第42話 プラントさんのご実家へ

 プラントさんが仲間に加わった後、少し話をしてプラントさんは自宅に帰っていった。

 両親に説明するとのことだったので、ハンターギルドで待ち合わせをすることにし、オレたちも休むことにした。



 翌朝、街や海が見下ろせる緩やかな下り坂を、のんびりと歩いていく。

 海では無数の船が行き交い、まさに今出港した旅客船も見える。

 あの船はこれからどこへ向かうのだろうか。

 このままあの船に乗って、どこか遠くに行ってみたい。

 まだ見ぬ異国の地に思いを馳せていると、ギルドについた。


 ちょうど繁華街の方からやってきたプラントさんもこちらに気づき、嬉しそうに駆け寄ってくるのが見えた。

 やっぱり可愛く見えてしまう。

 ねぇタック? と思いながらタックと視線を合わせると、苦しそうな顔をしながら首を斜めに振っていた。

 肯定したい気持ちと否定したい気持ちがぶつかり合っているんだな。

 分かる、分かるぞ、その気持ち。


「おはようございます! お待たせしてすみません!」

「私たちもちょうど今来たところです。しかもまだ約束の5分前ですからそんなに慌てなくても大丈夫ですよ」

「すみません! 人と待ち合わせなんて何年か振りだったので、楽しみと不安が入り乱れてまして……」

「あら、これから待ち合わせどころか一緒に生活していくんだから、それくらいで入り乱れてたら大変ね」

「徐々に慣れていけばいいのだ! みんな優しいから心配はいらないのだ!」


 美しい女性たちが話している様子はいつまでも眺めていたいものだが、流石に入り口で話していると邪魔になってしまう。


「みんな、入り口で通行の邪魔になってしまうからとりあえず中に入ろう」

「あ、皆さんごめんなさいなのだ」


 グウェンさんがぺこりと頭を下げ、セラーナたちも頭を下げると、周りにいた男性陣はもうデレデレだ。

 誰一人怒っておらず、むしろそのまま見続けていたかったオーラを感じてはいたが、生憎こちらも予定があるのだ。


「まずハンター登録をしないとね。また“スキャン”しないといけないのかな?」

「どうでしょうか……。あの時の紙は無くしちゃいました」

「職員さんに聞いてみましょう」


 セラーナが近くの職員さんに尋ねてきてくれた。

 記録は残っているが、一応もう一度“スキャン”を受けて紙を提出してほしいとのことだった。

 結局、登録申請書も活動予定地域が変更になるので、改めて記入も行うことにした。


 本日の“スキャン”担当は以前いたセリシャさんではなく、エルフ族の女性だった。

 セリシャさんと同じように手に触れ、優しい光がプラントさんの身体を包み込む。


「体術Lv2、杖術Lv4、隠密術Lv8、魔法Lv7です」


 やはり、“スキャン”のレベルが低いのか“召喚術”のスキルが見えなかったり、魔法も細かく分類はされず一番高いレベルだけ見えるようだった。


 結果の紙を貰い、登録カウンターに並ぶ。

 今でも何人か登録に来ている人もいるようだ。

 訓練すれば授かったスキル以外のスキルも使えたりするから、新たに力を得た人などもいるのかもしれないな。


 プラントさんの登録は滞りなく終わり、やはりSランクとして登録された。

 同時にクラン員登録も済ませたので、今日からプラントさんは“ブルータクティクス”のSランクハンターだ!


 ついでに<ワームホール>の情報を聞いてみると、本日はまだ発生していないようだった。

 他の国では発生頻度が増加傾向にあり、被害が生じた所もあるようだった。

 これからさらに増えていくだろう。

 新しい情報が入ったらすぐに連絡が欲しいと職員さんに伝え、ギルドを後にした。


 次はプラントさんの実家だ。

 プラントさんは両親とお姉さんとの4人暮らしをしており、一家で日用品店を営んでいるそうだ。

 地元民向けのお店なので繁華街からは少し外れ、住宅街に近い商業エリアにお店があった。

 俺たちがご挨拶をしたがっていると伝えると、わざわざお店をお休みにして待っていてくれているらしい。

 正直、挨拶と言っても『あ、どうもよろしくお願いします』くらいの顔合わせと考えていたから、そこまでしなくてもいいんだけどな……。

 両親としては息子の門出だし、ちゃんとしておきたいというのもあるのかな。


 お店の看板には<スーパースーパー スパスパ>と書かれている。


「ス、スーパースパスパ……?」

「お、お父さんがノリで付けちゃって……。うちは普通のスーパーマーケットじゃなくて超スーパーマーケットなんだって……。すみません」

「リ、リズミカルでいい名前だと思うよ、うん」


 顔を真っ赤にしながら説明してくれるプラントさん。

 でも覚えやすいし、口に出して言いたくなるような語感だ。

 ユーモアたっぷりなお父さんなんだろうな。


「文字の上の線はなんなのかしら?」

「あれは……。昔、お店が出来てしばらくした頃に、お客さんの中でイントネーションがどうなのかっていう話になってしまって。それをきっかけにお客さん同士で抗争が起こってしまったんです」

「抗争!? お店の名前の読み方で!?」

「はい。血みどろの抗争の結果、計13人の逮捕者と48人の重軽傷者が出てしまったので、お父さんが公式発表として読み方を発表したんです」

「それは大変な事件だったね……」

「でも未だに公式の読み方じゃない勢力が地下で活動をしており、クーデターを起こそうと企んでいたりするそうです」

「店主が決めた読み方なのに!?」

「はい。いつの間にか看板が<スパスパ>に書き換えられたり、<ウーパールーパー>の絵が描いてあったり、王都外から来た人に違うイントネーションでお店を紹介したりするんです……」

「一体何が目的なんだ……」


 知る由もなかった王国の歴史の1ページを聞きながら、お店の脇を抜けて住居部分に向かっていく。

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