第29話 共同生活初日
ティルディスに戻り、グウェンさんの家に寄って生活に必要なものを回収してから、オレの家に戻ってきた。
「とりあえずこの部屋を2人で使ってもらっていいかな。あまり使ってない部屋だから、まずは2人で片付けとか掃除をしておいてくれるかな。」
「わかりました!」
「任せるのだ!」
「後で“ウォーターマット”は作るけど、その他の必要な物は今買いに行ってくるから。セラーナが必要なものはまた明日一緒に買いに行こう」
「はい! お願いします!」
「あと長旅で洗濯物とかも溜まっているかもしれないし、洗濯するならしてていいよ。大変だったら後でオレが洗うけど……そういう訳にもいかないと思うし。セラーナに“クリーンウォッシュ”を教えてあげたし出来るでしょ? 干す場所は居間の端の方でいいけど……自分の部屋に干してもいいかもね」
「はい! 大丈夫だと思います!」
「あとお茶とかはこの辺にあるし、お腹空いていたらこの辺に色々あるから適当に食べていて。トイレはあそこでお風呂はあっち。お風呂は最近魔法を使って入ってるんだけど、今すぐ入りたかったら薪を使って沸かしてもいいよ。あとでよければオレがいれるけど」
「私は後でも大丈夫です!」
「わたしも大丈夫なのだ!」
「わかった。とりあえず今日の夜ご飯は食材を買ってきたらオレが作るから、終わったらゆっくりしていていいからね」
「「はーい」」
「じゃあ行ってきまーす」
「いってらっしゃいなのだ!」
「いってらっしゃい!」
2人に掃除などを任せてグウェンさんとセラーナが使う寝具などを買いに行く。
ずっと一人だったから、『行ってきます』なんて言うのも久しぶりだ。
『いってらっしゃい』と送り出されるのも久しくなかった。
そして『ただいま』といったら『おかえり』と迎えてくれるだろう。
何気ない一言だけどとても嬉しく感じる。
ふと両親の事を思い出して寂しくなったけど、今後の賑やかな生活を思うと、少し楽しみになってくる。
あとは2人が仲良くしてくれるといいんだけど、まぁ大丈夫だろう。
……多分大丈夫だよね?
◆
「グウェンさん、ベッドはどっちがいいですか?」
「うーん。どっちでもいいのだ。あ、でも夜中トイレに行くかもしれないし、起こしちゃったら申し訳ないから入り口側でいいのだ」
「わかりました。でも私もトイレに行って起こしちゃったらごめんなさいね」
「気にすることないのだ! お互い様なのだ!」
「じゃあまずお片付けとお掃除をしちゃいましょうか」
「よーしやるのだ」
2人で換気をしながら掃き掃除や拭き掃除をしていく。
「ヴィトは一人暮らしなのにこんな広い家に住んでいるんですね」
「元々両親と一緒に住んでいたのだ。でも両親は5年前に亡くなってしまったのだ」
「え、そうだったんですね……。危なかった。余計な事聞いちゃうところでした……」
「ヴィトはそんなことで怒ったりしないのだ。でもたまに家族がお店に来たり、家族連れを見たりするとちょっと寂しそうな顔をしている時があるのだ……」
「5年前って言うと12歳ですもんね。そこから一人暮らしか……。私じゃ耐えられないかも」
「わたしもそうだけど、タックやススリーのところも、近所の人たちも気にかけていたのだ。ヴィトはしっかりしているから人前では寂しそうな素振りは見せなかったけど、やっぱり辛かったはずなのだ……」
「当然ですよね。あ、じゃあここはきっとご両親が使っていたお部屋なんですね。大切に使わせて頂かなきゃ」
「そうなのだ! ピカピカにしてきれいに使うのだ!」
「はい! そしてヴィトが寂しさを感じないようにしましょう!」
「そうなのだ!」
あらかた掃除が終わり、自分たちの荷物を置いていく。
ヴィトが言っていた様に、結局10日ほどの王都滞在だったため、少しはしていたものの洗濯物が結構溜まっていた。
「じゃあお洗濯もしちゃいますね。グウェンさんのも一緒に洗っちゃいましょうか?」
「お願いするのだ! わたしはお茶でも入れておくのだ。セラーナ、薪に火を付けてほしいのだ」
グウェンさんは魔法が使えないので、私が代わりに竈の薪に火を付けた。
神様に授かったのは回復魔法と結界魔法だったけど、ヴィトに色々教えてもらったら、簡単な火や水の魔法も使えるようになってきた。
ただ、まだあまり上手くはないので今は薪に火を付けるくらいで精一杯。
折角一緒に住むんだからもっと色々教えてもらって練習してしなきゃ!
