第17話 総裁選を終えて

合計17本のチンポコをしゃぶり、大量の精液を飲んで気持ち悪くなり、路上で何度も吐いた。


全裸で、俺はふらふらになりながら築40年のぼろいアパートに帰宅、テレビを点けると総裁選がすでに終わっていて、新総裁や周りの人々が喜びをアピールしていた。


「みんなで頑張って行こう!」


そんな雄叫びをあげていた。


どういうことなのか。


俺は狭いワンルームの部屋に全裸で立っていて、泣き出していた。


「う、うえっ、ヴォ、ヴォエ!うえ、ヴォエ!」


なんで、俺がいないのか。


思えば17日に告示されて色々なテレビに総裁候補者が出演するなか、俺は出ていなかった。


テレビ局やメディアからの出演依頼はなかった。


テレビの前で、総裁候補者たちが論争しているのを、ただ見ていた。


内容は良くわからなかった。


この人たちは何を言っているのだろう。何を言っているのかわからないことを言って、それでこの人たちは大金を、税金のなかから貰い受けて食事してウンチして生きているのだ。


俺は?


総裁選に出馬し、全裸を義務付ける法案を可決させる、その偉大な計画は?


議員票ゼロ、党員党友票ゼロ、推薦人ゼロ。


自分が何をしているのか全く理解ができなかった。


ただただ、税金を奪われるばかり。この、テレビに映っている連中を食わせ、ウンチさせるために、日々、金を使うだけでも、税金を取られる始末。


俺は、臭い体、全裸で汚い床に座り、ケツを埃で汚しながら、安いカップ麺を啜る。


その時に、総裁候補者たちや政治家たちやあらゆる勝ち組は、最高級の衣服を着て、料亭で豪華な食い物を貪る。


「くだらない庶民の払った税金で食うメシは美味いんだよお!」


そんな叫び声が聞こえるようだ。


俺には政治家や勝ち組、セレブリティたちを熱烈に応援する連中が、理解できないし、単なる家畜にしか、見えない。


だが、自由な日本という国にあっては、進んで盲目的な家畜となることも、本人たちの自由であり、否定はしない。


わけがわからない。


沢山の石を拾い集め、女子供、障害のある人や年寄りにぶつけ、これが正義だ、邪魔をするな、とか喚き散らしていたが、あれは、なんだったのか。


すべてが白昼夢のように思える。


何のために、あんなことをしたのか。


深夜の高級ホテルに侵入し、講演会場のような大広間で全裸になり、総裁選への出馬を宣言した……。


どういうことだったのか。


正気とは思えない。


イギャ!イギャギャー!とか、気色悪い叫び声をも、あげていた気がする。


幼い頃、俺は奇声をあげる訓練を積んでいたかも知れぬ。


一人、近所の雑木林を走っては甲高い奇声をあげる。


そんな過去があったやも知れぬ。


俺は俺がわからない。


テレビでは新総裁が堂々たるスピーチをしていて、この国は安泰だ、この国は繁栄し、すべての人が笑顔になる、笑顔にならない奴は銃殺する、銃殺した死体はミンチにしてハンバーグとし、貧しい人々に配る、貧しい人々は笑顔になり、この国は安泰だ、この国は繁栄し、すべての人が笑顔になる、幸せを感じる、とか、そんな感じの雰囲気を、醸し出している。


苦手な雰囲気だ。


俺は涙を拭って「悲しい、悲しすぎる」と独り言を言った。


独り言でも言わないと、やってられない。


「悲惨な人生は変わらない。人生とは苦痛と同義である。」


どうして、俺は総裁ではなく、こんな貧しく臭い全裸のおっさんなのか。


「すべての勝ち組を刺殺。」


そんな物騒な言葉が思い浮かぶ。


口の中が苦い。


嫌な感じだ。


その時に、テレビ速報が入った。


画面はスタジオ映像に切り替わる。


アナウンサー男性が引き攣った表情で「●●駅前で大量殺人が発生しました!100人以上の無辜の市民が無惨にも虐殺されました!犯人は自称ミュージシャンの男、足立イサオとのことです!」と絶叫した。


イエイイエイダンスを踊ろうよ!

幸せ未来を作ろうよ!


叫ぶような歌声が、テレビから流れだした。

気持ち悪い部類に入る男の声である。


「これは自称ミュージシャンの足立イサオ容疑者が犯行現場となった●●駅前で盛んに歌っていた模様を、生き残った被害者の方が録音していたものです!」


男性アナウンサーは真っ青になりながら絶叫、そのまま倒れた。


足立イサオか。


写真がでかでかとテレビに映る。バンダナをした不細工な岩のような顔をした男だ。


「あまりにも悲惨だ。足立イサオの人生とはなんだったのか」


俺はまた独り言を言った。


「畢竟、人生とは苦しみと悲しみしかない。喜びは幻覚である。幻覚は打破、苦しみ、悲しみの現実を直視せよ。」


足立イサオは警察に連行されていったようだ。100人以上を殺害しているので、まず間違いなく死刑になる。


暗い顔にはグッドバイ!

スマイルワールド超うれしい!

イエイイエイダンス!

イエイイエイダンスを踊ろうよ!


幸せ未来!幸せ世界!

ホーミタイ!ホーミタイ!

イエイイエイダンス!

イエイイエイダンス!


再び、足立イサオの気色悪い声が、テレビから大音量で流れて来た。


コメンテーターのアフロヘアの痩せた女が「ほんとキモイ、こういうキモイのは見れば一瞬でキモイってわかるわけで、行政とか司法とか、わかんないけど立法とか、軍隊とか?警察が?強制的に捕まえて、殺人をする前に死刑にする制度とか、作るべきでは?政治の責任は大きいと思います」と真剣な顔でコメント。


淡々と仕事をこなしている印象。


続いて黒縁眼鏡を掛けたお笑い芸人の男が「わかりますわ!キモイ奴はキモイってだけで大きな罪を犯しているから、そういう奴は強制連行して即死させる、ですね?」と甲高い声で言い、自分で爆笑し、手を激しく叩いていた。


世の中はそういう方向に向かうのか。


俺は恐ろしくなった。


整形手術とかした方が良いのかなとか、真剣に思う。


韓国に行った方が良いのか。


俺は、顔面を、K-POPアイドルみたいにするのか。


その方が良いように思えた。


顔は女性アイドル、体は、臭いたるんだ毛深いおっさん、赤黒いチンポコがあり。


そんな姿になるべきか。


「韓流アイドルグループ少女時代」の歌を、昔よく一人でカラオケに行き、半裸になって歌い踊っていたことが思い出された。


あの時は若い大学生くらいの男の店員に「きめえんだよ!」と叫ばれ、ビール瓶を何本もぶつけられ、強制退去させられた。


苦い思い出。何も悪いことしてないのに。


むくむくと怒りのボルテージがあがり、俺は再び全裸のまま外に飛び出す。


このぼろいアパートの周囲にはやたらと石が落ちている。


俺は手ごろなのを拾い、正義を実現するぞ!と叫びながら、路上を、全裸で走りだす。


白目を剥き、チンポコを勃起させ、市民たちに石をぶつける作業に、これから邁進するつもりだ。


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