第32話 悲しみの夜が明けて

「昨日は食事も摂らず、寝るまでしょんぼりしていた2人だったけど、一晩寝てようやく少し落ち着いてきたみたいね」


 顔を洗わせて、朝食の準備をする。


「ほら、そんなに元気のない顔してると他の女の子にヴィトを取られちゃうわよ。ご飯もしっかり食べないと」


 ピクッと反応し、朝食に手を伸ばし始めた。

 ショックを受けるのも仕方のないことだけど、落ち込み続けていてもしょうがない。

 大事なのはこれからなんだから。

 その為にはしっかり食べておかなきゃね。


「ご飯食べたらヴィトの所へ行くわよ」


 2人とも小さく頷いた。

 昨日家に2人を連れて帰って以降、ヴィトからの連絡はなかった。

 多分後片付けで大変だったんだろう。

 夜はタックの家にでも泊ったんだろうか?

 ヴィトの部屋は大丈夫だったから、もしかしたらそのまま寝ていたのかもしれない。

 やはりショックを受けているだろうな……。


 俯いたままの2人としばらく歩いていると、ヴィトの家についた。

 ノックをしてみるが、返事はない。

 やはりタックの家に泊まったのだろうか?


「ヴィトー? 入るわよー?」


 扉を開けてみると、テーブルや戸棚、割れた食器などは昨日のままだった。

 やっぱりショックで昨日は動けなかったのね……。

 2人も改めて自分たちがやらかした惨状を目の当たりにし、再び泣きそうになっていた。


 その時、家の裏の方に何か違和感を感じた。

 セラーナと会った時の様な感覚だった。


「裏の方に……。何かしら?」


 畑の方に回ってみると、やはり結界が貼ってあった。


「こんなところに結界を張って何をしてるのかしら?」


 不思議に思いながら結界に入ってみると、見たこともない立派な建物が目に飛び込んできた。


「えっ? なにこれ?」


 セラーナとグウェンさんも目を丸くしている。

 そしてこちらに気づいたヴィトとタックがやってきた。


「おー! みんなー! 見てよこれ! すごくない!?」

「ちょうどいい時に来たな! たった今完成したんだぜ! すごいだろー!?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どうしたのよこれ!?」

「どうしたって、作ったに決まってるじゃないか」

「いい出来だろ!? 俺が図面を描いたんだ! あの柱とか壁の模様とか格好いいだろ!?」

「オレはあそこのバルコニーがおススメだと思うんだよ! 職人の技が出ててさぁ!」

「そうなんだよヴィト! あのデザインは手彫りでやるとかなり難しいんだけど、さすが魔法だとそのまま再現できちゃうんだもんな!」


 ヴィトもタックも凄くテンションが高く、話が止まらない。


「ちょっと待ちなさいってば! なんでこんなのが建ってるのよ!?」

「いや、家を直すにはお金かかるしさ、それだったら魔法で作っちゃおうぜ! ってなってさ。タックと相談して昨日の夜から作り始めて、ついさっき出来たのさ。といってもまだ外観だけで、細かい内装とか家具はこれからだけどね! ちょうど今呼びに行こうと思っていたところなんだよ」

「作るにしてもなんでこんな立派な家になってるのよ……。貴族のお屋敷みたいじゃないの……」

「いやー、どうせなら凄いの作ろうぜってなってさぁ。アイデアが止まらなくなっちゃってね。ブルータクティクス作戦会議室も作ったよ! あ、グウェンさんとセラーナの部屋はもちろん、タックとススリーの部屋もあるんだよ!」

「なんでそうなるの!?」

「え? いらない?」

「いや、欲しいけど……。あーもう! そうじゃないでしょ!」


 ハイテンションのまま計画をし、ハイテンションのまま作った結果こんな豪邸が出来てしまったらしい。

 しかも一晩で。

 ヴィトも向こう側の人間だったのね……。


「グウェンさんもセラーナも、もう昨日の事は気にしなくて大丈夫だからね! 今度の家は建物全体に結界魔法と強化魔法をかけておいたから火事になることはないし、多分隕石が直撃してもビクともしないよ!」


 満面の笑みで2人に話しかける。

 もしかしたら2人が引きずらないようにあえて新しく家を作ったのかもしれない。


「うぅ……ごめんなさいなのだ」

「本当にごめんなさい。どれだけ謝っても償えないですが……」

「もー! 2人とももういいんだって! 2人は無事だった。そして新しい家が出来た。これでもう解決してるんだから、気にしないで! それよりも早く中に入ろうよ! 今日からこっちに住むんだから!」


 ヴィトが2人の手を引いて屋敷の方へ連れていく。

 昨日の事は本当に気にしていないようで、とにかく新しい家を自慢したい様子だった。


「まず玄関なんだけどさ、この上の玉を見てよ。これに付与術を使ってあってね、みてて。“トーチ”」


 ヴィトが“トーチ”を唱えると、天井に取り付けられた石の玉が光りだした。


「なにこれ……。どういうことなの?」

「暗いと不便じゃない? だから付与術で“トーチ”という言葉に反応して魔法が発動するようにしたんだよ。これなら魔法が使えなくても明るくできるんだよ! 家の中の明かりも全部これにしたから! いいでしょ!?」

「いいでしょって……」

「じゃあ次は中ね! 扉を開けると……。じゃーん!」


 建物の中央部分にある玄関から入ると、そこには広い玄関ホールが広がっていた。

 もちろん調度品などがあるわけではなく、色味は少ないが、白く光沢のある石で作られた床や壁に施された模様は明るく清潔感もあり、見事なものだった。

 正面には階段があり、壁に突き当たって左右に分かれて2階へと続いているようだ。

 高い天井や壁には先ほどの“トーチ”の玉がついているのが見える。

 1階部分は廊下の両側に部屋があるように見える。


「うわー……。すごいのだ……」

「素敵……」

「とりあえず1階部分は左側が基本的にみんなで使う部分なんだ。リビングとかダイニングとかキッチン、お風呂とかがあるよ。あとトイレも。右側は応接室とか執務室とかにしてあって、お客さんの対応とか書類仕事をしたりするんだよ! まずリビングの方から案内するね!」


 先日の事を引きずっていないのは良かったけど、こんなもの作って大丈夫なんだろうかという不安はある。

 “トーチ”のライトだって技術的には極めて高度なもので普通の他の人には作れないだろう。

 貴族や王族に目を付けられたりしないだろうか……。

 そんな心配をよそに上機嫌で家を案内していくヴィトだった。


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