火がちゃんとついたのを確認して、私は洗濯物を持ってお風呂場に移動した。
石造りのきれいなお風呂場で、広々とした浴槽もついている。
「わーすごい! こんなきれいなお風呂見たことないわ! これは早く入ってみたいかも! 何なら一緒に……。お背中流しましょうかー? なんちゃって!」
軽く妄想をしながら、光沢のある石で作られた床にシャツ、パンツ、下着などに分けていく。
「グウェンさん、他に洗う物はないですかー?」
……返事がない。
聞こえなかったかな?
一応確認の為にお風呂場から出てグウェンさんに聞きに行くが、居間には居ない。
するとヴィトの部屋からガサゴソと音がする。
「グウェンさん? どうしたんですか? って何してるんですか!」
こっそり覗くとグウェンさんがヴィトの洗濯物を漁っていた。
「な、何でもないのだ! ヴィトの洗濯物も洗ってあげようと思っただけなのだ!」
「シャツに顔を埋めていたじゃないですか!」
「違うのだ! よ、汚れがないか確認していただけなのだ!」
「なんてずるい……。洗うなら私が洗いますから貸してください」
「大丈夫なのだ。ヴィトのは私が洗うのだ」
「グウェンさん、魔法使えないじゃないですか」
「真心こめて手洗いするから大丈夫なのだ」
「私が真心こめて魔法で洗っておきますから!」
そう言ってヴィトの洗濯物を回収してお風呂場に向かう。
「ま、待つのだ! セラーナばっかり大変だから私も洗濯するのだ!」
グウェンさんがヴィトのシャツを引っ張ってくる。
「大丈夫ですから! 手間じゃありません!」
「むぎぎ……。ヴィトの洗濯物は奥さんの仕事なのだ……!」
「ぬぐぐ……。グウェンさん別に奥さんじゃないですから……!」
「まだ式を挙げてないだけなのだ……奥さんも同然なのだ……!」
「挙げる予定なんてないじゃないですか……!」
ヴィトのシャツやパンツを2人で引っ張りあいながら言い争う。
セラーナの方が僅かに身長は高いが、力は拮抗していた。
負けられない戦いに全力を尽くして応戦していると、ビリッという音と共に急に抵抗がなくなった。
シャツが破け、思い切り引っ張り合っていた反動で、それぞれ反対方向に吹っ飛んでいった。
ドタッという音と共に尻もちをついてしまったが、グウェンさんは『ガッシャーン』とテーブルの方に突っ込み、テーブルごと戸棚にぶち当たっていった。
戸棚に入っていたコップや皿などが零れ落ち、床に落ちて割れていく。
「きゃー! グウェンさん! 大丈夫ですか!?」
慌てて洗濯物を放り出し、グウェンさんに駆け寄る。
脇腹を打ったようで痛そうにしているが、意識はあるようだ。
「うぐぐ……。何が起こったのだ? 痛いのだ……」
「動かないで! 食器が割れていて危ないですから! そのままゆっくり立ってこっちに来てください!」
グウェンさんに手を貸し、割れた食器を踏まないようにして戸棚の方から離れる。
「痛いのは脇腹だけですか? 頭大丈夫ですか?」
「脇腹と膝が痛いのだ。頭は大丈夫なのだ」
失礼な聞き方になっていたが、気付いてはいないようだ。
幸い頭は打っておらず、食器の破片で少し腕や足を切っただけの様で、深くは切れていないようだ。
脇腹はもしかしたら折れているのかもしれない。
「はー。とりあえず頭を打ってなくてよかった。今回復魔法をかけますね。ちょっと我慢しててくださいね」
まず腕の切り傷から“
「なんか焦げ臭いのだ」
「本当だ。って、あーー!!」
慌てて放り出したヴィトの洗濯物に竈の火が移って燃えていた。
「きゃー! 火事! 火事!!」
「あわわわ! 大変なのだ! 燃えてるのだ!!」
「きゃー! きゃー! 大変! どうしよ!!」
ヴィトの洗濯物が燃え、竈の前一帯に火が広がっている。
「水! 水なのだ!! 水をかけるのだ!!」
「どこどこ! 水どこ!!」
2人でパニックになりながら水を探す。
早く消さないと!!
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