いました」
筋肉お父さんは腕組みを解き、セラーナに顔を向けて穏やかにいった。
「ご丁寧にありがとうございます、セラーナさん。私はプラントの父、ファンゲルと申します。プラントがご迷惑をお掛けするかもしれないですが、どうかよろしくお願い致します」
おぉ、怖いのは見た目だけだったのか。
やはり人を外見で判断してはいけないな。
セラーナに続き、ススリー、グウェンさんも自己紹介をしていく。
ファンゲルさんは穏やかな笑顔で『よろしくお願いします』と言っている。
「お父さん初めまして! オレはタックです! よろしくお願いします!」
「……」
あれ?
ただのしかばねのように返事がない。
「初めましてお父さん、オレはヴィトと申します。よろしくお願いします」
「……お」
「「お?」」
「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはないわ!!!」
突然怒りだし、拳をテーブルに叩きつけるファンゲルさん。
厚さ5㎝はあろう木製の重厚なテーブルが真っ二つになった。
「えっ……? いや、あの……」
「お前がヴィトか!! うちのプラントを誑かしたのはお前か!!」
「えっ? えっ?」
「昨夜プラントが嬉しそうに帰ってきたと思ったら、ヴィトくんが、ヴィトくんが、と延々とお前の話を聞かされたわ!! その上、会った翌日に『ご挨拶に来たい』だと!? ふざけるな!!」
「いや、ちょっ」
「ちょっとお父さん! やめてよ! もー!!」
「お前は黙ってなさい!! 大体、出会った翌日に結婚の申し込みにくるなんて非常識にもほどがある!!」
「まだそこまでじゃないんだってばー!! もー! おかあさんなんとかしてよー!」
「あらあら、やっぱりこうなったわねぇ。うふふ」
なんだなんだ?
娘さんを下さい的な結婚のご挨拶をしに来たと思っていたのか?
それでお店も臨時休業にしたのだろうか?
プラントさんは昨日どんな説明をしたんだ……?
そもそも息子さんじゃないのか?
それに、プラントさんの『まだそこまでじゃない』という発言も気になって仕方がない。
「ヴィト、どういうことなのだ……」
「えっ? いやオレもわから」
「ヴィトは私と結婚するのだ! 私の方が先なのだ!」
「違います! 私です!」
「やめてぇ! ややこしくなるから今は変な事言わないでぇ!!」
「なぁにぃぃぃ!!! うちのプラントは遊びのつもりかああああ!!」
「あらあら、うふふ」
笑ってないでお母さん止めてえええ!!
◆
バーサーカー状態になったファンゲルさんと4時間にも及ぶ死闘を繰り広げたが、なんと倒しきれなかった。
こちらは体術Lv9で途中から補助魔法や魔法も使ったのに、体術Lv5のみのファンゲルさんに勝てなかった。
というか、怪我をさせるわけにもいかないので、動けないように土魔法で手足に重りを付けていったけど、それぞれ2トン位まで増やしたのに何の効果もなかった。
もうこの人がいれば世界は安全なんじゃないだろうか?
結局、リルミアさんの『いい加減にしなさい!』の一言でバーサクが解除され、誤解であることを一から説明したら、少し落ち着いてくれた。
しかし、まだ7割くらいは疑っている目で、全然誤解が解けていなそうだった。
ティルディスではオレの家に、王都では滞在用の家にみんなで住んでいるので、いつでも遊びに来たり様子を見に来てくれていいと伝えて、ようやく納得してもらった。
激戦の後片付けや補修を手伝い、明日また迎えに来ると伝えて、オレたちも家に帰ることにした。
とっても疲れた。
ただの挨拶がこんなことになるなんて思いもしなかった。
「明日のセラーナの叔父さんの方は大丈夫だよね……?」
「だ、大丈夫……じゃない……かな?」
「えっ!? 『大丈夫だろう』なのか『大丈夫ではない』なのかどっち!?」
「大丈夫だと思いますよ! たぶん……。お父さんとお母さんも来るって言ってたけど……」
「ご両親が来るのは構わないけど、ただの挨拶だって伝えたよね? なんて言ったの?」
「えっと、『ヴィトが、一緒に住んでいるんだしご両親にご挨拶しなきゃって言ってる』って」
なんか微妙な気がするけど、意味としてはおかしな感じではないかな?
「うん? うん、まぁ普通かな? そしたらなんて?」
「どんな男だとか、出身は、ご家族は、収入は安定しているのかとか、こ、子どもはまだ出来てないだろうなとか……」
「やべぇ、それ完全に結婚相手を見極めるための尋問じゃないの……」
「大丈夫、安心して! ヴィトはかっこよくて優しいし、ご両親が亡くなった後、自分で働いて生活してきたのよって、しかもきちんと学院も卒業したのよって言ったら、それは立派な男だって言ってたわ」
「あ、うん、ありがとう。 皆が気に掛けてくれたから一人で頑張った訳ではないけどね」
「だから賑やかな家庭にするために、3人は子どもが欲しいわって言っておいたわ」
「あぁ、そうですか……。最後に余計な事言ってくれたね……」
「お父さんお母さんも、早く孫が見たいって言っていたわ」
「お父さんお母さんも受け入れちゃダメだよ……」
「ヴィト」
「ん?」
「私は4人欲しいのだ」
「張り合わなくていいの!」
結局、翌日のセラーナご両親との対面もややこしいことになってしまった。
もう、挨拶なんてやめておこう……。
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