第14話 丸出しの変態

洋子が、なんでか知らないが暗い部屋の、閉め切られたカーテンの前に佇んでから数時間が、すでに経過してるように、体感的には、感じられた。


そろそろ帰りたいんだけど……。


お腹も空いて来ていた。


どうして、帰らせてくれないのか理解ができない。


「あの、なんですか、あなたは?」


そんな声が発生した。


部屋の出入り口のところに、髪はボサボサ、無精髭を生やしていて、目は虚ろ、常に涎を垂らしている中年男性は立っていた。


洋子のことを、じっと見ている。


気色悪い人だな、と洋子はもちろん配慮して声には出さないが、素直に思った。身だしなみに気を遣うべき。他人に不愉快な思いをさせて喜ぶタイプの変質者なのだろうか。


「いや、あなた、なんですか?ここ、ぼくの家なんですけども……。」


そんなことを、その汚らしい不細工な変態丸出しな男は言っていた。

洋子は、もちろん配慮して声には出さないが、こんな気色悪い変態の権化みたいな人が、こんな自分の部屋、自分専用の部屋など持っているわけがなく、こういう変態丸出しな人物は公園の暗がりとかに常に潜んでいて、襲えそうな可愛らしい細い女性をいきなり襲って、強制性交を試みるに決まっている。だからこの人物の言うことはすべて嘘であり信用できないのだと、率直に思った。


「あなた、誰ですか?ここはぼくの家です。勝手に入って来たんですか?」


「本当に?」


「え?」


「本当にあなたの家なのかしら?」


「はい。間違いなくぼくの家ですよ。何ですか、いきなり現れて、どういうことなんですか?」


洋子は、カーテンの前で、じっとして動こうとしない。

この男の言うことは全部嘘だと、攻撃的な目をしている。


対する男も、動く気配がない。


いつまでじっとしているのだろうか。


いつまでじっとしていられるだろうか。

という、そういう競技があたかも開始されているかのようである。


物音一つしない。


分厚い沈黙があるだけだ。


誰も、何も言わない。


言葉がないし、意味もないから、時間が沈滞しているように思える。


何も動かない。


物語みたいなものが発生して欲しいと、洋子はカーテンの前で、この饐えた臭いの溢れる空間で、ひたすらに願っている。


お腹も空いていたことだし。


家ではきっと旦那である元政治家・井上三木安がチャイナドレスを着用したまま、洋子の帰宅、その後に洋子によって作られる夕飯を待っているに違いない。


だが、娘の咲子はどうだろうか。


残念ながら、咲子は帰宅していない。


「やめて!変態行為をやめてください!」


彼女は未だに叫んでいた。


いつまで叫ぶつもりだろうか。飽きないのだろうか。


咲子の細く白い腕を、全裸の太った中年男性が、掴んでいた。


髪の毛はボサボサで、無精髭、涎を常に垂らし、目は虚ろで、口が異様に臭く、全身が毛深い。


ただ、凝視していた。


毛深い陰毛から顔を出している男の赤黒いチンポコは、完全に勃起してビクンビクンと脈打つ。


太り気味の身体、その乳首は発達して黒ずみ、毛が生えていた。


腹毛もふさふさである。


ハエが絶えず、男の周囲を飛んだ。


異様に臭かった。


生ゴミが腐り果て、そこに大量のお酢をかけた感じ。


耐え難い臭さである。


「嫌だ!帰りたいのよ!変態行為をやめて!」


もう、公園は真っ暗だった。街灯が、わずかに、二人の姿を浮かび上がらせた。



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