第16話 暴力だけはやめて!

「あたしのパンツの中身はどんな匂いがするかって、あんた今想像してたでしょ!この!変態!死んじゃえ!」


甲高い叫び声。声を発した人物の穿いている極めて短い丈のミニスカートからは、毛深く太い、逞しい脚が出ている。


「あたしのパンツの中身をあんたは見たいとか触りたいとか嗅ぎたいとか思ってるんだ!この!変態!死んじゃえ!」


再び叫び声をあげる。腕も毛深く逞しいその人物は、駅のホームで前方に並んでいる痩せた猫背のスーツ姿の男性を、思い切り押した。


その男性はただ並んでいただけであり、誰とも会話をしていなかったし、誰とも目線を合わせたりしていなかった。


スーツ姿の男性はホームから転落し、ちょうどやって来た急行電車により、すみやかに轢かれてミンチとなった。


「勝手にミンチになるな!まず謝れ!バカ!」


ミニスカートの人物は怒りの形相。顔には無精髭、顔の形は四角い。眉は濃くて立派である。髪の毛を伸ばしツインテールにしている。


デカい筋肉質な尻をふりふりしながら、その人物は早足に去って行った。


ホームは騒然としていた。


多くの人が、スマートフォンで線路内に散らばるミンチを撮影し、盛り上がっていた。


朝の清掃は6時までに済ませねばならず、私は仮眠室で5時に起きてシャワーを浴び、テレビをつけてコーヒーを飲む。


テレビでは総裁選についての特集が放送されていた。


各候補は、今日のパンツの色は?とか、最近セックスしていますか?とか、愛人は何人いますか?とか、女の子と男の子どちらの首を電動ノコギリで切断したいですか?とか、延々と聞かれていた。


時間が来た。


私はコーヒーの残りを流しに捨て、作業服を着用し、バケツとモップ、床掃除用の液体洗剤を持って部屋を出た。


まずは記者会見などで良く使われる会場の掃除からである。


なぜだろう。昨日、灯を消したはずが、点いている。


壇上に行くと、全裸の中年男性が倒れていた。侵入者だろうか。


「ちょっと、起きてください。」


私は声を掛けて倒れている男を揺する。


「ん、むにゃ、ん、もう、食べられないよ。」


そんなテンプレ的な寝言を、男は発した。


「ちょっと。」


私はさらに揺する。


「はい?」


ようやく、全裸の男は半身を起こした。


「なんですか?人様の眠りを邪魔するのは、あまり常識のある行動ではないですよ。」


「あなた、誰です?勝手に入って来ては困りますよ。」


「勝手ではないです。私はこの度、総裁選に出馬しますので。」


男は立ち上がり、軽いストレッチを行い、全裸のまま、壇上から降りた。


総裁選のニュースには、男は出演していなかった。本当に出馬するのだろうか。


「全裸を国民の義務にします。私の政治信条はそれだけだ!全ての領土に全裸の警備員男性を配置!」


そのように、全裸の七三分け、黒縁眼鏡の男性は叫ぶとそのままホテルの外に飛び出した。


通りでは大きな悲鳴。

クラクション。

怒号。

打撃音。


全裸の中年男性は、社会正義の邪魔をするな!と連呼して赤ん坊や妊婦や障害のある人を狙って石をぶつけた。


強そうな男性に対しては土下座をし、時にはチンポコをしゃぶり、精液を飲み干した。


泣きべそをかきながら、男は絶叫した。


「やめて!殴らないで!なんでもします!今、私はちょうど全裸ですから、ケツを掘ることも可能!私のケツは名器です!また、私は未来の総裁になるかも知れない!総裁のアナル!総裁のアナルを味わってください!だから、暴力だけはやめて!」


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