第30話 まさか初日に燃えるとは
東町まで行ってセラーナとグウェンさんが使う布団や毛布、枕などを買ってきた。
一応、セラーナは青が好きだと言っていたので水色系の寝具を買っておいた。
グウェンさんは特に拘りは無さそうだけど、自分の家では薄いピンク色の布団を使っていたので、同系統の物を買っておいた。
柄の好みまでは分からないので無地のシンプルな物にしておいたけど、気に入ってもらえるだろうか。
まぁその内交換用の寝具も必要になるだろうし、自分の好きな物はその時に買ってもらうことにしよう。
今日の晩御飯の食材も買ったので荷物が多いが、スキルを授かってから力も上がっているのか、重さも苦にならない。
さらに風魔法を使えば手に持つ必要すらないのだが、浮かせておくと通行人を驚かせそうなので手に持っているふりはしている。
ただ、大きな荷物だとスペースが困るから、今度どんなものでも収納できるカバンでも作ってみようかな。
“
魔物と戦う際に大荷物だと大変だし、帰ったら挑戦してみよう。
そんなことを考えながら歩いていると家が見えてきたが、なぜかうちの周りに人だかりが出来ている。
胸騒ぎがして駆け寄っていく。
「どうしたんですか? うちで何かありました?」
「おぉヴィト! 危なかったな!」
「え? 何が?」
玄関までくるとグウェンさんとセラーナが座り込んで泣いている。
ススリーとタックが2人を慰めているようだ。
そしてなんか焦げ臭い。
「どうしたの2人とも!? 何かあったの!?」
オレに気づいた2人がさらに泣いて謝ってきた。
「ヴィトー! ごめんなさい!!」
「わたしが悪かったのだ! でもわざとじゃないのだ!」
「グウェンさんじゃないです! 私が悪いんです!」
オレに抱き着いてきて泣きながらお互いに自分のせいだと言ってくるが、何のことか分からない。
するとススリーが説明してくれた。
「どうやら洗濯物に火が移って火事になったのよ。たまたま煙が出ているのに気が付いたから、慌ててきて水魔法で水をかけたわ。居間が水浸しになってしまったけど、緊急事態だったから加減が出来なかったの。ごめんなさい」
「いや、そんなの気にしなくていいよ。むしろどうもありがとう。ススリーがいてくれて助かったよ」
2人を慰めながら家の中を見てみると、竈から居間の辺りが黒く焼けており、水浸しにもなっていて結構大惨事だった……。
なんということでしょう……まさか共同生活初日で家が燃えるとは……。
しかし、二人が無事だったので本当に良かった。
「2人とも、もう大丈夫だから泣き止んで。とにかく2人が無事で本当に良かったよ。このくらいどうにでもなるから気にしなくていいよ」
泣き続ける2人の頭を撫でていると、グウェンさんが手と足に切り傷を負っているのに気が付いた。
「グウェンさん怪我してるじゃないか! 他に怪我はない!?」
切り傷に手を当てながらセラーナに習った“
さほど深くはなく血は止まっているようだしすぐに治っていった。
「ヒック……脇腹も……痛いのだ……」
「わかった。ちょっとじっとしててね」
軽く脇腹に触れるとビクッと身体を震わせたけど、治療の為に少し我慢してもらい、“
徐々に痛みも取れてきたようだった。
「これで大丈夫かな。セラーナは怪我してない?」
「私は大丈夫です……」
「そうか、よかった」
服は濡れたり汚れたりしているけど怪我がないならよかった。
集まってくれていた近所の人たちにも言う。
「皆さんにもご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。もう大丈夫です。お騒がせしました」
そういって頭を下げると、『なんか必要な事があったら言えよ』とか、『落ち着いたらその子が誰なのか紹介しろよ!』とか、『グウェンさんだけじゃなくそんな可愛い子まで! お前1人で2人はずるいぞ!』とか言いながら皆家に帰っていった。
「ススリーもタックもありがとう。助かったよ」
「いや、俺は何もしてないけどな。片付けとか家の補修なら手伝うから言ってくれよ」
「うん。ありがとう」
「直すのにも時間かかるわよね。何だったら2人だけでも家に泊まる? 家族もいるから狭いけど、少しの間なら大丈夫よ」
「そうだね。とりあえず落ち着くまで一緒にいてあげてもらえるかな」
「わかったわ。さぁここで泣いていてもしょうがないわ。まず家に来て少し落ち着きましょう」
そう言ってススリーは2人を慰めながら家に連れて行ってくれた。
「でもヴィト、どうするんだ?」
「いやぁどうしたもんかねぇ……」
「ウチに泊まるか? オレの部屋も狭いけど寝るだけなら何とかなるぞ」
「ありがとう。とりあえず中を見てから考えるよ」
家の中に入ってみると竈の周辺が焼け焦げており、壁や天井にも黒く焦げた跡があった。
水浸しになっているのはススリーが魔法で火を消してくれたものだな。
テーブルや戸棚も倒れ、食器も割れたりして危ない。
一応、オレの部屋やグウェンさんたちの部屋などは大丈夫なようだったが、居間はこのままだととても使える状態ではなかった。
オレもお告げの初日に燃やしかけたが、この家は燃える運命だったのだろうか……。
「改めてみるとなかなか衝撃的な光景だな……。本当に2人が無事でよかった……」
「もう少し早く気づいていればよかったんだが、すまないな」
「いや、タックのせいじゃないし。2人の傍にいてくれて助かったよ。しかし……これを直すというのもなかなか大変だよね?」
「そうだなー。燃えた所は当然として、燃えていないにしても水が染み込んでいる部分があるからなぁ。そのままにしておくと腐ったりカビが生えてきたりするから、やっぱり変えた方がいいと思う。となると居間はほぼ全面的にやらないとだめだから結構お金かかるな……。親方に相談すれば少しは安くしてくれるとは思うけど……」
「だよねぇ……。かといって魔法じゃ壊れた物を元には戻せないしな……」
「俺も手伝うから、材料だけ買って俺たちでやるか?」
「いや、タックも仕事があるんだしさすがに悪いよ」
「でもこのままってわけにもいかないだろ?」
「うーん……」
このまま我慢して生活したとしても焦げ目を見るたびに2人は心を痛めるだろう。
というか、申し訳ないと感じてまともに生活できないと思う。
確かにショックはあるけど、2人が無事だったんだし、そんなに落ち込んでほしくはない。
かといってお金もそこまではないし、直すのも大変だし……。
どうしよう?
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